第1章 > 6 > (2) 大量破壊兵器の拡散防止
【総論】
1月に成立した米国のブッシュ政権は、冷戦期の敵対的な米露関係に代わり、一部の無責任な国家が大量破壊兵器や弾道ミサイルを獲得することが現在の国際社会における最大の脅威であると位置づけた。ブッシュ政権は、また、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准や生物兵器禁止条約(BWC)の検証議定書交渉への反対等、軍縮・不拡散に関する一部の多国間の枠組みは、米国の安全保障に役立たないとして、消極的、否定的な態度を表明した。
このような中で、9月以降の一連のテロ事件が発生し、無責任国家と並んで、テロリストの手中に大量破壊兵器がわたる危険性についても、強く認識されるに至り、ブッシュ政権は、大量破壊兵器の拡散防止には断固として対処するとの方針を打ち出している。こうした一連の動きは、国際的な不拡散の取組に大きな影響を与えており、テロ防止の観点も含む大量破壊兵器の拡散防止は、今や国際社会の緊急の課題となっている。
【包括的核実験禁止条約(CTBT)】
第2回CTBT発効促進会議は、当初9月の開催を予定していたものの、米国同時多発テロの影響で延期され、11月11日から13日まで、ニューヨークの国連本部で開催された。会議には117か国が参加し、各国に対する早期署名・批准の要請等を盛り込んだ最終宣言が全会一致で採択された。しかし、条約発効のためにその批准が不可欠である発効要件国44か国に含まれる米国は、核兵器の信頼性・安全性維持等を理由としてCTBTの批准に反対の態度を明らかにし、発効促進会議にも参加しなかった。そのほかにも、中国、インド、パキスタン等13か国の発効要件国が未署名又は未批准であるため、CTBTはいまだ発効していない。
日本は、CTBTを、国際原子力機関(IAEA)の保障措置(セーフガード)と並び、核兵器不拡散条約(NPT)を中核とする核不拡散・核軍縮体制の不可欠の柱として捉え、その早期発効を極めて重視している。日本は、1999年の第1回CTBT発効促進会議で議長国を務め、それ以降も調整国として各国の意見をとりまとめてきた。日本は第2回会議までに一国でも多く署名・批准国を増やしておくことがCTBTの発効促進に向けた国際的流れを維持・強化するために不可欠であると考え、8月、田中外務大臣から発効要件国12か国に対し、早期署名・批准を要請する書簡を発出するとともに、これらの国に対し、様々なレベルを通じた働きかけを改めて強化した。こうした働きかけの成果もあり、第2回会議までの約3か月の間に、3か国が署名し、10か国が批准を行った。日本は、今後とも、署名・批准国の増加のための働きかけを通じて、CTBTの普遍性を高めるよう努力するとともに、国際監視制度(IMS)を整備し、核実験検証体制を構築するため努力していく考えである。
【生物兵器】
1975年に発効した生物兵器禁止条約(BWC)(注1)は、生物兵器の開発、生産、貯蔵、保有につき包括的に禁止しているが、それを検証する手段については全く規定がない。このため、生物兵器の世界的な拡散の動きに的確に対処する目的で、検証制度が盛り込まれた議定書の作成交渉が1995年以来6年以上にわたって続けられ、2001年初めには交渉グループ議長による妥協案(統合テキスト)が提示された。ところが、8月、米国がこの統合テキストの受け入れを完全に拒否したため、議定書交渉は暗礁に乗り上げた。
11月に開催された第5回BWC運用検討会議(5年に1回開催)では、条約強化のための諸措置について鋭意交渉が続けられたが、米国は、BWC強化は必要であるものの、あくまでも検証議定書によらない形で実現されるべきであるとして、最終日に、議定書策定交渉の明確な打ち切りを提案したため、会議は最終的に合意に達することができなかった。結局、会議は1年間中断し、2002年の11月に再開することになった。
生物兵器禁止条約(BWC)検証議定書をめぐる立場の違い

【不拡散の取組とテロリズム】
9月の米国同時多発テロを受け、テロリストの手中に大量破壊兵器がわたる危険性が指摘され、このことが大量破壊兵器不拡散のための国際的取組における大きな課題と位置づけられてきている。第1に、G8の枠組みでは不拡散の専門家が大量破壊兵器テロ対策を包括的に議論している。また、米国の炭疽菌事件以来、生物化学兵器テロ対策が関心を集め、特にBWC検証議定書作成交渉が不調に終わり、国際的輸出管理レジーム(注2)であるオーストラリア・グループ(AG)の役割が注目を集めている。このような中で、不拡散の取組を国際的に拡大していく努力が重要となってきている。特に懸念国やテロリストが大量破壊兵器等の製造・開発に使用できる物資を入手するために多様な活動を世界規模で行っていると見られることから、こうした活動先での不拡散のための取組が強化されねばならない。この点、アジア諸国・地域は近年の経済発展の結果、こうした機微な物資の調達先ないし中継貿易地として注目されている。日本はこの地域における不拡散の取組を強化するため、アジア諸国との対話を進めてきている。