米国政府による規制改革及びその他の措置
IV.エネルギー
A.連邦・州の権限
米国政府は日本政府からの照会に対して、連邦と州の規制の二重構造や異なる規制の問題に取り組むために以下のような改善が既に実施され、また実施されようとしていることを確認した。
- 最高裁は、ニューヨーク州と米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)との裁判において、全国規模の送電線に対するFERCの規制権限と、州をまたがる取引に係る連邦の規制権限は、米国憲法に照らして整合性が取れていると認めた。最高裁は、FERCの規制権限は、小売販売に含まれる送電線、また、送電料金が発電や配電料金と統合されている場合にまで及ぶと裁定した。
- 現在米国議会において審議中の2002年エネルギー政策法が、FERCの競争を擁護する能力を強化するところとなるのは以下の点である。地域送電機関RTOに義務的な信頼度水準を満たすことについての強制及び地域送電機関(RTO)の設立と監視、不当或いは差別的な料金の取り締まり及び反競争的な行動に起因する損害に見合う罰則の評価、電力会社と天然ガス会社の合併の審査、についてのFERCの権限を更に強化するものである。
- FERCは広域的な運用と計画責任の両面から、RTOの設立を精力的に進めている。これにより、RTOによって形成されるより広い市場が競争を高めることが期待される。さらに、FERCは2002年末頃発出される予定の標準市場設計(SMD)ルールについて提案されたルール設定についての告示を発出している。SMDは全ての電力供給者が、異なった地域では異なった市場に対する戦略を採用するというよりむしろ、全国規模で一貫した扱いを受けられることを保証するものである。
- 伝統的に、米国における電力サービスの信頼度は、北米電力信頼度協議会(NERC)に保護された自主的な地域信頼度機関により維持されている。電力市場がより競争的になる中で、信頼度の基準が維持され続けることを確保するため、2002年エネルギー政策法は一定規模の電力システムの全ての利用者、所有者、運用者にそのような信頼度組織へ参加することを強制的に義務づけている。FERCは本法律により、信頼度基準を遵守することを命じ、この遵守を担保するための権能をFERCにより承認された信頼度基準に違反したことが公開ヒアリングの後に判明した主体に対して罰則を科す権限により保有することとなる。
- 2001年5月に発表された、国家エネルギー政策(NEP)は、強固な送電設備の整備についての国家的関心を表明した。NEPは送電線の制約はシステムの信頼度を低下させ、市場操作を増加させ、競争を制限し、消費者や産業に高い価格を強いる結果になることに着目している。競争市場的な意味で送電制約を最小化するために、NEPは地域送電機関や更なるエネルギー効率化努力、送電線制約に対応した更なる自主的な負荷調整や信頼度ルールの遵守のみならず、必要とされる送電設備の迅速な設置と許可による効率的な送電システムへの投資を主唱している。NEPは既存の法律が送電設備への投資促進のために運用されること、また、ガスのパイプラインで既に連邦政府が保有しているような、新しい送電線の線路敷設権を連邦政府が得るための新しい法律制定も推奨している。
B.自由化のスケジュール
米国政府は、自由化の範囲とスケジュールについて、日本政府へ以下のように報告する。
- 卸売市場の自由化に関しては以下のとおり。(20年以上にわたって競争市場となっており、1992年のエネルギー政策法とオーダー888と889(1996年、全ての電力供給者にとって、送電網への公平で非差別的な接続を確保するためFERCによって公布された。)によって、完全に市場価格が導入されている。)
- 米国における電力のおよそ1/3は、現在電力会社以外の発電事業者(NUG)から供給されており、その発電のシェアは1998年の12%から、2001年には29%と、着実に伸びてきている。
- 既に、計画中又は建設中のほぼ全ての新規発電所は伝統的な電力会社によってではなく、競争的なNUGによって建設されている。
- より低いコストでの電力の調達を望む、高コスト電力を享受している州により主に推進される小売市場の自由化に関しては以下の通り。
- 米国の人口のほぼ半数を占める17州とワシントンD. C. では、電力の顧客が、小売の供給者を選択できるようになっている。
- いくつかの他の州では、今後、小売の選択制を導入する可能性について考察する、公式な検討を行っている。国家規制研究機関によると、さらに10の州において改革の検討が続けられている。さらに、2つの州が小売アクセスを制限しており、小売方法を延期している4つの州でも、完全自由化を導入する予定である。
