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6. 主要分野の横断的考察による教訓 (1) 保健・医療分野 保健・医療分野における協力の主要な要素としては、病院の建設、医療器材の供与、専門家の派遣があげられるが、今回の評価の対象となっている案件には、これらの3要素が組み合わされて、しかも長期に亘る協力が行われている結果、我が国が行った医療・保健分野における代表的な成功例として、各々被援助国において象徴的な拠点病院としての機能を果たしているヴィェトナムのチョーライ病院やエジプトのカイロ小児病院のような事例がある。これらの事例においては、無償資金協力及び技術協力の的確な連携の下に案件が実施された結果、医療技術の移転が十分に行われており、地域の住民に対する医療サービスの中心となると共に、被援助国の医学の発展にも寄与している。しかしながら、これらの病院においても、我が国が供与した機材の維持補修が自立して実施できるよう技術協力を継続していくことの必要性や、医療技術のみならず病院の維持・管理体制に対する協力の強化の重要性が指摘されている。 保健・医療分野における協力の場合、供与する医療機材の技術水準が高すぎるとされるケースがまま見られるが、今回評価の対象となった案件では一件(ブラジル)を除き特段の問題点は指摘されておらず、適切な機材選定が行われたと言える。しかしながら、供与機材については共通の問題点として良好な維持管理体制の確保に対する継続的な協力及び耐用年数に達した機材のフォローアップの必要性が指摘されている。 また、ボリヴィアの「国立公衆衛生専門学校建設計画」では、建設した寄宿舎のベッド占有率が3割未満であり、需要等について十分な事前調査を行うことが重要であると指摘している。 この他、ミャンマーにおける「エイズ予防財団に対する支援」や「性感染ハイリスクに対する巡回医療支援計画」等、NGO支援や草の根無償案件7件の評価では、これらの案件については総じて有益であると評価され、さらに、適切なアフターケアを継続することにより地道な我が国の貢献活動となり得ると指摘されている。 (2) 水供給分野 今回の評価報告書の中での水供給に関するプロジェクトの評価においては、水質の向上、水不足の解消などの目的はおおむね達成されているとの結果となっている。プロジェクトの効果は大きく、住民が清潔な安定的に飲料水を確保できることにより、開発途上国の貧困層の生活改善、特に保健・衛生状況の改善に大きく役立っているとの評価がなされている。さらには、女性が遠くの水源に水汲みに行くという仕事から解放されるなど、WID(途上国の女性支援)の観点からの効果も指摘されている。プロジェクトの選定・形成に関しても、水不足などに'悩まされる対象地域において、地域住民のニーズに適応したものであり、適当であったとの評価が得られている。 案件の維持・管理方法については、それぞれのプロジェクトや国により異なっており、水供給に関するプロジェクトの成功のためには、その効果を維持するための自立発展性の確保が重要であることがわかる。例えば、パラオにおける「給水システム改善」やジャマイカにおける「モンテゴベイ上水道事業」においては、政府の関係機関による十分な保守体制が整えられていた。また、セネガルの「村落給水計画」と「地方給水施設改善計画」においては、定期的に水道公社の技術者による修理・点検を行うほか、村落の自治組織である水管理委員会が住民から使用料を徴収することにより、井戸の維持管理を村人の自助努力で行っていた。 一方、ミャンマーの「都市飲料水開発計画」においては、ポンプなどの故障やスペアパーツの不足の問題があり、我が国からのフォローアップ協力として、緊急に必要と考えられるスペアパーツの購送を行っている。また、中国の「長春市浄水場旧施設改良計画」においては、建設から8年が経過した浄水場で老朽化などの問題が発生しており、長春市による維持・管理は技術的・資金的に限界があることから、設備更新のための我が国の協力に対する要望がある。 (3) 経済インフラ分野 経済インフラ整備は一般的に、有償資金協力、あるいは無償資金協力でも期分け案件として援助規模・金額が大きい案件が多く、社会的・経済的影響も大きいことから、本分野の開発を進めるにあたっては、マスタープランを作成し、これに基づき総合的な均衡のとれた開発を進めることが重要である(ミャンマー・通信計画、タイ・STR信号改良・近代化等)。我が国援助によるマスタープランの作成例としては、今回、開発調査「中国・海南島開発計画」について中国側関係者により評価が実施されたが、この報告書の中で、同開発計画は海南島の経済建設において今後も極めて重要な役割を果たすと高く評価されている。 案件の選定・形成の妥当性については、評価案件は総じて社会的影響や経済的重要性の側面から優先度が高く被援助国の開発ニーズにも合致しており、且つ協力後の効果も大きく当該国の社会経済活動に多大な貢献をしていることが報告されており、概して適正に行われたといえる。