第3章 分野別に見た外交


6 人道支援

 民族・宗教等を背景とする紛争、干ばつ・洪水等の自然災害により、世界各地において、人道支援の必要性・重要性が一層増加している。国連世界食糧計画(WFP)によれば、世界では3億人の子どもたちが慢性的に飢えており、また国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)及び国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の保護や支援の対象となっている難民・国内避難民等の数は、約2,129万人(注26)に達している(2004年統計)。このような世界各地における脆弱者層の存在は、人道上の問題であると同時に、関係地域のみならず、国際社会全体の平和と安定に影響を及ぼしかねない問題となっている。
 日本は、「人間の安全保障」の観点から、人道支援を国際貢献の重要な柱の1つと位置づけており、UNHCR、WFP、赤十字国際委員会(ICRC)等の国際人道機関の活動に対して積極的に支援を行ってきている。また、アフガニスタン、コンゴ民主共和国等における厳しい勤務状況の下で、UNHCR、WFP等の国際人道機関で日本人職員が活躍しているなど、日本は人的貢献も積極的に行っている。
 アフリカ地域において、近年多くの紛争が解決の兆しを見せている中、日本は、アフリカにおける「平和の定着」(注27)を促進するという観点から、アフリカ難民問題の解決に積極的に取り組んでいる。例えば、日本はスーダン西部のダルフール地域における人道危機を早くから深刻な問題と捉え、米国に次いで早い時期である2004年5月末に、政府職員、UNHCR駐日事務所、日本のNGOから結成される合同現地調査団を、大量のスーダン難民が流入していた隣国のチャドに派遣した。さらに、9月には、佐藤アフリカ紛争・難民問題担当大使が、ルベルス国連難民高等弁務官を長とするUNHCRの現地視察団に同行した。そして、これらの調査結果等も踏まえ、国際社会からの支援を要請する国連緊急アピール等に応えて、チャド東部及びダルフール地域の人道状況改善のため、食糧援助や医療支援を中心とする総額約2,100万ドルの拠出を行うとともに、700張のテントを日本から輸送し、供与した(スーダン情勢については138ページ参照)。



▲チャドのスーダン難民キャンプ

ダルフール・ドナーミッション※1に参加して

 2004年9月、私は、アフリカのスーダン(ダルフール地方)とチャドを訪問しました。この地域は永年にわたる紛争により大規模な人権侵害や難民の発生が報告されており、G8シーアイランド・サミットでも議論されるなど、世界中で注目を浴びている地域です。
 外務省職員は、担当する事案に応じて危険な地域を含め世界各地を訪れます。私たちは、そこで課せられた重要な責務を遂行する中で、新しい「出会い」に遭遇することもあります。今回のアフリカ出張も私にとってはまさにそのようなものでした。
 私の今回の出張目的は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が主催したドナー・ミッションで日本代表を務めた佐藤アフリカ紛争・難民問題担当大使を補佐するものでした。関係者からのヒアリング、キャンプの視察などを通じ、難民に対して国際社会の支援が向けられる反面、難民が流入した地域にもともといた地域住民には支援が向けられず、結果的に相当程度の生活格差が生まれていること、また、水、たきぎといった限られた資源をめぐる争いから難民と地域住民の間に緊張関係が生じていることなどが問題点として浮き彫りになりました。私たちは、日本の支援(2100万ドル)は地域全体に行き渡るように活用されるべきであると考察し、これはその後の日本の支援方針となりました。
 その一方で私が体験した多くの新しい「出会い」において最も強く印象に残ったことは、子どもたちから無邪気な笑顔と、歌と、踊りの歓迎を受けたことでした。なぜなら、生まれた時から、悪い治安状況の中で常に武装勢力の攻撃におびえながら、また、きれいな水や十分な食料すら手に入らない環境で育ってきたスーダンの難民や国内避難民の子どもたちに、日本の子どもと同じような笑顔を見たからです。私は、帰国後、出勤途中の電車の中で、買ってもらった傘の色が気に入らないと母親に文句を言う小学生の姿を見たとき、何とも言えない感覚の相違を感じざるを得ませんでした。
 私は、今回のダルフール・ミッションを通じて、世界中の社会的弱者、紛争被害者等にはまだまだ国際社会の支援を必要としているという現実があり、また、そのような状況を作り出している問題を国際社会が一体となって根源から解決していくことの必要性を強く感じました。そこで果たすべき日本の役割は極めて大きいと考えています。私も、一人の日本人、外務省職員として、できる限りの努力をしていきたいと、これまで以上に強く思うようになりました。

執筆:外務省国際社会協力部人道支援室事務官 笹原直記

※1 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が主催し、2004年9月23日から28日にかけて、チャド東部及びスーダン・ダルフール地方の難民・国内避難民キャンプを視察したほか、両国政府要人、国連、NGO関係者との意見交換などを行った。参加国・機関は、日本のほか、米国、ドイツ、欧州連合(EU)、アフリカ連合(AU)など。

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