第3章 分野別に見た外交


(4)文化協力

 開発途上国に対する文化協力は、国民にとって誇りであり生活の一部でもある自国文化への支援であり、その国の国民の活力と自尊心を支えている。日本は、貧困削減等を目的とする経済協力と並行して、これを積極的に進めている。

(イ)二国間の文化協力(イラクについてはこちらを参照)

 日本は、開発途上国に対して、主に文化・高等教育活動に使用される施設整備・機材供与等の「一般文化無償資金協力」を行っている。2005年には、ウクライナの国立タラス・シェフチェンコ大学に日本語教育・普及を推進するためのLL機材の供与等、全世界で35件の協力活動を実施した(総額16.8億円)。また、人類共通の財産である文化遺産の保護を目的とした協力として、イランを代表するユネスコ世界遺産であり、2003年12月の地震で大きな被害を受けた「バム遺跡」の修復・保存に必要な機材を供与した(約1.1億円)。また、NGO等草の根レベルを対象とした小規模できめ細かな文化協力(草の根文化無償資金協力)として、イエメン空手連盟に対する空手練習用器材の供与等、全世界で24件の協力活動を実施した(総額2.3億円)。

(ロ)国連教育科学文化機関(UNESCO)を通じた文化協力

 日本は従来、ユネスコを通じて、有形及び無形の文化遺産の保存・振興に積極的な貢献を行ってきている。ユネスコ文化遺産保存日本信託基金を通じた有形文化遺産(遺跡等)の保存については、カンボジアのアンコール遺跡保存事業第3期、アフガニスタンのバーミヤン遺跡保存事業第2期等が開始された。ユネスコ無形文化財保存・振興日本信託基金を通じた無形文化遺産(伝統芸能、陶芸・染色等の伝統工芸等)の保存については、コロンビア、ベトナム、バヌアツなどで11件の事業を支援した。

 また、「持続可能な開発」のためには教育が重要な役割を担うとの認識から、日本が提案した「国連持続可能な開発のための教育の10年」が2005年1月から始まったが、ユネスコはその主要機関(リード・エージェンシー)として活動している。

(ハ)第29回世界遺産 (注8) 委員会

 7月10日から17日まで南アフリカのダーバンで開催された第29回世界遺産委員会において、日本が推薦した「知床」が世界自然遺産に登録された。これで、日本の世界遺産は自然遺産3件、文化遺産10件の計13件となった。

▲知床世界遺産認定書の伝達式の様子(12月19日、東京)

(ニ)第33回ユネスコ総会

 10月に開催された第33回ユネスコ総会において、1999年にユネスコ事務局長に就任した松浦晃一郎事務局長が圧倒的多数の支持を得て再選された。また、同総会では、文化の多様性の保護と促進を目的として策定された文化多様性条約や、スポーツにおけるドーピングの撲滅を目指し、国内及び世界レベルの協力活動を推進・強化する体制の確立を目的とするアンチ・ドーピング条約などが採択され、日本も条約交渉に積極的に参加するなど、ユネスコを通じた国際規範づくりに大きく貢献した。

(ホ)第3回「無形遺産傑作宣言」

 11月25日、ユネスコは第3回「無形遺産傑作宣言」として計43件の無形遺産を発表し、日本からは歌舞伎が選出された。この傑作宣言プロジェクトは、人類の口承遺産・無形遺産の傑作を 讃えるとともに、その保護を奨励することを目的として2001年から開始され、日本では今回の歌舞伎のほか、これまでに能楽と人形浄瑠璃文楽が選出されている。

 TOPIC

世界遺産ってどうやって決めているの?

 世界遺産認定の手続きは、政府によるユネスコへの推薦書の提出に始まり、国際的NGOによる専門的な評価を経た上で、最終的に年1回開催される世界遺産委員会(世界遺産条約締約国のうち21か国で構成)で、世界遺産としての価値の有無、保全体制の整備状況等、総合的な観点から検討され、正式に決定されます。この一連の手続きだけで約1年半もかかるのですが、実はそれ以前にも推薦書提出に至るまでに、国と地元関係者が一丸となって、より多くの歳月を費やし、調査・研究や法整備等の諸準備に当たるのです。

 世界遺産委員会での審査は推薦国にとって長年の苦労が報われるか否かを決する最後の関門となる訳ですが、推薦国は自国案件の審査中は発言を原則禁じられているため、まさにそれは「まな板の鯉」の心境で「最後の審判」を待つ緊張の時間となります。それだけに登録を果たした時の喜びはひとしおで、2005年7月に「知床」が登録決定した際は、委員会に出席した北海道の関係者が思わず涙する場面も見られました。日本は、「知床」に続く世界遺産候補地として、既に「石見銀山遺跡とその文化的景観」を推薦しており、2007年の世界遺産委員会で審査される予定です。

 世界遺産への登録は、それ自体が最終ゴールではなく、同時にその遺産を人類共有の財産として保護し、後世にきちんと残していく責任を負うということであり、そのためのたゆまぬ努力の新たな出発点となるものです。

▲「知床の世界遺産認定書」




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