第1章 > 5 > (2) 日中関係
【総論】
中国は、長年の課題であった世界貿易機関(WTO)への加盟実現(2001年12月)や、2008年夏季五輪の北京開催の決定、順調な経済発展などを背景に、国際的な影響力を拡大しており、今後とも、政治、安全保障、経済、文化など様々な分野において、一層重要な役割を担っていくものと思われる。
こうした中国との関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の一つである。重要な隣国である中国が国際社会において建設的な役割を果たすことは、日中両国のみならず、アジア太平洋地域、ひいては世界の安定と繁栄にとって重要である。このため日本は、今後とも、中国と様々な分野における協力を推進するとともに、中国の国際的枠組みへの積極的な参加を促していくことにしている。
【日中間の諸課題】
2001年の日中関係は、歴史教科書問題、小泉総理大臣の靖国神社参拝、台湾前「総統」である李登輝氏の訪日などによって一時期困難な局面を迎えたが、10月8日の小泉総理の訪中を機に、改善に向かった。また、ねぎ等3品目に関するセーフガード問題というかつてない大きな貿易摩擦も見られたが、12月末には話合いによる問題解決がなされた。
〈主な懸案事項〉
李登輝氏の訪日については、人道的観点などの様々な要因を勘案して認めたものであり、同氏は4月、病気治療のため日本を訪問した。これに対し中国は強く抗議し、5月末に予定されていた李鵬全国人民代表大会常務委員長の訪日を含むいくつかの要人の訪日等が延期・中止となった。
「新しい歴史教科書をつくる会」が編纂した中学校歴史教科書については、中国から、5月16日に具体的な8項目につき修正要求があったが、文部科学省が精査した結果、7月9日に日本として修正には応じられないと回答した。これに対し中国は、日本がしっかりとした有効な措置をとり、この問題を適切に処理するよう要望した。
8月13日に小泉総理大臣が靖国神社を参拝したことについては、同日、中国から「強い不満と憤慨」の表明があった(同時に、15日の参拝を避けたことについては「留意している」との言及があった。)。なお15日には、日本の在中国各公館に対する市民や大学生による抗議・デモ活動が行われたが、大きな反日運動には至らなかった。
また、米国同時多発テロを受け、日本がテロ対策特別措置法に基づき、自衛隊艦船の派遣を決定したことに対し、中国からは、「歴史的原因により、日本が軍事分野で果たす役割については敏感にならざるをえない問題である」として、日本が慎重に行動することを希望するとの見解を表明した。
〈小泉総理大臣の中国訪問〉
このような中、10月8日、小泉総理大臣は日帰りで中国を訪問した。同日、米英軍のアフガニスタンに対する軍事行動が始まったこともあり、当初の予定を若干短縮したものの、江沢民国家主席及び朱鎔基国務院総理と会談を行い、それに先立ち日中戦争勃発の地である盧溝橋及び中国人民抗日戦争記念館を訪問した。中国首脳との会談で、小泉総理大臣は、日本が過去の歴史に対する反省の上に、平和国家として歩んでいることを強調し、日中関係の発展に全力を尽くしたいとの考えを表明した。これに対し、江沢民国家主席は、「本日の会談で日中間の緊張した局面は緩和された」との見解を示した。米国同時多発テロへの対応については、小泉総理大臣より、武力行使をしないとの前提の下、国際社会と協力してテロに毅然として対処するとの方針を説明した結果、中国の理解を得ることができたと考えられる。今回の訪中は、小泉総理大臣と中国首脳との個人的な信頼関係の構築に大きく貢献することになった。また、同じく10月、上海で開催されたAPEC首脳会議の際に行われた小泉総理大臣と江沢民国家主席との会談においても、日中間で様々な分野における協力を進めていくことで一致し、これらを契機として、日中関係は改善に向かうことになった。
〈セーフガード問題〉
ねぎ・生しいたけ・畳表に対するセーフガード暫定措置発動を契機とした貿易摩擦は、日中間の経済的な相互依存関係の深化などを背景に浮上した新たな問題である。日本は、中国からそのほとんどを輸入していた、ねぎ・生しいたけ・畳表の輸入急増を受け、WTO関連協定及びその関連国内法令に基づき、4月23日に、これら3品目についてセーフガード暫定措置を実施した。これに対し、中国は、6月22日に日本製の自動車、携帯・車載電話、エアコンに輸入特別関税措置を実施した。この問題は、10月、小泉総理大臣と中国首脳との間で、話し合いにより解決することで意見の一致を見たことを受け、両国間で協議が継続された。最終的に12月21日、平沼経済産業大臣、武部農林水産大臣が訪中し、石広生対外貿易経済合作部長との間で、日本及び中国双方が農産物の安定した貿易関係の構築に向け更に努力していくことになり、話し合いによる解決を見た。
