概括-ODA事後評価の意義と今後の課題- <経済協力評価とは……意義> (1) 我が国は、政府開発援助(ODA)を通じて開発途上国の開発を支援し、国際社会の平和と安定に寄与することは我が国として国際場裡で果たすべき重要な役割であり、我が国の国益にも資するものとの考えから、その拡充に努めてきた。しかし、近年、国内的には財政改革を求める声が強まり、援助につき従来の「量」から「質」への改善への関心が高まりを見せている。既に90年代に入り伸び率がほぼ横這い状態であったODA予算は、97年度予算においては近年最低の伸び率(2.1%)に低下する等ODAを巡る環境に大きな変化が見られる。我が国としては、かかる状況に対応しつつ更なる国際貢献のためにODAを推進して行く事が重要である。 (2) 政府開発援助は、一般的に経済・社会開発で後発的な状態にある開発途上国を対象として行うものであることから、開発援助の実施に当たっては、事業の進捗に遅滞が生じる等、少なからぬ困難が伴う傾向があることは否めない。しかし同時に、それが主として国民からの税収に依る財政予算を財源としていることから、可能な限り効率的・効果的に実施する事が重要である。かかる援助の実施に役立てるとの視点から経済協力評価が行われてきた。 援助の目的を達成し、「質」を高めるためには、先ず、何よりも被援助国側が真に必要とし、開発のためのニーズに合致している適切な案件を形成すること、そして、それを確実に実施することが求められる。また、具体的な援助供与プロジェクトについて実施振りを調査・検証し、(イ)改善すべき点等ある場合にはそれに適切に対処し、また、 (ロ)援助経験から得られた教訓を将来の援助政策立案(援助案件形成を含む)に際し活用すること、が大切である。 経済協力評価はこの上記の(イ)、(ロ)に取り組むものであり、援助サイクルの最後のプロセスに位置している。その意義は下図の通り、我が国援助案件を調査・検証し教訓を汲み取り、(1)援助の運営・監理の改善に供すると共に、(2)将来の援助政策策定(含プロジェクト形成)に役立て、また、(3)国民に評価結果を公表し我が国ODAに対する理解を得るための情報を提供することにある。 (3) 上記に基づき、外務省は1982年以来我が国政府開発援助にっき毎年評価を行い、その結果を報告書として取りまとめ、公表してきている。今次経済協力報告書はその第15回に当たり、1995年度に行った評価全案件につき(総計167件)その結果を報告するものである。 <意義ある経済協力評価…………課題> (1) 公正・客観的・中立的な評価実施と評価予算:援助を、効率的・効果的に実施し、その目的を達成すべく援助の「質」を高めるためには、活用される援助評価が公正且つ客観的・中立的に行われる事が大切である。外務省では、そのため国別評価、特定テーマ別評価、合同評価、有識者評価、被援助国関係者評価等各種の評価形態を導入し評価視点の多様化を図るなどしているが、同時に、限られた評価予算(評価予算はODA予算(一般会計予算)の概ね0.02%程度で推移)を効率的に活用し出来るだけ多くの案件を評価するために、評価案件の凡そ半分は現地知見を活用した在外公館による評価に割き、残り半分程度を各種の第三者評価に割き調査団を派遣する等の工夫を加えている。
(2)我が国の援助評価は、外務省が毎年百余件に及さ評価結果を「経済協力評価報告書」として公表する等評価案件数及び公表方法において主要援助国・国際援助機関の中で最も透明性が高い。かかる状況を踏まえ、OECDの開発援助委員会(DAC)年次報告(96年版)でも、我が国が、評価等援助の質的改善に努めていることが明示的に認められている。 因みに、主要援助国・国際援助機関の評価結果の取り扱い振りは、概ね次の通りである。 i)米 国 :評価結果は公開 ii)英 国 :評価サマリーを公表 iii)ド イ ツ :プロジェクト・被援助国が特定されない形で報告書を公表 iv)フ ラ ン ス :非公表 V)カ ナ ダ :セミナー、作業報告会を通じて公表 vi)スウェーデン :報告書は公開 vii)アイルランド :国別評価は非公表(要請に応じ開示)。プロジェクト評価は 当該プロジェクトが完了した時点で公表 viii)イ タ リ ア :一般には非公開、議会には報告書提出 ix)ベ ル ギー : 非公開 x)世 界 銀 行 : 評価結果概要は公開 xi)U N D P : 一部報告書(主題別評価報告書等)を公表 xii)A D B :ADB年次報告書の中に極めて簡潔な評価要約を記載 (3) 更なる評価調査の改善(評価の課題) 上述の通り、ODAを巡る厳しい環境にあって、ODAの無駄を省き、より効率的で質の高い援助を実現するためには、プロジェクトの発掘、形成段階における事前調査と共に事後評価の充実を図ることが重要である。