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矢野外務副大臣演説

「人の移動」に関するシンポジウムでの矢野外務副大臣挨拶

平成15年3月19日


 本日は、「人の移動」に関するシンポジウムに、御多忙の中、お集まり頂き、ありがとうございます。
 本日の会議の主催者である外務省を代表して、私どもの問題意識をお話しさせて頂きます。

  1. グローバリゼーションが進む中で、モノ(goods)、資本(capital)、人(people)の移動の円滑化が、今後益々重要になっています。近年、「人の移動」については、我が国とアジア諸国との経済連携協議、APEC、WTOサービス交渉等の場で活発に議論が行われています。即ち、二国間、地域、世界という三つのレベルで、取り組みが行われている訳です。EUでは既に様々な先駆的取り組みがなされていると承知しております。

  2. 昨年、約529万人の外国人が我が国に入国し、また、約1,622万人の日本人が出国しています。このうちビジネス関係者が占める割合は大きく、多くのビジネス関係者が我が国の経済活動を支えるために出入国を行っていることが分かります。
     APECでは、ビジネス関係者の移動を円滑化し、貿易や投資の相互の拡大に資するための具体的に様々な取り組みを行っています。その一例は、APECビジネス・トラベル・カード制度です。このカードを所有していれば、参加国及び地域の間で、査証なしでビジネス関係者の渡航が可能となります。これは、97年に創設されて以降、参加国及び地域が拡大し、14エコノミーが参加しています。既にこの制度が実際に運用されているのは、オーストラリア、チリ、中国香港、韓国、マレイシア、ニュージーランド、フィリピン、チャイニーズ・タイペイの8エコノミーです。そして我が国は、来月4月からこのAPECビジネス・トラベル・カード制度の運用を開始します。更に、ブルネイ、中国、インドネシア、ペルー及びタイも近い将来運用を開始する予定です。我が国とこれらの諸国・地域との間でのビジネス関係者の往来に査証が不要となりますので、貿易立国である日本のビジネス関係者にとって、このカードは大変便利なものと考えています。
     今後も、「人の移動」という重要な課題への取り組みにおいて、APECは、大きな可能性を持っていると考えています。
     WTOでもAPECビジネス・トラベル・カード制度と類似の制度を導入するなどの様々なアイデアが提案されていると聞いています。様々なアイデアについての議論が本日行われるものと期待してます。

  3. 日本経済の活性化のためには、「人の移動」は欠かせない重要な要素です。日本と諸外国との間で投資、サービス貿易が活発になれば、必然的に人の移動の増大を伴います。
     また、外国の競争力のある労働力を如何に日本の経済活動とリンクさせるかが、日本産業界の国際競争力を強化するための最重要課題となっています。
     日本産業界は既にアジア等に生産拠点を移しており、途上国の競争力のある労働力を現地で活用しています。しかし、このやり方は、日本国内の産業の空洞化を招いているとの懸念を呼んでいることも事実です。
     様々な理由で、海外に拠点を移さない場合は、外国の競争力のある労働力を日本において活用するためにどうすれば良いかという問題も出てきます。日本国内の産業に、外国人労働者を招くことは既に行われています。現在、日本国内では約74万人の外国人労働者が働いていると言われています。これは、留学生等のアルバイトや、いわゆる不法就労者を含みますが、日本の雇用人口の1%以上を占めるものです。日本政府の政策は、専門的・技術的分野の外国人労働者の受入れは積極的に行いますが、いわゆる非熟練労働者の受入れについては、慎重に対応するというものです。ただし、我が国の外国人労働者のうちの約3分の1を占めているのは南米諸国からの日系人で23万人ですが、これら日系人の方々の就労の現状は非熟練労働にあたる業務が大半であり、我が国において非熟練労働に従事している外国人の受入れが皆無ということではありません。ここで、これらの方々が日本で生活するに当たっては、社会保障、教育、地域共生等の分野で様々な問題も顕在化していることにも留意しなければなりません。なお、日系人を中心とする在日ブラジル人の日本における就労状況などについては、先月、外務省主催のシンポジウムが東京で開催され、受入れの円滑化のため、活発な議論が行われたところです。

     日系人を除けば、約16万人の正規の外国人労働者、即ち専門的・技術的分野の専門家が、日本で働いていると言われています。この中では、IT技術者についても、多数が受け入れられており、日本経済の活性化に大いに貢献しています。今後の日本経済の展望を考えるに当たっては、これらの外国人専門家の受入れについて現状のままで十分なのか、あるいは、規制の枠組を改善する余地があるのか、更には、より多くの専門的・技術的分野に携わる優秀な人材を日本に引き寄せるためには積極的にどのような政策を講じるべきか、などについて議論を深める必要があります。

     統計によれば、日本で医療業務に従事する外国人は、95名となっています。看護師も、日本の制度上では、専門的・技術的分野として扱われています。日本で外国人看護師が働くためには、看護師学校を卒業し、日本で看護師の資格を取ることが必要ですが、それでも、就ける職種はインターンにとどまっています。欧米、豪では、フィリピンからの看護師が多数働いているとのことですが、英語を母国語とするので容易との面はありましょうが、言葉の問題以外に、どのような制度上の工夫がなされているのか、この問題の是非を検討する上で日本として参考にできる点があるのか、などについて、情報交換や意見交換がなされると期待しています。

  4. 「人の移動」の問題は、教育、医療、年金等の社会政策の問題、治安問題に対する懸念など、多方面の問題に関連するため、多方面の知見を総合して政策を構築することが不可欠です。また、我が国は世界でも例を見ないスピードで少子・高齢化が進行しています。一つの試算として、2002年1月に発表された「日本の将来推計人口」によれば、日本の人口は2006年をピークとして減少するとされており、これを年齢人口別に見ると、14歳以下の年少人口と、15歳から64歳までの生産年齢人口が減少していく一方で、65歳以上の人口が2000年の2,204万人から、2025年には3,473万人、2050年には3,586万人と急速に増加し、人口に占める割合も2000年の17.4%から2050年には35.7%に達すると予想されています。このような環境の変化にあわせ、日本がどのような社会・経済を築いていこうとするのか、そのために外国人労働者を如何に取り入れるのかという観点も、私たちの念頭に置いておくべきです。

  5. このように、「人の移動」の問題は、私たちが直面している最も重要な課題の一つであり、日々対応を検討していくべきものです。そして、9.11以降、またイラク情勢のもと、テロへの警戒を怠ってはいけませんが、その努力と人の移動の円滑化を両立させることが重要です。他の国の経験も参考にしながら、国際社会に開かれた精神をもって、皆で知恵を出していくことが肝要と考えます。外務省としては、外国の政府・民間関係者とも緊密に相談しながら、二国間、地域的、多数国間での場での協力を構築していく作業に積極的に参加していく所存です。
     本日のシンポジウム開催は、その努力の一つの例ですが、有意義な情報交換と意見交換を通じて、将来の政策策定にも反映させていきたいと考えます。

 御清聴ありがとうございました。



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