第2章 > 第1節 > 2 > (1) 紛争への包括的な取組
【総論】
9月の米国同時多発テロによっても強く認識されたように、国際社会には紛争の原因となる種々の不安定要因が存在しており、国際社会の安定と繁栄を実現するためには、こうした不安定要因に対する包括的な取組が必要である。
特に、近年、紛争の発生を未然に防止し、紛争が起きた場合にはその拡大を防止し解決を図り、さらに再発の防止に取り組むという包括的な意味での紛争予防や、紛争解決における平和維持活動の役割についての重要性が高まっている。さらに、紛争の結果生じる難民問題についても、人道上の問題であるとともに、難民の発生が世界の安定と繁栄に与える影響について懸念されている。
2001年は、日本が国際社会の主要な一員として、紛争予防分野において様々な具体的な取組を行ってきたほか、国際平和協力分野において、国際平和協力法の改正など多くの実績を積み重ねてきた1年となった。また、難民に対しても、特に米国同時多発テロ以降、様々な支援を行ってきた。国際社会の安定と繁栄に自国の安全と繁栄を大きく依存している日本にとって、国際社会の紛争への包括的な取組に積極的に貢献していくことは極めて重要であり、日本は今後ともこうした取組に積極的に参画していく考えである。
【紛争予防】
近年、国際社会においては、世界の紛争を終結させる「紛争解決」だけでなく、紛争の原因を事前に摘み取り、紛争が起きた場合にも、紛争が拡大することを防ぎつつ、早期に終結に導き、停戦合意が成立した場合には、社会の安定を図るなどして紛争の再発を防止するという包括的な「紛争予防」の重要性が広く認識されるようになってきている。
紛争予防活動を実施する際には、広範な分野にまたがる多くの複雑な課題をこなさなければならない。具体的には、統治体制の強化や貧困対策といった支援に加え、過剰に集積された武器の削減、難民・避難民の元の居住地への帰還、帰還した難民等が通常の日常生活ができるような社会づくり、対立する民族・部族間の和解の促進、複数民族からなる共同体の構築、地域の統治体制の強化などの取組を行う必要がある。こうした紛争予防の取組には、今日ますます多くの主体(国連、国際・地域機関、国家、非政府組織(NGO)、企業、個人など)が参加しており、紛争予防を効果的に実施するためには、各々の主体の長所や優位点を踏まえた主体間の調整を行うなど、国際社会が一体となってこれに取り組む必要がある。
2001年は、国連やG8を始めとして、国際社会が積極的に紛争予防に取り組んだ1年であり、日本も様々な分野で積極的な取組を行った1年であった。
国連においては、6月に紛争予防に関する初めての包括的な事務総長報告が出され、国連各機関を中心に様々な主体がいかにして紛争予防に取り組むべきかについての勧告が提示された。この事務総長報告を受けて、9月に安全保障理事会(以下「安保理」)が紛争予防に関する初めての包括的な決議1366を採択し、武力紛争の予防が安保理の主要な責務の一部であるとの認識を示すとともに、改めて安保理として紛争予防を追求する決意を表明した。
G8においては、7月のローマ外相会合において、紛争予防のためのG8宮崎イニシアチブ(注1)で取り上げられた小型武器、紛争と開発、ダイヤモンドの不正取引、紛争下の児童、国際文民警察の五つの分野における取組の進展を確認するとともに、紛争予防における女性の貢献と民間部門の役割に焦点をあてたローマ・イニシアチブを取りまとめた。幾つかの分野における顕著な取組の例は以下のとおりである。
小型武器の分野では、7月に開催された小型武器非合法取引のあらゆる側面に関する国連会議において行動計画が採択された。日本は、この国連会議の副議長を務め、会議の成功に大きく貢献した。今後は、採択された行動計画をいかに実施していくかが重要である。
また、紛争の終結段階における、武装解除、動員解除及び元兵士の社会復帰(DDR)(注2)の重要性への認識が高まった。DDRは、軍縮、平和維持、紛争と開発など様々な要素を含むものであり、国連平和維持活動の一環として展開地域におけるDDR活動の支援を行う事例(例えば、シエラレオネ)も見られるようになった。
ダイヤモンドの不正取引の分野では、第55回国連総会決議に基づき、キンバリー・プロセス(注3)を通じて、2001年中に6回にわたり協議が行われた結果、11月にボツワナで開催された閣僚会合において、ダイヤモンド原石の不正取引防止のための国際認証制度の骨子がまとまり、第56回国連総会に報告されることになった。日本も、このキンバリー・プロセスに積極的に参加している。
