外務省 English リンクページ よくある質問集 検索 サイトマップ
外務省案内 渡航関連情報 各国・地域情勢 外交政策 ODA
会談・訪問 報道・広報 キッズ外務省 資料・公開情報 各種手続き
トップページ 外交政策 青書・白書・提言
白書・提言

第2章 分野ごとの日本外交

 第2節 経済分野

   1.日本経済外交の新展開
【日本経済外交の目標と課題】

 日本経済外交は、世界経済を更に発展させるとともに、世界経済の発展を通じて、日本経済を強化しかつ発展させることを究極の目標の一つとしている。80年代後半に始まった世界経済の量的拡大、特に貿易と投資の拡大は、人、モノ、サービス、資本及び情報などの国境を越えた自由な移動を通じた世界経済のグローバリゼーションの進展に負うところが大きい。これを制度的に支えたのは、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)とそれに続く世界貿易機関(WTO)などの場による多角的な貿易交渉を通じた貿易障壁の軽減、撤廃の促進、共通の貿易ルールの整備などである。
 近年の情報通信技術(IT)革命といった様々な分野での技術革新により、グローバリゼーションはますます加速してきている。しかしその一方で、アジア通貨・金融危機とその世界的な波及などのように、経済のグローバリゼーションには、一部の地域での動きが世界全体に大規模かつ急激な影響を与え得るという側面(グローバリゼーションの「影」の部分)もある。しかし、グローバリゼーションは、貿易と投資の拡大を通じて世界経済全体にとって大きな利益をもたらし得るものである。従って、現在の日本経済外交の最大の課題は、グローバリゼーションの提供する機会を活用して日本経済の再生と強化に努めることはもとより、そのためにもグローバリゼーションから生み出される世界経済全体の利益を増進すること、世界全体を見通してその利益があまねく行き渡るよう努めること、また、その負の側面を極小化することであり、2000年には、以下のような取組を行ってきた。

【貿易と投資の自由化の促進】

 途上国を含めバランスの取れた経済的利益を各国が享受し、日本もその利益を享受するためには、世界的規模での貿易と投資の自由化を更に促進することが必要である。これまで日本は、サミット等の首脳外交の場で協議を行う一方、世界貿易機関(WTO)、経済協力開発機構(OECD)、国際通貨基金(IMF)、世界銀行等の世界経済におけるグローバルな取組を推進するための枠組みに参画してきた。グローバルな経済活動の拡大のためにWTOの下での多角的貿易体制の強化が重要であることは言うまでもないが、多角的貿易体制を補完・強化するべく、地域間協力、地域内協力及び二国間協力を増進し、重層的な地域協力の枠組みの深化・拡大を図ることも世界経済の更なる発展に貢献するものと考えられる。このため日本は、本節2.に詳述するように、WTOの新しいラウンド交渉の立ち上げに向けた取組を継続して行う一方、本節3.に詳述するとおり、10月にはシンガポールとの間での新時代の連携のための経済協定を締結するための正式な交渉を開始することを決定した。

【グローバリゼーションの課題への対応】

 97年のアジア通貨・金融危機は、グローバリゼーションが進む世界経済の現実に、国際金融システムが十分対応できていないことを示した。危機の予防と対処のためには、それぞれの国における国内制度の整備だけではなく、国際通貨基金(IMF)を中心とした国際金融システムの一層の強化も不可欠である。森総理大臣が議長を務めた7月の九州・沖縄サミットにおいては、IMF改革等を始めとする国際金融システム強化を促進する施策についての合意がなされた。また、東アジアにおける通貨・金融分野での協力については、11月に開催されたASEAN+3(日中韓)首脳会合において、「チェンマイ・イニシアチブ」における二国間スワップ取決め及びレポ取決めの基本的枠組み及び原則についての合意が確認され、この合意に基づき二国間交渉が行われることとなった。また、同会議において、日本より、域内通貨協力強化のための技術協力を実施することを表明した。

