(1) 協力の意義
情報通信基盤は、経済・社会のあらゆる分野における活動の効率化・活発化を促し、国民生活の向上につながる社会資本を構成する。また、情報通信基盤の整備による通信・放送のグローバルなネットワークの形成は、国際的な相互理解の促進に資する。さらに近年技術革新が目覚ましいIT(
情報通信技術)を活用することにより、貧困削減、保健、衛生、教育のように極めて重要な社会的開発目標をより効果的に達成できる可能性がある。
しかしながら、IT革命の加速的進展についていけない途上国は、情報社会・経済の利益を十分に享受できない可能性がある。実際、人口100人あたりの電話普及率は、アジア・オセアニア地域で7台程度、アフリカ地域では2台程度である。また、世界のインターネットの利用者の6割近くが北米にいる一方、アフリカにおけるインターネット利用者は世界全体の1%以下とも言われている。
このような情報格差を解消するためには、民間部門の主体的な取組みに加え、各国政府、国際機関等を通じた支援が重要である。
(2) 協力の現状と今後の課題
有償資金協力については、近年電気通信網の整備・拡充計画等基礎的な通信基盤に対するものが大半を占めている。99年には、地方部において通信網の整備が遅れており、かつ既存設備についても老朽化が深刻なウズベキスタン、チュニジア等に対する通信網整備事業を支援している。また、2000年3月には、特別円借款の対象分野として、情報通信分野も新たに追加された。
無償資金協力については、通信網整備に加え、ナミビア、イエメン、バングラデシュに対して放送番組ソフトの援助を行う等、放送関係の協力も進めている。
また、通信・放送システムについては、技術革新が目覚ましく、先端技術の導入が頻繁であるため、経営形態の変化、新サービスの提供、必要とされる技術の高度化等経営環境の変化が見られることから、これらに対応した人材育成及び技術移転の実施が重要となっている。このような観点から、技術協力も積極的に進めており、これまでにもアジア地域を中心にプロジェクト方式技術協力を実施している。例えば、タイ・KMITL(モンクット王工科大学)情報通信技術研究センターにおける長期間にわたる協力を通じて、同大学はタイ国内における情報通信分野の最優秀大学となり、同国の情報通信産業における高度な人材の育成に貢献するなど大きな成果を上げている。
今後とも、民間資金による通信網の整備の推進が困難な国や、採算性に乏しい地方等においては引き続き必要に応じてODAによる通信網の整備支援を行うことが重要である。また、グローバル化が進展しているこの分野においては、国際的な調整・協力を推進するため、
国際電気通信連合(ITU)、国連貿易開発会議(UNCTAD)、国連開発計画(UNDP)等の関係国際機関との連携も積極的に取り組む必要がある。
こうした中で、「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」(
第2章参照)が採択された九州・沖縄サミットに先駆け、森総理が「
国際的な情報格差解消のための我が国の包括的な協力策」を打ち出した。
この協力策は、(1)「ITはチャンス」との認識の向上と政策・制度作りへの知的貢献(2)人造り(研修、人材育成)(3)情報通信基盤・ネットワーク化の支援(4)援助におけるIT利用の促進の4つの柱から成り、今後5年間で合計150億ドル程度を目途として非ODA及びODAの公的資金を活用することとしている。
(1) 協力の意義
途上国においては、経済発展を実現するためにもエネルギー供給を確保することが重要な課題となっており、この分野での協力は途上国の開発にとり不可欠である。また、エネルギー問題は、地球環境問題への対応及び持続可能な開発の達成とも密接に関連する地球規模の課題である。エネルギー資源や鉱物資源の対外依存度が極めて高い我が国にとって、この分野での協力はこれら資源の安定供給確保の観点からも重要である。
(2) 協力の現状と今後の課題
エネルギー分野の協力は、比較的規模が大きく、ある程度の収益率も見込まれることから円借款を中心に実施している。例えば、特別円借款を通じて実施されるマレイシアの「ポートディクソン火力発電所リハビリ計画」においては、環境負荷の大きい老朽化した発電設備のエネルギー効率を向上させることによって環境にやさしい、また経済的・安定的な電力供給の実現を目指している。
また、民生向上、貧困対策の観点からも安定的なエネルギー供給に対する支援は重要である。例えば、ホンジュラスで実施されている電力供給計画では、政府及び地方行政のサービスが行き届かない無電化地域に対して配電設備の整備を支援している。これは主に草の根無償資金協力によって実施されており、大きな成果をあげている。
なお、2000年度から我が国の一般プロジェクト無償資金協力の一環として「
クリーン・エネルギー無償」を新設した。この制度は、二酸化炭素排出の削減、抑制に資する再生エネルギー(太陽光発電、風力発電、小水力発電など)に関わる施設・設備を整備するための途上国の計画に必要な資金を供与するものであり、発電・送電システムの効率化、未電化地区の電化を図っていくことを目的としている。
技術協力としては、省エネルギー、環境対策等の技術移転や専門的な人材育成、エネルギー利用に関するマスタープラン作成等の支援を行っている。
こうした中、
再生可能エネルギーは、地球環境保全及び途上国の地方電化とそれによる社会開発の有力な手段としての認識が高まっている。九州・沖縄サミットにおいてもこの点に焦点が照てられ、2001年のジェノヴァ・サミットに向け、再生可能エネルギーの一層の普及を図るための総合戦略を策定すべく、作業部会を設置することが合意された。日本としても、この戦略策定にあたり、積極的に作業部会に参画することとしている。
今後政府としては、「ODA中期政策」を踏まえ、

