2001年8月、東チモールにおいて憲法制定議会選挙が実施され、東チモール国際平和協力隊は、選挙監視業務に携わった。選挙監視は、各投票所において投票に立ち会い、報告することが主な業務であるが、そのほかに投票前の選挙活動の視察・調査も選挙監視の重要な仕事である。選挙運動の参加者や政党員、一般有権者に今回の選挙について尋ねたところ、「初めての自由な選挙で、非常に喜ばしい」、「初めての自由な選挙であり、おおむね選挙の自由や公正性は保たれている」とのことであった。1999年の独立に関する東チモール人の民意を問う直接投票時には様々な圧力や暴動があったのに比べ、「市民は今回初めて、多くの選択肢から自由に選ぶことができた」のである。
紛争後の社会において平和を構築するには民主化支援が重要である。民主的政治体制の平和的な確立の手段として、公正な選挙の実施が必要である。また、公正な選挙は、市民・国民が政治的意思決定過程に参加するための手段である。選挙協力はこうした民主化支援の一環として位置づけられる。選挙協力の一形態である選挙監視には、選挙の過程全体が公正であったかどうかを確認する役割のほかに、第三者の存在によって不正を思いとどまらせるという抑止の役割がある。8月30日、東チモール憲法制定議会選挙の投票日を迎え、91.3%という高い投票率を記録して、自由かつ公正な選挙が実施された。今回のミッションは選挙監視を通じて国造りへの支援を行うという意義を持っていた。
さらに、民主的選挙の実施に対する選挙協力では、その過程を通じて、対立していた民族間が接するような機会を与える場合もある。冬も間近に迫った11月、私は、多数派を占めるアルバニア系住民とセルビア系住民の対立の傷が今なお残るコソボにおいて OSCE(欧州安全保障協力機構)の選挙ミッションに長期選挙専門家として参加した。OSCEが実施するコソボ議会選挙の開票作業が自分の仕事である。開票センターでの開票作業にはアルバニア系住民とセルビア系住民双方のスタッフが携わっていた。これには双方の民族が協働する機会を提供し、両民族の共生を内外に訴えるという意図がある。しかし、実際に業務を管理する立場としては、両民族のスタッフの関係に配慮する必要があり、その点が非常に難しかった。アルバニア系住民の感情を考えた場合、彼らにセルビアやモンテネグロでの在外投票分のデータを入力させることはできないと思われた。しかし、セルビア系住民の多い選挙区の作業をセルビア系住民スタッフだけに担当させることは極めて非効率であり、開票過程に重大な遅れをきたす。このことをアルバニア人スタッフ達に相談したところ、幸いにも理解を得ることができ、双方の民族が協力して開票作業に当たることになった。コソボの将来を決める選挙の開票作業に、敵対していた民族が共同で取り組むという姿を見て、共生と和解へのわずかな期待を持たずにはいられなかった。民主的選挙の実施・運営の過程そのものが、多民族社会の実現に向けた和解のためのきっかけを提供する可能性もある。このように選挙協力は、様々な形で平和な社会の構築に貢献している。
執筆:国際基督教大学大学院行政学研究科
博士後期課程 村上 裕公