本編 > 第3章 分野別に見た外交 > 第1節 国際社会の平和と安定に向けた取組 > 6.地域安全保障
【総論】
アジア太平洋地域では、政治・経済体制や文化・民族の多様性等を背景として、欧州における北大西洋条約機構(NATO)のような多数国間の集団防衛的な安全保障機構は発達せず、米国を中核とした二国間の安全保障取極の積み重ねを基軸として地域の安定が維持されてきた。日本は、自国を取り巻く安定した安全保障環境を実現し、アジア太平洋地域の平和と安定を確保していくためには、この地域における米国の存在と関与を前提に、二国間及び多数国間の対話の枠組みを重層的に整備し強化していくことが現実的で適切な方策であると考えている。まさに、これは、日本を取り巻く国際環境の安定を確保するための外交努力の中核をなすものである。
二国間の枠組みとして、日本は、近隣諸国等との間で、安全保障に関する対話や防衛交流を行い、相互の信頼関係を高め、安全保障分野における協力関係を進展させるよう努めている。
また、多数国間の枠組みとして、日本はアジア太平洋地域の主要国が参加する全域的な政治・安全保障の枠組みであるASEAN地域フォーラム(ARF)を活用している。
【各論】
ARFは、[1]信頼醸成の促進、[2]予防外交の進展、[3]紛争へのアプローチの充実という3段階のアプローチを設定して漸進的な進展を目指している。これまでの会合を通じて、参加国自身を当事者とする問題(朝鮮半島情勢、ミャンマー情勢等)を含めて、率直に意見交換する慣習が生まれつつある。また、参加国が地域の安全保障に関する自国の情勢認識等を作成して、ARF議長国が取りまとめる「年次安全保障概観(ASO:Annual Security Outlook)」の刊行やテロ対策等の各種会合の開催などの具体的な取組を通じ、参加国間の信頼関係の醸成に大きく貢献してきた。近年では、第二段階である予防外交の進展についても具体的な取組に向けて議論されており、ARFはアジア太平洋地域における政治・安全保障に関する唯一の政府間対話と協力の場として、緩やかではあるが着実に進展している。
2008年7月に行われた第15回閣僚会合(於:シンガポール)では、広い意味での安全保障上の脅威である昨今のサイクロンや地震等の災害の経験を踏まえ、今後、ARFにおいて防災の分野での協力を一層進めることで、参加メンバーが一致した。議長声明においては、朝鮮半島の非核化へ向けた六者会合に対する各国の支持が強調された。また、同閣僚会合においては、ARFのこれまでの実績をたたえつつ、予防外交の進展に向けた今後のARFの発展や機能強化を図り、ARFがアジア太平洋地域の主要な地域安全保障フォーラムとなるよう宣言する「シンガポール宣言」が採択された。
第15回ARF閣僚会合に臨む高村外務大臣(7月24日、シンガポール)
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ASEAN地域フォーラム(ARF)
1.目的・特色 |
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1994年から開始されたアジア太平洋地域における政治・安全保障分野を対象とする全域的な対話のフォーラム。ASEANを中核としている。 |
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政治・安全保障問題に関する対話と協力を通じ、地域の安全保障環境を向上させることを目的とする。外交当局と国防・軍事当局の双方の代表が出席。 |
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毎年夏に開催される閣僚会合(外相会合)を中心とする一連の会議の連続体。 |
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コンセンサスを原則とし、自由な意見交換を重視する。 |
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[1]信頼醸成の促進、[2]予防外交の進展、[3]紛争へのアプローチの充実という3段階のアプローチを設定して漸進的な進展を目指している。 |
2.参加国・機関 |
ASEAN10か国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、シンガポール、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア)、日本、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、パプアニューギニア、インド、モンゴル、パキスタン、東ティモール、バングラデシュ、スリランカの26か国及びEU(EU加盟国が個々には参加せず、EU議長国、欧州委員会等がEU代表として諸活動に参加)。
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3.現在までの経緯 |
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1991年7月、ASEAN拡大外相会議(ASEAN・PMC)
中山太郎外務大臣から、PMCの場を活用して政治対話を開始すること及び同対話を効果的なものとするための高級事務レベル会合を設置することを提案(いわゆる「中山提案」)。 |
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1993年7月、ASEAN・PMC
1994年から、中国、ロシア等5か国をARFに参加させることを決定。 |
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1994年7月、第1回ARF閣僚会合(於:タイ)
ARFメンバーである18か国・機関の外相等が出席し、アジア太平洋地域の安全保障情勢等につき意見交換。 |
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1995年8月、第2回ARF 閣僚会合(於:ブルネイ)
ARFの中期的アプローチとして、[1]信頼醸成の促進、[2]予防外交の進展、[3]紛争へのアプローチの充実という3段階に沿って漸進的に進めること、当面は信頼醸成措置を重視することにつき一致。 |
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2001年7月、第8回ARF 閣僚会合(於:ベトナム)
予防外交について、予防外交の概念と原則、ARF議長の役割の強化、専門家・賢人登録制度に関する三つのペーパーを採択。 |
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2002年7月、第9回ARF閣僚会合(於:ブルネイ)
・テロ対策に継続して取り組むことが確認されるとともに、テロ対策に関する会期間会合の設置を承認。
・国防・軍事関係者の関与の強化や、ASEAN事務局を通じてARF議長の支援の強化を含む九つの提言を採択。
・閣僚会合に先立って、ARF国防・軍事当局者会合を初めて開催。
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2004年7月、第11回ARF閣僚会合(於:インドネシア)
ハイレベルの軍及び政府関係者による「ARF安全保障政策会議(ASPC)」の開催を決定(第1 回会議は、2004年11月に中国で開催、第2回会議は、2005年5月にラオスで開催)。 |
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2006年7月、第13回ARF閣僚会合(於:マレーシア)
北朝鮮が、2006年7月5日にミサイルの発射実験を行ったことに懸念を表明するとともに、関係するすべての当事者に対し、前提条件なく六者会合を再開するよう求めた。 |
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2007年8月、第14回ARF閣僚会合(於:フィリピン)
朝鮮半島の非核化が、アジア太平洋地域の平和と安定の維持のために極めて重要であることを強調。 |
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2008年7月、第15回ARF閣僚会合(於:シンガポール)
今後、ARFにおいて防災の分野での協力を一層進めることで、参加メンバーは一致し、朝鮮半島の非核化へ向けた六者会合に対する各国の支持が強調された。 |
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ARFでは、最近、具体的な協力を行う枠組みの整備が進みつつある。優先的に取り組むべき五つの分野(テロ対策及び国境を越える問題、災害救援、不拡散及び軍縮、海上安全保障、PKO)に焦点が絞られ、活動が集中的に行われるようになってきている。また、海上安全保障や災害救援の分野において机上訓練等が行われるなど、「対話から行動」に向け具体的な取組も行われるようになってきている。
ARFの3段階アプローチ
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