事務次官会見記録 (平成16年1月26日(月)17:00~ :於会見室)
日墨FTA次官級協議
(問)メキシコとのFTAの次官級交渉が、今回も、とりあえず次回もう一回やりましょうということで終わったようですが、それについてはどう見ていらっしゃいますか。
(事務次官)我々日本側としてもメキシコとのFTA交渉は重視していますので、精力的な努力を傾けています。先般行われた非公式次官級協議においては、マーケットアクセス分野の5品目について集中的な議論をしました。交渉の最中ですので協議の内容について申し上げることは差し控えさせて頂きますが、双方が協議内容についてそれぞれの閣僚に報告することになりました。その他の問題についても引き続いて協議することになっていますし、実務的なことについては今週も協議を続けていきますので、全体の流れが判明するところまでもう少しお待ち頂きたいと思います。
(問)今回で、昨年の10月以降で3回目の非公式の次官級協議になったわけですが、締結に向けて先行きがだいぶ見えてきたという状況になりつつあるのでしょうか。
(事務次官)その点はまさにいろいろな問題がありますが、前回特に問題になりました農産物の5品目について協議した内容をそれぞれの政治レベル、閣僚に報告するということですので、その評価を待つ必要があります。
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イラク(WMDの有無)
(問)アメリカの査察団のデビット・ケイさんが、官房長官の会見でも出ていましたが、大量破壊兵器は無いということを言っていますが、これはどのように分析されますか。
(事務次官)ケイ氏の発言は確か通信社とのインタビューだったと思います。それについてパウエル国務長官のコメントも出ています。しかし、我々としてインタビューに基づいて判断するのは如何なものかという気もしますし、米国政府としても新しい団長、後任を任命して調査を続けるということですので、我々としても調査の継続、進展を見守ることが基本的なことだろうと思います。翻って大量破壊兵器の問題を考えますと、皆さんも我々も記憶にありますとおり、UNSCOM、UNMOVICが調査を行っていたわけです。その調査の報告書においても、いろいろなことについての疑惑が残っているとされ、その報告書が国連安保理に提出されていたわけです。炭疽菌についてもそうですし、確か化学兵器についても行方不明のものがあるという指摘が国連の調査団の報告でなされていたわけで、やはり大量破壊兵器についての疑惑があった、しかもその調査についてイラク政府が協力していないということもありました。この点も国連安保理決議1441において明確に指摘されているところです。そういう情勢認識から現在も調査が行われているということですので、「無い」という証明はなかなか難しいと思いますが、この段階において「無い」ということを我々として判断するというのは、いささか如何なものかという感じはします。調査が続けられるということであれば、それをきちんとやって頂きたいと思います。
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事務次官会見記録 (平成16年1月19日(月) 17:00~ 於:本省会見室)
北朝鮮(外務省職員の帰国)
(問)北朝鮮に訪問されていた外務省の職員の方が戻ってこられたわけですが、拉致問題等、いわゆる領事関係以外の部分についてはさほどの進展はなかったと聞いておりますが、その部分についての評価を伺いたいと思います。
(事務次官)今回、担当者が平壌に出張したそもそもの目的は、御承知のとおり領事面会でしたので、その点に関し私が得ています報告では、先方はきちんと手続きに従って対応し、領事面会がスムーズにいくことについては気を使ったところが見えたようです。当然のことですが、こちらの方から拉致問題について、従来からの我々の立場を説明し、かつ北京チャネルで従来から政府間の協議を申し入れていること、申し入れていると言いましても、御承知のとおり、そもそも去年8月の六者会合の際に先方から「拉致問題を含めて平壌宣言に従って一つ一つ話し合っていきましょう」と言ってきたことを踏まえての申し入れでしたが、そういったことをリマインドしたものです。先方は、今回の来訪の目的が領事面会となっているので、その他の問題については話す用意がないということでした。ただ、上司には報告するということでした。先方の対応した人の仕事の所掌とかレベルとかいろいろなことがあろうかと思いますが、先方としては領事面会ということで対応した、しかし、こちら側の考えも聞いて上司に報告するという対応でした。従って、特段、今回のことをもって何か進展があったとか後退したとか、という判断はしておりません。我々としては、いずれにせよ、この問題は政府間できちんと話し合うべきことであるとの立場であり、これからも引き続きそういった姿勢を貫いていきます。
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イラク(通常国会、自衛隊先遣隊のイラク入り、治安状況、外務省職員の同行)
