8. |
平和構築への取組 |
2008年には、平和構築の取組において、世界的にも国内的にも多くの進展があった。まず、日本は5月に第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)を開催し、平和の定着を主要議題の一つとして議論するとともに、7月に主催したG8北海道洞爺湖サミットにおいても、「平和維持・平和構築」を政治部分の主要テーマの一つとして議論した。特にG8北海道洞爺湖サミットにおいては、軍、警察、文民の平和構築能力を世界的に強化するイニシアティブを打ち出した。また、平和構築分野における人材育成に関する日本独自の事業も軌道に乗り、今後一層強化されていく予定である。国連においては、日本は平和構築委員会の議長を務め、また、安全保障理事会も平和構築問題についての関心を更に高めている。
平和構築、すなわち、紛争の再発を防ぐことを念頭に置いた、和平プロセスの促進から治安の確保、復興・開発に至る継ぎ目のない取組は、「テロとの闘い」や大量破壊兵器の拡散等の防止などとともに、世界が直面する重大な課題である。こうした中、国際社会の取組は、紛争予防、和平の仲介、平和維持活動、人道支援、行政組織の整備や復興支援といった面で、質・量ともに拡大している。
国際社会の平和と安定は、日本自身の発展にとって不可欠である。このような考えから、日本は、平和構築を主要な外交課題の一つとし、国連平和維持活動(PKO)等への貢献、政府開発援助(ODA)を活用した現場における取組、知的貢献及び人材育成を3本柱に、具体的な取組を推進している。
平和構築分野での日本の取組
(1) |
現場における取組 |
イ |
国連PKO(注1)等への人的貢献 |
2008年においても、コンゴ民主共和国東部情勢の悪化を受け、3,000人の増派が決定されるなど国連の平和維持活動に関する要員数・予算額の増大は継続しており、2008年12月末現在、16件の国連PKOが展開する中、国連PKOに従事する軍事・警察要員数は90,000人を超え、国連PKO予算は70億米ドルを超えるに至っている。国連PKOをいかに効果的・効率的に実施するかが国際社会の大きな課題となっている。日本は1992年に制定された国際平和協力法(PKO法)に基づき、これまで11件の国連ミッションに延べ約5,000人の要員を派遣してきた。
2008年10月には、PKO法に基づき自衛官2名を国連スーダン・ミッション(UNMIS)司令部に派遣することを決定した。この結果、2008年12月末現在、PKO法に基づき国連ミッションに派遣されている要員は、国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)、国連ネパール政治ミッション(UNMIN)、国連スーダン・ミッション(UNMIS)の三つの国連ミッションに計53名となった。また、PKO法に基づき同年3月にネパール制憲議会選挙に24名の選挙監視要員を派遣した。国際社会の平和と安定は日本の安全と繁栄に不可欠であり、国連PKOを始めとする国際的な平和活動に一層積極的に取り組んでいく。
国連PKO等への派遣状況
(上位5 か国、G8諸国及び近隣アジア諸国) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(注)日本は、国連ミッションに53名を派遣しているが、このうち15名の自隊管理要員については、国連統計に含まれていない。 出典:国連ホームページ(2008年12月末現在) |
ロ |
平和構築に向けたODA等による協力 |
ODA大綱や、「国際協力企画立案本部」が策定した「平成20年度国際協力重点方針」(注2)は、「平和の構築」を重点課題の一つとして位置付けている。日本は、人間の安全保障の視点に立ち、紛争の予防や緊急人道支援とともに、紛争の終結を促進する支援から平和の定着や国づくり支援に至るまで、平和構築支援に積極的に取り組んでいる。
(イ) | イラク |
イラクについては、2003年10月に表明した最大50億米ドルのイラク復興支援のうち、紛争後のイラク国民の生活基盤の再建及び治安の改善に重点を置いた15億米ドルの無償資金協力については、表明額を超える16.9億米ドルにつき全使途を決定した。イラクの中期的な復興需要に対する円借款による支援については、最大35億米ドルの支援を実施することを決定し、2008年末までに、イラク側との協議や各種調査等を踏まえ、電力、運輸、石油、灌漑(かんがい)等の分野の12案件(総額約24.5億米ドル)に関する交換公文(E/N)の署名を行った。また、これらの復興支援に加えて、約60億米ドルの債務救済支援を表明し、実施してきている。こうした資金協力との一層の連携を図りつつ、技術協力による人材育成も継続している。
(ロ) | アフガニスタン |
