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第二部 核の危険を低減するための戦略的関係の修復

  1. 既存の核兵器国あるいは今後核武装を行う可能性のある国々の不信感と対抗関係により、核不拡散・核軍縮の先行きは明るくない。これは、米ロ中の主要国間の関係及び核対立が十分ありうる紛争地域、即ち南アジア、中東、北東アジアにおいて対処すべき問題である。大国間の関係を修復し、相互の戦略的な不信感を和らげることは、三地域において、核不拡散・核軍縮を進めるための環境整備に大いに役立とう。また、大国間の関係にかかわらず、これらの地域内の各国が、核不拡散・核軍縮の進展に向けて重要な政策をとることはできるし、また、そうするべきである。

大国間関係の修復

  1. 核不拡散と核軍縮の成功のためには、米・ロ・中間の全ての二国間協力が必要である。近年、米ロ関係及び米中関係は大変悪化している。これらが改善されなければ、また、改善されるまで核の危険は増大する。

米ロ関係の修復

  1. 96年にキャンベラ委員会報告書が発表されて以来、米ロ関係は、経済的にも軍事的にも不均衡が拡大し、両国の国内政治における対立と党利党略が増大し、両国は協力関係から各々が独自の行動を取る方向へと後退した。その結果、不拡散および新しい核軍縮に向けて共同のイニシアティブを取る努力が全く行われなかった。今や冷戦時代の米ソ関係の特徴であった軍備管理、軍縮、ABM条約など予測不可能性を回避しようとの共通の願いが欠如した危険な状態にある。

  2. 冷戦状況の衰退とともに、多くの努力によって築かれた米ロ間のパートナーシップは、戦略兵器削減諸条約や湾岸戦争での協力関係を生み出す迄に至ったが、今や崩壊しつつある。両国における政治的分裂、外交政策上の大きな相違、また共通の基盤を再構築するのに必要な協調的リーダーシップの欠如などがその原因である。両国関係の現状を理解するためには、99年のユーゴスラビア問題を含む最近の緊張関係が生ずる以前に達成された成果を評価するのが有益である。冷戦終結後5年間の幸せな時期は終わった。前向きな傾向は部分的に続いてはいるが、難しい局面が増加している。

  3. 冷戦終結前後の数年間には、軍備管理が進捗し、戦略的安定が向上するなど、大きな進展が見られた。戦略核が大幅に削減され、ABM条約に違反しない努力が追求された。START IIで、米ロは配備された戦略核をそれぞれ3000発から3500発に削減することとした。両国はロシアがSTART IIを批准次第、戦略核をそれぞれ2000発から2500発に削減するよう、更なる戦略兵器削減に向けた協議(START III交渉)を始めることで合意した。

  4. この期間の米ロ間の最も重要な成果は、両国の行動がかなり先まで予測できたことにある。国際関係の新たな構図を理解し、机上の問題と真の問題を区別し、グローバルな脅威と地域的な脅威の変質につき共通の理解を得る上で進展が見られた。両国は、民族紛争等の地域紛争、国際テロ、通常兵器の違法取引、グローバルな経済危機への懸念を共有するものと思えた。この共通認識は、98年9月にエリツィン大統領とクリントン大統領が署名した「21世紀に向けての安全保障の共通課題に関する共同声明」に反映された。米ロは、繰り返し両国間の対話と妥協が国際的な緊張緩和に貢献してきたことを顕示してきた。その例として、イラク、そして、ある時点での旧ユーゴスラビア問題が挙げられる。しかし、このパターンは大きく後退した。99年のユーゴスラビアでのNATOの行動は、米ロ間の溝を広げた。

  5. この後退は、米ロが政策上の相違に寛容であった90年代初頭と際立った対照をなしている。この時期、見解の相違は対立には至らず、国益に基づいた相違点は当然のものとして受け止められ、米ロのパートナーシップはこの寛容性により保たれた。しかし現在、特に国際問題への単独の、また各国間の対応をめぐって米ロ間の相違が拡大している。ロシアは、国連の旗の下での多国間行動が不可欠である旨主張しつつ米国は紛争への対応において、余りに一方的行動や、軍事的措置に傾斜しすぎているとしている。米国と西欧は、多国間の努力が成功することを望む一方で、人道に対する犯罪や大量破壊兵器関連の条約違反に対抗する多国間行動と相入れない国連安保理におけるロシアの拒否権行使を認めてこなかった。

