事務次官会見記録 (平成15年7月29日(火) 16:35~ 於:芝会見室)
北朝鮮情勢(多国間協議、KEDO)
(問)北朝鮮問題を巡る多国間協議ですが、ロシアの方で9月上旬にも北京で6カ国協議という話が出てみたりいろいろありますが、実際のところ開催時期の今の見通しと、日本政府の今の、どのような活動を行っているのか、そのへんはどうなっているのでしょうか。
(事務次官)開催時期の具体的な見通しについては特段持っていません。それは従前から言っていますように、これまで協議の形式についていろいろなやり取りがなされており、北京での3者協議に引き続くプロセスということで中国側がいろいろな努力を行ってきています。中国の高官が米国を訪問したり、北朝鮮に行ったり、日本から中国に行って意見交換を行ったりしているということを踏まえて、現在、中国がその仲介の努力を行っている状況です。ご承知のとおり、北朝鮮は米朝の直接対話を基本的に望んでおり、米国等は5者協議ないし6者協議ということで双方の立場は明確なわけです。その間を中国がいろいろ調整をしようとして仲介努力を行ってきているということですので、従前から述べているとおり、いろいろなやり取りが行われているというプロセスが続いているわけです。そのプロセスは元々時間のかかるものであると述べてきたところであり、現在、何か特別の事情で遅れているということではなく、そういうプロセスが継続して行われているということです。日本も米国も現在努力を行っている中国に対して我々の考え方を伝えて、その努力を歓迎し、慫慂しているのが現状です。
(問)KEDOの理事による非公式な会合が近く開かれると聞いていますが、現時点で軽水炉の建設の継続についての政府の立場というのは改めてどうでしょうか。
(事務次官)軽水炉の建設についてはもちろんKEDOにおいて決定することが必要ですが、我々日本政府として何らかの特別の結論を現在持っているということではありません。現実の動きとしていろいろな「合意された枠組み」(アグリード・フレームワーク)の実施を巡る問題が生じている状況の下で、KEDOの運用、運営についてもいろいろな意見交換、調整をしていくことが必要な状況にあることは確かです。今質問された会合は、KEDOの理事会の非公式会合であり、決して何かを決定する理事会というものではありません。そこにおいては、いろいろな問題について、あり得る将来の問題について緊密な意見交換、協議を行っていくとされているということです。繰り返しになりますが、日本政府として現在の段階において何ら決まった結論を持っているということではありません。
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日米刑事裁判手続き問題
(問)日米間の刑事手続き見直しを巡る交渉なんですが、31日の木曜日にアメリカ・ワシントンで開くという報道があるようですが、これはそういうふうな方向なんでしょうか。
(事務次官)まだ具体的にそういうことが決まったということは事実問題としてありません。ご承知のとおり、これまで、7月2日、3日に第1回の会合が開かれ、更に7月11日に2回目、そして、3回目がホノルルで7月24日に開かれたところです。この3回の会合において、それぞれの立場の説明を行い、双方の理解は深めることが出来たとは言えるかと思いますが、これもこれまで述べてきたとおり、なかなか容易ならぬところはあります。現段階のおいては、日米双方においてこれまでの会合を踏まえて、交渉妥結のための更なる努力を行っているところです。ご指摘のとおり、一応米国側からは7月末を目処に交渉をまとめたいという立場の表明が当初からありますので、我々としても出来るだけの努力を今行っているところですが、現時点で、報道されているような具体的な日程が決まっているというわけではありません。ただ、お考えになれば分かることですが、7月末と言うと、今日が7月29日ですからそんなに日があるわけではありません。出来れば今週中にも交渉を再開したいと考えているところです。
(問)その刑事裁判手続きの件ですが、日本国内で犯罪、特に凶悪な犯罪を犯した米兵の起訴前の身柄の引渡ということについて、いわゆる運用改善とか運用合意と呼ばれる合意が日米間であります。これは言ってみればアメリカ側の好意的配慮というものを日本側が信頼するというか、それに依拠するという形で運用されるというふうに組み立てられているので、今回のこの交渉が完全に決裂してしまった場合には、厳しい言い方をすれば、アメリカからすれば、じゃあもう好意的配慮をしないよということも言えるわけです。つまりそういうふうに考えると、交渉のいわゆる強い弱いというあれで言いますと、日本側がちょっと弱い立場に置かれるので、従ってそういうアメリカ側の強硬な反発を招かないためには日本側が何らかの妥協をせざるを得ないだろうと考えるのですが、現時点で日本側はどういうふうな交渉、妥協ラインというものを想定していらっしゃいますか。
