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 5.

国際組織犯罪対策


【総論】


グローバル化や情報通信の高度化、人の移動の拡大等に伴い、一層深刻化している人身取引、薬物犯罪、サイバー犯罪、資金洗浄(マネー・ロンダリング)等の国境を越える組織犯罪(国際組織犯罪)に的確に対処するため、国連、G8、金融活動作業部会(FATF)注1等において精力的な取組がなされている。国際組織犯罪対策は国民の安全・安心の確保に直結しており、国際社会が一致して対処する必要があるため、日本も国際的な取組に積極的に参画している。



【各論】


 (1) 

国際組織犯罪


日本は、国際的な組織犯罪を防止し、これと闘うための協力を促進する国際的な法的枠組みである国際組織犯罪防止条約及び補足議定書の締結に向けて国内法整備を進めている。また、情報技術の急速な発展・普及に伴って深刻化したサイバー犯罪に対する国際協力を進めるため、2001年に採択されたサイバー犯罪条約を締結することについて、2004年4月に国会の承認を得ている。さらに、公務員に係る贈収賄、公務員による財産の横領等、腐敗に関する問題が、持続的な発展や法の支配を危うくする要因となっていることから、2006年6月、これに有効に対処するための措置や国際協力等を規定した国連腐敗防止条約の締結について、国会の承認を得た。現在、これら条約の締結に向けて国内法整備が進められている。

国際社会では、国連の犯罪防止刑事司法委員会が、犯罪防止・刑事司法分野における政策形成の中心機関として活動している。1992年の同委員会の発足以来連続して委員国に選出されている日本は、4月に開催された同委員会において、日本が提案した人身取引対策に関する決議を含む6本の決議案及び4本の決定案の審議・採択に貢献した。

日本は不正薬物、犯罪、テロの問題に包括的に取り組む国連薬物犯罪事務所(UNODC)に設置されている国連薬物統制計画基金に、2008年度には約189万米ドルを、同じく犯罪防止刑事司法基金に16万6,000米ドルをそれぞれ拠出し、その活動を支援した。

また、G8の枠組みにおいても、刑事法制から具体的捜査手法に至るまで、実務的な観点から専門家レベルで幅広い討議が重ねられており、日本は2008年の議長国として積極的に議論を主導した。これらの成果は6月に開催されたG8司法・内務大臣会議(於:東京)及び7月に開催されたG8北海道洞爺湖サミットにおいて報告された。

資金洗浄及びテロ資金対策については、国際的な枠組みであるFATFにおいて国際的基準の策定や対策実施状況の監視、取組が不十分な国に対する是正の要請などの活動が行われており、日本も積極的に貢献している。FATFは、イラン等の取組について懸念する声明を発出したほか、大量破壊兵器の拡散につながる資金供与の防止など、新たな視点からの対策についても議論を進めている。また、2008年には、日本の資金洗浄対策に関し、FATFによる審査が実施された。



 (2) 

人身取引


日本は、2004年に策定された人身取引対策行動計画注2に基づき、関係省庁の協力の下、人身取引の防止・撲滅及び被害者の保護に向けた様々な施策を鋭意推進している。また、主に日本国内における人身取引の被害者の出身国に定期的に政府協議調査団を派遣し、日本の施策の周知及び情報交換を行っており、2月には「人身取引対策に関するウィーン・フォーラム注3」に合わせて、米国、タイ、インドネシア、ルーマニア、バチカンとの間で意見交換を行った。犯罪防止刑事司法基金に拠出した16万6,000米ドルのうち5万米ドルは、人身取引対策プロジェクトに使われる。さらに、日本は、被害者の安全な帰国及び帰国後の支援のための国際移住機関(IOM)による「トラフィッキング被害者帰国支援事業」への拠出や、不法移民・人身取引及び関連する国境を越える犯罪に関する地域協力の枠組みである「バリ・プロセス」への支援を行った注4



 (3) 

薬物


薬物分野における国際的な政策形成の中心機関である国連麻薬委員会は、薬物関連諸条約の履行を監視し、薬物統制の強化に関する勧告等を行っている。日本は、1961年以降連続して委員国に選出されており、3月に開催された同委員会では、「アフガニスタンからの麻薬取引ルートに関する第2回閣僚級会議注5のフォローアップ」決議を始めとする複数の決議の共同提案国となるなど、積極的に議論に参加した。2009年3月には、1998年国連麻薬特別総会(UNGASS)のフォローアップとして国連麻薬委員会ハイレベル会合が開催される予定であり、日本は国際的な薬物対策の推進に引き続き積極的に貢献していく。

また、ダブリン・グループ会合注6において、角茂樹ウィーン代表部大使が2006年1月から2008年7月まで議長を務め、議論を主導した。

このほか、日本は、国連薬物統制計画基金への拠出を通じ、国際的な薬物対策支援に協力しており、2008年度に拠出した約189万米ドルは、タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジア、中国での国境における薬物取締り強化プロジェクト(25万米ドル)、ミャンマーにおける不法栽培モニタリング・プロジェクト(約24万米ドル)等に充てられた。


UNODCによるミャンマーにおけるケシの不正栽培の調査状況(写真提供:UNODC)

UNODCによるミャンマーにおけるケシの不正栽培の調査状況(写真提供:UNODC)


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(注1) 1989年のG8アルシュ・サミットにおいて、国際的な資金洗浄(マネー・ロンダリング)対策の推進を目的に招集された国際的な枠組みで、日本を含め、経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心に32か国・地域及び2国際機関が参加。現在では、テロ資金対策についても指導的役割を果たしている。
(注2) 2004年4月に内閣に設置された人身取引に関する関係省庁連絡会議において策定されたもの。出入国管理強化を含む人身取引の防止、刑法改正及び取締り強化による人身取引加害者の処罰、シェルターにおける被害者の保護等の被害者保護を中心に、包括的な施策が盛り込まれている。
(注3) 2007年3月に国連薬物犯罪事務所(UNODC)が開始した取組である「人身取引対策に関するグローバル・イニシアティブ」の枠組みにおいて、2008年2月13日から15日にウィーンにて人身取引についての啓発及び様々な関係者間の協力やパートナーシップの促進を目的として開催された国際会議。
(注4) 日本は、「バリ・プロセス」のウェブサイトの維持運営費を拠出。本ウェブサイトは、IOMバンコク事務所により管理され、「バリ・プロセス」参加国の取組の情報や、専門家会合の成果物等が掲載されている。例えば立法や政策の情報、人身売買・密入国に取り組む行政機構等の関連情報、立法化のためのマトリックス等が掲載され、人身売買・密入国問題の資料、各国のウェブサイトへのリンク、地域内の共助に関する情報等が得られる。
(注5) 2006年6月26日から28日にモスクワで開催されたアフガニスタンからの麻薬の密輸に関する閣僚級会議(「パリ2―モスクワ1」)。第1回は2003年5月パリにて開催。
(注6) ダブリン・グループ:主要先進国で薬物関連援助政策等につき相互理解を深め、政策の調整を図ることを目的として、1990年6月、ダブリンにおいて発足した。日本、米国、カナダ、オーストラリア、ノルウェー、EU26か国及びUNODCが参加し、ブリュッセルで年2 回の全体会合を開いている。また、約70か国の主要な薬物生産国・経由国においてダブリン・グループ参加国の大使館レベルで、ミニ・ダブリン・グループとして同様の協議が催されている。

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