第3章 分野別に見た外交 

人物・教育分野での交流
 「文化交流は、人の交流に始まり人の交流に終わる」とも言われるように、人の交流は、互いに異なる文化の間の交流を進めていく上で不可欠の要素である。特に、国際社会の明日を担う若い世代の交流は、将来、日本と各国との間で相互理解を基盤とした友好・協力関係を発展させるにあたって重要である。

  (1)人物招聘
 日本は、各種の招聘プログラムを実施し、諸外国の政府要人や知識人が真の日本の姿をその目で見ることにより、日本に対する理解を深めるよう努めている。特に「青年招聘」を重視しており、各国から有為な青年を年間約550名招聘し、日本の政府・民間関係者及び青年等との交流、産業・文化施設の視察等により対日理解の増進を図っている。2003年は、中東諸国の若手文筆家6名を招聘し、文化人、有識者との懇談や地方視察、伝統文化体験を行う等の事業を54件実施した。

  (2)JETプログラム
 日本の中学・高校では、多数の外国青年が英語を中心とした外国語を教えている。これらの青年は1987年より行われている「語学指導等を行う外国青年招致事業(The Japan Exchange and Teaching Programme)」(注1)の参加者であり、学校での語学指導のみならず、地方公共団体で国際交流活動やスポーツ指導を行う青年もいる。彼らは主として1~3年間の教育現場や地方公共団体での業務を通じ、日本の文化と自然に触れ合い、日本に対する理解を深めて本国に帰っていく。日本は、帰国後の外国青年が日本との関係を維持するような施策(同窓会組織への支援)も行っている。2003年には、米国、英国をはじめとする40か国から6,226名を招致しており、青年交流の大きな柱となっている。

 
JET参加者招致人数の推移と参加者の累計

JET参加者招致人数の推移と参加者の累計
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  (3)留学生交流
 留学生の受入れ(注2)は、外国の有為な若者が対日理解を深め、日本の高等教育の国際化に役立っている。2003年5月現在の留学生受入数は10万9,508人に達し、1983年に策定した「留学生受入10万人計画」の目標を達成した。留学生受入れにあたっては、日本は、来日前の留学情報の提供や予備教育、国費留学生の募集・選考から奨学金の支給に至るまで、様々な施策を実施し、留学生交流の促進に努めている。また、日本は、留学生の帰国後も、引き続き母国と日本との架け橋、日本のよき理解者となってもらうため、世界中で180を超える「帰国留学生会」に対する支援も行っている。

 
留学生数の推移

留学生数の推移

  (4)日本語普及
 海外の若者に日本を理解してもらうために、日本語の普及は重要である。1998年調べでは約210万人の外国人が日本語を学んでいるが、海外における日本語教育は民間では採算ベースにのりにくい場合が多い。このため、国際交流基金は、海外において、日本語教育専門家の派遣、海外日本語教師の日本における研修、日本語教材の寄贈、日本語能力試験の海外実施等の事業を行っている。

 
海外の日本語教育の推移

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 異文化間の「真の架け橋」として
Column

 私はマレーシアの高校を卒業後、1988年に来日し、1998年に一橋大学大学院商学研究科博士過程を修了しました。現在は、(株)三菱総合研究所海外開発事業部に研究員として勤務しています。
 私が日本留学を決めた1980年代後半は、多くの日本企業がマレーシアに進出し始めた頃で、そのころから私は是非将来日本企業で働きたいと思っていました。日本を留学先に選んだ理由としては、様々な奨学金制度が比較的充実しており、留学生でも成績が良ければ奨学金をもらえる機会が欧米留学に比べて多かったため、最終的に日本留学を決めました。私の場合は大変運良く、大学3~4年生及び修士課程の時に奨学金を受け、博士課程では文部省(現文部科学省)国費留学生となりました。日本には留学生が10万人もいる中で、私は非常に恵まれていた方だと思います。
 大学院在学中は「マレーシアにおける日系企業のマネジメント」を研究テーマとしました。研究のために日本企業を数多く訪ねて感じたことは、日本人とマレーシア人のperception gap(感覚の違い)の存在でした。例えば、日本人同士の間の「言わなくてもわかる」、いわゆる「暗黙知」という概念はマレーシア人には理解されません。外国人に対しては、明確に物事を伝える必要があると思います。私は、両国の架け橋となるべく、マレーシア人マネージャーと日本人経営者との間のギャップを調査し、それを埋めるための研究を続けてきました。
 現在は、日本企業や政府のコンサルタントとして、アジアを対象とした研究調査を通じて主に人材育成、教育及びODA評価等を行っています。例えば、マレーシア政府は近年「ルック・イースト・ポリシー(東方政策)」の一環で毎年約200名のマレーシア政府派遣留学生を日本に派遣していますが、弊社はマレーシア政府人事院より委託を受け、2000年よりマレーシア政府派遣留学生に対して、〔1〕学業のモニタリング、〔2〕カウンセリング、〔3〕インターンシップ、〔4〕留学評価を行っています。
 一方、4年ほど前から現在まで、私はロータリー米山記念奨学生のOB会(千葉地区)会長として、時間の許す限り様々なボランティア活動を行っています。同団体の主な目的は、ロータリークラブ会員と現役奨学生、そしてOB奨学生の交流を促進することです。具体的な活動としては、米山学友会セミナー、多国籍料理大会や花見大会の開催、日本社会における留学生の役割を考えるパネルディスカッション等を行っています。日本に滞在する外国人留学生が10万人に及ぶ今日、私は、日本人が留学生を理解するだけではなく、留学生が積極的に日本社会に働きかけ理解を得る努力をすることが大事だと考え、このような活動に携わっています。
 マレーシアで生まれ、日本でチャンスを得た私は、常に「真の架け橋」とはどういうものかを追求し、今後も仕事やボランティアを通じて日本人と外国人の相互理解に貢献していきたいと思っています。
執筆:林(リム) 保順(ポースーン)
(LIM, Poh Soon Ph.D.)


 

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