第1章 > 5 > (4) 日露関係
【総論】
日本は、ロシアとの関係では、北方領土の帰属の問題を解決して平和条約を締結し、日露関係の完全な正常化を達成するために最善の努力を払うとともに、ロシアの改革努力を支持しつつ、政治、経済、安全保障・防衛、文化など幅広い分野における関係の強化を図ることを対露外交の基本政策としてきている。真に安定的な日露関係を構築することは、日露両国の利益にかなうのみならず、北東アジア地域の平和と安定に寄与するものと考えられる。
2001年も、日露両国間では、これまでの両国首脳間の一連の合意及び宣言を踏まえつつ、引き続きハイレベルでの頻繁な対話が維持され、その結果として、政治、経済、安全保障、人的交流、国際問題に関する協力など幅広い分野において、日露間の協力関係が着実に進展した。
【緊密な政治対話の継続と諸分野における関係の進展】
2001年も、日露両国間ではハイレベルの緊密な政治対話が維持された。まず、1月には河野外務大臣がロシアを訪問し、日露外相会談及び貿易経済政府間委員会議長間会合が行われた。3月には森総理大臣がイルクーツクを訪問し、プーチン大統領と日露首脳会談を行った。この会談の結果、両首脳はイルクーツク声明に署名し、日露両国がクラスノヤルスク合意に基づき平和条約の締結に向けて全力で取り組んできた結果を総括し、今後の平和条約交渉の新たな基礎を形成することができた。
小泉内閣が発足してからは、7月にローマで行われたG8外相会合の際に日露外相会談が行われたほか、ジェノバ・サミットの際に行われた日露首脳会談において、小泉総理大臣より、両国間において平和条約の締結、経済分野における協力、国際舞台における協力という三つの課題を同時に前進させていくことを確認し、プーチン大統領から、ロシアとしても、あらゆる分野における協力の拡大を図っていきたいとの発言があった。
また、10月に上海で開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の際に行われた日露首脳会談において、平和条約締結交渉のほか、米国における同時多発テロへの対応に関し、今後とも情報交換など連絡を緊密にしていくことで一致し、また、アフガニスタンの復興支援についても意見交換を行った。
12月にはフリステンコ副首相が来日し、田中外務大臣との間で第5回貿易経済政府間委員会が開催された。
【平和条約締結交渉】
「東京宣言(注1)に基づき2000年までに平和条約を締結すべく全力を尽くす」というクラスノヤルスク合意に基づき、日露両国は精力的な交渉を行ったが、そのような努力にもかかわらず、残念ながら2000年末までに平和条約を締結することはできなかった。
しかしながら、2001年3月のイルクーツク声明は、日露両国がクラスノヤルスク合意に基づき平和条約の締結に向けて全力で取り組んできた結果を総括し、今後の平和条約交渉の新たな基礎を形成するものとなった。具体的には、両国は、この声明の中で、1956年の日ソ共同宣言(注2)が交渉の出発点を設定した基本的な法的文書であることを確認し、その上で、1993年の東京宣言に基づき、四島の帰属の問題を解決することにより平和条約を締結するべきであることを改めて確認した。さらに、今後、平和条約締結に向けた具体的な方向性を、可能な限り最も早い時点で決定することに合意した。
7月のジェノバ・サミットの際に行われた日露首脳会談において、小泉総理大臣とプーチン大統領は、イルクーツク首脳会談までの成果を継承し、今後とも精力的に交渉を進めていくことを確認した。また、今後の交渉の道筋として、まず、次官級協議を行うことで合意し、10月9日に東京で同協議が開催された。
10月に上海で開催されたAPEC首脳会議の際に行われた日露首脳会談において、小泉総理大臣は、イルクーツク首脳会談を含めこれまでに達成された成果を踏まえ、平和条約締結交渉を精力的に実施していくことを改めて確認した。その上で、歯舞・色丹の引渡しの態様の議論と国後・択捉の帰属の問題の議論を同時かつ並行的に進めていくことでおおむね一致した。その後、これまでのやりとりを踏まえ、今後、日露間で具体的かつ実質的な議論を行っていくことになった。
日本の対ロシア支援

【経済関係】
経済分野では、今井敬経団連会長を団長とした総勢約250名の経済使節団をロシアに派遣した。使節団は、プーチン大統領、フリステンコ副首相を始めとする政府関係者やロシア経済界との懇談、地方視察等を行った。この訪問は経団連会長として25年振りのロシア訪問であり、日本の民間経済界における対露認識の改善など前向きな動きが見られた。
政府レベルでも、こうした動きを後押しすべく、4月の極東分科会及び10月の貿易投資分科会の議論を踏まえ、12月にフリステンコ副首相の訪日の機会に第5回貿易経済日露政府間委員会を開催した。同委員会では、経済分野における前向きな動きを踏まえつつ、両国間の経済分野の協力と課題について率直かつ有益な議論が行われた。
日本は、ロシア政府の改革努力に対する支援として、日本人専門家の派遣やロシア人研修員の受け入れなどの技術協力や、国際協力銀行(JBIC)によるアンタイドローン(注3)等の支援を継続している。
【様々な分野の交流・協力】
政治対話や経済分野の協力の進展にあわせて、日露両国間の人的交流及び防衛交流も一層進展した。安全保障対話・防衛交流の分野では、ブクレーエフ地上軍総局長の訪日、ロシア海軍艦艇の長崎県佐世保港訪問等が行われた。
文化・広報分野では、5月にモスクワにおいて、総合研究開発機構(NIRA)とロシア戦略策定センターの共催で、経済、地政学的関係及び人文・文化交流の三つをテーマとした日露有識者による日露フォーラムが開催された。また、日露青年交流事業として、1999年7月の事業開始から2001年末までの間に、合計1300人以上の日露両国の青年が交流した。
【北方四島周辺水域における第三国等漁船の操業問題】
2000年末から、ロシアは、韓国、北朝鮮等の漁船のために北方四島200海里水域を含む水域においてサンマの漁獲割当を行い、2001年8月に操業が開始された。日本は、北方四島は日本固有の領土であり、第三国等の漁船がその周辺水域で日本の了解なく操業を行うことは日本の主権的権利との関係で受け入れられないとの立場の下、累次にわたり関係国等に対し抗議を行うとともに、ロシア、韓国との協議を行った。また、8月20日には、小泉総理大臣からプーチン大統領に対し、誠意ある対応を求める内容の親書を発出した。
その後の協議の結果、ロシアは、北方四島周辺において第三国等の漁船が操業することを2002年以降認めないこととし、それを受け、2月1日に手交されたプーチン大統領発小泉総理大臣宛親書の中で、ロシアは、この問題が両国の基本的立場を損なうことなく最も適切な解決策を見出せたことを確認した。
これにより、2002年以降、北方四島周辺水域において第三国等の漁船による操業は行われないことになった。