逢沢外務副大臣演説
UNITAR・シンガポール政策研究所主催
「平和維持と国造りを担う国連・・・継続性と変化の展望」国際会議
における逢沢外務副大臣基調演説
議長、ご来賓並びにご列席の皆様
本日、日本政府を代表して、国連の平和維持の将来についての会議の冒頭に御挨拶出来ますことを嬉しく思います。
本会議は、国連平和維持活動(PKO)を中心テーマに、これまで6回開催されたと承知しておりますが、過去の会議の結果は、報告書として国連事務総長に提出され、その一部は本日御出席頂いているブラヒミ特別顧問が議長をされた国連平和活動パネルの報告にも言及されるなど、高い評価を得ていると承知しております。主催者の方々をはじめ、これまで本件会議に貢献してこられた方々に対し心より敬意を表したく存じます。
今回の会議は、我が国及び世界における平和の発信地である広島で開催される運びとなりました。2003年7月に国連訓練調査研究所(UNITAR)のアジア・太平洋事務所が広島に開設されたことを踏まえ、この地で開催される運びとなりましたことに心よりお祝い申し上げます。
今回の会議を共催される国連訓練調査研究所、シンガポール政策研究所に謝意を表したいと思います。
ご列席の皆様、
今日、国際社会においては国連PKOの役割が多様化すると共に、その重要性が増しております。
ご承知のとおり、PKOは、停戦合意の成立後に安全保障理事会または総会の決議によって設立され、紛争当事者の間に立ち、停戦及び軍の撤退等の監視等を行うことにより、事態の沈静化や紛争の再発防止を図り、紛争当事者による対話を通じた和平プロセスを支援することを主たる目的として、国連創設後間もなく成立してきたものです。
しかし東西冷戦の終結以降、国際社会が対応を迫られる紛争の多くが国家間の国際紛争から内戦を含む複雑な紛争形態に変遷した結果、紛争解決に取り組む国連の役割が見直されました。こうした事情を背景にPKOの任務も従来の停戦監視という伝統的な任務に加え、暫定行政、選挙監視、文民警察等の統治機構の構築支援という複合的な任務を持つに至りました。また近年は、人権保護、難民・国内避難民の帰還支援、復興開発等の多様な分野において、その他の専門機関及びNGO等との調整を行う等、幅広い分野における活動も行ってきました。こうした経緯から、国際の平和と安全の確保・維持のため、国連PKOの果たすべき役割の重要性は益々高まっています。これは最近のPKOミッションの設立の急増にも現れています。現在、アフリカや中東を中心に世界各地で16のPKOミッションが活動しており、2005年2月末日現在で103カ国からおよそ67,000人の要員が派遣されています。更に24日には、国連安保理でスーダンPKOの設立決議が採択され、17番目のPKOミッションが誕生したばかりです。
ご列席の皆様、
次にPKOに対する我が国の貢献についてお話したいと思います。
私は、我が国の国際平和協力活動を推進する重要性を認識し、これまでにも中東和平の一翼を担っている国連兵力引き離し監視隊や国連休戦監視機構、それに国連東ティモール支援団などの国連PKOの活動の現場を訪問しておりますが、本日は、昨年2月に訪問した東ティモールについてお話をさせていただきます。
東ティモールでは、PKOの現場で派遣された施設部隊等の自衛官が、自らの任務である道路建設や橋梁補修といった交通インフラの整備に携わりつつ、現地の政府関係者と共に汗を流して東ティモールの復興に尽力している姿に深い感銘を受けました。しかし、この国で活躍していたのはPKOに派遣された自衛官だけではありません。国際機関や東ティモール政府に派遣される日本人職員、ODAに携わるJICA関係者、東ティモールの住民と手をとりあって活動する日本のNGO、そしてこれらを支援する大使館員などがそれぞれに活躍しており、オールジャパンで東ティモールの国づくりに大きな貢献をしております。私は、東ティモールにおいて、我が国が推進する国際平和協力の、そして新しい国づくり支援のあるべき姿を見出したと感じております。
我が国自衛隊が参加したPKOは、東ティモールの独立を助け、平和と安全をもたらすために派遣されたものでした。そうした中で、国際社会全体の課題は、東ティモールが自立し、自らの力で平和と安全を確保し、復興・開発を進めていくように手助けすることです。そのためには、我が国自衛隊の挙げた成果を含め、国連PKOの派遣によって達成された平和と安全、それに復興の足がかりを持続可能なものに定着させなければなりません。
我が国は、東ティモールの復興に役立てるため、自衛隊施設部隊の活動中におきましては、東ティモール政府機関関係者に対して、この部隊が使用している道路建設機材の使用訓練を実施し、また部隊の撤収に際しては、その道路建設機材等を東ティモール政府に供与しました。その上で、部隊撤収後もODAを活用して、これらの機材活用の訓練等を行っています。これは、自衛隊、ODAといった、我が国政府のそれぞれの活動を有機的に連携させ、和平の達成から持続可能な開発につなげていきたいという試みであります。軍関係者から人道、復興それぞれの当事者、また各国政府、国際機関、NGOをはじめとするさまざまな関係者が協力することにより、本当に「平和が定着する」との信念を、我々が持っていることを示すものであります。