  6. 米ロ関係が紛糾すれば、核の危険削減努力は大きく損なわれる。配備されているか否かを問わず、冷戦時代の核軍備を検証可能で、確実且つ不可逆的な方法で大幅に削減し、廃絶するためには、両大国間の協力が必要である。ソ連時代の保有核兵器を安全に廃棄するためにも米ロによる協調的な取り組みが必要である。ロシアの困難な経済状況を考えると、ロシアがこの複雑な問題に十分な資金や資源をつぎ込む見込みはない。核拡散の懸念のある国家や非国家主体、あるいはテロ集団の手に核兵器の原料が渡る可能性を極小化するためには、外国からの援助が極めて重要である。拡散の懸念や影響が最も大きい地域の、最も難しい地域安全保障問題を解決するためにはロシアの協力も必要である。

  7. 建設的な米ロ関係を回復するため、両国の指導者は緊急に行動をとる必要があり、さもなければ核不拡散・核軍縮努力が大きく後退する危険が大きい。少なくとも、START IIの批准は更に遅れるであろうし、それに続く新たな二国間戦略兵器削減条約の見通しは更に遠のくであろう。ロシアは、戦略核の寿命を越えてこれらを維持するべく懸命に努力するであろうし、その戦力態勢や核ドクトリンにおいて戦術核兵器をより重視していくだろう。また、ロシアは通常兵力の増強を試みるだろう。ベラルーシやおそらくウクライナでも、国内あるいはロシアの政治情勢次第で、その非核の立場を再検討すべしとの強い圧力が生じるであろう。新たな地政学的環境の中で、ロシアは、核拡散の懸念はあるが自らが戦略的パートナーと認める国々との間で軍事・技術協力を拡大するかもしれない。

  8. 核不拡散と軍縮に深い痛手を与えるような、グローバルな反動も生じるだろう。全ての核武装国の軍縮を先導するためには、米ロの核削減を進展させる必要がある。しかし、核の危険を減じるための米ロの協調的関係を再確認することは難しいであろう。ユーゴスラビアへのNATOの行動に加え、想定される米国本国のミサイル防衛及びNATOへの拡大がとりわけ争点となっている。ロシア経済の低迷や安定し民主的な、国家建設が難しいことで、ロシア国民が憤慨しているのは理解しうる。ロシア国内でナショナリズムや戦略的競争といったことが再び取りざたされている。地域的な拡散問題、とりわけイラク、イラン、インド向けの機微な品目の規制につき、米ロ間の亀裂は広がっている。大量破壊兵器計画に使用される物質や技術の輸出規制が急務であり、米ロの調整が必要である。

  9. STARTプロセスは、新しい核の危険の増大に比べ大幅に遅れている。ロシアによるSTART IIの批准の遅れは、条約交渉に費やした時間よりも長くなっている。遅ればせながら批准されたとしても、立法府は様々な条件を付し、条約の実施を更に遅らせたり、複雑にするだろう。冷戦時の軍備削減に重要な役割を果たした米ロ戦略核兵器削減プロセスは、依然有効だが、現在や今後の課題を扱うには全く不十分である。

  10. 兵器削減プロセスの相違は、米ロ間の大きな政治的相違を反映している。政治問題の解決という重荷を軍備管理に背負わせるのは誤りである。真実はその逆であり、核の危険を減じる努力を再開させるには、地域的拡散と安全保障に関する問題を含め、主要な政治的相違を修復する必要がある。しかし、軍備管理の取り決めは、米ロ指導者による協調的努力を促進・強化し、幅広い協力関係の建て直しに資するであろう。

  11. 米ロ協力の建て直しがかなり難しいため、2000年の両国の国政選挙で新しい指導者が就任するまで、こうした努力を延期すべきだという見方もあろう。しかし、核の危険は選挙の周期と重なるものではなく、拡大し続ける。東京フォーラムは、米ロ関係を修復するための措置を直ちに取るよう、米・露の政治指導者に強く要請する。さもなくば、地域的及びグローバルな安全保障を脅かしている傾向が更に強まることになろう。

  12. 東京フォーラムは、99年6月20日の米ロ共同宣言を歓迎する。また、同日クリントン、エリツィン両大統領が、ABM条約の修正について協議を行う一方で、START IIの批准促進に努めることで合意したケルン会合での進展を歓迎する。共同宣言は、START III交渉の開始が必ずしもSTART IIの批准の後ではないことにも言及している。しかし、6月20日の会合が、持続的で効率的な二国間軍備削減プロセスの復活につながると判断するのは尚早である。前途には数多くの障害があり、ケルンでの合意に立脚し、引続き両国に働きかけていかなければならない。

