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日本型持続可能な開発
国際社会協力部 石川薫審議官(※)に聞く
※なお、石川審議官は9月20日をもって国際社会協力部長となっています。

収録:平成14年9月11日

東京大学法学部3年 竹下慶さん
東京大学法学部3年
竹下慶さん

 190近い国の代表と、104ヶ国の首脳が集まり、世界中から注目を浴びた持続可能な開発に関するヨハネスブルグ・サミットが8月下旬から9月上旬にかけて開かれました。途上国、EU、日本、アメリカ、NGOと様々な意見が飛び交い、その重要さ故に荒れたサミットであったとの報道を聞いておりましたが、実際ヨハネスブルグで何が起きていたのかを、帰国したての石川審議官にインタビューさせていただきました。(竹下)


宣言文にとどまらない行動志向

竹下:今回シビルソサエティ担当大使としてヨハネスブルグ・サミットに行かれた感想をお聞かせ下さい。

石川:今回の日本のサミットにおけるスタンスは、単なる宣言文にとどまらない、行動志向をベースにしていました。一体国連ができてからいくつの宣言文が採択されてきたでしょうか。実現していない宣言文もあります。例えば、10年前のリオサミットでは、先進国のODAをGDPの0.7パーセントまで増やそうということが採択されましたが、その合意に沿って、先進国の中で実際それ以後ODAを増やしたのは日本だけです。今回ODAの数値目標、期限を盛んに主張していたEU諸国はイギリスがここ2,3年少し増えているほか、10年間軒並み下がり続けてきました。日本は、文章上の合意でなく、行動の伴う実現可能な提案を今回のサミットで行いました。

貧困は消しゴムでは消えない、富は自ら生み出すもの

竹下:途上国支援に関して、EU、日本・アメリカ、途上国で意見が割れていたというはなしを聞きましたが、どのように違ったのですか。

石川:EUは、一層の債務帳消しという考え方をしたり、数値目標を訴えていましたが、日本のスタンスは違います。債務帳消しは拡大HIPCで推進しつづけるべきですが、忘れてならないのは貧困は消しゴムで消すように消えるものではないということです。貧困をなくすためには、貧困削減というネガティブな発想でなく、富をつくりだす(その結果として貧困をなくす)というポジティブな発想を持たなければなりません。
 アフリカの例を見てみましょう。重債務国といわれるアフリカの国でも、その債務の額より、その国の金持ちが海外に預けているお金の方が多いことがあります。つまり、資本逃避してしまっているのです。また、アフリカ諸国の生み出す富の量をみてみますと、GNPで考えて、アフリカで最も豊かで、アフリカ大陸の富の4割を生み出す南アフリカが一年間に生み出す富の量を、日本は10日半で生み出しています。そして、第2位の産油国であるナイジェリアが一年に生み出す富は、日本では2.4日で生み出します。このような状態のなかで、貧困の問題は、国づくりに関する根本的な問題なのです。  日本は資源がない国です。しかし国民が皆で汗を流して頑張ってきたことによっていまや世界の富の7分の1を生み出す国となっています。円が強いときは6分の1でした。まして本来的には能力の高い国民と天然資源の多いアフリカ大陸で出来ないはずがありません。

石川薫 国際社会協力部審議官
石川薫 国際社会協力部審議官
発展には予見可能性のある国づくり

竹下:具体的にはどのような提案をされたのでしょうか。

石川:まず、国づくりについての提案の構想をお話しします。国の発展にはいくつかの条件が必要でそこから段階的に発展していきます。まず初めに必要なのが、平和、安全保障、良い統治です。これがあって初めて、予見可能性、参加、紛争予防の文化が生まれ、希望が出てきます。予見可能性というのは非常に重要です。例えば戦争状態で毎日爆撃されている状態では、学校にいって将来のためにゆっくり勉強しようとは思えないでしょう。平和があって初めて教育が可能になります。日本は資源が無くても、人を育てることによってここまで発展してきました。その教育のために予見可能性のある国づくりが前提になるのです。そして、希望から教育、保健、ジェンダー、ITという4つの柱に基づき人材育成を行うことが出来るようになり、ここで自助努力が可能になります。この自助努力に基づき、水、科学、エネルギーを十分効率的に利用しながら、農業、森林、農産品工業、中小零細企業、対外貿易、運輸の分野での発展が実現されます。日本は、途上国がこのような国づくりをし、自助努力により富を生み出せるようになるのを、技術的、金銭的にサポートしようとしています。例えば収穫量2-3倍のネリカ米という新種の米を提供したり、森林を護る人材育成支援をしたりすることになりました。

