第2章 地域別に見た外交 

日米関係
 2003年にも、日米両国は、幅広い分野に関する緊密な協議や政策協調を進めるとともに、日米安保体制の更なる強化に努めてきた。また、様々な日米交流150周年記念事業が日米両国で行われた。

  <政治面での協力>
 日米間では2002年に引き続き、イラクや北朝鮮等の問題への取組が両国の政治分野での協力の主要な焦点となった。イラクの大量破壊兵器問題の解決に向けた外交努力が最終局面を迎える中で、2月22日にパウエル国務長官が訪日し、小泉総理大臣を表敬するとともに、川口外務大臣との間で日米外相会談を行った。イラクについては、小泉総理大臣及び川口外務大臣より国際協調の重要性を指摘した上で、安保理における米国の粘り強い努力を高く評価しており、引き続き努力することを期待すると述べた。また北朝鮮については、北朝鮮の核開発の動きへの深刻な懸念の共有を改めて確認するとともに、この問題の平和的解決のため、日米韓が今後とも緊密に連携する必要性が確認された。
 3月17日、ブッシュ大統領はイラクに対し累次の国連安保理決議の遵守を求める最後通告を行った。小泉総理大臣はその直後に米国の方針への支持を表明したほか同19日の武力行使開始直後にも、日米同盟と国際協調の重要性を両立させる努力を続けていくとした上で米国等の行動に対する支持を表明した。
 イラクにおける主要な戦闘の終結が宣言された後、5月22日~23日、小泉総理大臣は、米国テキサス州クロフォードのブッシュ大統領私邸を訪問し、日米首脳会談を行った。両首脳は、今日の日米同盟が、世界における様々な重要な問題の解決に世界の国々と協調しながら協力して取り組んでいくという意味での真にグローバルな「世界の中の日米同盟」であることを確認し、この同盟関係を強化することで一致した。会談では、ブッシュ大統領より、米国の対イラク武力行使に対する日本の支持に対する謝意が表明されたのに対し、小泉総理大臣は、改めて国際協調の重要性を強調し、イラク復興については主体的な立場から、日本は積極的役割を果たす考えであることを伝えた。その他、ミサイル防衛を含む日米安保、日米経済関係に加え、テロとの闘い、大量破壊兵器の問題、北朝鮮、中東和平といった現下の課題について率直な意見交換が行われた。また、小泉総理大臣より、横田飛行場の軍民共用化についても取り上げ、実現可能性につき検討することで一致した。
 8月5日には、訪米中の森山法務大臣及び谷垣国家公安委員会委員長が加藤駐米大使とともにアシュクロフト司法長官との間で、日米刑事共助条約に署名した。
 10月17日、小泉総理大臣は、APEC首脳会議出席のためタイに向かう途上日本に立ち寄ったブッシュ大統領と夕食を交えて会談した。会談では、「世界の中の日米同盟」という考え方を確認するとともに、イラク復興や北朝鮮の核問題等の諸課題に、世界の国々と協調し、日米で緊密に連携して取り組んでいくことが確認された。また、小泉総理大臣が、イラク人道復興支援特措法が成立したことを説明し、改めて国際協調の重要性を強調したのに対し、ブッシュ大統領よりイラク復興への日本の貢献に高い評価が表明された。
 11月14日~16日にはラムズフェルド国防長官が訪日し、小泉総理大臣を表敬するとともに、川口外務大臣と会談し、イラク、北朝鮮、ミサイル防衛、沖縄、米軍の軍事態勢の見直し等について意見交換した。また、同長官は、米国国防長官としてはチェイニー国防長官(当時)以来13年ぶりに沖縄を訪問し、稲嶺沖縄県知事と会談を行った。
 また、この他にも日米間では首脳・外相間で電話会談が頻繁に行われるなど、あらゆるレベルで政府間の連携が緊密に行われた。
 なお、長期的な両国関係の基盤強化の視点より、日本と日系米国人の関係強化を図るため、多くの日系人が居住している各地域における若手指導者の日本への招聘や、日系人代表と在米公館長との会議の開催等を実施した。また、日米交流150周年事業を含む様々な交流事業が活発に行われた。

 
▼パウエル国務長官との会談に臨む川口外務大臣(6月)