また、インフラ整備を行う際に十分配慮されるべき環境への影響についても、今回評価を実施した案件で見ればマイナスの影響は認められていない。 また、「インドネシア・ジェネベラン川下流域緊急洪水防御事業」の排水路整備による環境面での改善、「パキスタン・ビンカシム火力発電所増設事業」及び「コスタリカ・ミラバージェス地熱発電計画」における発電所からの排気ガス等の監視・調査等、援助側、被援助側双方が環境面で十分な配慮を行っていることが伺える。 施設の維持管理については、補修工事が常時行われている(ガーナ・道路修復計画)との指摘がなされた案件もあるが、これも補修工事はガーナ政府が責任を持って実施しており、被援助国の財政事情等により維持管理に大きな支障が生じている案件は見られず、我が国が供与したインフラ施設は全般的に良好に管理されていると言える (4) 農業分野 農業分野はガイアナの「精米設備更新計画」の評価において指摘されているとおり、依然途上国の主要産業、あるいは貴重な外貨獲得手段のひとつであり途上国政府もその開発を重視している場合が多い。かかる農業分野における我が国経済協力案件は耕作、灌厩、土木用機材の供与から、農業技術の移転、灌厩施設・ダムの建設、農村総合整備計画に至るまでその形態は多岐に亘る。 農業分野においては、気候、土地、地形及び地域の農林従事者の意識等を踏まえた取り組みが期待されている。中根名誉教授によるフィジーの「稲作研究開発計画」の評価においても、対象社会の社会・文化人類学的な実態、地域住民の実状を十分把握することの重要性を指摘している。また、現地の住民参加、現地組織が鍵をにぎる場合が多い。 インドネシアの住民参加型プロジェクト「南東スラウェシ州農業農村総合開発計画」をWIDの観点から評価した目黒教授は、案件における住民組織の強化、この過程における性別を超えた柔軟な運用の重要性を指摘している。現地組織・実施機関が創意工夫して案件を維持管理し、成功している事例としては、「水・道路管理委員会」の設置の上、独立採算性で案件の維持管理がなされているもの(パラグアイ「ラ・コルナメ農村総合整備計画」)、実施機関が品質検査サービスや情報誌の販売による独自の収入を活用しているもの(ミャンマー「収穫後処理技術開発センター建設計画」)、事業実施チームを設置し見返り資金を活用し各種事業を実施しつつ収益の高い農産物へと作付け体系を改善しているもの(中国「食糧増産援助」)、研修生の所属機関から必要最小限の実費を徴収して訓練センターを維持管理しているもの(フィリピン「アカバ栽培」)が挙げられる。 この他タイの「チェンキアン高地農業開発・訓練センター設立計画」やフィリピン「アカバ栽培」のように貧困地域開発、地域格差是正に大きく貢献している案件も多い。 現地組織や実施機関が重要であるのと同様に、現地のカウンターパートも重要な役割を果たす。中根名誉教授はフィジーの「稲作研究開発計画」の評価において案件におけるカウンターパートの定着率の低さを問題点の1つとして挙げている。 機材供与が大きな役割を果たした案件もある。ガイアナの「精米設備更新計画」では、精米設備不足が米の増産を阻害していたところ、設備の充実により既存の米農家が受益したばかりでなく、精米所周辺地域における米生産量や作付け面積の増加との効果も挙げている。供与された機材(研究用機材、耕作機械、土木用機材等)のメインテナンスは多くの案件において良好であると指摘されているが、機材が旧式であること、日本製であること等の理由から部品の入手が困難な案件(インドネシア「養蚕開発」、ケニア「ムエア灌漑開発計画」、モーリタニア「農業土木機材整備計画」、ガイアナ「精米設備更新計画」)が幾つか見られ、農業分野においても機材供与一般の問題点が指摘されている。他方、供与後20年以上経過しても現地の自助努力により使用されている例(ベトナム「カントー大学農学部技術協力」)もある。 単なる機材供与以上に専門家の派遣や技術協力を望む声も多い。フィリピンの「アカバ栽培」ではフィリピン農業の振興に熱心な日本人等関係者の存在が案件選定・形成の背景となった。ベトナムの「カントー大学農学部技術協力」は政情変化により中断を余儀なくされたが、最近、そのフォローアップ措置として無償資金協力により新たな協力を実施している他、長期専門家の派遣も行っている。なお、政情変化により技術協力が中断したにも狗わらず自助努力により着実に成果を上げているミャンマー「原種貯蔵センター建設計画」のケースもある。 (5) 水産分野 今回の報告書において評価対象となっている水産部門の案件は、無償資金協力ないしは無償資金協力と技術協力の連携によるものである。内容は、漁業振興、水産資源の維持管理・開発、漁港整備、漁業訓練、水産養殖、水産加工などのための施設建設や機材供与、専門家の派遣などである。 評価結果をみると、第一に、無償資金協力による施設建設や機材供与に日本からの派遣専門家や青年海外協力隊員などによる技術指導が行われることの有効性を確認することができる。