第3章 分野別に見た外交


(3)改革の取組

(イ)新ODA中期政策の策定

 日本のODA政策は、その理念や原則を記したODA大綱を最上位として、その下に3年から5年の期間を念頭に置いた援助の指針であるODA中期政策、さらに国ごとの援助の指針となる国別援助計画、また分野ごとの援助の実施指針となる分野別政策(分野別イニシアティブ)によって枠組みが定められている。

 2003年にODA大綱が改定されたことを踏まえ、各界との意見交換、パブリック・コメント、公聴会を通して広く国民の意見を聴取しつつ、2005年2月に新ODA中期政策を策定した。その内容としては、ODA大綱の基本方針の一つである「人間の安全保障」の視点、重点課題である貧困削減、持続的成長、地球的規模の問題への取組、平和の構築、そして効率的・効果的な援助の実施に向けた方策の各項目をとりあげ、これらの課題に対する日本の考え方やアプローチ、具体的取組について、大綱にのっとってODAを一層戦略的に実施するための方途を示している。また、援助の効率的・効果的な実施に向けた方策として現地機能の強化を打ち出し、具体的には現地ODAタスクフォース (注9) が援助政策の決定過程・実施において主導的役割を果たしていくことを明記した。

(ロ)ODAの更なる改革を目指して

 厳しい財政状況を背景にODA予算が減少する中、ODAに対する国民の信頼を回復すべく、外務省は、ODA総合戦略会議の立ち上げ等によるODAの一層の戦略

化・重点化、実施体制の強化、国民参加、情報開示を進めてきた。6月に経済財政諮問会議から「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」が出され、ODA事業量の戦略的拡充 (注10) とともに改めてODAの改革が求められたことを契機に、外務省はこれまで以上にODAの点検と改善を進めていくことにした。そこで、ODA総合戦略会議の下に作業部会を設置し、外務省の自主的な取組として報告書「ODAの点検と改善~より質の高いODAを目指して~」をとりまとめ、公表した。本報告書は、(1)戦略的なODA実施のための援助政策の企画、(2)コスト縮減等を通じた事業の効率化、(3)チェック体制の拡充、の3点に焦点を絞り、PDCAサイクルを確立する (注11) ことで、より質の高い成果重視のODAの実施を目指している。具体的改善措置について試行的なものも含めすべて2005年度中に導入することが決定しており(図表「ODAの10の新たな改善措置」参照) (注12) 、今後も恒常的に「点検と改善」に取り組んでいく。また、2006年2月に出された「海外経済協力に関する検討会」の報告書や自民党の報告書「海外経済協力のありかた」では、海外経済協力に関する内閣としての司令塔的な機能を強化するために総理、官房長官、外務大臣、財務大臣、経済産業大臣を常設のメンバーとする「海外経済協力会議(仮称)」を設置するとともに、円借款、無償資金協力、技術協力の実施機能を基本的にJICAに一元化することが提言された。こうした流れを受け、ODAに関する政府全体を通ずる調整の中核の役割を引き続き果たすことになる外務省は、「国際協力企画立案本部」 (注13) 設置や経済協力局と国際社会協力部の多国間開発関連部分の統合・再編などの措置をとる考えである。外務省としては、引き続き国民及び国際社会の期待にこたえる質の高いODAの実施に努めていく。

 

▼日本のODAの政策的枠組

 

▼ODAの10の新たな改善措置

 

 TOPIC

なぜ、今アフリカ向けODA倍増なのか?

▲ジェノサイド11周年式典で犠牲者に 花を手向けるカガメ・ルワンダ大統領夫妻 (写真提供:ルワンダ政府)


  映画「ホテル・ルワンダ」をご存じでしょうか。アフリカのルワンダでは、1994年、民族対立が原因でわずか100日の間に100万もの人命が奪われたといわれる大虐殺が起こりました。死の危険が迫る中、多くの人々が死体でいっぱいになった故郷を離れ、国境を越え、隣国ザイール(現在のコンゴ民主共和国)に逃げました。この映画では、この悲惨な状況の中、多くの命を救った一人の人物を通して、ルワンダでの悲劇を描いています。

 アフリカ中部の一帯を指す大湖地域と呼ばれるこの地域では、1996年に地域全体を巻き込むザイール内戦が勃発し、330万人以上の人々が犠牲になったといわれています。1980年代から1990年代にかけて、リベリア、シエラレオネ等でも内戦がありました。まさに「アフリカの悲劇の時代」だったといえるでしょう。現在でも国連安保理の議題の約7割がアフリカの問題であり、国連平和維持活動(PKO)予算・人員の約8割がアフリカに割かれていることからもアフリカに紛争が集中していることが分かります。

 しかし今、ようやく明るい光がアフリカに差し始めています。長く続いた紛争が各地で終結し、平和の萌芽が生まれつつあるのです。ルワンダ、ブルンジ等では、相次いで民主的な選挙が行われ、2006年1月、リベリアではアフリカ初の女性大統領が誕生しました。2005年1月、スーダンでは包括的な和平合意が結ばれました。ユーロ圏とほぼ同じ面積の巨大なコンゴ民主共和国でも2006年6月までに選挙を実施すべく、準備が進められています。

 このように多くの犠牲を払ってようやく生まれた、貴重な、しかしいまだ脆弱な平和を定着させるためには、人々が平和のもたらす恩恵を実感し、新たな紛争の火種を生まないように、復興・開発を支援し、生活を向上させていくことが必要です。日本はTICADプロセス(参照)において「平和の定着」を「経済成長を通じた貧困削減」、「人間中心の開発」と並ぶ三本柱として重視してきました。さらに、アフリカは紛争に加え、貧困、感染症などの国際社会の諸課題が集中し、また、グローバル化の恩恵にも与かれておらず、国連ミレニアム開発目標(MDGs)の達成が危ぶまれており、国際社会の積極的な支援が求められています。アフリカに「平和」という開発の土台が芽生え、より効果的な支援が期待できるようになった今、アフリカの平和の定着と社会経済開発の加速に向けた努力を後押しするため、2005年小泉総理大臣からアフリカ向けODA倍増を発表したように日本は対アフリカ支援を強化していきます。




<< 前の項目に戻る 次の項目に進む >>