(問)今日から国会が始まりましたが、イラクの自衛隊派遣のことが一つの焦点になるかと思いますが、イラクの復興については、国会の今後の対応がいろいろと出てくるかと思うのですが、この国会に対してイラク復興にかける外務省の思いというのを教えて頂けますか。
(事務次官)今日の外務大臣の外交演説にいろいろな考え、思いが表れていると思います。イラクの復興について、私の個人的な感じも踏まえて申しますと、従来から申し上げていることですが、イラクを破綻国家にしてはならない、安定した国家として是非再建してもらいたいとの考えが、日本政府の非常に重い考えです。国際社会全体にとってもイラクが安定した国家になることが国際社会のいわば公益であると思います。例をあげていつも申しますが、1番目に、イラクをテロの温床、テロの陣地にしてはならない。2番目に、イラクの地政学的な位置から言っても、あの地域の安定にイラク国家の再建が影響を及ぼし得る。3番目に、中東和平との関係でも、イラクが早く安定した国家に再建してもらいたい。4番目には、総合的に考えても、世界のエネルギーの安定供給といったことからしても、イラクの安定が重要である。こういった4つの点をとっても、これは日本の国益であると同時に国際社会のいわば公益と言ってもいいものだろうと思います。国際社会の公益と日本の国益が一致していると考えると、日本としてこの復興に出来る限りの協力、努力をすることが然るべきことであろうと思います。今申しました4つの点の、例えば第1点のテロとの関係は、大量破壊兵器の拡散といった現在の国際社会が抱えている問題と併せて考えても非常に重要な問題、深刻な問題です。冷戦構造が終わって10年以上経った現在の国際社会において、人々の心の中でテロと大量破壊兵器が恐怖の対象となっていることを考えても、我々として真剣に取り組む必要があります。それが一つ、イラクにおいて重要な問題として提示されているという、いわば時代認識といったものを考えて復興支援にあたるという気持ちが我々省内にはあると思います。
(問)自衛隊派遣に向けた先遣隊が間もなくイラクに入るかと思うのですが、自衛隊の活動に関して期待なりというのを改めて。
(事務次官)我々日本政府のイラクに対する支援は、先にマドリッドの復興支援会合の時に基本的な考え方を世界に対しても明らかにしておりますが、やはりイラクの人々が自らの国家の再建という歩みを進められるように国際社会として支援することです。日本としても経済的な面、民政の安定といった面、人道的な面といったことで支援を行うということですので、その中の一つの重要な日本の行動として、自衛隊の方々が我々の初期の目的を全うされる、成果を挙げられることを切に願い、外務省としても活動が出来る限り円滑に進めらるように側面的な支援を行うことで態勢を整えているわけです。数人の外務省の職員が同行しています。その安全も配慮しなければなりません。自衛隊の活動を円滑に進められるよう職務を全うすること、そのような思いを我々の同僚には託しているところです。
(問)同じくイラクですが、バグダッドで暫定統治機構で非常に大きな爆弾テロがあったということで、イラクの安全性についての認識について変化はないのか、あるいはバグダッド、サマーワでの外務省職員の皆さんの活動状況について、これを受けて何か手立てを講じられるようなことはあるのかということをお願いします。
(事務次官)今回の事件は、被害者の規模も非常に大きかったわけで、非常に残念で痛ましいことですが、この事件をもって全体の構造が変わるとは考えておりません。いろいろな自爆テロ等の頻度といったものから言いますと、実は減少傾向にあります。ただ、地域によって差がありますし、一回の自爆テロで今回のように多数の被害者が出るという大規模なものもありますので、我々として当然、警戒を怠ってはならないし、十分な手当てをしていく必要があろうと思いますが、今のところ、今度の事件でもって何か劇的に変わる要素があるとは考えてはいません。
(問)先程のお話で、外務省の職員が数人同行されているということで、具体的にはどういった役割を期待されているかをお話頂けますか。
(事務次官)今申しましたように、自衛隊の活動が円滑に進めらるようにするためには、例えば地元との調整といったこともあります。個々の具体的なことについては現場に行ってからいろいろなことが必要になってくると思います。網羅的に、現在のところこうこうというリストを決めているわけではありません。地元との調整ということで、現地の地元の指導者の理解を得るといった活動、自衛隊の活動を通じて例えば草の根無償プロジェクトといった援助の話も話題にのぼるかもしれません。そういったことについても迅速に対応できるようなことがあり得ると思います。
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事務次官会見記録 (平成16年1月5日(月)17:15~ 於:芝会見室)
小泉総理の靖国神社参拝
(問)総理の靖国神社の参拝ですが、外務省としては、中国、韓国等の外交への影響はどうなんでしょうか。