(事務次官)妥協ラインという表現が良いかどうか、いささか私は疑問に感じますが、これも遡りますと、今御指摘の1995年の日米合同委員会で起訴前の引渡しについての運用につき一応の合意が出来ているわけです。その問題と取調べ手続きの問題というのは、実態的には述べられたような絡み合いということはあろうかと思いますが、元々は法律的な考え方、基本という拠って立つところからすると、これは別の次元の問題といってもいいかと思います。いずれにしても、双方とも95年の合同委員会合意というのは維持したいという気持ちはあるわけです。他方において、被疑者の取り調べの手続きについて日米間の制度に違いがありますので、それを地位協定の運用の問題として何とか双方が満足出来るようなフォーミュラがないかということで知恵を絞ることが求められていると思います。95年の合同委員会合意が、今述べられたような事態にならないように我々としても努力をすることは必要でありますが、しかしそれが何か日本側の譲歩とかいったことではなく、日本の制度を踏まえた、法律上、きちんと納得のいく形でなおかつ双方がそれなりの満足が出来るというフォーミュラを探求していくということです。先程も申しましたように決して容易なことではありません。それは日米双方の、言ってみれば知恵と努力が要求される問題であろうと思います。
(問)日米刑事手続き協議に関連して、よく日米首脳会談なんかで日本とアメリカは自由や民主主義という基本的な理念を共有しているということが高らかにうたわれるわけですが、今回の刑事手続き協議の一つのキーワードは、容疑者の人権という点があろうかと思いますが、人権というのは民主主義の極めて基本的な価値であると思いますが、そこを巡って日米が一致させることが、先程おっしゃったような容易ならざる共有であるということについてどういうふうに思われますか。
(事務次官)非常に難しい御質問ですが、刑事手続きについての人権の観点から申しますと、当然我々日本としては、日本の刑事訴訟法というのは民主的であり、かつ人権を守るものであるという確信に立っているわけです。もちろん捜査上の必要性も当然勘案されていると思います。人権について、いろいろ国によって尺度が違うところはあると思います。しかし、お互いにそういう尺度の違いといったものを認めあいながら、しかし大きな人権の枠について共通の認識を持っているということが、日本と米国の間の価値観の共有ということであろうかと思います。従って、そういうことを前提とした上で協議を行うということでないと、これは協議が成り立たないことにもなりかねません。我々としても日本の制度を基本としつつ、米国の考えといったことも念頭に置きつつ、解決策を見出すということでまさに知恵と汗をかくことが必要だという状況だろうと思います。
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日韓歴史共同研究
(問)日韓の歴史共同研究ですが、当初、報告書の策定予定の来春から1年先延ばしされたという発表がありましたが、共同研究が当初の目標どおり進まず難航している理由と、現段階での具体的な進捗状況、どのように把握されていますか。
(事務次官)その点についてはまだ詳しい報告を聞いていませんので、正確なことは申し上げられないのは遺憾に思います。28日に委員会が開催されたと聞いていますが、ただ何か大きな問題が起こって作業が支障をきたしているとか、そのために延期されたという報告は受けていません。むしろ、非常に協議が深まったと申しますか、相互理解が深まれば深まるほど作業に深みがでてくるということで、これからも時間をかけようということであろうと聞いています。もちろん今回の委員会においてもそれなりの進展があった、今後の作業の方向について合意されたこともあると聞いています。それ以上の細かいことについては、これから報告を受けたいと思っているところです。
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事務次官会見記録 (平成15年7月14日(月) 17:00~ 於:芝会見室)
国連小型武器中間会合
(事務次官)まず私の方から、国連の小型武器中間会合について申し上げたいと思います。御承知のとおり7月7日からニューヨークの国連本部において開催されていた国連小型武器中間会合が11日、議長総括を発表して閉幕しました。今回の会合は、国際社会の小型武器問題への取り組みを前進させるもので、大きな意義があったと評価をしています。
我が国は、紛争後の人道支援、復興支援に対する障害を取り除くためにも、また、平和を定着させるという観点からも、この小型武器の問題に積極的に取り組んでおり、1995年にブトロス・ガリ国連事務総長が小型武器問題を国際社会に提起して以来ほぼ毎年、国連総会に小型武器決議案を提出する等のイニシアティブをとってきています。
今回の会合及びその準備過程において、我が国の猪口邦子軍縮代表部大使が、この中間会合の議長として努力をしました。この会議の成功のために加盟国、国連などに広汎に働きかけを行ってきたわけです。今後とも、我が国としてはこの成果を踏まえて、これまで以上に小型武器の問題に積極的に取り組んでいく所存です。今後は2005年に第2回の国連小型武器中間会合が予定され、更に2006年の小型武器問題再検討会議、これは第2回の国連小型武器会議ということになりますが、そういったものに向けたプロセスが進められることになります。2006年の再検討会議では、現在の行動計画の見直しが予想されますので、我が国としてもその過程で積極的な参画を行っていきたいと考えています。
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北朝鮮核問題
