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第10章 Y2K問題で得られた教訓
Y2K問題は、世界がどのように動いているか、テクノロジーがいかに社会に適合しているか、さらには国際協力がいかにして世界的な問題を解決できるかということについて学ぶためのまたと無い機会を提供してくれた。Y2K問題解決努力の成功と失敗は、世界が将来の問題にいかにして対処し得るかについての有用な見通しを提供している。Y2K問題は戦略、情報そして管理について教えているのである。
Y2K問題は国際的なテクノロジー絡みの問題解決について7つの教訓をもたらした。
- 共通の脅威と国境を超えた相互依存が成功の鍵であった。
空前の国際協力が成功をもたらした。こうした協力を可能にしたのはY2K問題の持つ2つの属性(特質)であった。第1にY2K問題があらゆる国を脅かしたことによって、最善の実例を共有し、問題解決のためのコスト全体を削減するインセンティブをもたらした。2000年1月1日という動かし得ない最終期限がこの脅威に重みを添えた。第2にそれは、或る国が重要なサービスまたは供給を隣国に依存していたのに、その隣国がY2K問題による障害のために機能できなくなった場合に、その国に自らの問題を解決させることに或る程度は役立つことになった。国家間の相互依存は、すべての国がうまく行くよう相互に援助を提供することへの関心を生み出したのである。
- ネットワーク構築と情報協力が機能する?
Y2K問題は、協力へのインセンティブが与えられれば、個人的な接触の結合が、電子的方法による情報共有によって補われ維持される形でバーチュアルな組織を生み出し、それが力を合わせて働いて手強い問題をうまく解決するということを示した。大きくなくても組織化の中心を担うものがあれば、それはネットワークのメンバー間で良質な情報をオープンに交換し合うことを促進するのに役立つことができる。
- 抜かせて抜き返すことは良いこと!
他の国々よりはるかに遅れてY2K問題への取り組みを始めた国々や組織もあるが、今のところ結果に大きな違いは現れていない。その理由はさまざまであるが(付属書DにおけるY2K問題コストに関する検討を参照のこと)、問題を解決するためのコストと時間がかなり急速に減少したことがひとつの重要な要因であった。例えば1996年には、Y2K問題対応のための修正の見積りコストは、大型ビジネスコンピュータ向けソフトウエアコード1行につき1~2ドルであった(代表的な会計プログラムひとつで数十万行のコードがある)。熟練したプログラマーの不足が進行したため、1998年までにこのコストは1行当たり4ドル以上に増大するものと予想された。実際にはコストは1行当たり数セントにまで下がったのである。これは、自動化されたY2K問題対策ツールによるコード修正がきわめて正確且つ効率的になったためである。より戦略的なレベルで言えば、Y2K問題への取り組みがはじめて着手された当時、Y2K問題を抱えた、日付を認知するコンピュータ(埋め込みチップ)が、発電所、電話システム、エレベータあるいは化学工場のどこに埋め込まれているか知るものは誰もいなかったが、結局のところ、重大なY2Kリスクは少数の状況に限定されていたのである。情報の共有の故に後発者は、すべてのシステムをテストした先行者の作業を繰り返さずに済んだ。(早い時期の先行者はテクノロジーを最も拠り所としており、「様子を見る」姿勢を採る余裕の無かった者たちである。)テクノロジーと知識の進歩がこの種の有利な「抜かせて抜き返す」ことを他の領域でも可能にしている。例えば発展途上国は、銅の電話線を田園地域に張りめぐらす手間を省いて、音声通信や基本データ通信について無線通信に直接移行しつつある。
- インフラは相互関連しており、また弾力性もある。
地方におけるY2K問題による障害が、相互に連絡されている世界の電力、通信、貿易のネットワークに滝が落ちるように拡って行くのではないかとの懸念を、多くの人々が表明していた。確かにY2K問題は供給の連鎖と相互依存について多くのことを教えてくれた。電話と電力のシステムは効率的な運営のために相互に依存している。会社や国の危機管理計画は、停電したときあるいは主要な供給が遅延したときに何をすべきかを日常業務としてその内容に含めてきた。事実、重要なインフラの運営上でY2K問題が存在した場合、社会へのサービスを中断させることなくシステムオペレータがそれらを処理した。インフラのオペレータは、技術的問題に直面してもサービスを続けなければならないということを熟知している。Y2K危機管理計画の立案とテスト実施はこの能力を強化するとともに、Y2K問題処理が成功したことにより、多くの重要なインフラが別な種類の攻撃を受けても回復できるであろうとの信頼を高めた。
- リーダーシップはきわめて重要だが、機関の敏活さは多様である
