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環太平洋の架け橋・APECの魅力
 ~ロス・カボス会合に向けて

経済局 三輪昭 参事官に聞く

収録:平成14年10月10日

筑波大学国際総合学類2年 高木功介さん
筑波大学国際総合学類2年
高木功介さん

 アジア太平洋経済協力会議(以下APEC)参加メンバーと日本の係わり合いは深く貿易相手としての割合も実に4分の3近くを占めている。今回は、高級実務者として会議の準備・調整を統括される三輪昭経済局参事官に、10月23日からメキシコで開催されるAPEC首脳閣僚会議について、これからの日本外交の方向性を含めお伺いした。(高木)


高木:「関税・非関税障壁・サービス・投資など多岐にわたる分野において障壁をなくし自由化をすすめ貿易・投資を促進して行こう」として1989年に発足したAPECは、21の国及び地域を中心とした大きな経済会議(参加メンバーはエコノミーと呼ばれる)です。また、APECは「先進エコノミーは遅くとも2010年までに、途上エコノミー2020年までに自由で開かれた貿易・投資を達成する」とした「ボゴール目標」を基軸に、三本柱といわれる「貿易投資の自由化・円滑化、経済協力(エコテク)」を加盟国に促す活動をしています。そのAPECの最高決定機関とも称すべき首脳閣僚会議が毎年秋に開かれています。そこで、今次首脳・閣僚会議の注目点・意義は何か。ずばり、三輪昭経済局参事官にお尋ねし本日のインタビューを始めたいと思います。

三輪:今年のロス・カボスで開かれるAPECは、10回目に当たる記念すべき首脳会議です(1989年にキャンベラで閣僚会議が開かれたが、首脳会議は1993年のシアトルから)。今回の議長国は初のラテンアメリカ国(メキシコ)ということで、これを機会に東アジアとラテンアメリカの関係が強化されることが期待されています。会議の中では、まず、「ボゴール目標」が示す自由化・円滑化を一層促進していきたいと思います。次に、昨年の9・11事件直後に開かれた上海でのAPECで採択された「テロ対策に関するAPEC首脳声明」のフォローアップをしていきたいと考えます。今次に限ったことではないのですが、APECの閣僚会議では21のエコノミーの外相・経産相が一同に集まり、二国間なり多国間での会議が活発に行われるわけであり、これは意義深い事だと考えています。

高木:なるほど。確かにAPECが掲げる理念は素晴らしいと感じますが、「APECの三本柱」の中で貿易投資の自由化は進んでおらず、円滑化に 重点が置かれているとの指摘もございますが。

三輪:そうですね。そうした批判はありますが、そもそもAPECはWTOの様な法的拘束力を有する合意を目指すものではなく、首脳閣僚が集まりアジア太平洋地域の経済協力促進に向けて共同行動の指針を決め、その後は各国が自主的に努力するという活動形態をとっているフォーラムであることを強調したいと思います。また、貿易・投資の自由化については、例えばAPEC諸国がWTOの交渉が円滑に進むように側面支援する処にポイントがあるべきではないかと考えています。重要なのは、WTOが推し進めている途上国のキャパシティービルディング(能力構築)にAPECが貢献していると評価されている事だと思います。

高木:おっしゃるとおりですね。APECには日本の貿易相手としてAPEC地域が集まるわけですが、本年、日本がAPECにおいてとっている主要なイニシアティブを提示してください。

三輪: ボゴール目標達成へ向け、WTOに対する支援、FTAの促進、各エコノミーの国内経済構造改革の支援などが重要な役割ではないかと思います。これに加え、APECが独自の貢献をすべき「円滑化」を促進していきたいですね。この点に関してですが、昨年の上海の会議で貿易関連コストを5%下げるとする円滑化の基本方針が決まり、その行動計画が今次会議で採択される見通しです。特に民間からは、「円滑化」におけるAPECの役割に対する大きな期待、税関の手続き・渡航の手続きの簡素化・貿易処理の電子化の促進等を求める声があり、日本としても積極的に推進していきたいと思います。また、テロ防止に関しAPEC諸国を技術的に支援していきたいと考えています。それから、知的所有権の保護強化について、今次会議で取り上げたいと考えています。

高木:今、おっしゃられた知的所有権の保護強化とは、これまでWTOに任せきリであった知的所有権などの経済紛争調停が、APEC内で、例えば国際レジーム整備や司法組織設立などにより独自に行われることなのでしょうか。

