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第3節 途上国の開発問題と政府開発援助(ODA) |
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21世紀を迎え、開発協力の世界に大きな変化が到来している。冷戦の終結により主要援助国が援助への推進力の一つを失い、先進諸国全体の政府開発援助(ODA)が減少傾向にある中で、この減少したODAをいかに効率的に使うかが国際的な議論のテーマになっている。その一方で、途上国における援助ニーズはますます増大しており、例えば現在でも世界総人口約60億人のうち約12億人が1日1米ドル以下、30億人近くが1日2米ドル以下の生活をしているといったように貧困は依然大きな開発上の課題となっている。特にサハラ以南のアフリカ(サブ・サハラ・アフリカ)では紛争や感染症とあいまって人間の安全保障にとって深刻な状況をもたらしている。 加えて、グローバリゼーションの進展に伴い、97年のアジア通貨・金融危機に見られたような経済システムの脆弱性、あるいはグローバリゼーションの利益から取り残された諸国の一層の貧困化、さらには環境、国際組織犯罪、麻薬といった地球規模の問題等が世界全体の不安定要因ともなりかねない課題として顕在化している。 このような状況下、市場あるいは政府の在り方が改めて問われるとともに、非政府組織(NGO)を含めた市民社会の役割が増大している。ODAの在り方は、各々の先進諸国が二国間援助という視野のみで取り組む時代はとうに過ぎ去り、途上国のオーナーシップを尊重した上で、他の先進諸国、国際機関、民間セクター、NGO等多くのプレーヤーがパートナーシップの精神の下、協調関係を模索する中で考えていかねばならない情勢となっている。 こうした状況にあって、日本の外交にとってODAは引き続き極めて重要な外交の手段である。途上国を始めとする国際社会の高い期待に日本が積極的にこたえることは、日本の国際的な信頼の礎となり、国際社会における存在感と発言力を高め、ひいては国益の確保につながっていく。日本は、90年代以降、国連平和維持活動(PKO)にも参加するなど新たな分野での国際協力にも参画するようになってきているが、軍事大国となることを放棄した日本にとって、ODAの基本的重要性は変化していない。日本が量的規模のみならず質の高い開発協力を行っていくことは、国際社会の取組に参画し、国益を実現していくための手段として引き続き重要である。また、ODAを通じ途上国の民主化・市場経済化を支援し、自由貿易体制の維持・促進に努めていくことや、環境等地球的規模の問題の解決に取り組むことは日本の直接的な利益でもある。 |
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国内的には最近の経済財政事情を背景として政府開発援助(ODA)に対する厳しい見方が高まっている。総理府の「外交に関する世論調査」によれば、程度の差はあれODAを支持する層は引き続き7割近くに上っているが、できる限り減らすべき、あるいは止めるべきとする人々の合計は、10年ほど前の約1割から最近では約3割前後まで増えてきている。こうした消極的な見方のみならず、ODAの意義は認めつつも一層の透明性の向上あるいは説明責任の徹底を求める声も高まっている。 2001年度ODA予算をめぐっては政府原案作成過程において、3割削減など厳しい意見も出されたが、種々の議論の末、ODA一般会計予算政府原案は政府全体で対前年度比3%の減となった。しかしながら、 政府としては、これらの声に謙虚に耳を傾け、ODAの適正かつ効率的な執行、さらにはより重点的・戦略的な実施を進めていく必要がある。また、日本国民に対しODAを維持・強化していくことが直接、間接に日本自らの利益にも合致するものであることを説得力のある形で説明していかなければならない。 国民の理解と支持を得てODAを実施していくため、政府としては以下のような種々の改革に取り組んでいる(なお、対中、対インド・パキスタン経済協力については、それぞれ第1章4.(3)、第3章1.(4)参照)。 【実施体制の改善】 <透明性・効率性の向上> 政府開発援助(ODA)の計画性・透明性を高める措置の一環として、99年8月に公表したODA中期政策に続き、主要な被援助国ごとに国別援助計画を順次策定している。これは途上国ごとに異なる経済・社会状況や開発上の課題、及びその国をめぐる他の援助国や国際機関の動きを十分把握した上で当該国に対する日本の今後5年程度の援助の在り方の指針を定めたもので、これまでにタイ、ヴィエトナム等9か国について公表している。 