- 連邦政府は、残りの州の自由化の範囲とタイムテーブルを積極的に監視しており、低い価格を約束するような卸売市場の競争をより拡大することが、他の州もその小売市場に競争を導入することに資すると考えている。
- 米国議会は、連邦取引委員会(FTC)に対し、FTCが2001年9月に公表した電力小売の規制改革に関するレポートの提出を要求した。いくつかの主要な結論は以下の通り。
- 競争的な卸売市場は小売市場の効果的な競争を達成する上で重要である。
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卸売と小売市場において、電力需要が価格により弾力的に反応するような政策に力を入れることが必要である。
- もし、小売供給事業者を変更しない消費者が市場の電力供給コストを反映しない価格水準を保証されているならば、新規小売供給事業者の参入も消費者が新しい供給事業者を選択するインセンティブも抑制されるだろう。
- 効果的な消費者の保護政策は、正確でタイムリーで、小売供給者について比較可能な情報を提供することにより、小売の選択と競争を促進するだろう。
C.PUHCA(公益事業持株会社法)の見直し
1935年の公益事業持株会社法(PUHCA)は、特定の会社による市場への参加に条件を付与することで電力市場における競争を制限するとの認識から、2001年5月に公布された国家エネルギー政策(NEP)は、競争的な市場への参入を促進するために、PUHCAの廃止を勧告している。PUHCAの廃止は、現在米国議会で審議されている2002年のエネルギー政策法に盛り込まれている。
D.公営事業体
過去数年間にわたって、米国政府は「公営事業体」(POEs)の自由化市場における公平な競争への影響を検討してきた。2002年エネルギー政策法は、連邦の電力販売局とTVAは、規制目的の上では、電力会社として扱われることを規定することとなる。したがって、これらの事業体は、全ての競争関係にある発電事業者に対して、非差別的な基準に基づき、政府所有の送電線設備へのアクセスを提供することを求められている。
E.卸電力価格
卸電力市場におけるプライスキャップに係る日本政府からの照会に応え、米国政府は以下について言及した。
- 競争的市場においては、価格は、供給力不足に対するシグナルとなるべきであり、また、高止まりした価格は、必要とされる新規発電設備の建設を促進するべきであるが、一般的に卸電力市場取引におけるプライスキャップは、このような競争的市場の効果的な機能に反するものである。
- しかしながら、需要家の多くは、高い価格に対応して需要を抑制することを可能とするようなリアルタイムの価格情報とメーター装置を持っていないため、短期の需要の弾力性は限定的である。従って、短期の需要曲線は、限界費用を遙かに上回る急激な価格高騰を伴う、垂直に近いものになる。短期的には、新規発電所建設に、そのような価格変動を抑制することを期待できない。加えて、もはや効力はないが、欠陥州規制政策は需要家が価格スパイクから需要家を守ったであろう長期リスクをヘッジする契約を締結することを妨げた。このような状況から、市場は、競争的市場を十分に機能させるための均衡点を実現できなくなった。
- この点に留意し、また、仮定と小規模商業需要家が少ししか反応できない継続的な価格高騰に直面して、FERCは暫定的に西部電力行政地区に西部地区で運転される最もコストが高い発電設備の電力コストに等しい変動ベンチマーク卸売電力価格を設定した。
- ベンチマーク価格の水準で、またはそれ以下で入札した全ての発電事業者は、その入札価格を享受することができる。ベンチマークを超える発電事業者は、その価格を正当化するか、払戻金に対応しなければならない。
- ベンチマークは最も高い限界費用となる発電設備の短期増分費用に設定されているため、より低い運転費用である、より効率的な発電設備から新たな供給を提供しようとする相当程度の市場インセンティブが維持されることとなる。
- 更に、ベンチマークを超える価格への理由説明を必要とすることにより、低い弾力性の需要への市場操作の危険性は減少する。
- 電力のベンチマーク価格は、つまり、適正に機能する競争市場において実現するであろう均衡価格を擬制し、固定的で柔軟性に欠ける卸のプライスキャップの欠点を回避することを目的としている。
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