アフガニスタンでは、2002年に発表した「平和の定着」構想に基づき政治プロセス・ガバナンス、治安の維持及び復興の三つの柱を中心に、2008年6月のアフガニスタンに関するパリ国際会議で5.5億米ドルの追加支援を表明するなど、これまで総額14.6億米ドルを超える支援を行ってきている。また、2月には、今後のアフガニスタンの国づくりに関する双方の援助枠組みである「アフガニスタン・コンパクト」の効果的な実施を確保するための共同調整モニタリングボード(JCMB)政務局長会合を開催した。このように日本の支援は幅広く展開しており、選挙支援や元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR:Disarmament,Demobilization and Reintegration)から難民・避難民の再統合支援、インフラ整備まで包括的な支援が行われている。
(ハ) | アフリカ |
日本は「平和の定着」を対アフリカ支援の柱の一つとして位置付け、支援を強化してきている。2008年5月、TICAD IVにおいて、人間の安全保障の確立の一環として「平和の定着・良い統治の促進」を重点事項の一つとして取り上げ、継ぎ目のない支援やアフリカの平和維持能力の強化等の重要性を強調した。また、G8北海道洞爺湖サミットにおいても、首脳宣言において、アフリカに焦点を当てつつ、平和維持部隊による活動のための能力の構築に対する支援の強化を打ち出した。このように、平和維持能力の強化を重視する考えに基づき、2008年、国際開発計画(UNDP)との協力の下、アフリカ自身の能力向上を目的として、アフリカの平和構築にかかわる人材育成の要である5か所のPKOセンターに対する支援を行うこととし、また、アフリカの平和維持に重要な貢献を行っているマレーシアのPKOセンターに対しても支援を行うことを決定して、総額約18億円の拠出を行った。(注3)
![]() UNMIS司令部での会議に参加する日本からの派遣要員(12月、スーダン 写真提供:内閣府国際平和協力本部事務局) |
(ニ) | 地雷や小型武器への対処 |
日本は、アジア、アフリカを中心とする紛争被害国において、人道上大きな問題となるのみならず、復興・開発活動を妨げる対人地雷・不発弾及び小型武器の廃棄・回収を積極的に支援している。最近では、例えば、ラオスにおいて、2008年から地雷・不発弾対策への支援(約2億1,900万円)を実施しているほか、コンゴ民主共和国、スーダン及びチャドにおいて、中央部及び東部アフリカ諸国における地雷除去計画(9億9,700万円)を実施している。また、レバノンにおいても、日本が国連に設置した人間の安全保障基金を通じて、国連地雷対策支援信託基金(UNMAS)及びUNDPが実施する「地雷により影響を受けたコミュニティの社会的・経済的エンパワーメント:地雷と不発弾の脅威除去及び復興の促進プロジェクト」(約3億3,000万円)を支援している。
(2) |
知的貢献の強化―国連平和構築委員会 |
日本は、創立メンバーとして国連平和構築委員会の活動に貢献してきたが、平和構築分野全般における取組が各国から評価され、2007年6月に同委員会の第二代議長に就任し、2008年末までこれを務めた。同委員会は、紛争後の平和維持から復興・開発まで継ぎ目ない支援を行うことを目的とし、安全保障理事会及び総会と緊密に連動しつつ、関係諸機関や市民社会の知見も活用しながら、対象国の平和構築上の優先課題を特定し、支援を呼び込む役割を担っている。最初の対象国となったブルンジ及びシエラレオネ並びにその後対象国になったギニアビサウ及び中央アフリカ共和国について、日本は、これまでの平和構築支援の経験と知見を最大限活用し、「人間の安全保障」の理念の共有を含め、これらの国における平和構築戦略の策定と実施にイニシアティブをとっている。また、同委員会は、目に見える具体的成果として、援助国に対し現地における支援を呼び掛けているが、日本は、例えばシエラレオネでは電力供給、ブルンジでは元兵士の社会復帰支援やインフラ整備、ギニアビサウでは選挙支援等、平和構築に不可欠な分野で具体的な支援を行っている。さらに、同委員会の活動を確固たるものにするため、新規検討対象国の拡大や安保理を始め関係機関との協力強化といった点についても、議長として議論をけん引した。
![]() 日本が無償資金協力により建設したサマーワ大型発電所の引渡しを喜ぶサマーワの子供たち(12月22日、イラク・サマーワ) |
(3) |
平和構築分野の人材育成事業 |
平和構築の分野における人材育成は、国際社会の大きな課題となっており、G8北海道洞爺湖サミット首脳宣言でも、文民の平和構築能力の強化を打ち出している。日本が2007年から開始した「平和構築分野の人材育成事業」はまさにこの取組の一つであり、文民の平和構築の担い手の育成を通じ、中長期的視点から世界の平和構築への貢献を目指している。
事業初年度となる2007年度は、日本を含むアジアの文民約30人を対象に、[1]国内研修、[2]海外実務研修、[3]就職支援を3本柱とする事業を実施した結果、事業修了生は、現在、スーダン、東ティモール等の世界各地の平和構築の現場で活躍している。2008年度も同規模で事業を実施し、さらに2009年度からは研修員数の増員、新たなコースの設置、研修期間の長期化など、本事業を拡充することとしている。