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   第3節   


日本と国際社会の繁栄に向けた取組

【総論】


2007年の世界経済は、グローバル化の進展による貿易・投資の拡大が続き、中国、インド、ロシアをはじめとした新興経済国の存在感が一層強まる一方で、米国のサブプライムローン問題を発端とする金融市場の混乱や原油価格の高騰などの影響により不透明感が高まった。日本経済については、企業部門の好調さが持続し、景気回復が続いているが、海外経済の動向などに見られるリスク要因には注意を払う必要がある。こうした中、日本は、日本経済と世界経済の持続的成長を図るため、以下の重点課題を柱として総合的な政策を展開している。


実質GDP及び成長率

実質GDP及び成長率


1.

多角的自由貿易体制のルールづくり

世界貿易機関(WTO)は世界経済の重要なインフラである。戦前のブロック経済の反省から関税及び貿易に関する一般協定(GATT)を経て、WTO体制の下でモノの貿易に加え、サービス、知的財産権を含む幅広い分野でグローバル・ルールがつくられた意義は極めて大きい。日本としては、WTOドーハ・ラウンドの交渉を開発途上国重視の姿勢で積極的に推進し、この体制を確固たるものにしていくことが重要である。

2006年7月にいったん中断したWTOドーハ・ラウンド交渉は、2007年1月には本格的に再開した。7月には、農業及び非農産品市場アクセス(NAMA)の交渉議長よりモダリティに関するテキストが交渉の叩き台として発出された。9月以降は、交渉分野ごとに精力的な交渉が行われ、日本も積極的に参画している。



2.

経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)交渉の推進

日本は、WTOを中心とする多角的自由貿易体制の強化・発展を対外経済政策の基本としつつ、それを補完するものとしてEPA/FTA(注1)を推進している。EPA/FTA は、グローバル化を反映した多様な経済関係に即し、貿易の自由化にとどまらず、投資の自由化や様々な分野でのルールづくりを行うもので、対象国との関係を緊密化する効果も期待される。日本は、緊密な経済関係にある東アジア諸国とのEPAを重要な課題として位置付け、これまでに8か国とEPA/FTAを締結、署名し、ASEAN全体との交渉を妥結させた。現在は資源エネルギー面で重要な国や地域を含め、6つの国・地域と交渉段階にある。


EPA/FTA交渉の現状

EPA/FTA交渉の現状


3.

グローバル化への対応

2001年の米国における同時多発テロ後の新しい国際環境の中で、持続可能な開発、貧困、テロ対策や大量破壊兵器等の不拡散といったグローバルな課題への対応が急務となっており、開発途上国への支援、ルールづくりが必要である。また、2007年は、エネルギー問題や気候変動問題への国際社会の関心が急速に高まり、中国やインドなどの新興国の発展に伴う様々な課題にも焦点が当たっている。日本は、G8サミットや経済協力開発機構(OECD)等において、先進国の一員として政策協調や基本ルールの策定に積極的に貢献し、これらの課題に取り組んでいる。



4.

経済安全保障

日本は、国民の安定的な経済・社会生活の基盤となる原油や天然ガス、石炭等のエネルギー資源や鉱物資源、漁業資源、農産物に加え、その他の資源の多くを海外からの輸入に依存している。また、1990年代には10米ドル~20米ドル台で推移していた原油価格は、2002年ごろからほぼ右肩上がりに上昇を続け、特にここ数年は新興国の需要急増や投機資金の影響もあり、2008年1月2日には史上初めて一時1バレル当たり100米ドル(同日終値99.62米ドル)を超えるなど高騰している(いずれもニューヨーク先物取引市場の石油指標銘柄であるWTI(注3)価格)。また、新興国の需要急増を背景として金属価格も高騰を続けているほか、原油価格高騰そのものが金属価格や食料価格にも影響を及ぼし始めている。そうした中、有限な資源を持続可能な方法で活用し、かつ資源の安定供給を確保し、日本の経済安全保障を強化することは、外交政策上、非常に重要な課題である。



5.

日本企業の国際競争力や日本経済の足腰の強化

海外で活躍する日本企業の活動を支援することは日本経済の活性化のために重要である。特に、世界中に拡散している模倣品・海賊版は、持続的な経済成長及び消費者の健康や安全に対する脅威となっているだけでなく、海外市場における利益の喪失など、企業に悪影響を与えている。このため、在外公館の態勢整備や二国間、多数国間の取組に加え、日本は関係国と共に知的財産権の執行を強化するための新たな国際的な法的枠組みである「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA:Anti-Counterfeiting Trade Agreement)(仮称)」の構築を目指している(詳細は第4章第3節「海外における日本企業への支援」を参照)。

また、対内直接投資については、2003年にInvest Japan(インベスト・ジャパン)キャンペーンを立ち上げて以降、政府一体となってその促進に努めており、外務省においては在外公館の積極活用や日本の関係機関と連携した広報及び誘致活動に貢献している(注4)

WTI原油価格動向(2005年~2008年1月)

WTI原油価格動向(2005年~2008年1月)


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(注1) 特定の国・地域の間で、関税などを撤廃し、モノやサービスの貿易自由化を図ることを目的とした協定を自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)と呼ぶ。FTAを基礎としながら、投資、人の移動、政府調達、競争政策、知的財産などの分野におけるルールづくりや、様々な分野での協力を通じて各種経済制度の調和を図ること等を目的とした協定を経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)と呼ぶこととしている。
(注2) 韓国については2004年11月以来、交渉中断中(2007年末現在)。
(注3) WTI:ウエスト・テキサス・インターミディエートの略で、西テキサス地方で産出される軽質低硫黄原油。このWTIの先物がニューヨーク商品取引所(NYMEX)で取引されており、北海ブレント、ドバイとともに世界的な指標原油の一つ。実際のWTIの生産量は100万B/D(日量バレル)に満たず、現物取引は約30万B/D程度であるが、先物取引量はその1,000倍以上。
(注4) 2006年末の対日直接投資残高は、約12.8兆円(2005年末は11.9兆円)。

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