第1章 > 5 > (1) 日米関係
【日米関係総論】
2001年1月、米国では民主党のクリントン大統領から共和党のブッシュ大統領へ政権交代が行われた。ブッシュ新政権は当初より日米同盟重視の姿勢を明確にしており、2001年を通して、日米両国は、首脳、外相レベルを始めとする様々なレベルでの緊密な対話を通じて日米同盟関係の一層の強化に努めてきた。
ブッシュ大統領の就任直後に行われた、森総理大臣とブッシュ大統領との電話会談及び河野外務大臣とパウエル国務長官との電話会談において、日米同盟を一層強化していくことで一致した。さらに、ブッシュ大統領の就任間もない1月下旬には河野外務大臣が訪米し、パウエル国務長官と会談を行い、外相間の個人的信頼関係を築くとともに、二国間関係、地域情勢、さらにはグローバルな課題への取組につき率直な意見交換を行った。2月には、ハワイ沖で愛媛県立宇和島水産高等学校の練習船えひめ丸衝突事故(注1)が発生したが、日本からの抗議に対し、米国から様々なレベルで深い遺憾の意と謝罪の意が表明された。3月には森総理大臣が米国を訪問し、ブッシュ政権発足後初の日米首脳会談を行い、日米両国が二国間問題のみならず国際情勢を含む幅広い分野について緊密な対話を通じた政策協調を行っていくとの21世紀における日米関係の基本的方向性が打ち出された。また、両首脳は日米安保の分野について、同盟関係を強化していくことの必要性を改めて確認し、さらに、米国経済の再成長及び日本経済の早期回復への取組を確認するとともに、経済・貿易分野での日米間の対話を強化するための新たな方策を探求するために協力していくことで意見が一致した。えひめ丸衝突事故については、ブッシュ大統領から改めて深い遺憾の意が表明され、原因究明、引き揚げ及び補償等につき、できることはすべて行う、ご家族のために努力したいとの発言があった。また、日米両国間には強固な絆が存在しており、こうした強い絆があるからこそえひめ丸衝突事故のような遺憾な問題であっても両国が問題の解決に向け取り組むことができるとの点につき両首脳間で意見の一致を見た。
4月末に小泉内閣が発足すると、小泉総理大臣及び田中外務大臣はそれぞれ就任直後からブッシュ大統領及びパウエル国務長官と電話会談を行い、日米関係の更なる強化を確認した。6月には、田中外務大臣が訪米して、パウエル国務長官との間で会談を行い、日米同盟関係の重要性を再確認するとともに、ミサイル防衛構想、沖縄に関する諸問題、地球温暖化対策等につき意見交換を行った。
6月30日、米国を訪問した小泉総理大臣は、ブッシュ大統領との間で首脳会談を行った。同会談はキャンプ・デービッドで行われ、両首脳は個人的信頼関係を構築するとともに、日米同盟がアジア太平洋地域の平和と安定の礎であることを再確認し、戦略対話、安全保障協議の強化の重要性、日米経済関係の新たな基礎となる「成長のための日米経済パートナーシップの立ち上げ」、地球規模問題での協力推進を内容とする「安全と繁栄のためのパートナーシップ」につき意見の一致を見た。また、ブッシュ大統領より小泉総理大臣が進めている構造改革に対する支持が表明された。
さらに、7月のローマにおけるG8外相会合、及び、9月に行われたサンフランシスコ平和条約署名記念式典の際にも日米外相会談が行われ、過去の問題、地球温暖化対策等幅広い分野において緊密な意見交換が行われた。
サンフランシスコ平和条約署名及び旧日米安保条約署名から50周年を迎えた9月8日には、日本の主権回復・国際社会復帰と日米同盟関係構築を記念する行事が日米両国で開催された。サンフランシスコでの50周年記念式典に出席した田中外務大臣は、式典における演説において、先の大戦についての1995年の村山内閣総理大臣談話を再確認しつつ、最も重要な二国間関係にまで発展してきた日米関係の歴史をふりかえり、また、今後は文化交流も重視するとの見地から米国の高校生25名を日本に1年間招聘する計画である「JUMP(Japan-US Mutual-understanding Program)」を発表した。
この式典直後の9月11日、米国において同時多発テロが発生し、日本人を含む多数の犠牲者を出した。日本は、テロ発生直後より同盟国として米国を強く支持する考えをいち早く表明し、さらに、日本が自らの問題として主体的にテロに取り組むため、同時多発テロへの対応に関する7項目からなる措置を発表した。日米両国は、テロ発生以降緊密に連絡をとり、9月25日にはワシントンにおいて日米首脳会談が行われた。この会談において、ブッシュ大統領から日本の措置を高く評価するとの見解が表明されるとともに、今後の対応につき日米間で緊密に連絡していくこと、引き続き国際世論の形成のため協力していくことで意見が一致した。
同時多発テロ発生から約1か月後の日本時間10月9日未明、米国は英国と共にアフガニスタンへの軍事行動を開始した。日本はその直後に、テロと断固として闘う米国及び英国の行動を強く支持するとの考えを小泉総理大臣から発表するとともに、9日朝に行われたブッシュ大統領との電話会談でも小泉総理大臣は改めて支持を伝えた。また、10月20日に上海で行われたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に際して行われた日米首脳会談では、同時多発テロに対する日本の取組につき小泉総理大臣から説明し、ブッシュ大統領からは日本の取組に感謝するとともに、アフガニスタンの復興等で日本の協力を期待するとの発言があった。そして10月29日には、テロ対策特別措置法が成立し、テロに対抗して活動する米軍等に対する日本の自衛隊による協力支援活動が可能となった。11月16日には、基本計画が閣議決定され、これに基づき、12月には海上自衛隊艦船による米軍への補給、航空自衛隊による輸送が実施された。このようなテロとの闘いにおける日本の支持・支援に対し米国からは累次にわたり謝意が表明されている。