キリバスの「漁船員育成計画」やギニア・ビサオの「小規模漁業振興計画」では専門家派遣、グアテマラの「零細漁業振興」では青年海外協力隊員派遣の効果が大きいことが明示的に認められている。また、十分な成果をあげているエジプトの「ハイダム湖漁業管理センター建設計画」でも個別専門家派遣の継続が要望されており、これは、過去に実施されてきた個別専門家派遣の有効性をエジプト側が高く評価していることを意味していると考えられる。 第二に、被援助国の水産部門の実状について、政策や消費性向、実施機関の能力なども含めた十分な事前調査を行い、必要に応じ専門家派遣の可能性も含め、適切な案件を選定・形成することの必要性が認められる。選定された実施機関に予算措置も人員配置も行われないことがある(パプア・ニューギニア「ガルフ州浅海漁業開発計画」)。被援助国において水産業の位置付けが低い場合には、機材供与だけでは、容易には漁獲物の流通・商業化は軌道に乗らず、必要な施設も計画通りには確保されないこともある(グアテマラ「零細漁業振興計画」)。また、水産加工技術研究資機材供与の場合には、すり身加工品など研究対象となる食品が、現地の日常食品でないこともある(メキシコ「シウダー・デル・カルメン漁業調査研究センター整備計画」)。トンガの「水産増養殖研究開発計画」は、技術協力実施期間中に、必要な水産関連調査を実施した例である。第三に、水産部門においても、予算上の制約などから、スペアパーツの調達や機材の更新については被援助国側だけでは十分に対応できない場合が多いことが認められる。この点では、途上国の中では相当に所得レベルが高いチリも例外ではない(「水産海洋調査船建造計画」)。 最後に、水産案件と女性との関係をみると、女性向け講習の実施により漁業への参加が図られることにより直接的に稗益する(パプア・ニューギニア「ガルフ州浅海漁業開発計画」)ばかりではなく、漁獲量の増加と安定化を背景に進出した業者による女性加工作業要員雇用(パキスタンrバルチスタン州沿岸漁業開発計画」)、販売方法の一本化による女性の労働負担軽減(セントルシア「デナリー漁業基地建設センター」)などによっても間接的に禅益している。 (6) 鉱工業分野 今回評価したプロジェクトは、有償資金協力、無償資金協力、技術協力の全ての形態のものが含まれている。協力後のプロジェクトの運営は、インドの肥料工場で当初目標量を超える生産を達成しているのをはじめ、概ね良好なパフォーマンスを示している。特に、マレーシアASEAN尿素プロジェクトが、プロジェクト実施後、マレーシア一国だけではなくASEAN諸国全体に対し尿素を提供することが可能となり、ASEAN諸国における工業化、地方開発、農業生産性の向上等に対して効果があったと評価されていることは、注目に値する。 鉱工業分野のプロジェクトでは、工場や鉱山からの排水、排出ガス、騒音等、環境への影響について、特に十分な配慮が求められるが、今回評価したプロジェクトについては、バングラデシュのゴラサール肥料工場改修事業のように、我が国が協力した際、砒素を使用する二酸化炭素除去プロセスが廃止された例もある等、いずれも適切な環境対策が講じられており、現在のところ特段の問題は確認されていない。 (7) 職業訓練分野 職業訓練の分野では、草の根無償資金協力のほか、プロジェクト方式技術協力などの評価結果が報告されている。草の根無償資金協力は、障害者や、孤児、女性などの社会的弱者の自立のために職業訓練を実施しているNGOなどを支援し、機材の購入や作業場の建設のための資金を提供するものである。こうした活動は、障害者などに対する福祉が十分でない途上国において、社会のニーズに応える援助であり、案件の選定・形成は適正であるとの評価がなされている。また、事業を管理・運営する能力・組織力のある優秀なNGOが選定されたことが案件成功の原因であるとの指摘が多い。 ただし、案件の自立発展性を確保するためには、機材や建造物が良好に維持・管理される必要がある。ガーナの「身体障害者センターにおけるワークショップの建設」の場合には、カトリック協会の寄付などにより安定した運営資金が確保されているため、自らの予算を使って必要なメインテナンスや修理を行っていた。また、スリランカの「孤児のための技術訓練用機材供与計画」では、職業訓練の結果として生産した農作物や畜産物を販売することにより、機材の維持・管理などの費用を賄っていた。他方で、中国の「身体障害者職業訓練支援計画」では、一部の機材が故障しており、資金不足のために修理がなされていないとの評価が行われた。 プロジェクト方式技術協力の場合の案件の自立発展性については、ザンビアの「職業訓練拡充」では、ザンビア政府が補助金の導入のための努力を行っており、また、ブラジルにおける「SENA1電気・電子職業訓練センター」では、我が国の協力終了から10年以上経っても、継続的に相当数の卒業生を生み出しており、産業界の新たなニーズを踏まえたコースを新設するなど完全に自立発展しているとの指摘があった。
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