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メキシコでの保健サービスの提供


 メキシコ、ケレタロ州シエラゴルダ地方、メキシコシティから車で5時間以上かかる山岳地帯でアクセスが困難な地域である。それに加えて急激な人口増加、天然資源の乱用という問題も抱え、住民のほとんどがメキシコ政府の定義する貧困レベル以下の生活を送っている。乳幼児死亡率や妊産婦死亡率は全国平均よりはるかに高く、基礎的な医療、教育、安全な水などの基本的なサービスを受けることができない集落も多い。こうした状況を改善するため、財団法人家族計画国際協力財団(ジョイセフ)は、現地のNGOであるメキシコ家族計画協会と協力して、地域保健、性に関する教育、家族計画サービスの普及といった活動を2001年に開始した。
 ジョイセフは、1968年の設立以来、人口・家族計画分野の国際協力を行う民間援助団体(NGO)として多岐にわたる事業を実施し、現在では、アジア・アフリカ・中南米の12か国において、草の根での活動を中心とするプロジェクトを実施している。プロジェクトの内容は、リプロダクティブ・ヘルスの理念に基づき、その国や地域のニーズに合わせて住民主導による地域ぐるみの保健活動を目指し、女性の健康向上、思春期保健活動、プライマリー・ヘルスケアの推進、環境衛生の活動、また副収入づくり活動や基礎教育普及活動、さらには予防医学活動、生活改善運動など幅広い。1979年にプロジェクトを開始したメキシコでは、思春期の若者に対する性教育、農村や都市部での貧しい地域における健康教育・家族計画を含む保健サービスの提供などを中心に活動を実施してきた。その経験を基に、シエラゴルダ地方でのプロジェクトが開始されたのである。
 シエラゴルダ地方で最も大きい町であるハルパから車で1時間、人口300人弱のマンサニーヨ村を訪れた。アジアとは異なり人口密度が低く、サービスの提供が難しい。村人の交通機関は、1日に2本だけのバス。ハルパに出るのは一仕事である。保健省がクリニックを建てているが、医者は月に1度訪れるだけ。クリニックがあるだけ他の村より恵まれているが、医者がいないときには、薬もなく、保健サービスが受けられない。プロジェクトの開始以来、村のヘルス・プロモーター(保健推進員)は一週間の研修を受け、体重計・血圧計・痛み止めや下痢止めなどの基本的な医薬品で村の人たちに保健サービスを提供できるようになり、また、健康の大切さについて教育を行うようになった。こうした活動を通して村の人々の信頼を得ていくなかで、プライバシーに関わる避妊サービスの提供なども可能になっていくのである。

執筆:(財)ジョイセフ(家族計画国際協力財団)
   国際事業部プログラム・オフィサー   佐野 千穂


絵を多用したわかり易い教材で寄生虫について説明するジョイセフ職員


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