また、政府全体の行政改革の一環として、政府全体として整合性のとれた形でODAを推進するため、2001年以降、外務省がODA全体に関する企画の調整、技術協力及び有償資金協力に関する企画及び立案の調整を行うこととなるとともに、国際協力銀行(JBIC)が行う円借款業務についても主務官庁として所管することとなった。これに先立ち、外務省と関係省庁間の協議の場として「政府開発援助関係省庁連絡協議会」も設けられた。 <円借款の見直し> 外務省経済協力局長の私的懇談会として設置された「円借款制度に関する懇談会」は、2000年8月にその報告書を公表した。この報告書では、円借款の選択的供与、貧困削減と経済成長、援助協調への積極的参加と途上国の国造りへの知的貢献、説明責任の向上と広報の強化を骨子とする計26の具体的施策が提言されており、外務省は関係省庁及び国際協力銀行等と具体化へ向けた検討を行っている。 <評価体制の改善に向けて> 個別の政府開発援助(ODA)事業ごとの評価を越え、国あるいはプログラム単位での評価、あるいは貧困や環境といった分野横断的な援助評価の充実が求められていることを踏まえ、外務省経済協力局長の諮問機関である「援助評価検討部会」の下に「評価研究作業委員会」が設置され、包括的検討を行った結果、2000年3月「ODA評価体制の改善に関する報告書」が提出された。報告書は、プログラムレベル及び政策レベルの評価に向けた取組、事前から中間・事後の一貫した評価プロセスの確立、インターネットを利用した情報公開・広報活動の拡充、ODA評価研究会の設置、評価人材の育成・ネットワーク化、評価フィードバック体制の確立等を提言している。また、この報告書の提言を受け、7月に「ODA評価研究会」、9月には「日本評価学会」が設立された。 【国民参加型援助の推進】 官民の垣根を低くした国民参加型援助を強化していくことは、政府開発援助(ODA)への国民の一層の支持を確保する上でも、開発協力の実効性を高め、緊急人道援助を強化していく上でも重要である。 特に非政府組織(NGO)との連携の推進としては、従来の支援に加え、99年8月に「わが国NGOの緊急人道支援事業に対する支援措置」を導入し、支援額の拡大、手続きの迅速化、支援対象経費範囲の拡大と概算一括払いによる利便性向上を図ることとした上、2000年度外務省予算には、NGO緊急活動支援無償5億円を計上した。 さらに2000年8月にはNGO、経団連、外務省の三者により「ジャパン・プラットフォーム」の設立が発表された。これはNGO、政府、民間企業、財団、メディアなどが連携・協力し、緊急人道支援活動を推進するための共通の土台(プラットフォーム)を形成するものである。外務省としてもNGOの初期活動を支援するための基金への拠出(資金プール)、NGOの人材育成・能力向上への支援など本構想に積極的に参加、協力していく考えである。 また、緊急人道支援のみにとどまらず、広く社会開発分野に至る活動を行うNGO一般に対し、事業そのものに対する支援に加え、NGOの組織自体・足腰の強化を図ることを狙いとして、99年度より相談員制度、研究会制度、専門調査員制度を三つの柱とする「NGO活動環境整備事業」が導入されている。 国民参加型援助の推進は、NGOとの連携強化にとどまるものではない。政府としては、青年海外協力隊やシニア海外ボランティアなどボランティア制度の拡充、地方自治体との連携、特別円借款の導入や専門家公募など民間との連携強化にも努めている。 【開発援助人材の確保・育成】 開発協力を取り巻く環境が大きく変化する中でより効果の高い、しかも日本の「顔の見える援助」を実現していくためには、ソフト化、多様化、高度化する援助需要にこたえ得る優れた援助人材を確保し、積極的に育成していくことが鍵となる。 若手援助人材の育成と確保のための措置の一つとして2000年4月から、財団法人国際開発高等教育機構(FASID)が政策研究大学院大学(GRIPS)と連携し、国際開発の大学院プログラムを同大学院大学に開設した。また、国際協力事業団(JICA)においては、青年海外協力隊等経験者に国内での2年間の実務研修に続き海外で1年間専門家等として活躍する機会を与えるジュニア専門員制度が設けられている。 【情報公開・広報の強化】 特に現在のような厳しい経済財政事情にあって、政府開発援助(ODA)に対する納税者たる国民の理解と支持を得ていくためには、十分な情報公開に基づき国民に対する説明責任を果たすとともに、内外に対し適切な広報努力を行うことが極めて重要である。 政府としては、99年度より公募により国民が海外のODA現場を直接視察する「ODA民間モニター制度」を導入したほか、インターネットのホームページを通じた情報発信、特定国への円借款の多年度にわたる候補案件リスト(ロング・リスト)の公表、無償資金協力や円借款事業の入札・受注に関する情報開示等にも努めているほか、ODAシンボルマーク等を通じた被援助国側の理解の促進、日本国内における開発教育に対する支援等にも取り組んでいる。 |