(問)米国が、北朝鮮の使用済み核燃料の再処理に伴う物質を検出したとされる問題で、現時点でどのような印象、又は事実関係をさぐっていらっしゃいますか。
(事務次官)我々は、まだ、米国が確認したとは現時点では理解をしていません。御指摘の点はアメリカの一つの放送局が報道を行った件だろうと思います。その件ではアメリカ政府の関係者ということで、どういう方かということも明らかではありません。いずれにしても、米国政府としてはこの種の個別の情報にはコメントしないという立場を明らかにしていると承知しています。北朝鮮の核開発問題、現在の状況というものは、我々として非常に注意深い情報収集と分析を必要とする状況です。もちろんアメリカとの間でも緊密な情報交換を行ってきているところですが、現時点においては報道されているような点を含め、再処理の点も含めて、北朝鮮の核開発の状況について確たる結論を申し上げる状況にないということです。ラムズフェルド国防長官自身がNBCのテレビ番組で、再処理の状況について、よく分からないといった趣旨のことを発言しているとも承知しています。
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フジモリ元大統領引渡問題
(問)ペルー政府がペルーのフジモリ元大統領の身柄の引渡を求める文書を近く日本政府に送付してくると伝えられていますが、これについては日本政府としてはどのように対応していくお考えでしょうか。
(事務次官)その点は、いつかもお答えしたことがあったと思いますが、引渡請求があれば、その時点で我が国の国内法令に従って対応することになります。国内法令に従って対応することになると、日本の司法、法務当局が判断するということですが、一般論として私の方から申し上げられることがあるとすれば、それは日本の逃亡犯罪人引渡法によれば、引渡条約に別段の定めがない限り、日本国民は引き渡してはならないという規定があるということです。そして、日本とペルーの間には、犯罪人引渡条約は存在しないのが現状です。
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事務次官会見記録 (平成15年7月7日(月) 17:00~ 於:芝会見室)
ペリー来航150周年
(事務次官)私の方から、日米交流150周年記念事業について一言申し上げておきたいと思います。御承知の通り1853年7月8日にペリーが来航し、150年になります。翌1854年には日米和親条約が調印されて、日米間の外交関係が樹立されました。こういった150周年を記念して、日米の民間主導でいろいろな行事が行われます。少し例を挙げますと、7月11日にワシントンにおいて日米交流の歴史を回顧して将来を展望するというシンポジウムが戦略国際問題研究所(CSIS)等の共催で行われます。7月17日から20日にかけては、ロードアイランド州ニューポート市において黒船祭が開催され、海上自衛隊の練習艦船「せとぎり」が寄港します。7月12日、浦賀においてペリー上陸式典が行われますし、8月1日には横須賀で開国祭が行われるということです。詳細は北米一課の方で御説明をさせて頂きます。
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総理訪朝
(問)日曜日に日経新聞の報道で、小泉総理が再度訪朝することを検討しているという報道がありましたが、外務省としては具体的に検討ということなんですか。
(事務次官)そういった一つ一つの報道について(お答えすることは)どうかという気もしますが、何よりも総理御自身が今日、全然そういうことは考えていませんとおっしゃったと承知していますので、それが全てを物語っていると思います。外務省として、全くそういう事実は承知していません。
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ミャンマー情勢
(問)先週ですが、ミャンマーから特使が来まして、スー・チーさんの日本側の求めていた要求、即時解放とか、居場所について説明するとか、回答になったのかなっていないのか分かりませんが返事をしていきましたが、向こう側の返答について、次官はどういうふうに評価をしていらっしゃるかというのと、今後、向こう側の返答を踏まえて何をするかということをお聞かせ頂きたい。
(事務次官)御指摘の通り、先週、ミャンマー政府の方からタン・シュエ議長の特使としてキ
ン・マウン・ウィン外務副大臣が来日され、報じられているような説明をされました。しかし、スー・チー女史の即時解放といった我々が求めている問題について伺った説明というのは、納得が出来るものではないという評価をしています。また、我々が要請している問題について、それが実現する、解決する方向に物事が動いているとは判断し得ないという評価も先方に伝えたところです。そういう現在の事態の下では新規の経済協力案件については、何事もなかったかの如く進めるということは出来ませんので、見合わせざるを得ないという旨を伝えると共に、いわば今が重要な分水嶺といった時期であるので、問題解決に向け努力をしてほしいということを伝えたところです。今後ともこういった考え方に基づいて、国連、ASEAN諸国の動きも念頭に置きながら、一層の外交努力を続けていきたいというのが現在の立場です。