  13. 米ロ関係の冷却化は核の危険の削減に深刻な影響を与えるため、両国の指導者は関係改善に高い優先順位を与える必要がある。こうした努力を促すため、東京フォーラムは核問題に係る対話が如何に両国関係を改善するかについてのアイデアを提供する。これらは、本報告書の核軍縮を扱った部分で示されている。

米国・中国関係の修復

  1. 核の危険を減じるため、米中間でも新しいパートナーシップが結ばれる必要がある。近年の米中首脳等の相互訪問は、有意義ではあったが、両国の複雑な関係にある相違を調整するには至らなかった。両国の相違がいかなるものであれ、核拡散の懸念を減じるための協力関係が必要である。両国の対話が強化されれば、核兵器や政策意図の透明性を高めることになり、包括的核実験禁止条約(CTBT)、輸出規制など両国の様々な核不拡散・核軍縮措置への参加を一層強固なものにしうる。また、ミサイル防衛への中国の懸念に応えることで、地域的及びグローバルな安全保障の複雑化を防ぐものと考えられる。

  2. 中国は冷戦において中心的な役割を果した訳ではないが、来世紀には、より重要な大国となる可能性が大きい。中国がどのような形で強大化する力を行使するかは、東アジアにおける米国のプレゼンスに直接的影響を与える。他方、東アジア・西太平洋における米国の役割は、中国の安全保障政策の決定する要因となる。特に、米国がこの地域において安全保障関係を築く際、中国の安全保障上の関心を踏まえて対応することが肝要である。両国の政策が核の危険の削減努力に影響する。

  3. 東アジアにおける戦域ミサイル防衛(TMD)導入問題は、米中間の主要争点の一つである。中国は、東アジアにおけるTMDは不安定をもたらすと主張する。同様に、核兵器の将来に関するどの分析でも触れられてこなかったが、中国が新しく二型式の固形燃料による高度大陸間弾道ミサイル-おそらく多弾頭-を開発しているとされており、国際社会の大きな懸念材料となっている。

  4. 米中は、今後協調的かつ建設的な形で戦略問題及び核拡散問題に対応するよう努力すべきである。米国のメディアや政界の一部にみられる過剰な警鐘的アプローチは、この意味で有益でない。中国が軍事力を増強しているとみられていることが、近隣諸国のみならず、それ以外の地域においても不安感を生み出している。核政策を説明し、また、不拡散政策を明確にすれば、中国は他の核兵器国同様、国際社会に改めて安心感を与えるだろう。

  5. NPTの下、全ての核兵器国は核兵器を削減し、最終的に廃絶するための具体的措置をとる責任を有する。90年代初めから米ロは核を大幅に削減する努力をしてきており、英仏も核を削減してきたが、中国は未だ同様の措置を取るに至っていない。東京フォーラムは、米・ロ・仏・英に対し、核軍備削減を継続するよう求め、また、中国に対し、その他の核兵器国と同様、交渉その他により核を削減するための具体的措置を取るよう要請する。また、五核兵器国は、核兵器分野における信頼醸成及び透明性を高めることができよう。この関連で、全核兵器国は核軍備が増強されないことを確認し得よう。

ロシアと中国の間の信頼強化

  1. 中ロ間の良好な関係は両国にとってのみならず、世界にとっても重要である。両国関係は、この数年改善し、99年4月の国境線確定に至った。来るべき将来にわたり友好関係を保つことが重要である。

  2. 両国は新しい時代に入ろうとしているものの、将来の中ロ関係を予測することは難しい。中国の国力の増強とロシアの弱体化が進み、また、両国と米国との摩擦が増大しており、新たな懸念要因となっている。両国間の非対称性は拡大するかも知れない。ソ連の崩壊に伴い、ロシアはウラル山脈の東側のアジア地域に人口の少ない未開発で広大な領土を保持することになったが、これが中ロ関係に直接影響を及ぼす。双方が軍備増強されれば、二国間関係に悪影響を与えるであろう。ロシアと中国の核は、将来、均衡に近づく可能性があり、両国が核抑制政策をとることが、重要な信頼醸成措置となるであろう。

地域拡散の阻止と巻き返し

  1. 98年5月のインド、パキスタン両国による核実験は、核の拡散が新しい危険な段階に達したとの現実に世界を引き戻した。未だ問題を解明させていない両国は、それぞれ核への野望を明らかにしていた。両国の核実験は、国際的な不拡散規範が地域の安全保障の要請に屈したことを意味し、地域紛争が現実の核戦争に発展する懸念を増大させた。

