第2章 > 第1節 > 2 > (2) 軍備管理・軍縮・不拡散
【総論】
1月に成立した米国のブッシュ政権は、ミサイル防衛計画(MD)の推進や不拡散政策の重視を始めとする新たな戦略的枠組みの構築を提唱し、年末には、これまで米露間の核戦略の基盤となっていた対弾道ミサイル・システム制限(ABM)条約からの脱退をロシアに対して正式に通告した。また、米露両国とも戦略核兵器の大幅な削減を表明しているが、米国は、核兵器の削減方法等につき、従来の米露戦略兵器削減交渉(START)等の条約によるのではなく、一方的な削減措置を重視している。
大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散の問題に加え、冷戦後に地域紛争や局地戦争が頻発する中で、過剰に蓄積・設置された小型武器、対人地雷等の通常兵器が実際に紛争の中で使用され、毎年50万人以上もの犠牲者を出している。大量の犠牲者を出す「事実上の大量破壊兵器」とも言えるこれらの通常兵器は、犠牲者・被害者が一般市民の女性や子供であることが多く、また、紛争終結後の復興、人道支援を阻害する大きな要因ともなっている。こうした通常兵器の問題を、人間の安全保障や復興・開発支援の問題等と関連づけて捉える必要性が高まってきていると言える。
日本にとって、軍縮・不拡散政策は、日本の安全保障政策を補完する重要な手段である。また、唯一の被爆国として、核兵器のない平和な世界を一日も早く実現するという国民の強い悲願に応えることができるよう取り組まなければならない課題である。このような認識に基づき、核軍縮・不拡散を始めとして、生物・化学兵器も含む大量破壊兵器の廃棄・削減・管理に関して国際的体制を強化することに引き続き重点を置きつつ、通常兵器の軍縮の強化にも積極的に取り組んでいく考えである。また、一層の不拡散体制の強化に努めていく考えである。(CTBT、BWC及び不拡散の取組とテロリズムは第1章6(2)を参照。)
軍縮・不拡散のための国際的枠組み

【核軍縮・不拡散】
日本は、核兵器のない世界の一日も早い実現を目指して、現実的、漸進的に取り組んでいくとの考えの下、核軍縮・不拡散のための現実的な措置に向けて努力してきた。具体的には、日本は、1994年以来毎年、国連総会第1委員会に核軍縮に関する決議案を提出し、国際社会の圧倒的支持を得てきており、2001年も決議案「核兵器の全面的廃絶に至る道程」を提出した。この決議案は、昨今の新しい国際情勢を踏まえながら、2000年同様、全面的核廃絶に至るまでの道すじを明記したものである。この決議案は、CTBTの早期発効を求めた部分があるという理由で、米国が反対にまわったものの、賛成139、反対3、棄権19という圧倒的多数で採択された。
【カットオフ条約とジュネーブ軍縮会議】
核軍縮・不拡散を進める具体的措置としては、核実験を禁止するCTBTの早期発効と並んで、核兵器製造に用いられる核分裂性物質の生産を禁止する条約(カットオフ条約)の作成交渉が即時に開始される必要がある。しかし、条約交渉の場であるジュネーブ軍縮会議(CD)は、前年同様、宇宙の軍備競争防止や核軍縮をめぐってメンバー国間の対立が継続し、停滞したままであった。日本は、カットオフ条約に関する実質的な議論を進展させるため、5月にジュネーブで国際ワークショップを開催し、各国政府関係者や専門家の間でこの条約をめぐる論点について網羅的に議論を行った。日本は、CDにおいて一刻も早く条約交渉が開始されるよう、メンバー国等に働きかけていく考えである。
【米露核軍縮とミサイル防衛】
5月、ブッシュ大統領は、演説の中で、今日の安全保障環境に対応するためには新たな枠組みが必要であるとして、自国及び同盟国のための核抑止力を維持する一方で、ABM条約を越えて、ミサイル防衛、不拡散、拡散対抗などの方策を強化するという広範な戦略を検討中であると述べた。また、ロシアに対し、21世紀の世界平和と安全保障の新たな基礎を発展させるために協力するよう呼びかけた。
