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 4.

経済安全保障(エネルギー、海洋、漁業、食料)


 (1) 

エネルギー安全保障


6月、ドイツが議長国を務めたG8ハイリゲンダム・サミットにおいて、気候変動・エネルギー効率が大きなテーマとしてとりあげられた。G8首脳によるこのような成果も踏まえて、日本は各国と協力しながら以下のような外交政策を進めている。


 イ  

安定供給の確保

エネルギー市場の安定化を実現し、日本へのエネルギー安定供給を確保するため、生産国との関係強化、中東地域の安定(第2章第6節「中東と北アフリカ」を参照)等の環境整備に努めている。一方で、エネルギー供給源の多様化に向け、ロシア等との関係強化にも力を入れている。また、エネルギー輸送路の安全確保のため、シーレーン沿岸国に対する航行安全、海上取締り等の分野での支援を強化している。


 ロ  

エネルギー効率向上の国際社会への伝播(でんぱ)

日本は、1960年~1970年代の公害問題や石油ショック以降、官民を挙げて省エネ推進に取り組んだ結果、世界で最もエネルギー効率の高い国の一つとなった。急激な経済成長に伴いエネルギー需要が増大する中国、インド等ではエネルギー効率改善の余地は大きく、あらゆる外交上の機会をとらえてこれらのアジア諸国との協力を進めている。具体的には、中国、インドも参加する東アジア首脳会議(EAS)では、1月の第2回会議で「東アジアのエネルギー安全保障に関するセブ宣言」が採択され、日本の主張により各国が自主的な省エネ目標及び行動計画を策定することで一致した。その成果は9月の第15回APEC首脳会議で採択された「気候変動、エネルギー安全保障及びクリーン開発に関するシドニーAPEC首脳宣言」における地域全体の省エネ目標の策定につながった。また、11月の第3回EASで採択された「気候変動、エネルギー及び環境に関するシンガポール宣言」においては、自主的な省エネ目標を2009年までに策定することが決定された。


GDP当たりの一次エネルギー消費量の各国比較

GDP当たりの一次エネルギー消費量の各国比較


 ハ  

多国間協力とルールの強化

資源エネルギーに対する国家管理を強める国が増加する傾向がある中、国際的な規範の形成及び遵守の働きかけは、そのための国際対話の推進とともに、今後も大きな課題である。

こうした課題の達成のために、国際エネルギー機関(IEA)(9月から、田中伸男元OECD事務局科学技術産業局長が事務局長に就任)は、緊急時の石油備蓄協調放出、環境とエネルギーの両立のための技術研究等、重要な活動を行っている。特に、2005年のG8グレンイーグルズ・サミット以降、IEAはG8サミットから、エネルギー効率指標の策定作業を委託されており、気候変動・エネルギー効率の面でIEAの果たす役割は大きい。日本は関係国と協調しつつ、IEAを一層戦略的に活用するよう努めている。

また、「エネルギー憲章に関する条約」は、エネルギー原料・産品の貿易の自由化及び通過の促進並びにエネルギー分野における投資の促進・保護等について規定する唯一の国際約束である。この条約に関する最高意思決定機関であるエネルギー憲章会議の議長には、河村武和欧州連合(EU)日本政府代表部大使が2007年1月に就任した。日本は、投資環境の強化を通じてエネルギー安定供給を確保するため、ロシアによる同条約の締結、アジア地域における加盟国の拡大に向けて貢献している。さらに、関連する国際機関を通じて、エネルギー・鉱物資源の安定供給に向けて、生産・消費・輸出入動向の把握に努めている。


 二  

原子力の平和的利用の推進

日本の総発電量の約3分の1を占める基幹電源である原子力発電の安定供給を確保するため、日本は、原料となるウランの確保に資する二国間関係(カザフスタン等)の強化や放射性物質の円滑な海外輸送確保のための関係国対話(注31)に取り組んでいる。

また、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティーの確保を大前提とした原子力の平和的利用拡大を可能とするための国際協力(GNEP、GIF(注32)等)に積極的に参加している(原子力の平和的利用については、第3章第1節7.「軍縮・不拡散」を参照)。