【UNCTAD X】

 2月にバンコクで開催された第10回国際連合貿易開発会議(UNCTAD X)は、「過去の教訓を活かし、グローバリゼーションを効果的に利用して開発を進める」ことを主要議題として活発な議論がなされた点で大きな意義を有するものであった。同総会においては、途上国を中心とする各国首脳、多くの国際機関の長が参加したが、日本は、このような問題意識から、主要な先進国の中で唯一首脳の出席を決めた。小渕総理大臣は、グローバリゼーションの恩恵を途上国も享受できるよう、高度情報通信社会の発達に向けた支援など、途上国に対する日本の支援姿勢について表明し、また、途上国との信頼醸成を進めつつ、世界貿易機関(WTO)新ラウンドを早期に立ち上げることの重要性を訴えた。総会においては、先進国と途上国とのグローバルな対話と国際社会、特にUNCTADの今後果たすべき役割をまとめた「バンコク宣言」及び「行動計画」の二つの文書が採択された。
 今後の世界経済の安定的発展のためには、先進国と途上国双方が、世界経済全体の均衡ある発展に向けた議論を通じてこの問題に正面から取り組む必要がある。日本としては、グローバリゼーションの負の側面を強調しがちな途上国に対し、その積極的な側面を説き、大いに利益を獲得できるように支援等を行うことによって、世界経済の健全な運営を模索する努力に積極的に関与していくことが重要であると考えており、先進国と途上国の対話を積極的に進めている。

【日本経済の再生】

 国際的な経済体制作りに積極的に参画するなど、日本経済外交の立場を強化するためには、日本経済の再生が大きな課題である。2000年の日本経済は、厳しい状況をなお脱していないが、自律的回復に向けた動きが継続し、全体としては緩やかな改善が続いているという状況にある。適切な国内の経済運営に加えて、多角的貿易体制の進展に向けた取組や地域経済協力への取組などを行い、世界経済のグローバリゼーションの恩恵の最大化を図ることを通じて、日本経済をより開かれた自由な経済へと改革を進めていくことが、日本経済の再生と強化を図ることとなる。

【その他の課題】

 グローバリゼーションの進展により、経済・社会面での急速な変動が見られる中、食品安全、情報通信技術(IT)革命に伴う情報格差などの新たな対応が必要となる多くの課題が生じている。日本としては、本節4.以下で詳述するように、これらの課題についても積極的な取組を行った。

   2.世界貿易機関(WTO)
【多角的貿易体制の維持・強化】

 99年末のシアトル閣僚会議では、新しいラウンド交渉の立ち上げに失敗した。その主な理由としては、新ラウンドの交渉範囲について主要加盟国間の立場の違いを調整することができなかったことが挙げられる。2000年には、新しいラウンド交渉の立ち上げのための様々な協議、調整が行われ、日本もこれに積極的に参加した。
 具体的には、7月の九州・沖縄サミットで、新ラウンド立ち上げに向け努力することが合意されたほか、11月のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議では、2001年のできるだけ早い時期に全ての加盟国の関心にこたえるような、バランスが取れ、十分に広範な交渉議題(アジェンダ)を決定すること、2001年中に新ラウンド交渉を立ち上げることが合意された。
 日本は、途上国の関心(注)に十分に配慮しつつ、各国の幅広い関心に対応するような交渉議題の下で、2001年中に新ラウンドを立ち上げるべく、各国と共に努力している。

(注) 途上国の中には、WTOは期待したような利益をもたらしておらず、特に繊維及び農業分野の市場開放やWTO協定の義務緩和等の実施の問題といった途上国の関心に、WTOが十分こたえていないとの主張が根強い。


【新ラウンド立ち上げに向けた動き】

 世界貿易機関(WTO)への信頼を維持・強化するためには、新ラウンド交渉を2001年中に立ち上げることが重要である。現在、新ラウンド立ち上げの障害となっているのは、交渉議題に関する加盟国間の合意の欠如と、WTO協定の実施問題であるが、これらについて、打開を図らなければならない。
 まず、交渉議題については、日本や欧州連合(EU)等は、市場アクセスのみならず、WTOルールの強化(投資ルール策定、ダンピング防止措置の規律強化等)を含む幅広い交渉を主張しているのに対し、米国は、ダンピング防止措置の規律強化を新ラウンドで取り上げることに難色を示し、インド等の途上国は、新ラウンドでの投資ルール策定に消極的といった状況にある。さらに、貿易と環境の問題や、貿易と労働基準の問題については、取り上げることに積極的な欧米諸国に対して、途上国は警戒しているというように、論点ごとに立場の相違の構図が異なるという複雑な状況にある。
 日本は、今後、新ラウンド立ち上げに向けて、このような立場の相違を調整するためには途上国への配慮が重要であると考えている。すなわち、各国の幅広い関心に対応するような交渉議題とすると同時に、そのような交渉議題は、途上国にとっても受け入れ可能なものでなければならない。途上国の中には、新ラウンド立ち上げの前に、まずWTO協定の実施の問題を解決すべしと主張する国がある。日本は、この実施の問題を解決するためにも、新ラウンドを2001年中に立ち上げ、この問題を新ラウンド交渉を通じて、検討、解決すべきとの立場である。
 また、日本は、交渉議題、実施の問題いずれについても、途上国をも巻き込んで、新ラウンド立ち上げに向けた調整を積極的にリードしている。(その一例としては2001年1月には、エジプト、南アフリカ、ブラジルといった主要途上国等の次官級の参加も得て、フランクフルトにおいて非公式会合を主催した(議長は、日本の野上外務審議官)。また、1月末に来日したムーアWTO事務局長と河野外務大臣等との会談においても、新ラウンドの早期立ち上げ及び途上国への配慮の重要性につき一致した。)

