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5. 今回の報告書における指摘事項 本報告書で取り扱われている167件の評価案件については、評価対象プロジェクトの分野が多岐にわたり、また、被援助国の経済発展段階、政治制度、社会的・文化的な環境の違い、並びにそれぞれの評価者の用いる評価手法・視点の違い等もあり、評価結果を般的な形で総括することは難しい。 しかし、評価結果を概観すべく敢えて評価結果(プロジェクト単位の言判面は行わない国別評価、実施中の案件等を除く126件を対象として)を三つのカテゴリーに分け、(1)成功した案件、(2)一部改善すべき点等があるものの全体としては成功した案件、(3)全体として成功したとは言い難い案件、とした場合、その内訳はそれぞれ、73件、51件、2件となった。全体として成功したとは言い難いとされる2件は、フィジーの「稲作研究開発計画」及びパプア・ニューギニアの「ガルフ州漁業開発計画」であった。 フィジーのプロジェクトについては、技術移転を図ろうとした稲作技術が十分に活用されておらず、現地では協力以前の方法による稲作や、ヤム芋等、他の食物の栽培が行われていると報告されている。協力期間中におけるサイクロンの襲来やフィジー政府の農業政策の転換(米の自給率向上から輸入自由化へ)という事態が一要因となってはいるものの、被援助国における既存の技術レベルや住民の伝統的労働慣習、新技術の導入に伴う住民の経済的負担能力等を十分考慮してプロジェクトを形成することの重要性が指摘されている。この評価報告を受け、我が方はプロジェクトサイトの現状を詳細に調査し、今後のフォローアップの可能性について検討したが、フィジー政府の稲作の振興に対する積極的な姿勢が期待されなかったことから、当面は追加支援を見送り、上述の如き教訓を今後のプジェクト形成に活用することとした。 また、パプア・ニューギニアのプロジェクトについては、運営開始後数年間は沿岸漁業振興に寄与したものの同国のプロジェクト実施機関が十分機能しなかったこと、近隣に石油事業等が興り漁民が漁業以外の現金収入が得られるようになったこと。民間企業が参入したこと等によりプロジェクトが事業として立ち行かなくなり、現在活動を殆ど停止していると報告されている。我が方ではこれに対してフォローアップ調査団を派遣し先方政府と協議した結果、先方政府が供与された機材の有効活用を図るべく一層の努力を行うことを確認した。 今回の評価報告書は、全体的にみると、プロジェクトの自立発展について提言あるいは教訓を提示しているものが多い。例えば、協力終了後の被援助国によるプロジェクトの運営や維持管理体制が十分でないことについて、一律に被援助国側の自助努力の問題として捉えるだけではなく、被援助国の中に自助努力にも限界がある場合があることを認識し、被援助国の限られた資源でもなんとか維持管理、自立発展が可能となるよう、プロジェクト終了後の自立発展まで見据えた適正なプロジェクト形成が必要である、と指摘されている。 今次報告書の主な指摘事項は以下の通りである。 (1) 事前調査の充実 事前の調査、協議を十分に行い、相手側の政策動向、協力分野の実状、相手国のニーズ等を正しく把握し、妥当性且つ持続性のあるプロジェクトを形成することが、協力が大きな成果を上げられるかどうかの極めて重要な要素である。例えば、ボツワナの「鉄道貨車増強計画」は、相手国の資金力、人材等のプロジェクト運営体制や同国の経済開発のニーズを十分に勘案してプロジェクトを形成・実施したものであり、大きな効果を上げていると評価されている。またグアテマラの「零細漁業振興計画」では、技術指導部門では十分な成果を上げているものの研究部門では目的の達成度は低く、事前調査・協議により現地の実状を十分把握しておくべきであったと報告している。 (2) 被援助国のプロジェクト運営能力、社会・文化的事情への配慮 プロジェクトが被援助国政府により適切に運営されるには、プロジェクトの計画段階から被援助国政府の財政負担能力、社会・文化事情等に十分配慮する必要があると指摘されている。特に、トンガ、フィジーで評価を行った中根名誉教授は、国家財政が脆弱で人材も不足している国々への協力は、自助努力の限界ということを勘案して、援助のあるべき方法を考えてゆくことや、現地住民の生活・労働様式に合った協力の推進が必要であることを指摘している。 (3) 資金協力と技術協力の連携 資金協力と技術協力の連携については、昨年度もタイ国別評価において、個別専門家の派遣が有償資金協力の円滑な実施に役立ったと指摘されているが、資金協力による施設・機材の供与後の維持管理、運営を良好に行い、より高い効果を発現させる上でも、技術協力と連携させることが重要であると指摘されている。 今回の評価案件では、特に農業、水産業等の生産分野のプロジェクトにおいてこの点を指摘しているものが多い。例えばバングラデシュで貧困問題をテーマに世界経営協議会が実施した評価では、無償資金協力「モデル農村整備計画」により整備された灌概施設、穀物倉庫等と青年海外協力隊の活動というハード面とソフト面の協力がかみ合い、効果を上げていると報告されている。 また、イエメン、エジプトにおいて評価を行った佐藤研究員は、内戦により日本人専門家の派遣が見送られながらも相手側実施機関の自助努力で満足のいく運営が行われている「イエメン道路公社建設機械センター」の事例を引用し、自助の能力を潜在的に有する組織に対しては、専門家を派遣するとしても、「自助の芽」を摘み取らない程度に、相手側の活動への側面支援に徹するべきであると指摘している。 (4) 現地で修理可能な機材の選定 プロジェクトの自立発展は、被援助国の自助努力による供与施設・機材の維持管理や運営が重要であるが、特に機材供与案件についてはメインテナンスが大きな問題となる。今回の報告書においても、日本製機材は、質は良いがスペアパーツが輸送費等を含め高価であり現地での入手が困難である(ケニア「ムエア灌厩開発計画」)、現地住民が使い慣れた機材や現地でのスペアパーツの入手が容易で修理が速やかに行える機材を調達すべき(モーリタニア「農業土木機材整備計画」)、現地で修理することが困難な機材の供与はプロジェクトの自立発展の妨げとなり得る場合もある(ブラジル「ペルナンブコ連邦大学免疫病理学センター」)、といった指摘がなされている。 また、ボツワナ「鉄道貨車増強計画」では、スペアパーツの入手が容易なジンバブエ製の鉄道貨車が供与されたことにより、引渡してから6年以上経過後も全ての車輌が稼働していると報告されている。 (注)過去の案件を踏まえ、機材選定の幅を拡大すべく、現在では第三国による機材調達を認めており、上記の問題が生じる蓋然性は低くなっている。 (5) 援助の継続的実施 鮫島研究顧問及び板垣助教授は、ODAプロジェクトにおいては「継続性・一貫性・発展性」の視点を持つことが重要であると指摘しており、草の根無償プロジェクトを評価した安村論説委員も、草の根レベルの協力は単年度で終了するものではなく、継続的な息の長い取り組みが必要であると指摘している。また、NGO意識調査からも、草の根無償の継続的な支援が求められていることが伺える。さらに、貧困問題をテーマとした世界経営協議会による評価では、貧困はその国の政治構造、経済政策、社会制度に深く根ざすものであり、長期的で根気のいる対応が必要と指摘している。 (6) 草の根無償資金協力の実施体制の強化 草の根無償は、当該途上国の経済・社会状況等の諸事情に精通している我が国大使館が迅速且つ的確に対応することにより、途上国の多様なニーズに効果的に対応することを可能ならしめるものであり、その効果も見やすいことから、年々拡充されてきている。しかし、世界経営協議会がバングラデシュの貧困問題をテーマに実施した評価では、同国における草の根無償の我が国実施体制として、毎年200件前後の問い合わせがある案件の中から、案件の選定・実施に至る膨大な作業を1名の大使館員で行っていることを問題点として指摘している。イエメン、エジプトで評価を行った佐藤研究員やインドネシアで実施した援助実施体制評価からも、これと同様の指摘がなされており、佐藤研究員はその対策として、大使館日本人スタッフの増員、もしくはそれが困難であれば、現地の事情を理解しているローカルスタッフに案件の情報収集等の初歩的な業務を任せること、明文化された草の根案件の選定基準の策定、定期的な巡回調査等を提案している。 (7) センター設立型協力のあり方 我が国では、被援助国の当該分野の核となるセンターを設立し、それに技術協力を組み合わせるという方法で協力が行われる例が少なくない。「環境」をテーマに評価を行った高橋参与は、我が国援助によりインドネシア、タイ、中国に設立された環境管理センターをネットワーク化することにより、環境問題に対する包括的な対応が可能となり、さらに大きな効果が期待できるであろうと述べている。メキシコの「国立防災センター」と「教育テレビ研修センター」を評価したクヌート・サムセット氏は、被援助国において設置されたセンターにつき、その役割や将来の方向1生を明確にしておくことが必要であると指摘している。 (8) 住民参加の重要性 プロジェクトが自立的かつ持続的に発展するには、開発の影響を受ける人々が、開発の担い手・受益者として活動に主体的・積極的に参画することが、プロジェクトの成否に非常に大きな要素となる。今回の評価報告の中では、ドミニカ共和国及びホンジュラスの農業案件を評価した鮫島研究顧問、板垣助教授が、「参加型開発」を促進するには、住民がプロジェクトに主体的に参加できるような環境整備及び住民組織の社会的能力の向上に向けた支援が必要であると提言している。また、ネパールにおいて評価を実施した中内教授は、政府の体力が弱いネパールにおいて自立発展性のあるプロジェクトを形成するためには、住民参加を重視していくことが重要であると指摘している他、パラグアイやミャンマーの農業案件では、現地組織が創意工夫をしてプロジェクトを運営し、成果を上げていると報告されている。 (9) ODAへの理解増進 我が国のODAが、今後さらに充実し強化されるためには、広く国民の支持と理解を得ることが不可欠である。この点に関し、イエメン、エジプトで評価を行った佐藤研究員は、過去にエジプトの「教育文化センター」が「こんな賛沢なものをつくる必要があるのか」と報道された事例等を挙げつつ、「経済援助」も我が国の「外交」の一環であるという立場から、人道的・経済発展的観点だけでなく、政治的、外交的配慮も必要であるということを国民に対して説明することこそ、国民のODAに対する理解増進を図る上で重要なことであると指摘している点が注目される。
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