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 3.

テロの防止、根絶のための取組


【総論】


国際社会は2001年9月11日の米国同時多発テロ事件以降、テロ対策を最優先課題の一つと位置付け、国連やG8など多数国間の枠組み、ASEAN、APEC、ASEMなど地域的な協力、二国間協力など様々な場において、テロ対策の強化を進展させてきた。

国際社会による「テロとの闘い」により、国際テロ組織「アル・カーイダ」及び関連団体の指導部の能力は減退してきているものの、その勢力は依然としてあなどれない。また、同組織の思想、手法の影響を受けた各地の過激派組織等による脅威は今日に至っても高い。2008年も、世界各地で多くのテロ事件が発生しており、日本国民に対しても、国際テロの脅威は及んでいる(図表「2008年に発生したテロ事件の例」を参照)。テロは国家及び国民の安全の確保の問題のみならず、投資・観光・貿易等に対する影響を通じ、我々の経済生活にも重大な影響を与える問題である。日本はいかなる理由をもってしてもテロを正当化することはできず、断じて容認することはできないとの基本的立場である。旧テロ対策特別措置法(2001年)に基づいて実施していた活動は、同法の失効により一時中断したが、1月に成立した補給支援特措法により再開された。さらに、12月、同法を1年間延長する改正法が成立した。日本は、テロ対策を自らの問題ととらえ、他国に対する支援や国際的な法的枠組みの強化を始めとする多岐にわたる分野で、引き続き国際社会と協力して積極的にテロ対策を強化していく考えである。



【各論】


 (1) 

国際社会のテロ対策の取組の進展


2008年を通じ、国際社会はこれまでに達成された成果を基礎に、多数国間及び地域的なレベルでの協力を推進し、国際テロ対策を一層強化してきた。

G8北海道洞爺湖サミットでは、「テロ対策に関するG8首脳声明」を採択し、テロ対策能力向上を必要とする国への支援、過激化対策等に取り組むための努力、アフガニスタン・パキスタン国境地域対策等の重要性を強調した。

9月の国連総会では、「国連グローバル・テロ対策戦略」注1の実施に関する会合を行い、加盟国はそれぞれの戦略の実施状況につき報告した。同会合では、戦略の実施における加盟国の責任やテロ対策における国際協力促進の必要性を再確認し、国連テロ対策実施タスクフォースの組織化を事務総長に要請する決議を採択した。

そのほか、テロ資金対策分野では金融活動作業部会(FATF)注2が、またテロ対処能力向上支援に関してはテロ対策行動グループ(CTAG)注3が活動を展開するなど、様々な分野でテロを予防・根絶するための多数国間協力が進められている。

地域レベルでは、2月に、インドネシアにて第6回「テロ対策及び国境を越える犯罪に関するARF会期間会合(ISM)」が開催され、地域における対テロ協力、テロ対策への社会の参画等につき議論を行った。ASEMでは、4月、マドリードにて第6回「ASEMテロ対策会議」が開催され、テロ対処能力向上支援、国連の役割、過激化対策等について議論が行われた。11月、ペルーで開催された第16回APEC首脳会議の共同声明では、「テロ行為は、いかなる大義、争い、抑圧、貧困によっても弁解されず、正当化され得ない」とされ、APEC閣僚と実務者に対し、地域の経済、貿易、投資及び金融システムをテロリストの攻撃と侵害及び貿易由来の資金洗浄(マネー・ロンダリング)から守り続けるよう呼び掛けた。



 (2) 

日本のテロ対策の取組


 イ  

旧テロ対策特別措置法注4及び補給支援特措法に基づく取組

2001年の9.11同時多発テロを受けて、米国や英国を始めとする諸外国は、「不朽の自由」作戦(OEF:Operation Enduring Freedom)(注5)の下、アフガニスタン国内においてアル・カーイダ等のテロリスト掃討作戦を行い、また、インド洋において海上阻止活動注6を行ってきている。

日本は、2001年12月以降、旧テロ対策特別措置法に基づく協力支援活動として、この海上阻止活動に参加する各国艦船に対し、海上自衛隊による燃料等の補給支援を実施してきた。海上自衛隊による補給支援は、諸外国の軍隊等がこのような海上阻止活動を行う上での重要な基盤となり作戦効率向上に大きく寄与してきた。2007年11月1日、旧テロ対策特措法の失効に伴い、6年続いた活動は一時的に中断を余儀なくされたが、2008年1月、テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法(補給支援特措法)が約100時間に上る国会での審議を経て可決され、海上自衛隊の艦船は再びインド洋に向けて出発した。さらに、政府はインド洋における自衛隊の補給支援活動を継続するため、同法を1年間延長する改正法案を2008年秋の臨時国会に提出し、同年12月、同改正法は成立した。