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中韓首脳会談
(問)今日の中国と韓国の首脳会談について、北朝鮮の問題も出てくると思うのですが、日本政府としてはこの会談の意義とか期待するものとかはどういうふうにお考えですか。
(事務次官)第三国間の首脳会談ですので、余り差し出がましいことを申すことはどうかと思うのですが、当然のことながら我々としても関心を持っています。中国と韓国の間の二国間の関係についても当然話題になることと思います。先程調べてきましたが、中国と韓国との貿易というのは非常に増えております。例えば、輸出入の合計額ということからしますと、韓国から見た場合、対日貿易額の方が対中貿易額より上回っているというのは続いていますが、韓国の輸出の面から見ますと、2001年以降は対中輸出が対日輸出を上回るという状況になっています。それだけを見ても中国と韓国の間の関係が深まっているというこが言えると思います。そういった近隣の二国関係、相互依存が深まるということは基本的に我々としても好ましいことだと思っています。そういった面でどういう話し合いがされるのかということは我々の関心の一つです。また、地域情勢ということでは、当然のことながら朝鮮半島の平和と安定ということについて、我々も中国の建設的役割をこれまでも評価し、今後についても期待をしていますので、そういった面で中国と韓国の間で意見交換が行われ、更なる努力が続けられるということを期待しつつ会談を見ていくということです。
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イラク問題
(問)イラクの大量破壊兵器の問題について改めて伺いたいのですが、まだ現状では、これだけの時間が経っても見つかっていないわけなんですが、開戦前には外務省としても様々、資料をお作りになったり、国会審議等でイラクの大量破壊兵器の脅威について説明されてきた経緯もありましょうし、次官御自身は日米戦略対話などで「国際社会対大量破壊兵器を持つイラク」という関係付けで、米側と話しをされてきたということもあるのですが、現状についてはどういうふうに御覧になっていらっしゃいますか。
(事務次官)大量破壊兵器の問題が現在の国際社会にとって非常に重大な問題であるという認識は、当時も今も全く変わりはありません。それが基礎です。イラクの大量破壊兵器の問題については、湾岸戦争の時の決議まで遡るわけですし、また、現にイラクがそれを使用した過去があるというところまで遡りますが、いずれにせよ国連のUNMOVICがイラクにおいて大量破壊兵器に関する調査を行い、それについて、何度か報告を出したわけです。ハンス・ブリックス委員長が自ら安保理でも報告をしましたとおり、イラクの大量破壊兵器の疑惑ということは国際社会においても深刻に考えられてきていたというのが事実であったと思います。また、イラクが疑惑の解明について自ら証明する努力、UNMOVICに対する協力を十分果たしていない、これまたUNMOVICの観察した結果であり、そういったものに基づいて安保理決議1441も出ていたということです。当時、国際社会全体としてイラクの大量破壊兵器の問題について深刻に考えていたということであったと思います。その後、米軍等による武力行使があって、大量破壊兵器の捜索が続けられており、現在、アメリカ、イギリス、それにオーストラリアが加わり調査をしているところです。あるのかないのかについての判断というのは、調査の進行を待つということが必要であろうと思います。いずれにせよ国際社会としてイラクの大量破壊兵器の問題ということを深刻に捉えているということは当時の安保理決議、安保理における議論においても明らかであると思いますし、現在もその問題というのは進行形で続いているということであると思います。
(問)今、現在あるとお思いですか。
(事務次官)それは調査の結果を待つ必要があります。私の個人的な考えということを聞かれれば私はあると思いますが、しかしそれは、私がどう思っているかということが問題ではなく、国際社会として調査の結果を待つということが大切だろうと思います。
(問)今この問題では、特にイギリスの方ではブレア首相が議会の審議の中で矢面に立って、窮地に陥っていると思われているわけなんですが、そういう現状というのはどういうふうに思われますか。
(事務次官)問題がおそらく2つあると思います。イギリスなりアメリカの当局ないし政府が大量破壊兵器に関する情報を公表するに当たっての問題と、大量破壊兵器の疑惑ないしは大量破壊兵器という実質的な点に関わる問題、この2つに分かれると思います。それぞれ別の観点から議論が行われているわけで、情報操作であるとかいった前者の問題というのは、それぞれの国内の問題です。政府の手法であったり、やり方であったり、透明性の問題ということであろうと思います。それとは別の角度から、大量破壊兵器の実質的な問題については、アメリカ、イギリスの情報ももちろん公開もされましたが、一番重要なものであったのは、やはりUNMOVICの報告書でした。それが安保理に提示されて、報告書の中身については概ね受け入れられていたということであろうと思います。そこに、現在の国際社会における大量破壊兵器の問題というのが現れていたと認識します。
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