日本においては、3月に東京で開催された「予防の文化:国連から市民社会まで」と題する国際シンポジウムにおいて、理想的な紛争予防のためには紛争予防活動に参加する国連、地域機関、政府、市民団体などが協力し、それぞれの特質をどのように調整しあっていくべきかという観点から、現状の分析と提言が行われた。国連には一層の調整力の発揮が、各国政府にはNGO、その他の市民社会の役割を強化するための人材の育成や支援が、さらにNGOには専門性の向上を図ることが必要であるといった提言に多くの参加者の賛同が得られた。
10月、日本は、紛争予防分野における二国間協力として、英国と合同の紛争予防関連プロジェクト策定のための事実調査ミッションをシエラレオネに派遣した。このミッションからの調査結果を受けて、今後、両国は、シエラレオネにおける紛争予防のプロジェクトをどのように取り進めていくか検討していくことにしている。
このように、紛争予防は、国際社会として、また、日本として、より一層具体的に取り組むべき分野であるとの認識が定着してきたと言うことができる。
G8による紛争予防への取組

G8外相会合に臨む各国外相(7月)

【国際平和協力】
国連平和維持活動(PKO)を始めとする国連を中心とした国際社会の平和と安定を求める努力に対し、資金面だけではなく、人的な面でも協力を行うことは、日本の国際的役割に相応しい協力のあり方であると認識している。
このような考えに立って、日本は、1992年の「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(国際平和協力法)」施行以来、カンボジア、モザンビーク、東チモール等での国連平和維持活動、ルワンダ難民、東チモール避難民に対する人道的な国際救援活動及びボスニア・ヘルツェゴビナでの国際的な選挙監視活動に参加してきた。また、ゴラン高原に展開している国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)に、1996年より、後方支援部隊と司令部要員を派遣している。これらは、国際的に高い評価を得ている。
さらに、2001年から2002年にかけ、日本の国際平和協力には大きな進展があった。
第一に、国際平和協力法に基づき、重要な活動が実施された。
PKOの分野では、国連からの要請を受け、東チモールのPKOに対し、自衛隊施設部隊680名及び司令部要員10名を派遣することになった。これは部隊としては、これまでで最大規模の派遣である。自衛隊施設部隊は、2002年3月から4月にかけて、東チモールの中央地区、西部地区及びオクシ地区(西チモールにある飛び地)に展開し、道路・橋等の維持・補修等の後方支援に従事している。また、司令部要員は、国連東チモール暫定行政機構(UNTAET)軍事部門の司令部(首都ディリ)にあって、後方支援関係の企画調整等を行っている。
人道的な国際救援活動としては、長期にわたる紛争に加えて、米国同時多発テロの影響を受けたパキスタンにおけるアフガニスタン難民に対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)からの要請に応え、10月上旬にテント、毛布等の生活関連物資を供与した。この際、これらの物資を自衛隊輸送機によりパキスタンまで輸送し、UNHCRに引き渡した。さらに、アフガニスタン難民に対しては、10月下旬にも、現地のパキスタンで調達したテントを追加供与している。
また、2001年には、東チモールにおいて憲法制定議会の選挙が実施され(8月30日)、コソボにおいて暫定自治政府樹立に向けた議会選挙が行われた(11月17日)。これらの選挙に対し、日本は国際平和協力法に基づき選挙監視要員の派遣を行い、両地域の民主化に向けた努力を支援した。
このように国際平和協力が実績を上げていることは、国際平和協力法が成立後10年を迎え、日本の国際貢献の重要な柱として定着してきたことを示すものである。
第二に、国際平和協力法が改正された(2001年12月7日成立、同14日施行(ただし、武器使用規定については、2002年1月14日施行))。これに先立ち、国連を中心とした国際平和のための努力に対して、日本が一層積極的に貢献することについて、内外の期待の高まりを受けて、国会等で活発な議論が行われた。また、9月の米国における同時多発テロを受け、日本が国際社会において果たすべき役割に対する関心が高まった。国際平和協力法の改正はこのような背景の下で、実現したものである。