【農業・サービス貿易交渉の現状】

 農業及びサービス貿易については、世界貿易機関(WTO)協定に従い、1月から交渉が行われている。日本は、12月に農業交渉(注1)及びサービス貿易交渉(注2)のいずれにおいても交渉提案を提出した。日本は、農業交渉及びサービス貿易交渉が共に新ラウンド交渉の一環として位置づけられることが重要との立場である。

(注1) 農業交渉については、多様な農業の共存を基本的な目標とし、農業の多面的機能への配慮、食糧安全保障の確保、農産物輸出国と輸入国に適用されるルールの不均衡の是正、途上国への配慮及び消費者・市民社会の関心への配慮の5点を追求することを提案した。
(注2) サービス貿易交渉については、国内産業界の関心も踏まえ、金融、電気通信、運送等9分野について自由化の重要性と自由化に向けての課題を提示し、交渉範囲は包括的であるべきとした交渉提案を行っている。また、サービス貿易については、10月に日本が中心となって、欧州連合(EU)、韓国等5か国と共に海運交渉共同声明を発出し、海運サービスの自由化交渉の推進を訴えた。


【WTO加盟国の拡大:多角的貿易体制の普遍化】

 多角的貿易体制を普遍化し、強化していくためには、より多くの国・地域が世界貿易機関(WTO)に参加することが重要である。4月にジョルダン、6月にグルジア、9月にアルバニア、11月にクロアチア(140番目の加盟国)が新しく加盟した。
 一方、中国、台湾、ロシア、サウディ・アラビア、ヴィエトナムを含む27の国・地域が引き続き加盟申請中の状況にある。そのうち、中国については、市場開放について交渉する二国間交渉はほぼ妥結し、残るはメキシコ等若干の国のみとなった。その一方で、加入議定書等について交渉する加盟作業部会は2000年3月以降に6回にわたり開催され、2000年中の加盟実現を目指し、集中的に議論が行われ、いくつかの分野で進展が見られたものの、依然として合意されていない分野が存在する。これら分野を中心に、今後引き続き交渉が行われる予定である。日本は、中国のWTO加盟は中国国内の経済面における更なる改革、市場経済の一層の進展及び国際社会との相互依存関係の深化を促し、日本を始めとする関係諸国にとり経済的利益をもたらすばかりでなく、世界の繁栄と安定にも資すると考えており、中国の早期加盟に向け各国と共に協力していく考えである。

【WTOの下での紛争解決制度】

 世界貿易機関(WTO)の紛争解決制度は関税と貿易に関する一般協定(GATT)時代と比べると手続が整備・強化され、期限も明確にされたことにより、加盟国より積極的に利用されてきている。パネルに付託される事案数も、GATT時代から飛躍的に増加し、95年1月のWTO設立以来、2000年末までの約6年間に106件のパネル設置要請が行われ、46件につき上級委員会に申立てが行われた。
 日本も、積極的に同制度を利用している。2000年中はカナダの自動車産業に関する措置、米国の1916年の反ダンピング法をめぐる各紛争案件で、日本の主張を認める上級委員会の報告が出された。また、日本は、熱延鋼板に対する米国の反ダンピング措置を提訴した。
 なお、米国のバード修正条項(注)に対し、12月、欧州共同体(EC)、オーストラリア、インド、韓国等と共同で協議要請を行った。
 WTOの中立・公正な紛争解決制度は、多角的貿易体制の安定性の確保に役立っている。現在、WTO紛争解決制度の一層の改善に向けて、改正検討作業が行われており、日本が中心となってカナダ、コロンビア、韓国、スイス等と共同で改正案を提出している。今後とも紛争解決制度の実効性と信頼性の向上を更に高めていくことが重要である。