  2. こうした懸念が増大しているのは南アジア地域のみではない。中東や北東アジアにおいても核拡散を阻止し、状況を巻き返す措置を緊急に講じる必要がある。これら三つの地域全てにおいて、国家間の対抗意識が核兵器への野望と結びつき、長期的かつ破局的な核の危険性を新たに生ぜしめている。近年、地域的な核拡散を阻止し、巻き返す動きが見られるが、これらの機会を逃してはならない。核開発計画を中止したブラジルとアルゼンチンの事例は、アルゼンチン・ブラジル核物質計量管理機関(ABAAC)の創設にみられる地域的かつ二国間の信頼醸成や協力の枠組みを通じ、地域の核への野心を防止し得ることを示した。

  3. 95年のNPTの延長・再検討会議は、更なる核軍縮への道を開き、同条約を可能なかぎり普遍化するものと思われた。核兵器国が期限付核廃絶にコミットする準備ができていなかったことは別にして、再検討会議の争点は、中東、南アジア、北東アジア等地域の安全保障問題に関するものがほとんどであった。これらの問題は深刻に受け止められなければならない。単に紛争当事国に忠告したり、より広い次元の安全保障を考慮することなく核関連活動の抑制を要求するだけでは解決できない問題である。

  4. 核の危険がどのようなものか、またその原因が何かは、三地域毎に異なる。共通点は、核軍縮の進展を妨げる可能性があること、また、世界が核の拡散を当然とみなす結果を招く可能性があることである。核拡散の事例は各々異なっているので、国際社会は、それぞれの状況に応じて肌目細かく対応しなければならない。

南アジア

  1. 南アジアにおける核実験と核兵器の拡散は、五核兵器国と同等の扱いを望むインドの野心、国内政治要因、対中認識を含む安全保障上の懸念によって生じてきた。インドは核兵器の保有を大国の資格の一部と考えており、自国の地位を68年のNPTに規定された核兵器国と非核兵器国の区分の外側にあるものと考えている。

  2. 過去数十年間、インドは全面的核軍縮の提唱国であった。今日、インドの政治的及び知的エリートたちは、全面的核軍縮への要請が拒否されたことこそが、インドが核兵器を求めた要因であると言う。しかしながら、この議論が説得力をもたないのは、インドが核保有に転じたのが、米国とロシアがそれぞれの核戦力の大幅削減を実施していた時期であったからである。インドの核実験のタイミングは、他の核の危険性を大幅に高め、核軍縮の達成をより困難なものにするものである。

  3. インドの核計画のもうひとつの動機は、中国との関係である。インドでは、中国の長距離弾道ミサイルとチベットに配備されていると言われている短距離ミサイルに懸念を抱いている人々がいる。インドが中国領土の大半に到達する長距離ミサイルを開発している今日、中国が受けとめるインドの脅威も増大するかもしれず、北京政府の核政策を強化させる圧力を増大させている。

  4. 南アジアにおける核軍縮競争の出現は、インドや中国の他、パキスタンも関与しているその複雑さのため、極めて危険である。核能力を別にすれば、パキスタンはインドにとり、重大な軍事的脅威ではない。印パの軍備競争の原因は、1947年のインド亜大陸の分割とそれ以降の数多くの紛争と危機にある。パキスタンはインドに対し通常兵力では対抗できないため、核兵器によってインドに拮抗しようとしている。これによりカシミールの平和がもたらされていない状況にある。

  5. インドの核能力が増大するにつれ、中国がこれを静観するという保証はない。その結果として生ずる摩擦は、双方の安全保障を弱体化させ、南アジアをさらに危険な状態にするだろう。インドとパキスタンの政治的危機は、繰り返されており、核兵器能力が明らかになったことに伴い、さらに加熱している。インド、パキスタン両国の戦略家の多くが、核兵器能力を明らかにすることで、戦略的安定が向上すると信じている。しかし、これは自然とそうなることから程遠いものである。即ち、両国は、未だリスク削減・安定化の為に特別な対策を講じてはいない。インド、パキスタン両国は、即時配備可能な弾道ミサイルの発射能力を示した。その結果、核搭載可能なミサイルの発射命令と実射に至る時間は極端に縮まっている。地理的要因も危機の際の不安定さを増幅している。即ちパキスタンは戦略的縦深性がない為に、核兵器を高度警戒体制下に維持することを強いられていると感じるかもしれない。極端に短い距離と飛行時間を考えれば、危機の際の意思決定は数分間で行う必要があり、破局をもたらす判断ミスの可能性も高くなる。指令に基づかず、核兵器搭載ミサイルが発射されるリスクもある。