他にも、我が国自衛隊施設部隊は、道路整備といったPKOミッション本来の業務はもとより、草の根レベルの住民に直接利益をもたらすスポーツの普及や保健衛生の向上のための活動や、NGOと協力した植林プロジェクトなどの民生支援を実施しました。
このように、東ティモールにおける平和の定着のための、我が国の包括的な取組は、まさに今回の論点である、国連による平和維持と国づくりを補完する一つのアプローチであり、一つのモデル・ケースを提示するものと考えております。
このように我が国は、国際平和協力への取組を積極的に推進するべく、国際場裡においても新たな挑戦を開始しております。
その端緒として、我が国は本年より2年間、国連安全保障理事会の非常任理事国に就任し、安保理理事国メンバーとして、PKOを含む国連の安全保障問題に関する議論に積極的に参加し貢献していく考えです。更に、安保理の下部委員会であるPKO作業部会の議長国にも就任し、PKOに関心を有する国または国際機関等と共に、PKOが今日直面している主要な問題に取り組んでいきたいと考えています。こうした一連の立場を通じ、我が国としては、PKOの設置、任務及び活動の形成過程における「透明性と説明責任」の向上をはかり、安保理の活動を支援して参りたいと考えます。我が国としても、スーダンPKOの立ち上げをはじめ、様々な場面でプロセスに積極的に関与しております。
さて、本会議では、これから国連PKOの継続性と変化について様々な観点から議論される訳ですが、現在、国連PKOが抱える幾つかの課題につき指摘しておきたいと思います。
まず、これまで先程のブラヒミ顧問の報告や国連ハイレベル委員会の報告書の指摘にもあるとおり、迅速かつ時宜を得たPKOの展開を実現するため、PKOの緊急展開能力の向上は極めて重要なテーマであり、今後より一層その能力向上のための方策を検討する必要があると考えます。
第二に、性的虐待問題に代表されるPKO要員の規律の問題については、その適正な措置と再発防止のための諸施策について、現在国連において議論されていると承知しています。本件問題については、要員派遣国を含め加盟国全体で十分に議論し取り組まなければならないと認識しています。
第三に、複合的PKOの役割の中で、とりわけ武装解除・動員解除・元兵士の社会復帰-いわゆるDDRや復興開発支援に関する役割につきましては、いわゆるカントリーチームと呼ばれるUNDP等の開発関係機関やNGO等との調整が重要であり、PKOミッション自らを含め、各機関の役割を最大限に果たすことができる調整能力がPKOミッションに求められているものと考えます。
第四に、PKOに関しては、その設立ばかりでなく、PKOの撤収後を見据えた出口戦略の策定の重要性についても指摘しておきたいと思います。ここ数年でアフリカを中心としてPKOが激増しておりますが、国連及び加盟国の資源は無限ではありません。限りある資源を有効かつ効果的に運営していくことが不可欠であります。
我が国は、こうした諸問題に関し、国連における議論に積極的に参画し、引き続き貢献していく所存です。
ご列席の皆様、
本会議の開催にあたり、国連が期待される役割を効果的に果たしていくにあたり、「平和維持と国づくり」というテーマは時宜にかなったものであることを、私はこの場で強調したいと思います。更に、紛争を後戻りさせないためにも、今後のPKOをはじめとする国連の役割をどう認識していくか、その方策に関する本会議における議論に期待したいと思います。
今回はPKOの役割に焦点を当てて基調講演を行いましたが、平和維持と国づくりにおける国連の役割を広い視野から捉えれば、例えば多国籍軍による国造りへの協力として、イラクやアフガニスタン等に関する議論もまた重要と考えます。具体的には、我が国はアフガニスタンにおけるDDRでは中央政府や軍閥自体との折衝も含めてこれを主導し、旧正規兵6万人のうち4万2千人を武装解除しました。また、今月20日に国連改革に関する事務総長報告が発出され、今後の国連のあり方に関する議論がさらに加速すると思われます。また、ハイレベル委員会の報告書の指摘にもあるとおり、安保理改革や平和構築委員会についての議論も重要な課題であると認識しております。さらに、本年9月に開催される首脳会合に向けて、国連・安保理改革実現を目指す機運はかつてないほど高まっており、我が国としては、安保理常任理事国入りすることによって、PKOを通じた貢献を始めとして、これまでに積み上げてきた豊富な経験を活かし、国際の平和と安全の維持についてより一層大きな貢献を行っていきたいと考えています。
最後に、多くの国々及び国際機関から参加された方々及びご列席の皆様に感謝の意を表明したいと思います。私は、皆様方の活発な御参加が二日間の議論を刺激的で、示唆に富み、実り多いものとすることを確信しております。
御清聴ありがとうございました。
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