世界の原油、天然ガスの生産量、消費量

世界の原油、天然ガスの生産量、消費量

日本の原油・天然ガスの輸入先

日本の原油・天然ガスの輸入先


 (2) 

海洋


 イ  

海洋に関する外交政策本部の設置

四方を海に囲まれた海洋国家である日本にとって、公海の自由、航行の自由、海洋の平和及び安全の維持並びに沿岸国及び遠洋国としての日本の利益や権利等の調和を確保していくことは、日本の国益の維持及び増進にとって極めて重要である。海洋に関する施策をより総合的かつ計画的に推進する目的で7月に海洋基本法が施行されたが、海洋に関する外交政策全般についてもその総合的な企画、立案、調整及び政策決定をより一層迅速かつ効果的に行う必要性が高まっている。このような観点から、外務省は外務事務次官を本部長とする「海洋に関する外交政策本部」を7月に設置した。


 ロ  

航行安全への取組

日本は、石油や鉱物等のエネルギー資源の輸入のほぼすべてを海上輸送に依存し、特に日本が輸入する石油はほとんどすべてがマラッカ海峡をはじめとする東南アジアの海上を通過している。また、アジアにおける海上の安全確保は、この地域全体の安定と経済の発展にも極めて重要である。

しかし、東アジア及びインド洋を含むアジア地域は依然として海賊行為等の多発地域である(図表「海賊事件報告件数」参照)。日本の主導の下に作成され、2006年9月に発効(日本は2005年4月に締結)した「アジア海賊対策地域協力協定」に基づき、情報共有センターがシンガポールに設立され、アジア地域における海賊情報の共有体制や各国協力網の整備のための積極的な活動を展開している。なお、伊藤嘉章前国際連合日本政府代表部公使が同センター初代事務局長を務めている。

また、マラッカ・シンガポール海峡においては、アジアの経済発展を背景として海峡の通航量が大幅に増加していることから、沿岸国と利用国及び利用者による航行安全、セキュリティー及び環境保全の推進のための新たな国際協力の枠組みが検討されており、国際海事機関(IMO)により「マラッカ・シンガポール海峡に関する国際会議」が2005年から開催されている。同会議においては、沿岸国から航行安全等のための「プロジェクト」及び国際協力の新たな枠組みである「協力メカニズム」が提案され、2007年の第3回会議で同メカニズムの発足が合意された。

日本からは、民間からの基金拠出も含め、沿岸国の提案プロジェクトの幾つかに支援の意思を表明しているが、引き続き、これらの協力メカニズム及びプロジェクトに積極的に参画し、沿岸国との協力を進めていく考えである。


 ハ  

大陸棚

国土面積が小さく天然資源の乏しい島国日本にとって、海洋の生物資源や周辺海域の大陸棚・深海底に埋蔵される海底資源は、経済的な観点から重要である。

日本は、海底資源の安定的確保を通じた経済的な権益を確保するため、国連海洋法条約(注33)に基づき200海里を超える大陸棚の限界を設定すべく、周辺海域の海底地形・地質調査を進めており、2009年1月をめどに大陸棚限界委員会(CLCS)に200海里を超える大陸棚の限界に関する情報を提出する予定である。

また、6月には、第17回国連海洋法条約締約国会合においてCLCSの委員選挙が行われ、日本が指名した玉木賢策東京大学大学院工学系研究科教授が再選された。


海賊事件報告件数

区分

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
東アジア 100  173  257  178  175  193  173  117  88 
   東アジアのうちマラッカ海峡 37  112  58  34  36  60  20  22 
インド洋 25  51  109  86  66  96  41  51  53 
アフリカ 41  52  62  80  70  89  70  73  62 
中南米 38  29  41  23  67  72  46  26  31 
その他
合計 210  309  471  370  383  452  330  267  240 
日本関係船舶の被害件数 19  39  31  10  16  12 
東アジアにおける日本関係船舶の被害件数 14  28  22  12  11 
出典: 国際海事機関(IMO)「海賊行為等報告書2006年版」、国土交通省「2006年の日本関係船舶における海賊等事案の状況及び世界における海賊等事案の状況について」


 (3) 

