第4章 重債務貧困国に対する支援

第1節 拡大HIPCイニシアティブ

 アフリカ諸国を中心とする、世界で最も貧しく、最も対外債務の負担が大きい「重債務貧困国」(囲み22.参照)に対する債務救済は、人道的にも、また国際社会の平和と安定の確保の観点からも看過しえない課題である。99年6月のケルン・サミットでは、真に救済を必要とし、可能な限りの自助努力を行う国々に対し、従の債務救済の枠組みを拡充し「より早く、より広範で、より深い」救済を行うことが合意された。債務削減率は、ODA債権について100%、非ODA債権について原則90%まで拡大された。これを受け、同年秋には、世銀・IMFの合同開発委員会及び総会で枠組みの詳細が決定され、パリクラブにおいてこれが承認された(拡大HIPCイニシアティブ)。

囲み22.重債務貧困国
 重債務貧困国(Heavily Indebted Poor Countries:HIPCs)とは、世界で最も貧しく最も重い債務を負っている途上国のことであり、貧困度及び債務の深刻度に関する以下の基準に従い世界銀行及び国際通貨基金(IMF)により96年に初めて認定された。
0193年の一人あたりの国民総生産(GNP)が695ドル以下。
0293年時点における現在価値での債務残高が年間輸出額の2.2倍もしくはGNPの80%以上。
2000年9月現在、HIPCsとして認定されている国は41ヶ国あり、地域別には以下の国が含まれる。
  • 中東地域(1ヶ国)
    イエメン
  • アフリカ地域(33ヶ国)
    アンゴラ、ウガンダ、エティオピア、ガーナ、カメルーン、ガンビア、ギニア、ギニア・ビサオ、ケニア、コンゴー共和国、コンゴー民主共和国、サントメ・プリンシペ、ザンビア、シェラ・レオーネ、スーダン、セネガル、象牙海岸、ソマリア、タンザニア、チャド、中央アフリカ、トーゴー、ニジェール、ブルキナ・ファソ、ブルンディ、ベナン、マダガスカル、マラウイ、マリ、モーリタニア、モザンビーク、リベリア、ルワンダ
  • 中南米地域(4ヶ国)
    ガイアナ、ニカラグア、ボリヴィア、ホンデュラス
  • アジア地域(3ヶ国)
    ヴィエトナム、ミャンマー、ラオス


第2節 日本の追加的措置と九州・沖縄サミットにおける進展

 日本は重債務貧困国の債務救済を迅速に進めることを重視しており、最大限の努力を行ってきている。2000年4月10日には、サミット議長国としてリーダーシップを発揮するとの観点から、重債務貧困国に対する追加的措置として、01国際的枠組みの下での非ODA債権の削減率の90%から100%までの引き上げ、02世界銀行の多国間債務救済基金に対する既拠出分と合わせ2億ドルまでの拠出、03無償資金協力の拡充を含む多様な方策による支援の継続といった措置を自主的にとることを発表し、また、04拡大HIPCイニシアティブの迅速な実施に向け、先進国、債務国、国際機関が一致して最大限の努力を行うよう求めることとした。
 2000年7月の九州・沖縄サミットにおいては、事前に行われたG8首脳と途上国首脳との会合や総理のNGO代表との会見における意見交換も踏まえ、重債務貧困国の債務救済に関し活発な議論が行われた。その結果、最重要課題であったケルン・サミット合意の迅速かつ効果的な実施に向け、2000年中に20ヶ国が拡大HIPCイニシアティブの「決定時点」に到達するよう協力することや、削減実施の前提となる債務国による貧困削減戦略の策定に対する技術協力の実施など、関係国・国際機関が取り組みを強化することが合意された。その結果、2000年末までに22ヶ国に対しイニシアティブの適用が決定され、九州・沖縄サミットの目標は達成された。
 また、今回のサミットでは、G7として非ODA債権削減率の100%まで引き上げることを確認したほか、紛争により債務削減を受ける条件が充たせない債務国に対し、G8として紛争の解決、社会開発・貧困削減への取り組みを強化するよう働きかけることや、非生産的目的に使用される輸出信用の規制強化が新たに合意され、本件について一層の前進が見られた。
 拡大HIPCイニシアティブの確実な実施のためには、多国間債務の救済のために世銀等の国際金融機関に設けられた信託基金に必要な資金が着実に積み上がることも重要である。二国間での債務救済に伴う負担が大きい日本としては、「負担の公平」の観点から、他の債権国に多国間債務の救済のための更なる貢献を求めていく考えである。日本としても、九州・沖縄サミットの成果を踏まえ、引き続き最大限の努力を払う考えである。

第3節 債務救済と貧困削減

 債務救済においては、これにより利用可能となる資金がその国の貧困削減や社会開発に有効に活用されることが重要である。この点、拡大HIPCイニシアティブの実施の前提条件として、重債務貧困国が経済構造調整を実施したり、市民社会の参加も得て包括的な貧困削減戦略を策定することとされている。
 更に、日本としては、単なる債務の「棒引き」は行わず、債務返済がある度に同額の無償資金を供与するという債務救済無償方式で対応することとしている。こうした方式は、重債務貧困国の自助努力を損なったり、真面目に返済をしている他の国々に悪い影響を及ぼしたりするというモラルハザードの回避が期待でき、また債務救済で利用可能となる資金の使途が貧困削減に適切に使用されるのを確保する上でも有効である。
 しかし、債務救済だけでは貧困問題解決の万能薬とはなりえない。貧困削減を可能にし、持続可能な開発を達成するためには、中長期的な経済成長の展望を見据えた開発問題全体への取り組み強化が必要である。この観点からも、アフリカ諸国をはじめとする重債務貧困国の開発への主体的取り組み(オーナーシップ)を育む協力が必要であり、債務管理能力の向上への支援をはじめとして、経済的自立に向けた人材育成、能力構築への支援が重要である。
 そのためには、先進ドナー国のみならず、第3部第6章で触れる途上国間での「南南協力」を通じ、開発の経験を蓄積した新興援助国(注)が主体性を発揮し、適切な経験・技術の円滑な移転に取り組んでいくことも重要である。

(注) 新興援助国とは、ある程度の発展段階に達し、他の途上国への援助を開始している途上国を指す。

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