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(2) 地域の安全保障環境を向上させるための取組


 日本が位置するアジア太平洋地域では、政治・経済体制、経済発展段階、さらには文化的、民族的な多様性、明確で一元化された脅威対象の不在等を背景に、欧州における北大西洋条約機構(NATO)のような多国間による集団防衛的な安全保障機構が発達せず、米国を中核とした二国間の安全保障取極の積み重ねを基軸として地域の安定が維持されてきた。現在もこのような安全保障構造に基本的な変化はないが、ASEAN地域フォーラム(ARF)等の地域協力の枠組みの整備及び強化が着実に進められている。
 日本は、地域における米国の存在と関与を前提とした上で、日本自ら不安定要素の除去に努めるとともに、二国間及びARF等の多国間の対話の枠組みを重層的に整備していくことが現実的かつ適切な方策であると考えている。こうした考えに基づき、安全保障対話や防衛交流を進展させ、相互の信頼関係を高めること等により、日本を取り巻く安定した安全保障環境の整備に取り組んでいる。
 2001年、日本は、森総理大臣の米国、ロシア訪問、小泉総理大臣の米国、中国、韓国訪問、ASEAN+3(日中韓)首脳会議、日・ASEAN首脳会議への参加、オーストラリア、インド等各国首脳の日本訪問など、アジア太平洋地域の国々との間で対話を緊密に行った。また、アジア太平洋地域諸国との間で二国間の安全保障対話・防衛交流を推進している。これらに加え、今後とも中長期的な観点から北東アジア地域の平和と安定について議論するための適切な枠組みを模索していくことが重要である。
 多国間対話の枠組みとしては、アジア太平洋地域の全域的な政治・安全保障に関する対話及び協力の場であり、具体的な信頼醸成措置、予防外交への取組などの分野において、着実に進展しているARF等を通じて地域の安全保障環境の向上に努めている。ARFにおいては、信頼醸成の促進、予防外交の進展、紛争へのアプローチの充実という3段階のプロセスに沿って漸進的に対話と協力を進めていくことになっている。これまでも第1段階の信頼醸成の促進につき、国防白書の発行、国防政策ペーパーの提出、PKOや災害救助等に関する会合の開催、参加各国が自国の地域の安全保障情勢認識に関して作成し、ARF議長国が取りまとめた安全保障に関するARF年次概観の刊行等各種の信頼醸成措置が実施されている。また、第2段階と位置づけられている予防外交に関しても具体的取組に向けた議論が行われている。
 2001年7月にハノイで開催された第8回ARF閣僚会合においては、朝鮮半島情勢やインドネシア・東チモール情勢を始めとするアジア太平洋地域の政治・安全保障問題について率直な意見交換が行われた。また、地域の安全保障にとって重大な課題となっている大量破壊兵器とその運搬手段等の拡散への対処、ミサイル防衛システムの影響についても議論が行われた。さらに、予防外交については、予防外交の概念と原則、ARF議長の役割の強化、専門家・著名人登録制度に関する三つのペーパーが採択され、ARFにおける予防外交への取組が前進した。これら三つのペーパーは、ARF参加国の予防外交に関する現状での共通認識を表す文書として重要な意義を有しており、特に、予防外交の議論を進める上での基礎となる概念と原則につき合意できたことは、ARFが第2段階へ移行する上で大きな前進と言える。今後、このペーパーを基本とし、ARFにおいて予防外交に関する議論を深め、具体的な成果を上げていくことで、アジア太平洋地域における安全保障フォーラムとしての重要性を一層高めていくべきであると考えている。
 日本は、事務局等制度化された常設の機構を持たない会議の連続体であるARFにおいて、会合間におけるARFの諸活動の調整及び推進を図り、参加国間の信頼醸成の向上や予防外交に関する議論を進展させる上で、議長の役割の強化は不可欠であると考えており、ARF議長の役割の強化に関するペーパーの作成の際にも中心的役割を果たした。
 米国同時多発テロに関し、10月16日、議長国であるブルネイがイニシアチブを発揮し、すべてのARF参加国の支持を得て、議長声明が発出された。この議長声明は、ARF議長の役割の強化の観点からも意義のあるものである。
 ARFは1994年に発足後、これまで8回の閣僚会合を経て、安全保障にかかわる信頼醸成のために着実な成果を上げてきた。今後は、予防外交への取組の強化や、政治レベルにおける対話の一層の緊密化など、より高い次元の協力を目指すべき時期を迎えつつある。日本はARFの発展に今後とも積極的に貢献していく考えである。
 先に述べたような特性を有するアジア太平洋地域において、域内の安全保障環境を向上させるためには、二国間・多国間の対話や協力の枠組みを重層的に整備し、強化していくことが現実的で適切な方策である。日本はこのような取組を通じて、この地域における安全保障分野における協力関係を漸進的に進展させ、長期的に安定したアジア太平洋地域を実現していくための具体的な努力を継続していく考えである。


 第8回ASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会合に臨む各国外相(7月)

第8回ASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会合に臨む各国外相(7月)



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