 ロ  

インド洋における補給支援活動の意義

インド洋における自衛隊の補給支援活動は、日本自身の国益のために行ってきた活動である。アフガニスタンでは、約40か国もの国々が尊い犠牲を出しながらも国際的なテロリズムの防止・根絶に向けた取組を強化している。海上阻止活動のために補給艦を提供し、長期間にわたり安定的に補給活動を実施できる能力を有する国は限られる中、日本の高い技術と能力があればこそ効果的に実施できる補給支援活動は、日本の特長を最大限いかしたものである。このような日本の補給支援活動に対して、アフガニスタンを含め、各国や国連から高い評価が示されている。また、結果として、海上阻止活動は、中東地域に輸入原油の約9割を依存する日本にとって重要なインド洋における海上交通の安全確保にも役立っている。

国際社会において国益を実現するためには、まず国際的な責任を果たすことが不可欠である。日本は憲法上の制約を抱える中で、湾岸戦争以来15年かけて積み上げてきた努力で勝ち得た国際社会の信頼の重みも十分に考え、引き続き国際的なテロリズムの防止・根絶に向けた取組に積極的に貢献することにより日本の国益を実現していく方針をとっている。


日本の補給支援特措法の延長成立に対する各国の評価


日本の補給支援特措法の延長成立に対する各国の評価

 ハ  

その他(人材育成、能力向上など)

国際テロの防止・根絶には、幅広い分野で国際社会が一致団結し、息の長い取組を継続することが重要である。

日本は、G8等におけるテロ対策の議論に積極的に参画している。同時に、テロリストに対する制裁措置を定める国連安保理決議を誠実に履行し、外国為替及び外国貿易法(外為がいため法)に基づいて、アル・カーイダ、タリバーン関係者等に対し、資産凍結措置を実施している。また、2006年に改正された出入国管理及び難民認定法に基づき、テロリスト等を退去強制措置の対象としている。

国際的なテロ対策協力として、開発途上国等に対する能力向上支援を重視しており、東南アジア地域を重点として、政府開発援助(ODA)も活用した支援を継続・強化している。具体的には、[1]出入国管理、[2]航空保安、[3]港湾・海上保安、[4]税関協力、[5]輸出管理、[6]法執行協力、[7]テロ資金対策、[8]CBRN(化学、生物、放射性物質、核)テロ対策注7、[9]テロ防止関連諸条約注8等の分野で技術協力や機材供与等の支援を実施している。

また、開発途上国によるテロ・海賊等の治安対策への支援を一層強化することを目的として2006年度に新設したテロ対策等治安無償資金協力の枠組みを通じて、1月、マレーシアの海上保安能力強化のための無償資金協力を決定し、交換公文(E/N)を署名した。さらに、6月にはインドネシアの港湾保安強化、10月、ベトナムの港湾税関機能強化、11月、インドネシアの船舶航行安全強化のための無償資金協力をそれぞれ決定し、交換公文(E/N)を署名した。

テロ対策に関し、関係国・機関とテロ情勢やテロ対策協力について協議・意見交換を行っており、ASEANとの間では、10月にラオスで第3回日・ASEANテロ対策対話注9を開催した。また、9月にソウルにおいて韓国との二国間テロ協議を行い、10月にはワシントンで日米豪テロ対策協議を行った。

核物質や放射線源を用いたテロ(核テロ)は、2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、国際社会全体として取り組むべき新たな課題として注目されている。核テロを防止するための核セキュリティー強化については、国際原子力機関(IAEA)や国連等を中心に様々な取組が行われており、日本も、核物質等テロ行為防止特別基金注10への拠出、「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GI)」注11への参加等を通じ、積極的に貢献している。日本は、2007年8月に核による国際的なテロ防止に資する「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約」注12を締結している。


2008年に発生したテロ事件の例(報道等に基づく)

5月13日
インド・ジャイプール連続爆弾テロ事件

ラジャスタン州の州都ジャイプール市内6か所(市場、寺院等)で7個の時限爆弾が爆発し、63人が死亡、約200人が負傷した。

7月7日
アフガニスタン・インド大使館前における自爆テロ事件

首都カブールにある在アフガニスタン・インド大使館付近において車両を使った自爆テロが発生し、少なくとも58人が死亡、140人が負傷した。

8月19日、20日
アルジェリアにおける憲兵隊養成学校自爆テロ事件及び自動車爆弾テロ事件

8月19日、首都アルジェの東方約50kmのイセールにある憲兵隊養成学校において自爆テロ事件が発生し、43人が死亡、45人が負傷した。翌20日、アルジェの南東約120kmにあるブイラで2件の自動車爆弾テロ事件が発生し、12人が死亡、42人が負傷した。両事件とも、「イスラム・マグレブ諸国のアル・カーイダ」が犯行声明を発出。