(注) ダンピング防止税または補助金に対する相殺関税から得られる税収の全てを、影響を受けたとして提訴者または提訴を支援した米国国内生産者に自動的に分配する法律。


   3.重層化する地域経済協力関係 
 グローバリゼーションの進展と技術の進歩は、国際経済の姿を変えつつある。輸送手段や情報通信手段を始めとする高度な技術の飛躍的発展は、人、モノ、サービス、資本及び情報の国境を越える移動の制約を除去し、今日の知識集約型経済の展開とあいまって、様々な経済主体の全世界的な展開を促進している。このような技術進歩の利益が十分な効果を発揮し、すべての国がこのグローバリゼーションの利益の恩恵にあずかることができるようにするための体制作りが、国際経済にとっての大きな課題となっている。
 このためには、まず、世界貿易機関(WTO)の新ラウンドを早期に立ち上げ、多角的貿易体制を強化しなければならない。同時に、多角的貿易体制を補完し、強化するために、地域間の協力、地域内の協力、二国間の協力をそれぞれ増進していくことも重要との認識が広まりつつある。WTO協定に整合的な地域貿易協定や二国間自由貿易協定は、域外国・第三国に対する障壁とはならず、むしろ開放的な貿易を推進し、世界貿易の拡大に貢献し得るものと考えられるからである。
 欧州においては、欧州連合(EU)による統合が一層進んでおり、ニース欧州理事会においてその将来についての道筋が示された(第3章4.(1)参照)。また、北米においても、米国、カナダ、メキシコからなる地域内の貿易・投資の障壁削減を目指す北米自由貿易協定(NAFTA)が、市場経済の成熟度の異なる国家間の自由貿易協定として機能しており、その結果として締約国間の貿易・投資量は着実な伸びを見せている。また中南米やアフリカにおいても様々な地域協力の枠組みが成立している。 
 このような地域協力の枠組みは、アジアにおいても重層的に発展しつつある。日本を取り巻く地域協力の枠組みは、アジア太平洋経済協力(APEC)、アジア欧州会合(ASEM)やASEAN+3(日中韓)など、網の目のように張りめぐらされつつある(第1章5.参照)
 さらに、二国間で貿易・投資の自由化・円滑化を進め、経済の連携を強化するメカニズムを構築する試みも始められた。日本はシンガポールとの間での経済連携協定の締結に向けて、交渉を開始することとなった。99年12月の小渕総理大臣とゴー・チョクトン・シンガポール首相との会談での合意により設置された産官学の専門家による検討会合が2000年9月に報告書を両国首脳に提出したが、それを受け、10月の森総理大臣とゴー首相との間の首脳会談において、この協定の交渉を2001年1月に開始し、遅くとも同年12月末までに終了することが決定された。
 近年の目覚ましい技術進歩の便益が十分な効果を発揮する新しい市場を作り上げることは、各国にとって緊急の課題となっている。日本とシンガポールとの間の経済連携協定は、このような環境を実現するために必要な包括的な制度改革を二国間で進め、一層魅力的な市場の創出を目指すものである。具体的には、物品及びサービス貿易、投資といった分野の自由化、円滑化、また、金融、情報通信、人材育成といった分野における二国間の経済連携強化などについて交渉が行われている。
 同時にこの協定により、域内でのWTOの水準を超える貿易自由化や、現在WTO協定がルールを備えていない分野でのルール作りを推進することによって、WTOを中心とする多角的貿易体制を補完することが期待されている。

   4.情報通信技術(IT)革命
【背景】

 2000年は、コンピューター2000年問題への懸念と共に明けた。これは、コンピューターなどの情報通信機器が国民生活に既に深く関わっていることを実感させる契機ともなった。
 70年代に顕著になったデジタル化の流れは情報通信技術(IT)の急速な発達をもたらしたが、90年代後半になって、急速に進展したインターネットの商用化により、それまで単体又はローカル・ネットワーク等で使用されてきたにすぎなかった情報通信機器を使って、世界規模のネットワークに接続することが可能になった。この結果、近年、「IT革命」と呼ばれる世界規模での産業・社会構造の変革が生じている。

【IT革命の影響】

 情報通信技術(IT)革命は、これからの国際経済社会を左右する鍵となり得る。すなわち、ITは、競争の刺激、生産性の向上及び経済成長と雇用創出をもたらすことによって、21世紀の経済社会を大きく変える原動力となる潜在性を有していると言われる。
 また、IT革命の影響は、経済社会面のみならず、政治、文化など幅広い方面にも及んでいる。ITは情報発信・伝達の新しい手段として、民主主義の強化、政府の透明性と説明責任の向上、人権の促進などに大きな力を発揮し得るとして期待が高まっている。
 一方、IT革命に伴う「影」の面も指摘されている。例えば、情報格差(デジタル・ディバイド)が経済格差を一層深刻にするおそれがあるとの問題や消費者やプライバシーの保護、ネットワーク上の不法行為やサイバー・テロなどの問題も生じている。
 こうした問題は各国が国内的に取り組むことももちろん大切であるが、ITがグローバルな性格を持っていることにより、国際協調・協力を進めつつ国際的に取り組むべき課題となっている。