漁業(マグロ・捕鯨問題等)


世界の漁業資源の約半分は満限(過剰漁獲の一歩手前)に利用されており、約4分の1は過剰漁獲もしくは枯渇状態にある(注34)ことから、漁業資源の悪化に対する懸念が広まりつつある。日本は世界有数の漁業国、水産物の輸入国として、国際的な場においても、海洋生物資源の持続可能な利用と適切な保存管理、海洋環境保全のための協力に積極的な役割を果たしている。

近年、各地域漁業管理機関においては、違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び過剰漁獲能力への対策として、ポジティブリストや寄港国措置など、資源の保存管理のためのルールを定めている。マグロ類については、海域によっては資源量の減少が顕著になりつつある中で、日本は南半球におけるミナミマグロや大西洋におけるクロマグロの適正な保存管理に積極的に協力している。また、新しい国際的枠組みの設立に向けた関係国との協議に積極的に参加している。

捕鯨については、5月に米国アンカレジにて行われた第59回国際捕鯨委員会(IWC)年次会合において、反捕鯨国が過半数を得るといった状況の中で、沿岸小型捕鯨の捕獲枠の設定等、鯨類の持続可能な利用については十分な支持と理解が得られなかったが、日本が提案した海上安全及び環境保護に関する決議が無投票で採択されるといった成果もあった。日本は、科学的根拠に基づき、保護すべき鯨種は適切に保護しつつ鯨類資源の持続可能な利用を図るべきとの立場であり、今後も、IWC加盟国やIWCの未加盟国に対し、日本の立場への一層の理解と支持を積極的に説明していく方針である。また、IWCの正常化(注35)に向けて引き続き取り組んでいく。



 (4) 

食料


日本は、熱量ベースで、食料供給の約6割を海外に依存し、年間約4兆円以上の農産物を輸入する世界最大の農産物純輸入国である。また、世界の食料需給は、人口増加に伴い需要が増加する一方、水資源不足、地球温暖化の影響や、世界的なバイオ燃料ブームを背景にした農作物の食料とエネルギーとの競合等により、供給にも中長期的に多くの不安定要因がある。このような状況下で、日本は、日本を含めた世界の食料安全保障を実現するため、国連食糧農業機関(FAO)等の国際機関との連携の強化や食料供給国との友好関係の促進に取り組んでいる。2006年2月、国際穀物理事会(IGC)の事務局長として、アジア地域から初めて北原悦男(独)国際協力機構理事が就任し、2007年12月には第26回理事会を東京で開催した。

さらに、世界における食料安全保障の確立に向けて、日本は、特に食料が不足しているアジア・アフリカ地域の開発途上国に対して、食料生産の向上を目的とした貧困農民支援等を実施している。



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(注31) 日本は、国際原子力機関(IAEA)の協力による輸送国と沿岸国との非公式会合の実施や沿岸国要人招聘による日本の原子力政策に対する理解の増進などを積極的に行っている。
(注32) GIF(Generation IV International Forum):1999年、米国の呼びかけにより始まった第4世代原子力システム(Gen IV)の研究開発のための国際フォーラム。黎明期の原子炉は第1世代、現行の軽水炉等は第2世代、現在導入が開始されている改良型軽水炉等は第3世代と称されており、それに続くものがGen IVである。Gen IVは、2030年ごろの実用化が念頭に置かれている。
(注33) 海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)では、沿岸国の領海を越えて200海里までの区域の海底等をその大陸棚と定めるとともに、大陸縁辺部が200海里を超えて延びている場合には、海底の地形・地質等が一定の条件を満たせば、沿岸国は200海里を超える大陸棚を設定できるとしている。
(注34) FAO, “The State of World Fisheries and Aquaculture 2006”, p32
(注35) 現在、IWCでは、持続可能な利用支持国と反捕鯨国がイデオロギー的に対立したままで、両者の間に建設的な話合いが行われず、したがって、IWCとして前向きな議論や決定が何もなされていない状態にある。IWCの目的は、鯨類資源の適当な保存と利用(鯨類産業の秩序ある発展)であり、本来の目的を果たせるよう両者が歩み寄りを示すべきというのが日本の立場である。

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