行政府(IYCC執行委員会におけるような)を含む正規機関及び多国間による機関(国連や世界銀行のような)によるリーダーシップは成功のために本質的に重要であった。しかしながら多くの場合、そうしたリーダーシップは、緊急問題に直面して通常の正規チャネルにあまり構うことなく前進しようとする個人のやる気によって実地に示されてきた。Y2K問題は世界的な意味を持つ目標を達成するには、正規機関との交渉に典型的に付随してくる官僚的形式主義を排して、非政治的レベルでの国際的コミュニケーションを確立することの有利さを実証した。こうしたアプローチが多くの問題を防いだものの、一方では正規チャネルが必要なケースもあった(例えば資金の支出の承認)。この場合、実際に意味をもたせるために十分な迅速さで物事を行う能力には、機関によって大きなばらつきがあった。1999年の年末に近づくにつれて、Y2K問題に関与した人々は、あまり積極的な関心を示してもらえないところには二度と助けを求めようとせずに、助けをを求めて「開いているドアなら何でも押してみる」という実際的方法を採った。
- 公私のパートナーシップも機能しうる
多くの部門で公私の組織がY2K問題解決のために手を携えて働いた。その基調を定めたのはジョイント2000会議(国レベルの調整機関)とグローバル2000(金融機関)との間のファイナンス部門でのパートナーシップであった。航空部門ではICAO-IATAチームが、不調をおこさない日付変更を実現した。これらに限らず他のケースでも、各々の最良の特質を引き出すため、民間部門が政府当局及び出資部門と手を携えた。国際的経験や多くの国々の内部でのそれに類するパートナーシップは、産業全体に影響する脅威に直面したとき、公私の利害は収斂するものであるということを示した。
- テクノロジーは管理可能である
Y2K問題の側面のうちで我々を最も元気づけてくれるのはおそらく、人間社会というものは諸々の境界を超えてまとまり、自らが生み出したテクノロジーの問題を管理できるということを実証したことである。
Y2K問題は、プロジェクトを管理し、一般の人々が持続的に情報を得られるようにするための情報の使い方について6つの教訓を与えてくれた。
- 事実が信頼を築く
一般の人々の信頼を維持するための鍵は、どのようなシステムが(Y2K問題に対する)準備がなされているか、また、システムの準備ができていないかもしれないところでサービスの継続を保証するためにどのような危機管理計画が作成されているかを含め、準備状況に関する詳細な情報の発表であった。信用できる説明を行いうるほどの詳細な情報を背景としない安請け合いは役に立たないことが分かった。情報の空所が生まれたケースもあった。上質の情報が無い場合にその空所を埋めるのは、破滅についてのうわさや手前勝手な予想でなった。それぞれの国は、あらかじめ情報を公表しなかった場合、国の準備状況についての一般の人々の見方を逆転するには時間とフラストレーションを要するということを苦い経験から学んだ。
- 自己報告を評価せよ
ほとんど必ず、各国Y2K調整官の結果予想は外部組織のそれよりも正確であった。社会の反動を防ぐために調整官は可能な限り最善の予想を語っているとの理屈から、多くの外部団体は、各国調整官の対応完了声明を手前味噌なものとして割引して考えた。実際には、ほとんどの調整官は、過度に前向きの予想を行う方が、慎重な声明を出すよりもはるかに重大な結果をもたらすということを認識していた。調整官はY2K問題の結果について引き続き説明責任を持たされるし、欺かれた社会は覚悟のできている社会よりも予想できない反応を示すものである。こうして調整官には、発表の際に慎重な方向に誤る傾向があった。これは多くの外部の予想者が認識し損なった挙動である。
- 密着がベター
自己報告の真価に付随するもののひとつは、問題に密着した情報筋の信頼性であった。第3章に記したように、ロシアの天然ガス供給についての懸念を持つ人々もいたが、そうした懸念を公然と且つ正確に払拭したのは、ロシアのガスに完全に依存しているフィンランドのガス会社であった。この潜在的問題にフィンランドがきわめて密接していたことが、彼らを優位にしたのである。
- 詳細は重要
多くのY2K問題情報の苛立たしいひとつの側面は、その漠然とした記述であった。対応完了の表明を実証する事実の重要性は前述の通りである。同じように重要なのは潜在的なY2K問題による「障害」の現実的影響についての詳細であった。おそらく、問題を解決する直接的責任を持たない者による予想がしばしばひどく悲惨であったことについてのひとつの説明は、現実の帰結についての知識の欠如である。確かにY2K問題のための修正が無視されていたなら、多くの金融システムやビジネスシステムは完全に停止していたであろう。しかしながら、多くの国々の中核的な電力や電気通信のインフラについての懸念を集めた、コンピュータ(チップ)の埋め込まれた設備に関しては、Y2K問題による「障害」とは、サービスの中断ではなく正しい管理情報の欠如を意味することが多かった。システムのY2K問題対応が終わっていないという表明について、「だからどうした?」という困難な質問が発せられることはほとんど無かった。