そのため、外務省の評価活動においては、従来より、評価調査の実施方針を策定し、計画的評価の実施に努めているが、評価の更なる充実を図る上で取り組むべき課題は概ね次の通りである。 (イ) 評価内容の改善(評価の公正性・中立性・客観性の確保) 評価は、公正且っ客観的、中立的に行われることが大切で、その結果についても公表を通じる等して透明性を高めることが大事である。援助を担当する部署と同一の部署が評価を行う場合、その評価の客観性・中立性は担保されるのかとの疑問から、全く独立した別組織による公正な評価活動を確保するべきとの議論もなされる。しかし、評価は援助サイクル(案件の形成・実施一案件の完了・引き渡し一案件の管理運営一評価一フォローアップ)の一環として組み込まれ、援助の実施や将来の援助政策の形成に活かされることが重要であることから、他の援助国、実施機関においても評価の実施主体は主として援助実施当局自身により行われているのが実状である。外務省は、かかる考えから在外公館による評価を中心としつつも、評価の公正性・客観性・中立性を確保するために第3者である外部の学者、報道関係者、経済・労働団体、NGO団体等の有識者に評価の実施を委嘱し、或いは他の援助国や国際援助機関との合同評価、経済援助や開発経済等の分野の外国人専門家、被援助国の援助関係者による評価を実施している。このように様々な分野や立場から評価への参加を得ることにより、公正で客観的・中立的な評価を確保出来るよう努力しており、今後とも更にその充実を図っていきたいと考えている。 (ロ) 評価手法の改善 (a) 評価ガイドライン(評価実施手引き)の作成 客観的且っ可能な限り統一のとれた評価手法で評価を実施することが大切であるが、そのため各種の評価実施手引の作成、整備に努める必要がある。具体的には現在までに、評価手引きの基本ともいえる「DAC評価原則」(DAC作成文書)、「在外公館評価実施要領」、「WID事後評価ガイドライン」、「食糧増産援助評価の手引き」、「有識者評価マニュアル」を整備・作成してきたが、現在更に、国別評価の実施に際し依拠されるべき「国別評価ガイドライン」を作成中である。 (b) 評価手法の開発・研究 外務省のこれまでの評価活動は、終了案件を取り上げて、当該案件の成果を中心に検証する「事後評価」を行ってきた。他方評価を更に改善していくためには、このような「事後評価」に留まらず、実施中の案件監理、実施体制の視察・調査を行い、我が国の援助資金が我が国の援助政策に沿って適正且っ効果的・効率的に活用されているかをはじめ、個々の案件の適否、援助の実施手続き及びその他の援助を取り巻く環境全般について援助担当部局自身が厳格に調査・確認していく必要がある。このような観点から、我が国の援助重点国を対象として、平成7年度より「援助実施体制評価調査」を新たに開始し、その第一回をインドネシアについて実施した。 また、これまで評価の困難さから評価対象外とされて来た「ノン・プロジェクト援助」について、それが円借款並びに無償資金協力の中で重要な地位を占めていることにも鑑み、その効果を可能な限り定量的に評価する手法を開発することとした。そのための研究は平成8年度より開始され、平成9年度を目途に報告書を纏めることとしている。 (C) 評価の基準 公正で客観的な評価を確保するためには、評価者恣意的判断を避けることが大切である。主要援助国・国際機関からなるDACの評価専門家会合でも各々の評価経験を踏まえ種々議論が行われ、評価に当たって準拠すべき5項目(案件妥当性、目標達成度、影響/波及効果、効率性、自立発展性)が評価原則として採択(91年12月のDAC上級会合)された。外務省が行う評価では、基本的にはこの評価原則5項目を踏まえ、評価作業がなされている。他方、近年地球的規模での取組を必要とする、環境、人口・エイズ等新分野への対応が求められ、援助対象が拡張されていることから、その見直しが必要とされ、具体的な作業がDAC評価専門家会合の場で行われている。 (d) 評点制度の開発 評価結果を判り易い形で表現する方途として、案件の成功度を示す評点制度が世銀等で開発・導入され、その後主要援助国でも徐々に導入されている。しかし、同制度には、結論を導いた過程が見えにくく、評点のみが一人歩きする危険があり、また、数字では表しにくい側面(例えば技術習得の達成度や普及効果、友好関係の促進効果等)が軽視されがちであるといった問題もあることから、DAC評価専門家会合で引き続き検討されている。 