【九州・沖縄サミットとIT】

 このような中で、7月に行われた九州・沖縄サミットにおいて、情報通信技術(IT)が重要な議題となったのは必然的であったとも言える。G8首脳の間の議論の結果、情報社会の将来像に関する政治的なビジョンを示すものとして「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」(沖縄憲章)が採択された。
 沖縄憲章は、ITを「21世紀を形作る最強の力の一つ」と位置づけ、人類は「人々が自らの潜在能力を発揮し自らの希望を実現する可能性を高めるような」情報社会を目指すべきであり、「すべての人がいかなるところにおいてもグローバルな情報社会の利益に参加可能」でなければならないとしている。
 さらに、沖縄憲章は、このような理念に基づき、ITがもたらす機会を活用するため、IT普及のための政策環境の整備に向けた協調、消費者保護、サイバー犯罪などの幅広い政策課題について今後の取組の方向性を示すと同時に、国際的な情報格差の解消に向けた取組の強化、特にすべての利害関係者による協力の重要性を強調している。
 このようなサミットの成果を受け、サミット後、デジタル・ディバイド解消の方策を検討するための作業部会である「デジタル・オポチュニティー作業部会(ドットフォース)」が設立された。ドットフォースは様々な利害関係者との対話を行い、2001年のジェノバ・サミットまでに報告書を取りまとめることとされている。2000年11月末に東京で開かれた第1回会合には、G8各国の政府、ビジネス、非営利団体のほか、途上国、国際機関、国際的なビジネス団体等の代表が参加した。
 また、日本は、九州・沖縄サミットに先立って、国際的な情報格差の解消に向けた日本独自の貢献として、今後5年間で150億ドルをめどとする包括的協力策を発表した。この協力策は、知的支援、人材育成、情報通信基盤の整備、援助におけるIT利用の促進を四つの柱としたものである。

【ITに関する国際協力・協調と日本】

 日本が包括的協力策を発表し、また、サミット議長国として沖縄憲章を取りまとめた時期は、ちょうど日本政府自身がITの普及・発展を最重要政策課題の一つと位置づけ、各種検討を本格化させた時期でもあった。
 日本国内におけるITの普及とグローバルな情報社会の構築との間には本質的に相互補完的な関係があるが、これを十分認識し、両者があいまって進む好循環を積極的に作り出していくことは、日本における「IT立国」形成の重要な前提となる。その意味で、日本がITをめぐる国際的な議論・活動において積極的にイニシアチブをとっていることは、日本自身にとっても大きな意義を有するものと考えられる。特にアジア地域との関係においては、IT分野における協力・協調をこの地域との経済関係の深化・拡大の文脈で展開していくことが、日本にとっても今後ますます重要となってくると考えられる。
 こうした側面を踏まえ、日本は、10月末より、東南アジア諸国を中心に、包括的協力策を具体化していくためのIT政策対話ミッションを順次派遣している。