  6. 安定化措置を欠く中で、もうひとつの危機が既に南アジアで発生した。核能力を公にしたことでインド、パキスタン両国の安定と安全保障がもたらされたということはなかった。もし、99年のカシミール危機の影響を払拭出来なければ、更に危険な事態を招くであろう。核実験と核搭載可能ミサイルの飛行実験を実施するという両国の決定は、連鎖反応を招こう。とくに安全保障上の不確実性が別の地域で発生すれば、より多くの国が非核兵器国としての立場を見直す恐れがあり、そうなれば核廃絶を究極の目標とした、核不拡散と核軍縮の相関関係は弱まるだろう。

  7. 東京フォーラムは、インド、パキスタン両国に対し、国連安保理決議1172号と98年6月のG8外相会合コミュニケに示された「要求項目」を改めて確認する。フォーラムは、国際社会が、インド、パキスタン両国に対して、引き続き国連安保理決議1172号の全ての要求を実施するよう求めることを要請する。その要請には、両国が遅滞なく無条件にCTBTに加入し、核兵器及び弾道ミサイル開発計画を即時中止し、核の実戦配備を控え、核兵器用分裂性物質の製造を中止し、大量破壊兵器又はそれらを運搬可能なミサイルの開発に貢献し得る装備、物質及び技術の輸出を控えることが含まれる。東京フォーラムはインド、パキスタン両国が核実験停止のモラトリアムを維持することを求める。

  8. 東京フォーラムは、インド、パキスタン両国に国際規範を受入れるよう引き続き国際的な圧力をかけなければならない、と考える。究極の目標は、インド、パキスタン両国を説得し、核兵器を放棄させ、NPTに非核兵器国として加入させることにある。後者は、インド亜大陸での和解が成立し、米ロ間の核兵器削減プロセスが継続され、再活性化され、そして中・仏・英を含めた適切な場での核軍縮プロセスが拡大されるといった文脈でのみ達成し得よう。

  9. 東京フォーラムは、インド、パキスタン両国が、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)交渉が終結するまで兵器用核分裂性物質生産中止を発表し、条約交渉に建設的に貢献するよう求める。この文脈で、また中国が国際社会の安定化勢力となることを望んでいることに留意し、中国が兵器用核分裂性物質生産中止を宣言すればインド、パキスタンがこれにならうことになろう。

  10. 東京フォーラムは、インド、パキスタン両国がNPTの下で特別な地位を与えられるべきではなく、NPTの核兵器国の法的地位は変更されず、また、核実験の結果、両国に新たな地位を与えるべきでないと考える。両国の行為が、国際の平和と安全の基本である国際的な核不拡散の規範に違反する限り、両国が国連安保理に常任の議席を有することは極めて困難である。核戦力の保持と、国連安保理常任理事国を含む大国の威信と影響力との相互関係は断ち切られる必要がある。五常任理事国のうち4ヶ国は、核兵器を取得する遥か以前に常任理事国の資格を獲得している。英仏は、国際問題に幅広く関わってきたことによって現在の地位を有し、核戦力の一方的削減によってもその地位を失ってはいない。ドイツと日本は経済発展を通じてその地位を得た。

  11. 東京フォーラムは、インド、パキスタン両国に対して、核の危険を低減させるための具体的かつ検証可能な措置をとるよう求める。99年2月のラホール宣言には、この方向への建設的な実行計画が含まれている。しかし、インドにおける政治的混乱と分割状態のカシミールにおけるパキスタンの無分別なイニシアチブにより、この計画は実行から遠ざかりつつある。インド、パキスタンはラホール宣言で合意した核リスク削減措置を実行に移す義務がある。両国間に、信頼のおける対話のチャンネルを確立することが必要である。核武装戦力を危機の最中に警戒体制に置いたり移動させたりしないよう、再確認措置が必要である。緊張地域におけるミサイル飛行実験や通常軍の演習を事前通告することは必要不可欠である。東京フォーラムはラホール宣言により始まったプロセスを強く支持し、武力により立場の相違の解決を目指すあらゆる試みを拒否する。東京フォーラムは、国連安保理の常任理事国及びその他の国に対し、ラホール宣言への協力を支持し、カシミール紛争解決のため二国間交渉で合意に達した事項の実施に協力するよう求める。とりわけ、99年の紛争の結果、カシミールにおける新たなイニシアティブが必要である。