▼パウエル国務長官との会談に臨む川口外務大臣(6月)

 経済関係
 最近の日米経済関係は、かつてのような摩擦に象徴される関係から脱却し、建設的な対話を通じた協調の関係へと変貌を遂げている。このような協調の精神に基づき、米国と日本が取り組んでいくべき課題は、世界貿易機関(WTO)新ラウンドといったグローバルな規模のものから、アジア太平洋における経済協力等の地域レベルのもの、さらには、構造改革、規制改革、金融部門及び企業の改革といった二国間のものまで多岐に及んでいる。
 ブッシュ政権は、日本経済の回復が日米両国経済や世界経済全体の持続可能な成長のみならず、アジア太平洋地域の安定と繁栄に不可欠であると認識しており、小泉総理大臣の構造改革を強く支持している。
 2001年6月の日米首脳会談の際に両首脳間で合意された日米間の経済対話の枠組みである「成長のための日米経済パートナーシップ」は、こうした日米経済関係の変質を反映したものであり、こうした枠組みの下、2003年には様々な建設的な対話が行われてきた(注)。この他、両国における外国直接投資のための環境改善について議論する投資イニシアティブ、金融・財政政策等のマクロ経済政策について議論する財務金融対話についても各種会合を行った。
 また、日米間の経済活動に関する二国間条約締結に向けた進展もあった。具体的には、11月6日に加藤駐米大使とスノー財務長官が、およそ30年ぶりのほぼ全面改正となる日米新租税条約に署名した。これにより、相手国に設置された子会社から本国の親会社への配当、利子、特許使用料についての税が減免され、二重課税が防止されることになる。さらに、両国間の年金、医療保険に関する二重払いの防止や支払い期間の加算を内容とする社会保障協定についても実質合意に達した。これらの条約の締結により、日米双方の企業にとって多大なコスト削減効果が見込まれ、両国間の投資に関わる経済活動がより活発かつ効率的なものになることが期待されている。

  <経済面での論点>
 米国の貿易赤字に占める対日赤字の割合はピーク時の65%(1991年)から12%(2003年)に低下している。日米両政府の努力もあり、現在は、日米両国間で直ちに政治問題化するような大きな個別の摩擦案件はない。しかしながら、懸案事項として以下の諸問題に取り組む必要がある。
 2001年9月の同時多発テロ以降、米国は、貿易や人の移動に関する安全策を抜本的に強化してきている。物流面では、米国に向けて出荷される貨物の情報や米国に輸送または持ち込まれる食品に関する事前通知・施設の登録制度、人の移動の面では、ビザ発給手続の厳格化をはじめとする出入国管理の強化がある。世界第1位の経済・貿易大国である米国のこのような制度は、世界規模の経済活動に大きな影響を与えかねないものである。そのため、日本としても、米国に対し、パブリック・コメントの提出や「成長のための日米経済パートナーシップ」の協議の場などあらゆる機会を活用して、テロ対策強化措置が貿易や投資活動に不当な悪影響を与えることのないよう申し入れ、協議を行ってきている。
 また、日本は、米国の貿易措置のいくつかについてWTO協定違反の疑いがあるとしてWTOでの解決を求めてきている。そのうち、鉄鋼セーフガード措置については、WTO紛争解決手続において違反が明確となったことを受け、12月4日に米国は措置の撤回を発表した。その一方で既にWTOの場においてWTOのルールに整合していないとされたにもかかわらずいまだにその撤廃・改善が図られていない措置も依然として存在する。具体的には、米国1916年ダンピング防止法、日本製熱延鋼鈑に対するダンピング防止措置、ダンピング防止税等の税収を米国内の企業に分配するいわゆる「バード修正条項」などがある。日本は、これらについても、一刻も早く米国が措置の撤廃に向けた行動をとるよう、様々な場において働きかけてきた。
 なお、12月23日(米国時間)、米国農務長官はワシントン州で牛海綿状脳症(BSE)感染の疑いのある牛が発見された旨発表し、その後(25日)当該牛が感染牛であることが確認された。これにより日本は米国産牛肉の輸入を禁止するに至ったが、29日(日本時間)には米国農務省から事実説明のための訪日団が来訪し、日本政府との間で食品安全確保を目指した問題解決のための話し合いが開始された。

 

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