三輪:APECは法的拘束力を持つルール作りには向いていないところで、それらはWTOに期待すべきであると考えています。ただし、APECとしては、WTOの前段階として各エコノミーに対して自国の知的所有権体制に従った保護を促す活動をしていきたいと思います。

三輪昭 経済局 参事官
三輪昭 経済局 参事官
高木:では次の質問に移りたいと思います。APECは「開かれた地域主義」を標榜していますが、これはいかなる点でAPECは「開かれている」のでしょうか。

三輪:APECはEUと異なり、例えば自主的に引き下げた関税率に最恵国待遇を適用するという意味で「開かれている」と言えます。また、APECにオブザーバーとして参加したいものがあったら、国でもNGOでも受け入れられる開かれた組織だといえます。

高木:しかし、加盟に関しては、98年のロシア加盟の際、2007年まではメンバーの拡大を凍結すると決議されましたが。

三輪:おっしゃるとおりです。実際、会議において21のエコノミーが議論すると、全体の意見を聴取するだけでも時間がかかり、それをまとめるにはとても難しいのが現状です。まあ、どこの地域フォーラムでもWideningとDeepeningは常に議論されますが、APECは現時点においては後者に重点を置いています。

高木:では、先ほど指摘されたNGOなどの団体の受け入れはどうなのでしょうか。パキスタンのようにオブザーバーとしての参画は認めているのでしょうか。

三輪:そのとおりです。APECの活動に貢献できる方であれば、NGOでも国でも当該委員会にアプローチして頂ければ、緩やかなガイドラインによってオブザーバー参加できます。

高木:さて、APECはWTOと密接に関係し行動しているように思えます。WTOとAPECの関係についてはどうお考えですか。特にドーハ・ラウンドで目標としているアンチダンピング(AD)問題や知的所有権(TRIPs)問題、多角的投資協定(MAI)などについてAPECとしてどのように取り扱っていくのでしょうか。

三輪:APECにはWTO内の主要国が加盟しています。今次の閣僚会議ではWTOに対してAPECがどのように貢献して行くかが大きな論点だと考えています。そのため、WTOのスパチャイ事務局長も閣僚会議に参加しますし、また、今次閣僚会議議長のデルベス墨国経産大臣は来年9月のWTO開催会議の議長でもあるため、新ラウンドへの貢献を重視しています。それから、ご指摘のような実質的な交渉事項についてAPECで取り上げ合意を得ればAPECの貢献として発表すべきだと考えている国も多くあります。

高木:現在、世界では地域貿易協定が盛んに結ばれています。90年代前半まで51件だったものが、02年1月現在は162件に増加しています。APEC内でも北米自由貿易協定(NAFTA)や日本シンガポール経済連携協定など協定締結がなされています。自由貿易協定(FTA)は高度の自由貿易を実現させる有効な手段だと考えますが、WTOによるグローバルな貿易自由化と世界規模での共通のルール作りが進まない中、FTA網のみが拡大することは、特定の国の間でのみ貿易自由化が進み、結果的にブロック経済化の流れを助長することを意味してしまい、世界経済全体の均衡ある発展にとり、マイナスではないでしょうか。

三輪:FTAはWTOの合意以上により掘り下げた自由化措置に踏み切るという意味で評価できるところがあり、日本としてもAPECでFTAを議論することは有意義と考えています。ただ、FTAはその態様によってはリスクが伴いますので、その短所を取り除く方向で議論していく必要があります。APECはアジア太平洋全体の利益のために活動していますので、各エコノミーによるFTAの構築が地域全体の利益に資することが必要です。

高木:さて、では少し政治的な話題も取り上げたいと思います。9・11事件以降、世界は転換期を迎えたと言われています。APECを見ても、今まで政治問題にタッチしなかったのが、9・11事件直後に上海で開かれた首脳会議では「テロ対策に関するAPEC首脳声明」を発表しました。この声明が国際社会に与えた影響とはなんでしょうか。また、現在もAPECにおいて本声明に関するフォローアップ作業は行われているのでしょうか。

三輪:テロ対策は世界規模の問題で対応しないと実効性が確保できず、G7が声明を発表するのみでは不十分です。例えば、コンテナにテロ活動のための兵器が隠されていないかを検査する際には、東アジアの途上国も含む多くの国々の協力が必要になります。そうしたテロを未然に防ぐ活動につきAPEC諸エコノミーで協力していきたいと考えており、コンテナ・航空機などの財政措置に関する合意を今次首脳会議の成果として発表したいと思っています。