  12. 中国が南アジアに対する核政策を抑制している中、中印両国が新たな信頼再確認措置をとることにより、両国の脅威認識は大きく低下するであろう。中国の核廃絶は、米ロの核廃絶との関連においてのみ可能であり、近い将来の提案としては非現実的である。しかし、ひとたび、米ロの核保有数の上限が引き下げられれば、中国は世界規模での核軍縮プロセスにおける役割を果たすべきである。一方、中国が隣国との信頼を醸成し、隣国の脅威認識を除去する方策を講じれば、中国は最強の地域大国として、その立場を強めるであろう。

  13. 東京フォーラムは中国及びインドに対し、両国の国境付近に短距離ミサイルを配備しない旨の検証可能な誓約を求めるとともに、長距離弾道ミサイルの配備を凍結又は控えるよう求める。更に、中国及びインドは87年の米ソ間の中距離核戦力条約(INF条約)の条項に照らし、500~5500kmの射程を持つ全ての地上配備ミサイルの放棄を表明することもできよう。そのような措置は米ロの軍縮措置と整合性のあるものとなろう。もし米ロの核軍縮プロセスがこの報告書の提言の通り、START又は並行的かつ相互検証可能な方法により勢いを得て進展するならば、中国がそのような提案に同意することはあり得るであろう。

中東

  1. 中東はきわめて不安定な、紛争の絶えない地域である。1945年以来、主要な紛争が数回発生している。中東紛争、80年代のイラン・イラク紛争及び、91年の湾岸戦争である。この地域は、様々な合従連衡、未解決の敵対関係、そしてあくなき大量破壊兵器開発計画によって特徴づけられる。

  2. 中東で核兵器を開発した最初の国はイスラエルで、周辺諸国と異なり、NPTには加盟してない。イスラエルの核は、同国の戦略環境に対する考え方を以て理解されるべきである。イスラエルは核の保有につき肯定も否定もしていないが、航空機あるいは中距離ミサイルに配備可能な高度な核戦力を保有していると広く信じられている。イスラエルは、その存在を認めようとしない諸国に包囲されていると考えている。イスラエルは周辺諸国に対抗するための通常兵力を保有しているが、その人口、経済力、そして実質的には軍事力でも、周辺諸国を大幅に下回っていると考えている。このためイスラエルは核兵器を、生存に不可欠な抑止の手段とみており、イスラエルと周辺諸国を含む地域には、核の価値低減を可能にするような平和的環境が欠けている。

  3. アラブ諸国の視点からは、状況はまったく異なって見える。大半のアラブ諸国は、イスラエル国家の存在を受け入れる準備がある一方、イスラエルによるNPT加盟拒否、パレスチナ国家の否定、アラブ地域の占領継続、さらにミサイルや通常兵器能力の開発政策は、受け入れることができない。イスラエルの化学、生物兵器による戦闘能力もアラブ諸国の懸念の対象である。アラブ諸国はまた、イスラエルのミサイル防衛システム(アロー)と情報衛星の開発と配備に対する米国の継続的な技術支援についても批判的だ。アラブ・イスラム諸国の間ではイスラエルの核能力に対する、根深い脅威の念が生まれており、これが95年のNPT延長・再検討会議で特に明らかになったように、アラブ・イスラム世界におけるNPTの支持を低下させている。

  4. 和平プロセスが開始され、合意が達成されたことにより、イスラエルとアラブ諸国の間で、核問題の解決を含む和平への道が開かれるかもしれない。エジプト・イスラエル平和条約、マドリード中東和平会議、オスロ合意、あるいはイスラエル・ヨルダン平和条約で示されたような和平プロセスの成功によってのみ、核問題の深刻さが軽減され、イスラエルの究極的な核兵器の放棄は可能になると考えられる。96年から99年までのイスラエルの政策から和平プロセスは無視されていたが、今、和平プロセスは再活性化されつつある。東京フォーラムはそれゆえ、この地域の安定と核不拡散の将来のために、アラブ・イスラエル間の和平プロセスが極めて重要であることを強調する。和平プロセスの成功は中長期的に、中東からの核兵器やあらゆる大量破壊兵器の除去を促進しよう。和平プロセスと大量破壊兵器の軍縮はまさに、平行して進められなければならない。

