第2章 地域別に見た外交


ASEAN+3(含む東アジア・サミット)】
 最近の東アジアにおける種々の交流の拡大・深化は目覚ましく、例えば、貿易の域内国シェア(注52)は、FTAの枠組みが形成途上であるにもかかわらず、既にNAFTA(44.5%)を凌駕する水準 (53.3%。日中韓、NIEs、ASEAN諸国。2002年)に達している。また、東アジア通貨危機や米国同時多発テロが地域協力の重要性を痛感させたこともあり、1997年に発足したASEAN+3(日中韓)は、今や東アジア地域協力を促進するための中核的な存在として、貿易、投資、金融から観光、国境を越える犯罪まで、17分野で48枠組を有するまでになっている。2004年も、東アジア・サミットの開催が決定されるなど、東アジア共同体の形成も視野に入れた各種の地域協力が着実に前進した一年であった。
 東アジア共同体の形成に関しては、2004年7月にジャカルタで開催されたASEAN+3外相会議において集中的に議論がなされた。川口外務大臣(当時)は、東アジア共同体の形成における重要な点として、各種の機能的協力の更なる推進、ASEANの中心的役割、ASEANの域内格差の是正、共通の価値観と原則に基づいた東アジアの価値観の共有、ASEAN+3以外の地域協力上の重要なパートナーと緊密な関係を保つこと、米国のこの地域への関与などを指摘した。また、日本があらかじめ提出していた東アジア共同体、機能的協力及び東アジア・サミットに関する論点ペーパー(注53)に対しては、その後の議論の土台を提供するものとして、多くの国からその価値を歓迎・評価する旨発言があった。
 東アジア・サミットについては、11月にビエンチャンで行われたASEAN首脳会議において、2005年にマレーシアで開催することが合意され、直後に行われたASEAN+3首脳会議において、日中韓の首脳はASEANの決定を支持した。ただし、小泉総理大臣ほか何人かの首脳からは、東アジア・サミットとASEAN+3首脳会議との関係については明確化が必要である旨の問題提起がなされた。この関連で、ASEAN+3各国首脳は、東アジア・サミットの内容と形式を議論するため、2005年5月に京都でASEAN+3外相会議を開催するとの日本の提案を支持した。
 日本としては、マレーシアにおける東アジア・サミットの開催を契機に、東アジア共同体形成も視野に入れた東アジア地域協力が一層進展することを期待しており、そのためにも、東アジア・サミットがその歴史的な意義に見合ったものとなるよう、ASEAN+3外相会議に向けて、東アジア・サミットの形式及び内容の両面について、今後、十分議論していく考えである。特に、「開かれた地域協力」という基本的性格がサミットの形式にも反映されるように努める。
 この他、ASEAN+3首脳会議は東アジア地域協力を強化する方策につき議論を行ったほか、東アジア自由貿易地域(East Asia Free Trade Area:EAFTA)の実現可能性についての検討を目的とした専門家グループの立ち上げについてのASEAN+3経済大臣会議の決定を歓迎した。

東アジア共同体(EAc)とは?

 最近「東アジア共同体(EAc※1)」という言葉が政府関係者、ビジネス界、学界、シンクタンクなどの間でよく口にされています。EAcについて議論されるようになった背景には、この地域の急速な経済成長に伴って地域内の交流が急増したことでその重要性が認識されるようになったこと、また、金融危機への対処やテロや国境を越える問題への対応には地域全体としての協力が不可欠であるとの理解が広まったために、幅広い分野での機能的協力※2が進んでいることなどが考えられています。
 EAcの参加国の範囲はどこまでか、EAcが実体としてどのような機能を持つべきものなのか、例えば欧州連合(EU)と同様の機能を持つ統合体を想定しているのか、といったことについては、現時点では、まさにその概念やあり方についてASEAN+3(日中韓)を中核とする関係国や関係者の間で議論されているというのが現状です。
 日本は、日本が属する東アジア地域で、このような協力関係が進展して重層的な連携が深まっていくことは望ましいことと考えており、EAcの形成に向けた動きを基本的には歓迎しています。そして、そのための様々な協力を行っていくとともに、EAcのあり方についての理論的な整理を行うための議論にも貢献していく考えです。その際には、(ア)東アジアの多様性を踏まえつつ、域内統合のダイナミズムを一層高めるためには、制度的枠組※3の構築から始めるのではなく、まずは機能的協力を積み上げていくべきであること、(イ)東アジアにおける共同体形成がASEAN+3を中核としつつ他の地域パートナーの参加も得て「開かれた地域主義」として包含性・開放性・透明性が確保されるべきであること※4、(ウ)これらの協力が民主主義、人権、市場経済、世界貿易機関(WTO)などにおける普遍的ルールや価値に則って推進されるべきであること、の3点が重要と考えています。

※1 EAc:East Asian communityの頭文字をとったもの。
※2 機能的協力:現時点で推進されている協力分野としては、貿易と投資、IT、金融、国境を越える問題(テロ、不正薬物取引、海賊、密入国、不拡散など)、開発支援、エネルギー、環境保全、食糧、保健、知的財産などが挙げられます。
※3 制度的枠組:「共同体」を構成するためのルール。例えば欧州共同体におけるローマ条約など。
※4 日本が「開かれた地域主義」が重要であると考えている根拠は、東アジア地域は、経済発展のレベル、伝統的価値、文化、民族、宗教、言語、政治体制など独特の多様性を有しており、この地域が更なる発展を目指す上では、透明性をもって他の地域のパートナーと連携していくことが重要であり、そうすることで東アジアにおける共同体形成が地域の内外のパートナーから歓迎されるとの考えに基づいています。

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