高木:なるほど。冷戦後「比類なき軍事力+外交指導力+市場グローバル化を主導するワシントン・コンセンサス(米国政府・IMF・世銀)」などを総合すると、米国はアジア太平洋域内をはじめ全世界において覇権的力を有していると思われますが、APEC内では他の参加国は米国とどのように対しているのでしょうか。

三輪:APECのいずれのエコノミーにとっても米国との経済関係は重要です。また、米国にとってもAPECは相互依存の立場から重要な存在です。米国対APECという対立構造は必ずしも事態を反映していないと思います。勿論、米国の経済政治的なパワーは圧倒的なものがありますが、実は構造的に米国がアジア太平洋に政治的・経済的な関心を向けるようにすることは、東アジアにとって利益であると多くのエコノミーが考えています。

インタビュー
高木:そうなると、日本外交がアジア太平洋地域で志向するのは、覇権的秩序なのか水平的秩序なのかが重要なポイントになると考えます。そこで、もしも後者の水平的秩序を目指すのであれば、ヘゲモニックパワーの米国をどのように位置付ける外交政策を目指すのでしょうか。

三輪:とても難しい質問ですね。米国との二国間関係は勿論重要ですが、それと同様に、APECのようにアジア太平洋の経済という、日米というバイを超えたコンテクストでものを考える時には、より幅広いコミュニティーのアクターを含めた形での方向性の打ち出しを確保することが重要だと考えています。

高木:では、APECの今後の進路についてお尋ねしたいと思います。98年のアジア通貨危機や、米国・カナダ・オーストラリアなどが経済自由化をやや強引に進めたEVSL(早期自主的自由化分野)を巡る混乱で、「ボゴール目標」の自由化を目指す路線は打撃を被りました。当時の与謝野馨通産大臣は「こうした不毛な議論は二度とすべきでない」と言われたほどです。そこで、「ボゴール目標」に関しては、現在いかなる議論が行われているのか、又、実現に向けてAPECでは今後いかなる作業を行っていくのか、指針を示していただければと思います。

三輪:「ボゴール目標」はAPECの重要な目標ですが、「ボゴール目標」の掲げる「自由で開かれた貿易・投資」をAPECが単独で実現するということではなく、各エコノミーが目標達成に向けてWTOやFTA、国内の構造改革、APECを活用して努力して欲しいと考えています。また、APECとしても、ボゴール目標の期限が近づいてきたため、これまでのAPECの合意をどのように実施してきたのか強化されたピアレビューを実施し、各エコノミーの努力をチェックして更なる努力を求めています。

高木:それでは、ずばり目標達成の目処は立っているのでしょうか。

三輪:例えば、我々個人生活で長期的な目標を打ち立てて努力する事が重要であるのと同様に、組織について目標がないと方向性が定まりにくいと思います。そうした点から「ボゴール目標」は重要な役割を果たしていると思います。ただ、その具体的意味内容について必ずしも明確ではないので、2010年に近づくにつれて議論が活発化すると思います。

高木:なるほど。確かに目標構築はAPECの貿易自由化に向けて意義深いと感じます。それでは、最後にASEAN+3等、様々な地域協力のスキームが生み出されている中で、今後APECが国際社会において果たし得る独自の役割、つまりレゾン・デートルとは何でしょうか。

三輪:東アジアにとって米州との経済相互依存関係を深化させないでも十分な経済利益を得られるとは誰も考えていないと思います。確かに加盟国が少ない組織の方が具体的な行動や合意を得やすいのも事実です。今後、ASEAN+3などの枠組によって協力が進展していく可能性はあります。同じことは米州でも言えます。しかし、だからこそ太平洋をまたぐ唯一の大きいフォーラムであるAPECの存在意義・重要性が増すと考えていますし、その役割を果たすべきだと思います。

高木:それはつまり俯瞰的立場に立ってアジア太平洋地域全体の経済発展・繁栄を目指すのがAPECの存在意義だと考えてよろしいのですね。

三輪:そのとおりです。

高木・三輪:本日はありがとうございました。

【インタビューを終えて】
日本経済は他国との相互依存関係によって成立している。APECには世界経済の主要国と21世紀に躍進が期待される国々が加盟している。確かにAPECは「フォーラム」としての色彩が強いが、これだけの地域と国々が同じテーブルで一堂に会することは非常に意義深い。日本経済の活性化・繁栄と世界経済の発展に向けた日本政府代表団の奮闘に心からエールを贈りたい。(高木)


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