今回の改正により、国際平和協力法が制定されて以来凍結されていたPKF本体業務(注4)の実施が可能となった。また、武器使用に関しても、
国際平和協力業務に従事する自衛官等について「自己と共に現場に所在する……その職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者」の生命又は身体を防衛するために武器を使用することができるようになるとともに、
派遣先国において国際平和協力業務に従事する自衛官についても、自衛隊の武器等の防護のため武器を使用することができるようになった(自衛隊法第95条の適用)。このような改正は、日本の国際平和協力の実施の幅を拡大するとともに、国際平和協力業務の円滑な実施を確保する土台となるものである。
第三に、国際平和協力の中核であるPKOへの参加の幅が広がっていることが挙げられる。東チモールのPKOへの自衛隊施設部隊の派遣については既に述べたとおりであるが、PKOにおいては文民が活躍していることも重要な点である。国際機関において、日本人職員数が望ましいと考えられる職員数よりも少ない状況にあり、この状況の改善に向けて、日本政府としても人材の発掘や国連に対する働きかけ等を行うなど積極的に取り組んでいる。国連PKOミッションに関しては、2001年末現在、UNTAET、国連シエラレオネ・ミッション(UNAMSIL)等において、日本人幹部が活躍している。さらに、11月には防衛庁職員派遣処遇法が改正され、国連本部PKO局へ自衛官を派遣することが可能となった。PKOの現場における人的協力に加え、このような国連本部におけるPKO業務の企画・立案等への参加は、国連が行う国際平和のための努力に対する日本の協力の幅を広げるものとなることが期待されている。
PKOの現状

国際平和協力業務の仕組み

(column4参照)
【難民支援】
世界各地で民族や宗教等に起因する紛争や対立がなお頻発する今日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)及び国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の保護や支援の対象となっている難民・避難民等の数は、約2500万人に達している。このような世界各地における難民・避難民等の存在は、人道上の問題であると同時に、関係地域ひいては国際社会の平和と安定に影響を及ぼしかねない問題となっている。
日本は、人間の安全保障の観点から、難民・避難民等に対する人道支援を国際貢献の重要な柱の一つと位置づけており、UNHCR、世界食糧計画(WFP)、赤十字国際委員会(ICRC)等の国際機関の活動に対して積極的に支援している。
また、人道問題への日本人の貢献としては、2001年1月、大島賢三氏が国連人道問題調整事務所(OCHA)の最高責任者でもある国連人道問題担当事務次長に就任したことが挙げられる。大島事務次長は、就任早々より世界各地の人道危機の現場に赴き、状況の把握に努め、人道援助に関する援助国への提言活動などを行っている。また、いずれの国連機関も明確には担当とされてない国内避難民(IDP)の問題に対しても積極的に取り組んでおり、大島事務次長の指示で、関係国際機関からの協力を得て、OCHAの中にIDP担当部局が設置された。日本は、このような取組に対しても積極的に協力している。
難民問題では、9月の米国同時多発テロ以降、アフガニスタン及びその周辺国において、以前からの難民に加えて、新たに大量の難民・避難民が発生するおそれが生じた。これに対し、日本は、国連機関等が行う難民・避難民支援活動に対して総額1億221万ドルの支援を行うとともに、国際平和協力法及びテロ対策特別措置法に基づいて物資の提供及びこれら物資の自衛隊による輸送を行った。また、二国間の支援としては、今回の事態で影響を受けたアフガニスタン周辺国を支援するため、パキスタンへの緊急経済支援47億円のうち、17億円を難民対策支援とし、タジキスタンに対しても2億4000万円の難民対策支援を行った。さらに、日本政府は、ジャパン・プラットフォーム(JPF)の枠組みの下、アフガニスタン難民・避難民支援活動を行う日本のNGOを支援している。(アフガニスタン難民・避難民支援については、第1章2(3)を参照。)
世界の難民の数の推移