- 情報の遅れに注意
情報が公表されるまでには時間がかかる。行政府や組織内部ではデータ収集、処理、要約、発表前のレポートチェックといったプロセスを経るのが通常であるが、そのことは、一般向けレポートは普通、数週間どころか数ヵ月も前の状況についての情報に基づいているということを意味していた。時間が無くなるにつれ、レポートの作成は、一般向け情報の陳腐さも相俟って、最終的な(Y2K対策のための)修正を済ますことよりも重要ではなくなった。1999年の最後の数ヵ月にはほとんどの国々がそれぞれの予想されたスケジュールをこなしていたが、外部の予想者がこのような進行に気付いたのは後のことである。
- 情報カルテルはほとんど無価値
部門毎のY2K問題の調整または評価を行うほとんどどの公私の団体も、製品、システムまたは国の準備状況についての情報を内容とする詳細なデータベースを開発した。ほとんどの民間組織は、賠償責任、セキュリティまたは所有権(専用権)上の理由から、外部の人々とは詳細情報の共有をしなかった。これらのデータベースは、実際のY2K問題テスト結果を示す医療機器のリストから、扱いの微妙な空港の準備計画の目録にまで及んでいた。このような詳細情報を公表することのメリットについての論議にはかなりの注目が集まった。詳細情報を得ることによって、(情報への)アクセスを持つ人々はY2K問題に関する自らの努力の焦点を、特定のシステムレベル(医療機器の場合にそうであるように)により良く絞ることができた。組織レベル(空港の場合にそうであるように)では情報の質は通常、一般向け情報と比べて少しも良くない(その上確度もより低いことがある)ことが分かった。
Y2K問題は、大規模プロジェクトの管理について5つの教訓を与えてくれた。
- プログラムは「分かりやすい英語」で説明すべき
世界中のY2K問題担当者は、テクノロジーの問題と思われたことが実はビジネスや管理の問題であるということをどのように伝えるかということを学んだ。彼らは、テクノロジーの障害による影響を、それぞれの組織の幹部が理解できる用語でいかに説明するかを学んだ。この経験は将来のテクノロジー社会において役立つであろう。それぞれの国のレベルでは、調整官は、世界的な経済組織やメディア組織に影響を及ぼすためは、読みやすい英語版にしたそれぞれの準備状況に関する報告がオピニオンリーダーの手元に確実に届くよう、かなりの注意を払う必要があることを学んだ。
- 情報とコミュニケーション・テクノロジーは任務にとって決定的
あらゆるレベルの管理者が、それぞれの組織がいかに情報やコミュニケーションのテクノロジーに依存しているかを学んだ。多くの組織にとって、自らの内部システム、それぞれの供給元や顧客のシステム、さらにはインフラ自体がY2K問題によって或る程度危険に曝されたためである。
- 自らのシステム、供給元そしてビジネスプロセスを知るべき
Y2K問題は、諸々の組織が、それぞれの緊要なシステム、それらシステムの機能及び相互関係について、包括的な現状把握を行う契機となった。多くの組織にとって、そのような現状把握を行ったのは今回がはじめてであった。国のレベルで言えば、多くの国々がY2K問題を利用して、非常時対応メカニズムの調整を改善させた。同様に諸々の組織はY2K問題をくぐり抜けて、それぞれが商品やサービスの重要な供給を誰に依存しているかについて理解を大幅に高めた。それぞれの国もまた、重要な材料やサービスがどこからもたらされているかについて多くを知った。結局のところ、システムや供給元について知ることにより、その組織が現実に自らの任務をどのように遂行しているのかを知る必要性について、組織内の理解が深まった。Y2K問題は、長年にわたって展開されてきた多くの込み入ったプロセスを明らかにするとともに、それらを理解しひいては改善する機会をもたらしたのである。
- リスク管理は先を見越して
Y2K問題は、単に危機管理計画を作成するのではなく、サービス中断のための準備を整えることの有用性とテストを行うことの重要性を教えてくれた。またそれは、懸念が大きくなるのを待ってから反作用的にそれを正そうとするよりも、懸念の拡がる可能性のある事柄について早く且つ頻繁に社会に知らせる方が有利であることを強調して見せてくれた。
- 成果を挙げるための要件には優先順位を
究極的に重要なのは、小規模なY2K問題によるバグのすべてが解決されたかどうかではなく、緊要なサービスが提供されたかどうかということであった。重要な資源を先ず緊要なインフラに関するとの取り組みに注ぎ込み、緊要性の低い問題は後回しにするという世界の落ち着いた戦略は見事に機能したのである。
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