7月のジェノバ・サミットにおける米露首脳会談において、相互に関連する攻撃及び防御システムの問題について速やかに集中した対話を行うと合意され、それ以降、米露政府関係者による戦略安定問題に関する協議が集中的に行われてきた。9月11日に米国において発生した同時多発テロ以降は、テロに対抗する国際的な協調姿勢が確立され、米露間の戦略安定問題にも一定の影響を及ぼした。
11月、米国において米露首脳会談が行われ、核削減、ABM条約の取り扱いを含む戦略安定問題に関する共同声明等が発出され、ブッシュ大統領はプーチン大統領に対し、今後10年間で実戦配備された戦略核弾頭を1700発から2200発の範囲まで削減するとの考えを伝えたことを明らかにした。このブッシュ大統領の決定をプーチン大統領は高く評価するとともに、ロシアも同様の形で応じたいと述べた。ABM条約とミサイル防衛計画に関しては、米露両国が異なる見解を有しており、今後も協議が継続されることが合意された。
12月13日、ブッシュ大統領は、米国が、冷戦時代の敵対的な米露関係に決別し、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散といった脅威に効果的に対処するため、ABM条約から脱退するとの考えをロシアに対して正式に通告したことを発表した。これを受け、同日、プーチン大統領は今回の米国による措置が予想外のことではなかったと述べるとともに、このような決定は「間違い」であるとしつつも、ロシアの安全保障にとっては脅威とはならないと述べ、抑制的な反応を示した。同時に、プーチン大統領は戦略攻撃兵器の弾頭数を1500発から2200発の水準まで削減することに関しても米露間の合意を目指していく考えを明らかにした。
今後の展望として、米露両国は、2002年5月に予定される米大統領の訪露までに、戦略核弾頭の削減幅、検証方法等を含む合意文書の内容、形式等について協議していくとともに、ABM条約失効後の新たな枠組み作りに向けた協議を開始することとしており、今後の米露間の協議の動向が注目される。
米露の戦略核弾頭数の推移及びSTART諸条約上の上限との比較

ミサイル防衛(MD)の概念

【化学兵器】
化学兵器の廃絶へ向けた国際社会による取組は、化学兵器禁止条約(CWC)(注1)及びその実施機関である化学兵器禁止機関(OPCW)(注2)を中心に推進されている。この条約体制の下で1997年以来、締約国の増加による条約の普遍性の促進、化学兵器保有国による廃棄作業への着手、締約国の条約遵守を検証するためのOPCWによる査察活動の進展など化学兵器軍縮における一連の成果が見られた。しかし、2001年に至り、世界最大の保有国であるロシアによる化学兵器の廃棄活動の遅延が深刻化したため、2007年という化学兵器の廃棄期限を延長するか否かという問題が浮上した。ロシアは、廃棄期限を延長するとの方針を固め、9月にはキリエンコ化学兵器軍縮国家委員会議長(元首相)を日本を含む主要各国に派遣し、ロシアの立場への理解を求める外交努力を行った。また、OPCWが活動資金不足に陥り、その活動水準が低下するとの問題も生じた。これら問題の解決へ向けて、同年中に締約国間で話し合いが継続されたが、最終的な解決には至っていない。
【小型武器】
近年の地域紛争の中では、地域紛争の予防、あるいは、紛争終了後の再発予防への努力が重要視されるようになってきた。その関連で、自動小銃、携帯用対戦車ミサイルなどの小型兵器の問題が注目されつつある。小型武器の過剰な存在は、紛争を激化、長期化させ、被害を大きくし、紛争終了後においても治安の悪化、紛争再発の要因となり、国家や社会の復興を妨げる要因となっている。この問題への国際社会の取組として、2001年7月には、国連小型武器会議(小型武器非合法取引のあらゆる側面に関する国連会議)が開催され、日本は副議長国を務めた。この会議では、小型武器の非合法取引の防止、国際支援と協力等を盛り込んだ行動計画が策定された。今後は、行動計画をいかに実施していくかが重要となる。日本はそのフォローアップの一環として、2002年1月、小型武器東京フォローアップ会合を開催した。また、日本は、具体的な小型武器回収プロジェクトとして、2001年4月、「武器回収の対価として開発を提供するプロジェクト」をカンボジアにおいて実施している。