   5.世界の経済情勢
 2000年の世界経済は、全体として、前年に引き続き良好な状態が続いていたが、年後半以降は景気減速等の動きが見られるようになった。また、世界の貿易量は着実に拡大したが、新興市場諸国・地域への資本流入については、アジア通貨・金融危機以来の低迷が続いている。これら諸国・地域への純民間資本流入は、98年から99年には、アジア通貨・金融危機発生時の約6割程度まで減少したが、2000年には一層減少したと見られる。
 91年3月来の米国の景気拡大は2000年中も継続したが、年後半に入り景気減速の兆しがより明確に現れるようになった。大幅な急落の可能性が懸念されていた株価については、2000年を通して段階的な価格調整が進んでいたが、2000年12月から2001年1月にかけて、景気減速の動きがにわかに急となり、連邦準備制度理事会(FRB)は緊急利下げ(98年のロシア危機以来2年振り)に踏み切った。また、年前半の景気拡大の継続を反映して、経常収支赤字も拡大し、2000年上半期の赤字額(2076億ドル)のみで98年通年の赤字額(2171億ドル(99年は3315億ドル))に匹敵する規模となった。
 ユーロ圏及び英国では、2000年後半より一部に景気減速の兆しも見られたが、全体としては景気拡大を続けた。共通通貨のユーロは、99年1月の導入以来安値傾向が続き、2000年夏以降はG7各国や欧州中央銀行(ECB)による介入も実施されたが、その後は、米国とユーロ圏の経済成長率格差の縮小もあり、10月末頃に底を打ち、上昇に転じたと見られている。
 99年中を通じて通貨・金融危機の影響からの急速な回復を見せていた東アジア経済は、2000年も景気拡大を続けたものの、そのテンポはやや鈍化した。また、インドネシア、フィリピン、タイなどでは為替が対ドルで減価し、株価については中国を除く主要な国・地域で軒並み低下する動きが見られた。韓国では、2000年下半期に入り景気の減速感が強まってきた。
 アジア通貨・金融危機後の需要の低迷や石油輸出国機構(OPEC)による増産等を受けて下落していた原油価格は、99年中に急激に上昇し、2000年に入ってからも湾岸危機時以来の高水準で推移した。特に、8月中旬以降は原油価格が更に急騰し、世界経済成長に対する悪影響が懸念され、9月のG7蔵相・中央銀行総裁会議のコミュニケにおいては、湾岸危機時以来10年振りに原油価格問題への言及がなされた。しかし、11月末頃からは、産油国の増産等により、原油価格は低下傾向を示すようになった。
 国際金融分野においては、97年のアジア通貨・金融危機の再来を防ぐため、2000年も引き続き国際通貨基金(IMF)等の国際機関及び各国によって、国際金融システムの強化に向けた一層の努力が継続された。7月に行われた九州・沖縄サミットでは、議長国としての日本の積極的な貢献もあって、IMF改革等を含む国際金融システムの強化に関する議論において大きな進展がみられた。2000年後半、アルゼンティン及びトルコにおいて金融危機の発生が危惧される場面が生じたが、IMF等の国際金融機関が迅速に対応した結果、事態の深刻化は回避され、他の国・地域への大きな影響は生じなかった。日本を始め、先進諸国及び国際機関としては、今後とも金融分野に留まらず貿易、投資、開発等の分野における相互の関連性及び政策の一貫性に十分留意しつつ、幅広い検討を行っていく必要があり、また、新興市場諸国及び途上国に対し、様々な分野で技術協力を強化していくことが課題となっている。

   6.その他の課題
(1)バイオテクノロジーを始めとする新たな課題 

【バイオテクノロジー】

 バイオテクノロジー(生物工学)は、食品(作物)の分野において古くから用いられた技術であるが、科学の急速な進展に伴い、遺伝子工学などの高度な技術が作物にも応用されることになった。こうした高度な技術はモダン・バイオテクノロジーと呼ばれ、遺伝子操作技術を用い、作物の特性を改良した遺伝子組換え作物などがその代表的なものである。
 遺伝子組換え作物は、除草剤や殺菌・殺虫剤の投与を低く抑えることができるなどの優れた利点を持つが、一方で、食品の安全性が十分に確立されていないとの懸念の声も、特に消費者側から聞かれる。こうしたことなどから、安全性の規制措置について輸出国側と輸入国側で意見が一致せず、国際的に統一性のある措置の必要性が指摘されてきた。
 こうした状況において、99年のケルン・サミットでG8より、経済協力開発機構(OECD)の専門家会合に対し、遺伝子組換え食品の安全性に対する研究・報告を行うよう要請がなされた。これを受け、2000年、OECDにおいて、加盟国の施策の状況を含むバイオテクノロジー応用食品の安全性に対する研究報告が行われた。
 また遺伝子組換え食品(作物)への認識を高めるため、OECDと英国が共催し、2月28日から3月1日にかけて英国・エディンバラにおいて、非政府組織(NGO)、学識経験者、有識者及び政府関係者による遺伝子組換え食品の安全に関するエディンバラ会合が開催され、遺伝子組換え食品(作物)に関する様々な意見交換が行われた。
 さらに、消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保などを目的として国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の下に設置されているコーデックス食品規格委員会(注)の関係部会においても、バイオテクノロジー応用食品に対する表示の基準などについての検討が行われている。日本も3月に千葉においてコーデックス委員会バイオテクノロジー応用食品特別部会を主催するなど、遺伝子組換え食品の安全性についての具体的な国際的ガイドライン作成につき積極的に貢献している。

(注) コーデックス委員会は、食品の安全性の分野における基準を策定する委員会である。


 九州・沖縄サミットにおいては、バイオテクノロジーと食品の安全性についても議論され、科学及びルールに基づいたアプローチの必要性、すべての利害関係者が関与し、先進国及び途上国が共に参加する政策対話の強化、OECD及びコーデックス委員会など関係機関における作業の継続が歓迎された。