8月21日
パキスタンにおける武器製造工場自爆テロ事件

パキスタン北西部タキシラ近郊の軍駐屯地ワー・カントンメントにある武器製造工場の二つの外門付近で自爆テロ事件が発生し、57人以上が死亡、100人以上が負傷した。

9月17日
イエメン・米国大使館前銃撃テロ事件

首都サナアにある米国大使館前で車両による自爆及び銃撃による組織的な攻撃が発生し、少なくとも犯人6人を含む16人が死亡した。

9月20日
パキスタン・マリオットホテル前自爆テロ事件

首都イスラマバードにあるマリオット・ホテルにおいて爆弾を積載したトラックがホテルのゲートに突入し爆破した自爆テロ事件が発生し、53人が死亡、266人が負傷した。

10月30日
インド・グワワティにおける連続爆弾テロ事件

アッサム州内でグワワティ市ほか18か所(市場、裁判所や警察署付近等)で時限爆弾が爆発し、84人が死亡、約470人が負傷した。

11月26日~29日
インド・ムンバイ連続テロ事件

11月26日夕刻から29日にかけて、インド・ムンバイのホテル、レストラン、駅等14か所でテロ事件が発生し、12月5日にインド内務省が発表したところでは163人が死亡し(日本人1 名を含む)、293人が負傷した。


-
(注1) 2006年9月、国連総会第99回本会議において全会一致で採択。「テロとの闘い」における国連の能力強化のための具体的かつ実践的なテロ対策措置を包括的にまとめたもの。
(注2) 1989年のG8アルシュ・サミットにおいて、国際的な資金洗浄対策の推進を目的に招集された国際的な枠組みで、日本を含め、経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心に32か国・地域及び2 国際機関が参加。現在では、テロ資金対策についても指導的役割を果たしている。
(注3) 2003年6月のG8エビアン・サミットにおいて採択された「テロと闘うための国際的な政治的意思及び能力の向上G8行動計画」により創設が決定され、その主たる目的は、テロ対策のための能力向上支援に関する要請の分析や需要の優先付け及びこれらの被援助国におけるCTAGメンバーによる調整会合の開催。2008年12月までに計15回開催されている。
(注4) 2001年9月11日の米国同時多発テロが国連安保理決議第1368号で「国際の平和と安全に対する脅威」と認められたことなどを踏まえ、日本が国際的なテロの防止・根絶のための国際社会の取組に積極的かつ主体的に寄与することを目的として制定。2001年10月29日成立、11月2日に公布・施行。
(注5) 米国、英国等が、2001年9月11日の米国同時多発テロに関与したとされたアル・カーイダ及びそれを支援しているタリバーン政権に対して、米国等への更なる攻撃を防止し、阻止するための活動として開始。2001年10月7日、アフガニスタンにあるアル・カーイダのテロリストの訓練施設やタリバーンの軍事施設への攻撃等の行動を開始した。
(注6) 海上阻止活動とは、テロリストの移動や武器、麻薬等の関連物資の移動を阻止・抑止するために、インド洋を航行する不審船舶等に対し無線照会や乗船検査等を行う活動であり、テロリストにこの海域を自由にさせないために極めて重要な役割を果たしてきた。この活動がテロリストや関連物資の移動、資金調達等の制約要因になることによって、アフガニスタンの治安・テロ対策や復興支援の円滑な実施を下支えしている。
(注7) 2008年5月には、マレーシアにおいて「生物テロ対策に係る日米豪ワークショップ」を開催。参加各国からの政府関係者及び研究者から個別事例の紹介が行われ、生物テロ対策における知見の蓄積と地域における情報共有の重要性について議論が行われるとともに、生物テロ対策における関係機関間の連携に関する机上演習を行った。
(注8) 13本のテロ防止関連条約については、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/terro/kyoryoku_04.htmlを参照。日本は13本すべてのテロ防止関連条約を締結している。
(注9) 2005年12月の日・ASEAN首脳会議での決定を受け、ASEAN全体との間でテロ対策を正面から取り上げ、協力の方途について意見交換を行うことを目的として、第1回日・ASEANテロ対策対話を2006年6月に東京にて開催。第2回対話は2007年9月にクアラルンプールにて開催。大量交通機関保安、国境・出入国管理、ASEANテロ防止条約履行支援等テロ対策のための協力分野を特定し、具体的協力プロジェクトを実施・検討している。
(注10) 米国同時多発テロを受け、2002年、IAEAが核テロ対策を支援するため設立した基金。
(注11) 2006年、米国、ロシアの両大統領が、国際安全保障上の最も危険な挑戦の一つである核テロリズムの脅威に国際的に対抗していくことを目的として提唱。参加国は、核テロ対処能力を強化するためのセミナー、ワークショップなどを提案し、ほかの参加国の協力を得て実施している。2008年7月現在、75か国が参加。
(注12) 核によるテロ行為が重大な結果をもたらすこと及び国際の平和と安全に対する脅威であることを踏まえ、核によるテロ行為の防止並びに同行為の容疑者の訴追及び処罰のための効果的かつ実行可能な処置をとるための国際協力を強化することを目的とした条約。1997年に条約作成交渉が開始。2005年4月、国連総会で採択され、2007年7月、22か国の締結を得て発効した。日本については、2007年9月に発効した。

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