2002年2月17日から19日にかけてブッシュ大統領は夫妻で訪日したが、その際の首脳会談ではテロとの闘い、アジア地域情勢、経済、安全保障、環境を含む幅広い分野で率直な意見交換が行われた。
サンフランシスコ平和条約署名50周年記念式典において共同声明に署名する田中外務大臣とパウエル米国務長官(9月)

【日米経済関係】
ブッシュ政権は、日本を始めとする同盟国との関係を重視するとともに、対外経済政策を外交政策全体の不可分の要素と捉え、対外経済政策と安全保障その他の対外政策との整合性のとれた運営を意識している。こうした点は、国務省が対外経済政策について非常に積極的な役割を果たしていくことをパウエル国務長官が明言していることにも現れている。
ブッシュ政権は、小泉総理大臣が推進している日本の構造改革を強く支持しており、日本の構造改革に対する強い期待感を折に触れて強調している。また、米国経済を含め世界経済が同時的に減速している中で、世界第2位の国内総生産(GDP)を占める日本経済の回復は、日米両国経済のみならず、世界経済全体の安定と繁栄にとって不可欠であるとの認識を示している。日米経済関係に関するブッシュ政権の基本方針は、外圧の利用を基調とする対日経済関係運営から脱却し、必要であれば助言するというものである。現在の日米経済関係は、日米両国経済及び世界経済の成長のためにお互いに協調的に協力する関係であり、かつてのような摩擦に象徴される関係ではない。
このような状況の下、両国の持続的な経済成長に有益な建設的な対話を行っていくとの観点から、6月の日米首脳会談において、小泉総理大臣とブッシュ大統領の間で、「成長のための日米経済パートナーシップ」(以下「パートナーシップ」)の立ち上げが合意された。パートナーシップの主眼は、日米経済関係の一層の緊密化を図り、ひいては両国経済のみならず世界経済の持続可能な成長を促進することであり、既にパートナーシップの下での様々なフォーラムにおいて日米間の対話が行われている。
10月7日には、中長期的観点も踏まえて両国間の経済問題について戦略的な議論を行う次官級経済対話の第1回会合をワシントンにて開催し、米国における同時多発テロを受けて、日米両国経済及び世界経済の動向と今後の見通し、世界貿易機関(WTO)新ラウンド立ち上げ及びアジア太平洋地域等の地域経済及び地域協力の現状と見通し等について、建設的かつ有益な意見交換が行われた。
日米両国が直面する経済問題に関し、短期的及び中長期的な課題の双方を含め、民間部門からの助言や提言を得ることを目的とした官民会議については、「持続可能な成長のための環境整備:生産性の向上と企業再生」を議題として、第1回会合を2002年中の然るべき時期に開催する方向で調整している。
従来の日米規制緩和対話(注2)を発展し、改組した規制改革及び競争政策イニシアチブについては、10月14日に規制改革及び競争政策に関する日米双方の要望書を交換した後、各作業部会において順次議論を行っている。日本からは、アンチ・ダンピング措置、特許制度、制裁法、製造物責任、州毎に異なる規制等、米国におけるビジネスの障害となりうる制度や規制について、米国政府に問題を提起し、改廃を要望している。
また、米国の貿易赤字に占める対日貿易赤字の割合はピーク時の65%から20%以下に低下しており、日米両国間で政治問題化しているような大きな個別の貿易摩擦案件は現在存在していないが、個別通商案件が摩擦に発展することを避けるため、貿易関連の問題を早期警戒的に解決することを目指して、貿易フォーラムが設置された。
さらに、両国における外国直接投資のための環境改善について議論する投資イニシアチブ、金融・財政政策やマクロ経済政策について議論する財務金融対話も設置された。
このように、日米間では両国を取り巻く種々の経済問題について建設的な対話が行われており、日米経済関係は基本的に良好であるが、米国経済の今後の状況によっては、米国内で保護主義的な傾向が高まる可能性も排除できない。例えば、ブッシュ大統領は、1974年通商法201条(セーフガード)(注3)に基づき鉄鋼関連製品について関税引き上げを柱とする救済措置を決定したが、日本としては、今後同措置の内容を精査の上、とるべき対応を検討していく必要がある。
成長のための日米経済パートナーシップ

【日米協力の今後】
日米両国は、21世紀において平和で豊かな世界を構築するという共通の目標を目指し、二国間関係のみならず、地球規模の問題への取組を含む幅広い協力を行ってきている。1993年7月に発足した「地球的展望に立った協力のための共通課題(日米コモン・アジェンダ)」の枠組みを始めとして、種々の分野で実績を上げてきた。
2001年6月30日の日米首脳会談の共同声明において、地球規模の課題についての二国間協力を拡充していくことで日米両国が一致しているとおり、今後日米協力の一層の推進が求められている。
【今後の課題と展望】
日米同盟関係は、アジア太平洋地域の平和と繁栄、グローバルな課題への取組にとりますます重要となっている。このため、6月に合意された「安全と繁栄のパートナーシップ」に基づき、また、2002年2月のブッシュ大統領の訪日の成果を活かし、今後とも両国があらゆるレベルで緊密な対話を継続するとともに、二国間の関係にとどまらず幅広い分野での政策協調を行っていくことが重要である。