〈中国の海洋調査船の活動〉
中国の海洋調査船が日本の排他的経済水域内で日本の事前同意のないまま海洋調査活動を行っていた問題については、2月、海洋調査活動の相互事前通報の枠組みが成立した。この枠組みは基本的に有効に機能してきているが、一部の中国海洋調査船が枠組みに合致しない行動をとったことから、日本から中国に対し申し入れを行った。この問題については、7月にハノイで行われた日中外相会談において、田中外務大臣から提起し、唐家
外交部長から、中国としても相互事前通報の枠組みを重視しており、引き続きこの枠組みを堅持したいとの意向が示された。
【日中経済関係】
2001年の貿易総額は、2000年の9兆2000億円(約857億米ドル)の水準を上回る10兆7900億円(約891億米ドル)を記録した。日本の貿易相手先として中国は第2位、中国にとって日本は第1位の関係にある。また、近年の傾向として、中国からの製品輸入の比率の増加が顕著である。対中投資は、1995年度をピークとして減少傾向が続いていたが、2000年度に増加に転じ、2001年度上半期では、金額ベースで919億円(7億6500万米ドル)と、対前年度同期と比べ2倍以上の大幅な伸びを示している。
両国の経済関係は、このように貿易・投資関係を中心に相互依存関係が深まりつつあるが、同時に摩擦などの問題が発生している。前述のセーフガード問題を始め、タオルの繊維セーフガード調査、中国各地方の国際信託投資公司に対する債権の回収問題、中国によるアンチダンピング調査など、経済関係においていくつかの懸案がある。日本としては、今後の両国経済関係の発展が日本及び中国双方の利益の増進につながるよう、両国間の対話強化を図っていく考えである。
【対中国経済協力】
中国が改革・開放政策の下で安定した国家となり、国際社会の一員としての責任を果たしていくことは、日本自身及びアジア太平洋地域の平和と繁栄に役立つとの認識の下、日本は1979年以来、中国に対して政府開発援助(ODA)を実施してきた。しかし、中国の経済発展に伴って、中国の援助需要が変化しているほか、環境など日本にも直接影響が及ぶ問題が増大してきた。また、昨今の日本の厳しい経済・財政状況などを背景に、援助の効率性の向上等日本の対中国経済協力のあり方につき見直しを求める声が強まった。このような動きを踏まえ、2001年10月、対中国経済協力計画(注1)を策定・公表した。今後は、同計画に基づき、日本国民の理解が得られるよう国益の観点に立って、一層効果的・効率的な対中国経済協力を進めていく考えである。
【今後の展望】
2002年は日中国交正常化30周年であり、中国において「日本年」、日本において「中国年」と銘打った活動が計画されている。前述の小泉総理大臣と中国首脳との会談においても、これらの活動を意義あるものにするためにお互いに協力することで一致しており、特に若い世代を中心に様々なレベルでの交流の拡大を通じて、両国間における相互理解、相互信頼の一層の増進を図っていく予定である。
日本と中国はともにアジア太平洋地域に大きな影響力を有する国であり、日中両国が同地域に対し協力して果たすべき役割も増大している。日本は、前述の「日本年」、「中国年」活動を始め、様々な機会を通じて、日中関係を一層強固にするよう努めるとともに、国際社会における日中協力を深め、アジア太平洋地域ひいては世界の安定と繁栄に貢献していく考えである。
日本の対中ODA実績

【台湾との関係】
日本と台湾の関係については、1972年の日中共同声明(注2)に従い、非政府間の実務関係として、民間及び地域的な往来を維持してきている。
2001年の日台間の貿易総額は、世界的な経済の減速傾向を反映して、約4兆6000億円となり、前年比約20.7%減の大幅な縮少となった。また、前述のとおり、4月、台湾前「総統」の李登輝氏が、病気治療のため日本を訪問した。
台湾をめぐる問題については、日本としては、台湾海峡両岸の当事者間の直接の話し合いを通じて平和的に解決されることを強く希望するとの立場である。このような立場から、両岸対話が早期に再開されることを期待しており、こうした考え方を繰り返し明確にしてきている。