(事務次官)中国、韓国それぞれから我が国政府に対する申し入れと遺憾の意の表明がありました。我々としてはその時にも説明をしていますが、総理のお気持ちは、皆さんご存じのとおりであり、中国側、韓国側にも伝わっているとおりです。日本にとって、韓国と中国、両国とも非常に重要なパートナーです。相互理解と相互利益を進めていくという関係にありますし、また、その方向というのは、いわば不可逆的な流れであろうと思いますので、我々としては総理のお気持ちを説明し、理解を求め、更に両国との関係について、大きな期待と熱意を持って拡大・推進していきたいということを伝えているところです。
(問)その問題で、総理は8月15日こそ参拝をされていませんけれども、機会をとらえて靖国に行かれて、見ようによっては既成事実を作ってですね、総理としては靖国に参拝する、これは日本の習慣でもあるとおっしゃっているんですけれども、こういうことを続けていくことで、ある種の慣れと言いますか、外国から見た場合に、これはそういうものという形で定着していくものという風にご覧になっているのか、それとも今回、韓国のメディアなんかも含めて激しく反発しているように見えるんですけれども、こういう構図はこれからも続いていくという風にご覧になっているのか、そのあたりどうですか。
(事務次官)これからの見通しについて、それほど明確なことが言えるという自信が私にはありません。総理は今日の会見でも総理のお考え、見通しを述べられたということでご理解いただきたいと思います。
(問)引き続き同じ関連なんですが、中国、韓国と首脳同士の外交というのは非常に難しい状況に実状なっているかと思いますが、首脳外交というのは外交に占める比重というのは非常に年々高まっているかと思うのですが、そういう中で隣国となかなかそういう関係を結べないという状況を、どういう風に、外交に携わられる立場としてご覧になっていますか。
(事務次官)もちろん首脳外交は今の国際社会においては非常に重要ですし、日中間、日韓間においてもその通りです。例えば昨年は、盧武鉉韓国大統領の訪日において非常に重要な共同声明が発出され、今後の二国間関係を深めていくことが首脳間で合意され、確認されているわけです。中国首脳との間では、小泉総理は第三国においてお会いになっています。またその間、現実の両国との関係の拡大、緊密化は、昨年一年をとっても非常に進んでいると思います。またこれからも進めていかなければならないと思います。韓国との一例を挙げれば、FTAについての交渉も始まったわけであり、そういった流れが、首脳が相手の国に行って会うことがないことによって妨げられることはないと私は思っています。いずれにしても、もちろん首脳が頻繁に会うことが好ましいことには間違いありませんが、日本と両国の関係というのは、今後ともいろんな関係を深めていく、先程申しましたような相互理解と相互利益に基づいて進んでいくと、私としては見通しを持っています。
(問)韓国の趙大使が、FTAの問題であるとか6ヶ国協議の問題についても影響がありかねないというようなことを示唆するような発言があったようですけれども、次官の立場ではその影響はないとお考えですか。
(事務次官)私は、必ずしも今言われたようにFTAの交渉に影響があるということを伝えに来られたことではないと思います。むしろ気持ちとしては、日本と韓国の間においてFTAの交渉を昨年から開始することが決まって、物事が進んでいるというような気分が盛り上がっている時期、その時期ということを強調されたということと、さらには日本と韓国の関係を大事にしなければならないことの例としてあげられたと私は感じております。
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台湾への申し入れ
(問)年末に日本の方から台湾に対して申し入れをしましたけど、このタイミングで行った理由は何なのでしょうか。
(事務次官)タイミング的にはこの時が一番適当であろうと考えたからです。台湾を巡る状況ということについては、我々としても冷静かつ注意深く見守っていますので、意見を述べることがこの際必要であったと判断したわけです。
(問)それはやはり森前首相の訪台があったからでしょうか。
(事務次官)それは関係ありません。
(問)一方でこれは内政干渉にとられかねない申し入れだと思うのですが、そのへんはどうお考えですか。
(事務次官)我々は中国と台湾の関係の問題というのは、平和的に解決されるべきであるという基本的な考えを持っています。それから、「二つの中国」とか「一つの中国、一つの台湾」といった考え方は取らないことが、日中共同声明以来の立場です。そういった立場と全く矛盾することはない、むしろそういった日中共同声明の趣旨を踏まえての申し入れであるとご理解いただきたいと思います。
(問)今の問題でこの時期が一番理想と考えられたということですけれども、なぜこの時期が一番理想と思われたのですか。
(事務次官)それは、台湾におけるいろいろな政治的な動きを調べていただきたいと思います。いろいろな発言、流れといったものを調べていただければ分かると思います。
(問)それは重々承知しておりますけれども、それから考えると若干遅れてるのかなという気がしますけれども。
(事務次官)それは見解の相違でしょう。
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