ODAはチャリティーでなく連帯である

竹下:途上国支援は、相手の国の自助努力を可能にするための支援ということですね。

石川:そうです。ODAはチャリティーではありません。国と国との関係でチャリティーをしようという発想は相手の国に対して失礼です。相手の国を対等にみていないということです。個人レベルではチャリティーは結構なことだと思いますが、国レベルではいけません。昔ガーナのローリングス大統領が "We Africans also have the pride"という演説をしました。それを聞いた一部のヨーロッパの人は面白くなく感じたとも聞いていますが、私達は相手を対等に扱うのが信念です。借金を返すのは確かに苦しいと思います。しかし、返すために自らお金を生み出す努力をするようになるのです。はじめから返せないだろうと思って貸して、債務帳消しにするという態度はチャリティーです。もちろん、その国ごとにスタンスはあるわけで、どちらが良いとか悪いという問題ではないと思いますが、少なくとも日本は相手を対等に扱わない態度をとるべきではないと思っています。ただし、日本はミクロのレベルでは返してもらった上で、その分外貨が減って苦しいだろうから、マクロのレベルで同じ額を無償援助しています。

インタビュー
持続可能な開発は台所から

竹下:自助努力による自由競争社会の問題点として、科学技術による資源の拡大が限界となり、究極的に有限となった場合にその分配を競争で行うと、貧しい国と豊かな国の差が開く一方なのではという点がありますが、その点はどうお考えでしょうか。

石川:資源が有限だから、人間の頭を使って、中央計画経済により富を分配すべきだとの発想は、人類を不幸にするということが、ソビエト連邦の70年間の歴史が証明したとよく言われます。自助努力をベースに置くことは大切です。しかし確かに地球全体で見れば資源は有限です。そこで、人口問題が大切になっていきます。現在世界人口は60億を超えますが、人口問題に取り組まずに増え続ける人口への富の分配が必要だと訴えるのはおかしなことです。今回のサミットでも、EUも途上国も人口問題についてはいっさい触れませんでした。これには問題があります。しかし、現に60億人の人口がいるというのも事実ですから、解決策を考えなければいけません。まず、科学技術により実質的に全体のパイを大きくすることが大切です。それから、やはり、有限の地球を救うのは一人一人の意識だと思います。日本の東海道新幹線とヨーロッパのTGVなどの列車の違いをご存じですか。東海道新幹線には、各車両にモーターが着いていて、一つ一つの車両が皆で走るわけです。一方TGVは先頭の機関車が残りの車両を引っ張るという方式です。どちらがいいかは、その国の考え方があるのでしょうが、私は有限な地球を救うのは一人一人が自覚をもって問題に取り組む方法ではないかと思います。例えば各家庭の屋根に太陽電池のパネルをつけたり、エアコンを使わないようにしたりという身近なことから始められます。持続可能な開発は各家庭の台所から始まるのです。

Fact、事実で訴える外交

竹下:自助努力、東海道新幹線方式で一人一人が行う国づくりを可能にするための途上国支援という日本の方針に対し、EUの方針の方が報道では評価されがちだったように思われますが、日本の自らの方針によるリーダーシップを実現するにはなにが必要なのでしょうか。

石川:EUは議場内では完全孤立する場面や、自らの主張が通らず退場するシーンもありました。できもしないことを主張することがあったからです。例えば、風力発電を軸として世界で15パーセント実現しようという主張は、世界中が年中微風の吹く西岸海洋性気候というわけでもなく、それぞれの地域の自然環境にあったやり方があるので、受け入れがたいものでした。また、先ほども述べたようにリオデジャネイロサミットで、GDPの0.7パーセントまでODAを増やそうと決めて、ODAを増やしたのは日本だけで、EU諸国は逆にODAの割合を減らし続けました。2000年における世界のODAの4分の1は日本によるものです。去年減ったといって非難されましたが、それでも、ドイツやイギリスの倍以上です。
 確かに、日本は、議論や主張をする能力を十分に育てる教育が不足していることや、今の国際的枠組みの出発点の時には敗戦国であったということもあり国際的枠組みの中でリーダーシップを高め、発言力を増すことには人並以上の努力が必要です。しかし、日本の強みは実績という事実であり、これまでやってきた日本自身の国づくりであり、まずはそれを国際社会に訴えていくことが大切です。今回もアフリカ諸国は日本の主張する同じ目線の開発支援というTICAD(東京アフリカ開発会議)を強く支持してくれました。
 しかし、事実も繰り返し言わなければ事実にならないというのも本当で、そちらの取り組みも必要だと思います。今回のサミットでは、外務報道官らと共に連日外国メディア向けの会見を開くなどの取り組みを行いました。

【インタビューを終えて】
 石川審議官のユーモアあふれる話に聞き入っているうちに、あっという間に2時間半が過ぎてしまいました。インタビュー中、審議官がサミットに持っていかれた分厚い資料を見せていただきましたが、各国のODA、ジニ係数といった各種統計が集めてあり、日本の強みである事実と数字に基づいた説得力のある外交を行ってきたことが伺えました。資源が無くても、人材を育て、東海道新幹線方式で世界の富の7分の1をつくり出すようになった日本の国づくり方法を示し、途上国の発展を連帯として捉え、自助努力を支援することで実現させようという日本のビジョン、是非実現させて持続可能な発展につなげて欲しいと思います。(竹下)


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