途上国のエネルギー関連のインフラ整備案件においては、民間部門又はOOF(
ODA以外の政府資金)での対応が難しい案件への支援、

持続可能な開発を実現していくとの観点から省エネルギーの推進、再生エネルギーの利用促進、より環境負荷の小さい石炭技術の導入、薪炭原料ともなる森林の保全・造成などに資する協力、

鉱物資源分野においては、鉱山の開発による環境影響への調査等を含めた鉱山開発への支援・協力、を進めていくこととしている。
(1) 協力の意義
水は、飲料・衛生用水として人間の生命維持に必要不可欠であるのみならず、農業・工業用水としても使用される重要な資源である。しかしながら、世界的には偏在的に分布しており、現在世界では、約11億人が衛生的な飲料水を得られず、約29億人が衛生施設へのアクセスを欠く状況にあると言われている。
途上国においては、こうした「安全な水」の供給不足をはじめ、人口増加や工業化に伴う水資源の消費拡大、水質汚染等の問題が生じている。また、今後、希少な水資源の確保を巡って緊張が高まる地域も予想される。
このように、水資源を巡っては、その利用可能量、水質、環境面での影響等様々な問題が相互に関連しており、水資源の開発、管理、利用は重要な課題である。したがって、途上国における持続可能な水の有効利用への支援とともに、生態系の保全を含めた地球規模の環境保全のため、国際的な協力の推進が求められている。
(2) 協力の現状と今後の課題
日本はこれまで「水」問題に関し、ODAの様々な制度を通じハード、ソフト両面での協力を実施している。
ハード面では、

有償資金協力(円借款)や無償資金協力による水源の開発、浄水場・上水道網の整備、

青年海外協力隊、草の根無償による井戸掘削、

円借款や無償資金協力での下水処理場や下水道網の整備が行われている。また、ソフト面では、技術協力等を通じ、水質汚濁防止のための規制等の行政手法、水質モニタリング、地下水汚染対策といった水質保全のための支援を実施している。
具体的には、有償資金協力については、99年度のモロッコにおける地方給水計画をはじめ、フィリピン・タイ等で上水道整備計画等を実施している。また、無償資金協力についても、99年度のケニアでの地方地下水開発計画をはじめ、主に安全な水の供給のための支援を実施している。更に、開発調査では、象牙海岸の「全国総合水資源管理計画」等を実施中であり、水資源開発についての協力も多く実施されている。
また、先述の通り、TICAD

において表明された、水供給等の分野に対する向こう5年間を目途とした900億円程度の無償資金協力のうち、2000年10月までに、水供給に対し約95億円の協力が実施されている。
国際社会においては、92年の地球環境サミットの際に「アジェンダ21
(注1)」が採択されて以降、水資源問題への関心が高まっている。97年6月の国連環境開発特別
総会においては、2002年までの多年度行動計画の一つとして、「淡水管理への戦略的アプローチ」が決定され、
国連持続可能な開発委員会(CSD)で検討されている。
また、日本は同特別総会の際に、
「環境開発支援構想(ISD構想)」を打ち出し、「水」問題を重点事項の一つとして取りあげると共に、途上国での上下水道の整備の推進、水の汚染に起因した健康上の問題や生活環境への悪影響の防止、水資源の効率的で持続可能な利用・管理への支援に取り組んでいく方針を表明している。
その後、97年には、マラケシュにおいて第1回世界水フォーラムが開催され、21世紀に向けた「世界水ビジョン」の策定が決定された。2000年3月にはハーグにおいて第2回世界水フォーラムが開催され、総合的な水資源管理の必要性等今後の課題が謳われた閣僚会議宣言が採択された。また、本会議の最終日には、次回会合(2003年3月開催予定)が日本で開催されることが決議された。
このように国際社会における水資源問題への関心が高まる中、日本は今後とも水供給の
みならず、資源管理、環境対策等幅広い視点に立った支援を実施していく必要がある。