【地雷問題】
日本は、対人地雷問題について、普遍的かつ実効的な対人地雷の禁止の実現と地雷除去活動及び犠牲者支援の強化を車の両輪とする包括的な取組が不可欠と考え、犠牲者ゼロ・プログラムを提唱し、対人地雷の犠牲者ゼロの目標の実現に向け積極的に取り組んでいる。
普遍的かつ実効的な対人地雷の禁止の実現については、より多くの国が対人地雷禁止条約(オタワ条約)を締結することが重要である。日本は、9月にマナグア(ニカラグア)で開催されたオタワ条約第3回締約国会議において改めてこの点につき強調し、主にアジア太平洋の未締結諸国を中心に、条約締結の働きかけを行っている。また、過度に障害を与え、または無差別に効果を及ぼすことがあると認められる通常兵器の使用を規制する特定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW)でも一部の地雷の使用を禁止しており、日本は、12月の運用検討会議でこの条約による規制対象を拡大することを主張している。また地雷除去活動及び犠牲者支援の強化については、日本は、2001年末までに6900万ドルを超える対人地雷関連の支援を行っている。地雷除去については、国際機関を通じた地雷除去活動支援、二国間援助を通じた地雷除去関連機材の供与、専門家の派遣等を行っており、また草の根無償資金協力を活用して非政府組織(NGO)を通じた支援も行っている。犠牲者支援については、主として国際機関及びNGOを通じた支援により、義足の製作や犠牲者のリハビリ等にかかわる施設や機材の整備を支援している。特に、アフガニスタンにおいては、2002年1月のアフガニスタン復興支援国際会議で、小泉総理大臣より、復興の前提ともいうべき安全確保のために、地雷・不発弾の除去に力を入れていくことを表明し、具体的には、地雷除去等の支援のため国連機関等に対して1922万ドルを拠出することを決定した。
【国連軍備登録制度】
1992年、日本や欧州連合(EU)のイニシアチブにより発足した国連軍備登録制度は、国連加盟国が毎年、戦車、戦闘用航空機等の7種類の主要な兵器の輸出入等を国連に報告するもので、2001年には初めて報告国が100か国を超えた。日本は、この制度に未参加の国に対して参加を働きかけるなど、運営上も大きな役割を果たしている。2002年には、国連軍備登録制度が成立10周年を迎えるにあたり、日本は更なる普遍化のため努力していく考えである。
【ミサイルの不拡散】
核兵器、生物・化学兵器などの大量破壊兵器が軍事的効用の高い運搬手段と結びついた場合、大きな脅威となる。そのような軍事的効用の高い弾道ミサイルが世界的に拡散傾向にあることは、国際平和に対する深刻な脅威をもたらす。北朝鮮が日本を射程下に置く弾道ミサイル活動を行っていることは、日本の安全保障上の深刻な脅威である。しかし、大量破壊兵器が多国間の国際約束によって、生産・保有・移譲などを制限・禁止されているのと異なり、ミサイルについてはそのような多国間の国際約束は存在しない。こうした状況を懸念する国々の間で自発的取組としてミサイル技術管理レジーム(MTCR)が発足し、ミサイル拡散を防止する観点から、輸出管理を通じた国際協調に努めてきている。近年MTCRでは、弾道ミサイルの拡散に立ち向かうための国際行動規範(ICOC)(注3)の策定を通じ、より多くの国を不拡散の取組に関与させる努力を行ってきている。9月にオタワで開かれたMTCR総会では、MTCR参加国以外の多くの国が国際行動規範に参加することを促していくことになった。国連においても、8月にミサイル専門家パネルが開かれ、2002年の国連総会に報告書が提出されることになっている。