本編 > 第3章 分野別に見た外交 > 第1節 国際社会の平和と安定に向けた取組 > 2.日米安全保障体制
【総論】
日米安全保障体制は、戦後、アジア太平洋地域における安定と発展のための基本的な枠組みとして有効に機能し、日本及び極東に平和と繁栄をもたらしてきた。同時に、北朝鮮の弾道ミサイル及び核問題が示すとおり、アジア太平洋地域には、冷戦終結後も朝鮮半島や台湾海峡をめぐる情勢等、不安定な要素が依然存在している。このような状況において、日本及び地域の平和と安全を確保するために、同盟国である米国と日米安保体制を一層強化していくことは重要な課題である。
日米両政府は、在日米軍の再編を含め、日米安保体制を一層強化するための各種協議を続けてきている。また、米国の対日防衛義務を果たす約束が揺るぎないものであることは、累次の機会に確認されている。
オバマ大統領が米国大統領選挙に当選した直後に行われた日米電話会談では、麻生総理大臣から祝意を伝えるとともに、日米同盟の強化が日本外交の第一原則であり、国際社会が直面する諸課題について日米で緊密に連携していきたい旨述べたのに対し、オバマ大統領も、そのような課題に共に取り組み、同盟を強化していきたい旨応じた。
日米協議の全体像
【各論】
冷戦終結以降、国際テロ、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散など、新たな脅威が顕著化している。米国は新たな安全保障環境における課題に対処するため、軍事技術の進展を活用し、より機動性の高い態勢を実現することを目標に、米軍の全世界的な軍事態勢の見直しを行っており、日本を含めた同盟国、友好国等と緊密に協議している。
2006年5月に発表した在日米軍の兵力態勢再編の具体的施策を実施するための計画(「再編の実施のための日米ロードマップ」)について、2007年5月の日米安全保障協議委員会(以下、「2+2」会合)において進ちょくを確認するとともに、日米合意に従った着実な実施の重要性を確認した。この「ロードマップ」に基づいた在日米軍再編の着実な実施の重要性は、2008年11月の麻生総理大臣とブッシュ大統領との間の会談でも再確認された。
また、原子力空母ジョージ・ワシントンが横須賀基地を中心に展開していた通常型空母キティホークと交替し、2008年9月に横須賀に入港した。入港式典では、強固な日米同盟への米国のコミットメントを象徴的に示すものとして、同空母の西太平洋における前方展開を歓迎する旨の中曽根外務大臣のメッセージが表明された。日本周辺に米海軍の強固なプレゼンスが引き続き維持されることは、日本の安全及び地域における平和と安全の維持に寄与するものであり、日本政府として、地元の理解を得つつ、引き続き安全と安心の確保のために米側及び地元と緊密に協力していく考えである。
ブッシュ米国大統領(右)と会談する麻生総理大臣(左)
(11月22日、ペルー・リマ 写真提供:内閣広報室) |
BMDシステムは、弾道ミサイル攻撃から日本国民の生命・財産を守るための純粋に防御的でほかに代替手段のない唯一の手段である。日本としては、北朝鮮による弾道ミサイル発射(2006年7月)及び核実験(同年10月)等の動きも踏まえ、米国との緊密な連携の下に、BMD協力にかかわる取組を強化・加速化することを通じて、日米安保体制の抑止力及び信頼性を一層向上させることが喫緊の課題となっている。
日本政府は2003年12月にBMDシステムの整備を決定して以来、政策・運用・研究開発等のあらゆる面で米国との協力を図りつつ、その着実な整備に努めてきている。2007年5月の「2+2」会合で議論された、BMD運用・関連情報を直接、相互、リアルタイム及び常時共有するなど運用協力の強化、長距離型監視用レーダー(Xバンド・レーダー)及びペトリオット・ミサイル(PAC-3)の配備・運用、イージス艦搭載型迎撃ミサイル(SM-3)の防衛能力の継続的な強化等、BMDシステム能力の向上等については、現在、日米間の協力が進められている。また、2007年から、日本自身の取組として、入間基地等においてPAC-3の展開を順次開始するとともに、2007年12月に日本初となる迎撃能力を有するイージス艦「こんごう」によるSM-3発射試験に成功し、2008年9月にはPAC-3発射試験に成功した。
在日米軍兵力態勢の再編
日本のBMD整備構想・運用構想
日本政府は、日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を確保していくことが重要であるとの観点から、日米地位協定の範囲内で、米軍施設・区域の土地の借料、提供施設整備(FIP)費等を負担しているほか、特別協定を締結して、在日米軍の労務費、光熱費及び訓練移転費を負担している。
2008年4月からの3年間を対象とする現行の特別協定(2008年5月1日に発効)の内容は、[1]労務費については、現行協定の枠組みを維持し、現行協定と同じ上限労働者数(23,055人)とする、[2]光熱費については、日本側は、2008年度は、2007年度予算額と同額の約253億円に相当する光熱水等を、2009年度及び2010年度については2007年度予算額の水準から1.5%ずつ減額し、約249億円に相当する光熱水等を負担する、[3]訓練移転費については、現行協定の枠組みを維持する、[4]米側は、上記の協定対象経費につき、一層の節約努力を行うこととなっている。また、日米両政府は、在日米軍駐留経費負担をより効率的で効果的にするため、包括的な見直しを行うことでも一致した。
日米安保体制の円滑かつ効果的な運用の確保のためには、在日米軍の活動が施設・区域周辺の住民に与える負担を軽減し、米軍の駐留に関する住民の理解と支持を得ることが重要である。特に、在日米軍施設・区域が集中する沖縄県の県民の負担を軽減することが重要であることについては、日米首脳会談、日米外相会談など累次の機会に日米双方が確認している。
日本政府は、沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告の着実な実施に取り組んできており、2007年5月の「2+2」会合でも、同最終報告の合意事項の実施が継続的に進展していることを評価した。さらに、在日米軍の兵力態勢の再編を通じて、在日米軍の抑止力を維持しつつ、地元の負担軽減に取り組むこととしており、日本政府としては、沖縄に駐留する海兵隊のグアム移転や普天間飛行場の早期移設・返還、嘉手納以南の統合及び土地の返還等により、引き続き沖縄を始めとする地元の負担軽減に努めていく考えである。その一つとして、[1]駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法の成立(2007年5月)、[2]横田ラプコン(レーダー進入管制業務)の一部の日本側への移管(2008年9月)、[3]米軍機の訓練移転の実施(2008年までに合計13回)、[4]普天間飛行場代替施設の建設に向けた環境影響評価手続の開始(2007年8月)等の取組を行った。
日米地位協定の運用改善についても、国民の目に見える形で一つ一つ成果を上げていくことが重要であるとの考えから、様々な分野において具体的な取組を進めてきている。刑事裁判手続については、1995年の刑事裁判手続に関する日米合同委員会合意により、凶悪な罪を犯して拘禁された米軍人等の身柄引渡しを起訴前に日本側が要請できる仕組みが作られた
(注1)。
また、2007年4月、日米両政府は日米合同委員会において、災害準備及び災害対応のための在日米軍施設・区域への立入りについて合意し、2008年5月には、在日米軍により脱走兵と認定された米軍人に関する通報体制について合意した。
 |
(注1) |
最近では2008年3月に横須賀で発生した米軍人による日本人男性殺害事件において被疑者の身柄が迅速に日本側に引き渡された。 |
テキスト形式のファイルはこちら
▲このページの上へ