  5. しかし、中東にはこれ以外の核拡散の危険が存在する。イラク、イラン両国は核兵器や他の大量破壊兵器及びミサイル計画の推進により、イスラエルおよび周辺諸国にとって安全保障上の深刻な懸念となっている。イラクは核兵器の開発計画を秘密裏に進めており、米国政府によればイランも核兵器製造を目指しているという。イランは最近、射程距離1500キロの弾道ミサイルの実験を行った。その一方でイラク大量破壊兵器の廃棄に関する国連特別委員会(UNSCOM)によるイラクの査察は中断されており、適切な形で再開される見通しはない。イスラエルの核戦力に加え、もしイランまたはイラク、あるいはその両者が核弾頭付き中距離弾道ミサイルを保有すれば、中東地域はますます不安定になろう。これらの国々の規模や戦略的脆弱さの違いが、流動的で危険な力関係を生み出し、これが破滅的な結果を招く可能性がある。

  6. 弾道ミサイルとその技術の導入が、中東の安定に特に脅威となっており、問題はさらに中東地域を超えた広がりを持ちつつある。当面の課題として、東京フォーラムは、核供給国グループ(NSG)及びミサイル輸出管理レジーム(MTCR)の輸出規制に参加する全ての国、特にロシアに対し、ミサイル関連技術・専門家を含むあらゆる拡散の回避に全力をつくすよう、緊急に訴える。東京フォーラムはまた、北朝鮮や他のMTCR非加盟国が、機密性の高い全てのミサイル技術を中東へ移転しないようこれら諸国を説得するための努力を支持する。

  7. 中東地域に於ける潜在的な核拡散の担い手が、ロシアやカザフスタン等の地域にある管理が行き届かない核物質を入手しようとの誘惑に駆られるかもしれぬことは、新たな懸念材料である。国際社会はロシアやカザフスタンとあらゆる協力を行って、核物質を安全に保管すべきである。

  8. 東京フォーラムは国連安保理、とりわけ5常任理事国に対し、安保理決議と91年に安保理が可決した長期監視計画に基づき、イラクに対する長期的な大量破壊兵器規制体制の早急な確立を求める。東京フォーラムはイラクに対し、関連する安保理決議の遵守を求め、また常任理事国に対しては、全中東諸国の問題を扱う際、核不拡散問題を優先するよう強く求める。

  9. 東京フォーラムは、中東地域のすべての国に対して、信頼と安心を醸成する措置を一方的に取るよう求める。東京フォーラムは、中東地域のすべての国に対し、NPTに加盟し、CTBTを批准し、国際原子力機関(IAEA)の最近の追加議定書を含め、あらゆる核物質に関する保障措置を法的に受け入れ、CWCを署名・批准し、NPTが疑問の余地なく確実に遵守される更なる手段を取るよう求める。東京フォーラムはイスラエルに対し、保障措置がとられていないディモナの原子炉を停止するか、ただちに国際的な保障措置の下に置くよう求める。中東地域のすべての国はミサイル発射実験を中止し、ミサイル計画を自粛すべきである。ミサイル拡散を制限する地域協定の交渉が開始されるべきであり、その際、87年の米ソのINF条約の規定に準拠することが有益であろう。

  10. 東京フォーラムは、アラブ・イスラエルの多国間交渉プロセスが、軍備管理・地域安保プロセス(ACRS)の再活性化により促進するものと信じる。東京フォーラムは中東における非大量破壊兵器地帯の創設が真剣に検討されるよう強く提言する。こうした地帯の創設は、アラブ・イスラエル和平プロセスが成功裏に終結し、イラン・イラクに於ける実質的な政策変更があってはじめて可能だろう。われわれはイラン、イラクに対し、ACRSプロセスを含むアラブ・イスラエル和平プロセスに加わるよう求める。

  11. この中東非大量破壊兵器地帯では、核兵器、化学・生物兵器の保有は禁止される。この地帯では、チャレンジ査察も含め、IAEAの改善された保障措置よりもはるかに厳しく強硬な検証措置が必要であろう。監視には、国際機関や個々の国家、あるいは両者を含む外部からの支援が必要である。安保理常任理事国は同地帯創設において、保障の提供や履行の支援などを含む、特別な役割を担う必要がある。