【ヒトゲノム】

 ヒトゲノム(注)研究を始めとするライフサイエンスも、90年代後半急速な発展を見せ、国際的な協調を要する新たな課題として注目されている。ヒトの全遺伝情報の解読を目指した国際ヒトゲノム計画は、88年より日米欧の国際プロジェクトとして始まったが、2000年6月には、同計画によるヒトゲノムの全塩基配列の概要解読の完了が発表された。ヒトゲノムの解析は、生命科学の分野における重大な発見であり、医療分野を始め、様々な分野での利用を可能にするものとして、国際的関心を集めた。このような中、7月の九州・沖縄サミットでもヒトゲノムが議題として取り上げられ、ヒトゲノムの解読と公開の促進、生命倫理の原則への配慮、ポスト・ゲノム研究に関する国際協力の推進、遺伝子関連特許の国際的ハーモナイゼーション等の問題について首脳間で活発な議論が交わされた。ライフサイエンス分野ではまた、日本の提唱により89年からG7各国と共同で実施している、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)において、脳機能及び生体解明のための基礎研究への研究資金の助成を行っている。

(注) ゲノム(genome)とは、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)の造語で、生物固有の全遺伝情報を指す。ヒトゲノムとは人間についての全遺伝子情報を指す。


(2)エネルギー・食糧問題

【エネルギー問題】

 日本は、国民生活と経済活動の基盤たるエネルギーの約80%を海外に依存しており、エネルギーの安定供給確保は日本の外交政策の重要な課題である。このため政府は、石油供給途絶などの緊急時における対応策の整備やエネルギー需給構造の改善などについて他の先進国と協調して取り組んでいる。また、アジア地域におけるエネルギー安定供給を重視し、主要な生産国や消費国との対話や協力を進めている。エネルギー政策の推進に当たっては、増大する世界のエネルギー消費需要に対し、地球温暖化対策などの環境保全策との調和を図ることがますます重要な課題となっており、この面での取組も強化している。
 99年3月以来、原油価格は高騰を続け、2000年のピーク時には各主要油種とも30ドル/バレルを超え、99年3月期の約3倍に達し、湾岸危機以来の高水準となった。このような状況を受けて、2000年、石油輸出国機構(OPEC)は4度の増産を実施した。また、OPECは、一定油種のバスケット価格を22から28ドル/バレルの間に維持すべく、増産又は減産を行うことを合意し、9月にカラカスで開催された首脳会議において、OPECとして十分な量の石油をタイムリーに供給する意思を表明した。しかし、米国等の消費国における石油の低い在庫レベルを反映したガソリン・暖房油供給不足の懸念や投機家の先物市場への参加などにより、年間を通じ価格は高いレベルで推移した。
 石油価格の問題は、九州・沖縄サミットや様々な国際会議で議論された。このような中で、国際エネルギー機関(IEA)は日本からの働きかけもあり、10月に臨時理事会を開催し、エネルギー安全保障のための短期的・長期的措置について合意した。12月にイラクが原油輸出を停止した際には、IEA、さらにはサウディ・アラビア、米国及び日本が相次いでイラク以外の産油国の増産の可能性、備蓄放出の用意等につき表明し、原油価格は下落した。また、アジア太平洋経済協力(APEC)は石油備蓄の情報と経験を交換していくことについて合意した。
 アジアにおけるエネルギー安定供給のための日本による支援については、例えば、外務省主催で「アジア・エネルギー安全保障セミナー」を開催してきており、2000年3月に開催したセミナーにおいては北東アジアにおける天然ガス利用拡大の上での課題や整備されるべき条件についてアジアや欧米の専門家が議論した。
 石油などのエネルギーの生産国と消費国との対話を推進するため、日本は11月にサウディ・アラビアのリヤドにおいて開催された第7回国際エネルギーフォーラムを共催し、日本からは橋本総理大臣外交最高顧問が出席した。同フォーラムでは、石油市場安定、情報の改善、産消対話の継続などの必要性についてまとめた文書を発表した。また、次回フォーラムは2002年に日本において開催することが合意された。
 日本企業による石油の自主開発については、2000年2月にサウディ・アラビアにおいてアラビア石油の採掘権が失効したが、一方で11月、ハタミ・イラン大統領の日本訪問の際に、日本企業がイラン国内における原油採掘優先交渉権を獲得するという進展もあった。
 エネルギーと環境との調和推進については、九州・沖縄サミットでの合意を受け、途上国における再生可能なエネルギーの利用促進の方法について、作業部会を設置し、具体的勧告を準備することとなった。同作業部会は次回ジェノバ・サミットに向け勧告内容を検討している。
 エネルギー分野の二国間協議については、日本は、既存のロシア、中国、オーストラリアとの協議に加え、2000年新たにインド及びイランとの協議を開始した。また、米国との間では規制緩和協議エネルギー専門家会合を開催し、両国の電力・ガス分野等について協議している。