我が国としては、評点制度の試みとして、平成7年度版経済協力評価報告書から同制度を導入した。現在、具体的な評点作業に際し活用されるべき「経済協力評価のためのレイティング・ガイドライン」の作成を行っているところである。 (ハ) 評価体制面の整備 (a) 評価のデータ・ベースの整備 援助の「質」を改善するためには、援助関係者がこれまでの援助の評価情報に、より容易にアクセスし、新規案件形成等に活用することが重要である。かかる状況に対処するために、評価データの整備・検索システムの整備・充実が必要で、平成9年度より検索システムの改善を含め、包括的なデータ・ベースの整備を推進することとしている。 (b) 評価結果を活用するための体制の強化 評価の結果は、政策当局、援助実施機関に於いて有効に活用されることで初めて意味を持つこととなる。外務省では、その一環として、評価報告会の開催、報告書の回覧を通じ関係部局へのフィード・バックを図っている。また、問題点が指摘され早急に対応措置が必要とされる案件については、平成8年度より援助関係者からなる協議の機会を別途設け、再調査のための調査団、専門家の派遣等のフォロー・アップ措置について協議・検討を行うこととしている。更に、問題点の原因が、例えば予算・人的手当等、被援助国側に起因するものであれば、我が国の在外公館を通じて改善を求める他、経済協力総合調査団、経済協力年次協議調査団等の政策協議の場に於いて必要な申し入れを行うこととしている。 なお、平成6年度より、国別評価調査の結果については、報告書を取りまとめの上、調査対象国に於いて、政府関係者、国際援助機関、外交団、民間企業関係者等を幅広く招いて「評価セミナー」を開催し、評価結果を踏まえ、被援助国関係者に我が国ODAに対する認識を深めさせると共に、自ら自国の開発への主体的問題意識を培う機会を提供してしている。 (二) 広報の充実 我が国ODAが、真に国民の理解と支持を得るためには、国民にODAの実態についで情報を公開し、また、国民の側からも情報に容易にアクセス出来る環境を整備することが重要である。このため、評価活動については82年以来毎年、「経済協力評価報告書」を公表している他、平成8年度においては、外務省が行っている譜面活動を紹介する「我が国の評価活動-効率的・効果的援助を目指して-」と題するビデオ及び評価パンフレットの改訂版を作成した。今後とも、評価活動の意義と重要性に対する国民の理解を促進するために広報活動を充実していく考えである。
1. 外務省の評価活動について (1) 評価活動の経緯 (イ) 我が国における評価活動は、援助実施機関を中心に1970年代中頃より実施されてきたが、81年に外務省経済協力局内に「経済協力評価委員会」が設置され、組織的かっ体系的な取り組みが始まった。その後84年に援助政策の立案及び評価を所掌する「調査計画課」がっくられ、90年6月にはこれを改組して評価を専門的に所掌する「評価室」が設置された。現在、この評価室が後述する各種の評価活動を行っている。 (口) さらに、外務省が行う評価活動の諮問機関として、外部有識者からなる「援助評価検討部会」(現部会長は河合三良・元行政管理庁事務次官)が86年に設置され、(1)評価の体制・手法・実施計画の検討、(2)外務省の「年次経済協力評価報告書」の検討、(3)部会メンバー自身による現地プロジェクトの視察・評価等を行っている。 (ハ) また、援助実施機関の立場から国際協力事業団(JICA)、海外経済協力基金(OECF)も評価活動を行っており、従来その結果の一部は本報告書に掲載されてきたが、OECFは1991年度より、JICAは1995年度より各々個別に報告書を公表している。 (2) 譜面の形態別概要 外務省が行っている事後評価の形態とその特徴は次の通りである。 (イ) 国別評価 我が国の主要被援助国を対象として行う事後評価であり、政策、実務双方に通暁した学者、専門家の参加を得て調査を実施している。 関連情報収集、データ分析、マクロ経済分析など数カ月かけ、それを踏まえて現地調査を2週間程度行う。また評価結果については、報告書を取りまとめ、相手国において「評価セミナー」を開催し、評価結果の講評・討議を行って評価結果をフィードバックし、その有効活用に努めている他、相手国との政策協議の場を通じて被援助国側にも伝えている。 (ロ) 特定テーマ評価 国別評価に次ぐ巨視的事後評価の一つで、特定セクター・事業形態をテーマとし、複数国又は地域の案件を比較し、援助の効果や問題点を分析する。 (ハ) 合同評価 我が国と他の援助供与国または国際援助機関が、それぞれが実施した案件にっき共同で行う事後評価である。評価視点の多角化、評価手法の向上等の観点から有益であり、1989年度以来実施している。 (二) 有識者魅る評価 評価の中立性と客観性の確保の観点から行われる政府関係者以外の評価である。援助の分野のみに限らず幅広い専門的知識を有する学者、文化人、報道関係者、並びに民間の経済関係団体やNGOの関係者等に依頼して行う評価で、各々の評価者の知識 ・経験を生かした独自の視点からの評価が行われることが特色である。 (ホ) 国際専門家些よる評価 外国の開発援助問題等の専門家に委嘱して行う評価で、評価の客観性を目指すとともに、外国の専門家の評価手法などを学べる点に特徴がある。 (へ) 在遡る評価 我が国の在外公館が当該国で実施済の個別援助案件について行う事後評価である。援助の実務に携わる大使館員が、評価ガイドライン(在外公館における評価の実施要領)に基づき実施しており、個別案件の経済的・社会的効果の調査に加え、プロジェクトの運営管理、実施状況を把握することを主眼に行われている。 (ト) 被援助国閨歯拠る評価 被援助国関係者に委託して実施する評価。被援助国側の視点で我が国の援助を評価するとともに、被援助国関係者に解決すべき課題を認識させる機会を与えている。 (チ) 援助実施体制評価 我が国の主要援助国を対象として、無償・技協・有償の援助全般に関わる援助実施体制、援助資金の適正使用、援助実施手続きの適正等援助を取り巻く環境全般につき調査を行い、改善すべき点などがあればこれを是正・改善するような措置の勧告・提言を行うことを目的として行う評価である。我が国援助の一層の適正かう効果的・効率的実施を確保するために1995年度より導入した新しい評価形態で、政策、実務双方に通暁した有識者の参加を得て実施する。 (3) 評価案件の選定基準 外務省の評価は、原則的には事後評価であり、評価案件の選定に当たっては、概ね以下の諸点を勘案して選定を行っている。 (イ) 案件が協力終了後一定期間(援助形態にもよるが原則として2年から4年以上)経たもの(一度調査した案件であっても、一定期間が経てば再度評価対象となり得る)。東アジア、南西アジア、中近東・アフリカ、大洋州、中南米の地域的なバランスが考慮される。 (ロ) 援助形態毎の案件選定基準は原則として次の通り。 (1) 有償資金協力 対 象:プロジェクト借款、ツーステップローン 対象外:ノン・プロジェクト借款 (2) 無償資金協力 対 象:一般プロジェクト無償、水産無償、食糧増産援助 対象外:草の根無償(試験的に評価を実施)、食糧援助、緊急無償、 (3) 技術協力 対 象:プロジェクト方式技術協力 対象外:単独機材供与、開発調査(試験的に評価を実施)、専門家派 (注)ノン・プロジェクト借款及びノン・プロジェクト無償については、現在評価手法の研
(4) 評価基準 評価基準としては、基本的には、91年12月のDAC上級会合において採択された評価原則を踏まえ、以下の5項目を中心に評価が行われている。 (イ) 当初計画の妥当性:当初計画ないしはプロジェクトの選定・形成は妥当であったのか。事前調査段階及び実施協議に至る段階での検討は十分であったのか。プロジェクトの規模、機材の性能・仕様・動力源等が被援助国のニーズ、技術水準に合致していたか。 (ロ) 当初の目標の達成度:プロジェクトの当初目標はどの程度まで達成されたか。あるいは、いっ頃までに達成される見込みがあるのか。目標達成度に影響を与えた主要な要因は何であったのか。 (ハ) 案件のもたらした効果:プロジェクト目標の達成度合いから判断して、援助の直接的な効果として指摘できるものは何か。予想されていたもの以外に如何なる効果があったか。プロジェクトの対象となった社会、経済、制度、関連技術にどのような影響を与えたか。 (二) 実施の効率性:プロジェクトの「投入」から生み出される「成果」の程度を把握し、手段・方法・期間・費用の適切度を検証する。「成果」を具体的数値・価値による便益として客観的に捉えることができる場合には、費用対効果分析により、その効率性を測ることも可能。 (ホ) 自立発展性:我が国の協力が終了した後、成果や開発効果が持続されているか、また実施機関が十分な運営管理能力を有しているか、政府の支援が十分得られているか、財政基盤はしっかりしているか、技術移転を受けた人材は定着しているか。
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