北東アジア

  1. 北東アジアでは北朝鮮が、緊急かつ重大な大量破壊兵器およびミサイル拡散の脅威を生み出している。これら不安定要因である北朝鮮の大量破壊兵器とミサイルの開発計画を止めさせ、白紙に戻すことに成功し、かつ国際的な不拡散の努力がなされれば、北東アジアにおける更なる拡散の出現を阻止し得るであろう。核拡散が懸念される他の地域同様、北東アジアでも、全ての国の安全保障上の懸念が軽減されれば、拡散のリスクは最小限に抑えられよう。北朝鮮の核拡散は、同国の病める全体主義政権が抱える問題と関係している。北朝鮮はその体制および、自らもたらした国際的孤立のために苦しんでいる。飢餓と貧困は広範に拡がり、経済は崩壊寸前だ。北朝鮮指導部の好戦的行動は、政権を可能なかぎり長く存続させようとの試みの一つに見える。現政権がどの程度存続するのか、どのようにして政権を放棄するのか、打開策の一つとして戦争に訴えるのかどうかは、依然として不明である。

  2. 北朝鮮が、核兵器開発計画に利用できる原子炉、すなわち比較的濃縮度の高い兵器級プルトニウムを製造する原子炉に基づいた核計画に着手したことが明らかになった90年代の初頭、同国の核計画は国際的な関心を集めた。94年10月の米朝枠組合意は、このタイプの原子炉を軽水炉に取り換え、すべての疑惑ある活動に終止符を打つためのものであった。協定は履行されつつあるが、北朝鮮指導部が合意を誠実に履行する用意があるかどうかについては疑念が持たれている。99年5月に行われた核兵器計画の疑惑が持たれた地下施設への米国代表団の訪問では、疑惑を裏付ける証拠は見つからなかった。これは一つの進展ではあったが、結論を下すには早すぎる。

  3. 98年8月、北朝鮮は、射程距離1500キロ以上のミサイルの発射能力を保持していることを証明した。概して技術や産業の水準が低く経済が低迷している国としては、異例の出来事であった。外国のミサイル技術や技術者が、北朝鮮の計画に関与している疑いがある。この核開発計画は北朝鮮の攻撃能力を大幅に向上させたばかりではなく、他の地域での軍備競争に拍車をかけた。パキスタンのガウリ・ミサイルとイランのシャハブ・ミサイルは、北朝鮮の試作品と同じタイプの模様だ。

  4. 東京フォーラムは、朝鮮半島の非核化という目標の早期実現のため、最善の努力を国際社会に求める。東京フォーラムは北朝鮮に対し、核兵器やミサイルに関わる全ての活動を中止し、94年の米朝枠組合意の完全履行を求める。枠組合意の財政的、技術的な意味はきわめて複雑で、日本、韓国、米国、EUなどを含む多くの国の継続的な支援を必要としている。もし北朝鮮が核搭載可能ミサイルの発射実験を継続し、他にも周辺国を威嚇する姿勢を示すならば、この支援は消滅する。東京フォーラムは国際社会が北朝鮮に対しCTBTを早期に署名、批准し、NPTとIAEA保障措置協定を実行し、同協定の追加議定書を受け入れるため、強く要請するよう求める。これらの保障措置を厳格かつ検証可能な方法で履行することは、北朝鮮の核計画につきまとっている不透明感を払拭し、新たな危機を未然に防ぐ唯一の方法である。

  5. 北東アジアの現状から見て、東京フォーラムは、北朝鮮によるMTCRのガイドラインに沿った輸出規制の厳格な履行の必要性を訴え、核兵器技術および核兵器用物質のこれまで以上の厳格な規制を求める。東京フォーラムは国際社会に対し、核兵器用物質、ミサイル技術および他の大量破壊兵器の製造につながる物質が、北朝鮮に渡らないよう、緊密に協力すべきことを訴える。

  6. 東京フォーラムはまた、北朝鮮からミサイルや核兵器が継続的に他の地域へ拡散するのを防ぐ措置を早急に取るべきであると考える。ミサイルや核兵器の拡散が国際的な平和と安全に与え得る脅威を考えると、これらの防止措置には、北朝鮮当局を含めた二国間や多数国間の協議が含まれ、国際的な経済制裁から国連憲章第7章に基づく強制的な行動まで含まれる。こうした制裁は北朝鮮および、北朝鮮からミサイルや関連品目を購入している国の両方に適用されるであろう。しかし、もし北朝鮮が周辺国を安心させ、しかるべき国際的な不拡散の規範に完全に従うなら、そうした防止措置は必要ではない。東京フォーラムは、全ての国が北朝鮮をこうした問題に関する建設的な対話に参加させるため努力することを強く提言する。



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