【食糧問題】

 国連食糧農業機関(FAO)によれば、2000年の世界の穀物生産量は主要生産国における干ばつを主な原因とした生産減により前年に比べ1.7%減少し、世界の消費量を下回るため、相当量の穀物在庫量が減少すると見込まれている。このように、世界の食糧需給は気象条件に大きく左右されるとの不安定な要因を抱えているほか、人口の増加や途上国の経済成長に伴う食糧消費の増大などにより長期的に逼迫する可能性を有しており、食糧供給の過半を海外に依存している日本にとって、世界の食糧安全保障の達成は重要な課題である。
 また、深刻な食糧不足に直面する国の数は2000年11月時点で32か国と前年同時期より3か国減少したが、一方で深刻な食糧不足に直面する人の数は6200万人と前年より1000万人増加している。
 日本としては、こうした問題に対処するためにも、二国間であるいは国際機関を通じて、食糧援助や食糧増産援助を始めとする様々な形態の協力を引き続き行っていくことが必要である。

(3)漁業問題

 日本は、伝統的に水産物を重要な食料源として利用しており、国民1人当たりの水産物消費量は他国に比べて著しく多く、水産物は国民の食生活の中で重要な位置を占めている。一方、漁業をめぐる環境は近年大きく変化しており、漁業資源の保存、海洋環境の保全等が国際的な課題となる中で、日本は世界でも有数の漁業国かつ水産物輸入国として、国際的な漁業管理に積極的に参加している。
 回遊する範囲が広いカツオ・マグロ類については、国際的な漁業管理が行われているが、近年、規制を逃れる目的で地域漁業管理機関の非加盟国に船籍を置くいわゆる「便宜置籍漁船」による無秩序な漁獲が資源に対する脅威となっている。日本は、地域漁業管理機関等を通じて便宜置籍漁船の廃絶に向けて取り組んでいるほか、国連食糧農業機関(FAO)により作成された「保存及び管理のための国際的な措置の公海上の漁船による遵守を促進するための協定」を2000年6月に締結した。また、水産物輸入国としても便宜置籍漁船の漁獲物の輸入禁止を含む種々の対策をとっている。
 ミナミマグロについては、日本、オーストラリア及びニュー・ジーランドの3か国が参加するミナミマグロ保存委員会(CCSBT)により資源の保存・管理が行われているが、資源状況に関する科学的見解の相違から97年より総漁獲量を決定できない状況になっている。科学的な見解の相違を埋めるための調査漁獲の策定に関する3か国の協議は合意に至らず、98年及び99年、日本は独自に調査漁獲を実施した。99年7月、オーストラリア及びニュー・ジーランドは調査漁獲の実施は国連海洋法条約等に違反すると主張し、同条約に基づく仲裁裁判に提訴し、まず裁判に関する管轄権の有無について、2000年5月にワシントンDCにて口頭審理が行われた。日本は、調査漁獲は資源の保存管理のために必要であり、資源に悪影響を及ぼす可能性はないこと、本件はCCSBTの問題であり、国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所に管轄権がないこと等を一貫して主張した。8月、仲裁裁判所は、同裁判所に管轄権はない旨の日本の主張を認める判決を下して結審した。一方、11月のCCSBT特別会合では、外部の科学者の協力も得つつ、3か国共同の調査漁獲を含む科学調査計画を策定することが合意されるなど、CCSBTの機能の回復に向けた作業が進められている。
 捕鯨については、日本は、7月から9月、北西太平洋鯨類捕獲調査を実施し、ミンク鯨40頭、ニタリ鯨43頭、マッコウ鯨5頭を捕獲した。この調査は日本近海における鯨類の捕食量に関するデータの収集等を目的として、国際捕鯨取締条約第8条に基づき実施された。しかし、捕鯨に反対している国は、調査は商業捕鯨モラトリアム等の国際捕鯨委員会(IWC)における取組を損なうものであるとして反発した。特に米国は、日本からの製品に対する輸入禁止措置の発動の可能性も示唆したほか、捕鯨問題を理由に日本で開催された国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)環境会議を欠席した。捕鯨問題については、首脳レベル、外相レベルの会談においても懸念が表明されることがあるが、日本よりは、この問題は、鯨類を含む生物資源の持続的利用の原則に基づき、冷静かつ科学的に議論されるべきであるとの立場を伝えている。



第2章 第3節 / 目次


外務省案内 渡航関連情報 各国・地域情勢 外交政策 ODA
会談・訪問 報道・広報 キッズ外務省 資料・公開情報 各種手続き
外務省