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【国別】
東南アジアは、日本の二国間政府開発援助(ODA)の約4割近くが向けられている重点地域である。アジア通貨・金融危機から約3年が経ち、金融システムを始めとする経済構造改革の推進、腐敗防止や説明責任の徹底を含む統治(ガヴァナンス)の強化が重要な課題となっている。また、九州・沖縄サミットに先立ち森総理大臣が発表した「国際的な情報格差問題に関する日本の包括的協力策」の具体化の一環として、東南アジア諸国に「情報通信技術(IT)協力に関する政策対話ミッション」が派遣されている。 アフリカは開発の分野において最も大きな課題を抱えた地域であり、日本はこれまで2回のアフリカ開発会議(TICAD)を開催するなど様々な取組を行っている(第3章7.参照)。(2001年1月の森総理大臣のアフリカ訪問の際の政策スピーチの中でもTICADをアフリカ自身による開発戦略を話し合う場として位置づけることを表明した。) なお、対中、対インド・パキスタン経済協力についてはそれぞれ第1章4.(3)、第3章1.(4)に記述した。 【分野別】 日本は、九州・沖縄サミットにおいてヒト免疫不全ウイルス(HIV)・エイズなどの感染症の問題を開発の中心的テーマの一つとして位置付けるとともに、重債務貧困国(HIPCs)の債務問題、教育、紛争予防についても取り上げた。特に、日本が打ち出した(A)重債務貧困国に対する非ODA債権の削減率の100%への引き上げ、(B)今後5年でODA、非ODAあわせて150億ドルをめどとする「国際的な情報格差問題に対する日本の包括的協力策」、(C)5年で総額30億ドルをめどとする「沖縄感染症対策イニシアチブ」、(D)「紛争と開発に関する日本からの行動」等の援助政策は各国から高く評価された。 感染症対策イニシアチブのフォローアップとしては、12月に援助国、国際機関、途上国や非政府組織(NGO)等の幅広い参加を得て感染症対策沖縄国際会議が開催され、具体的な行動計画が決定された。 また、日本が最大のドナーとして貢献した東アジア及び西太平洋地域からのポリオ撲滅運動に関しては、世界保健機関(WHO)、厚生省、外務省が10月に西太平洋地域ポリオ根絶京都会議を開催し、西太平洋地域は南北アメリカに次ぎ世界で2番目のポリオ根絶地域となった旨宣言した。 環境分野はODA中期政策においても重点課題の一つとして位置づけられており、環境ODAは5000億円(99年の約束額ベース)を超え、日本の援助の約34%を占めるに至っている。 債務問題に関しては、日本はケルン・サミットでの合意を受けた拡大HIPCsイニシアチブ(注)を支持しており、同枠組みの下、債務救済を迅速に進めるための努力を行ってきている。また、債務救済のみならず、持続的な経済成長を見据えた開発問題全体への取組強化が必要との観点から、債務管理能力の向上への支援を始めとして、南南協力の推進も含めた経済的自立に向けた人材育成、能力構築への支援等を行っている。
紛争問題への取組としては、紛争解決に向けた政治的努力とともに、紛争の潜在的要因としての貧困への対応を通じた紛争の予防や、紛争発生時の緊急人道支援、さらには紛争終結後の復興・開発支援など様々な段階で開発協力を積極的に活用していくことが必要である。また、このような種々の段階の間で支援が切れずに、円滑に行われることが重要である。日本は、かかる観点から、対人地雷問題への積極的な支援や東チモールの国造り支援等を行っている。 最後に、日本のODA供与対象国が150を超える中で、着実に援助活動を続けていくためには、援助活動に従事する関係者の安全確保は不可欠である。外務省は、技術協力の実施機関である国際協力事業団(JICA)、有償資金協力の実施機関である国際協力銀行(JBIC)と緊密に連絡を取りつつ、援助関係者の安全確保のため様々な対策を実施してきている。今後も安全・治安状況の見直し体制そのものを強化しながら安全対策の一層の改善・強化に努めていく。 |
第2章 第4節 / 目次 |
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