VI.政府開発援助に関する中期政策
平成11年8月10日
はじめに人類は20世紀後半、史上例のない大きな開発の成果を達成した。開発途上国の人々の平均寿命は20年以上伸び、1950年代には半数に満たなかった成人識字率は3分の2程度にまで上昇した。しかし、現在なお13億もの人々が極度の貧困の中にあり、11億人が衛生的な水を得られず、8億余の人々が栄養不足や飢餓に苦しむなど、依然多くの課題を抱えている。1990年代には、冷戦の終了に伴い民主化と市場経済化を本格的に進める国々が増える一方で、貧困や低開発も原因となって、紛争や国内対立が継続・激化する地域も見られる。
情報通信の飛躍的な進歩や経済自由化の進展とともに、経済効率の向上や国際的な相互依存が急速に進んでいるが、こうしたグローバリゼーションの流れから取り残される国々や貧富の格差の拡大が問題となっている。1997年来のアジア経済危機に際しては、開発途上地域における経済構造の脆弱性が改めて明らかとなり、新たな支援が必要となっている。また、アジア経済危機は、東アジア(東南アジアを含む)経済と我が国経済との間に存在する密接不可分の相互依存関係を照らし出したが、東アジア各国の経済構造改革や経済再生と社会的安定のための支援は、我が国自身の利益にも直接繋がる極めて重要な意義を有し、政府開発援助と経済政策との関連も重要となっている。
他方、地球温暖化をはじめとする環境問題は、一国のみならず地球的規模で深刻な影響を及ぼし得る問題である。人口・エイズ、食料、エネルギー、薬物等、国際社会が協調して取り組むべき問題が山積し、これらの諸問題も開発途上国に密接に関係している。
21世紀に向かって、開発と環境保全との両立を図り、開発途上国の持続可能な開発を支援していくことは先進工業諸国にとり共通の課題となっている。わけても、世界第二の経済大国であり、政府開発援助(以下ODA)の最大供与国である我が国にとり、開発途上国の持続可能な社会経済の発展に寄与することは、重大な責務であり、国際社会における我が国への信頼や評価を高めることにも繋がる。また、世界の平和と安定に依拠し、資源・エネルギー、食料等の供給を海外に依存する我が国にとり、開発途上国支援に引き続き積極的な貢献を行っていくことは、我が国自身の安全と繁栄の確保にとって重要な意義を有し、平和の維持を含む広い意味での我が国の国益の増進に資する。
我が国の経済財政事情は依然厳しい状況にあり、援助を巡る内外の環境も以前とは大きく変化している。ODAも、従来にも増して、こうした諸事情を総合的に勘案して実施していく必要がある。このような中にあって、国際社会から我が国に寄せられる高い期待に引き続き応えていくためにも、これまで以上に国民の理解と支持を得てODAを実施して行くことが不可欠である。その際、特に「政府開発援助大綱」*1の理念、原則等に則り、援助の適正な実施を確保するとともに、これまで以上に効果的かつ効率的に援助を推進すること、その政策につき国会をはじめ広く国民に対し十分な説明責任を果たすことが必要である。併せて、ODAと我が国の外交政策や国益に関わる重要な政策との間の連携を図って行くことも必要である。
これまでの我が国の援助は概ね高い評価を得ているが、ODA事業は歴史、文化、習慣、法制、言語などが全く異なる国々との共同事業である場合が多いため、本来的に種々の難しさを伴い、必ずしも当初の期待通りの成果が挙がっていない場合もあり、改善が求められるべき点もある。
以上を踏まえ、今後5年程度を念頭に置いた我が国ODAの基本的考え方、重点課題、地域別援助のあり方等をここに明らかにする。なお、この中期政策は、内外情勢の変化に対応して適宜見直しを図ることとする。I.基本的考え方
- 経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)は、1996年、過去50年の先進国による開発援助の経験と、国際社会に果たした役割を分析した上で今後の開発援助のあり方をまとめた「新開発戦略」を策定した。そこでは人々の生活の質の向上を開発の目的として設定し、2015年までに貧困人口の割合を半減させることなど社会開発上の具体的な目標*2を掲げている。我が国は、「新開発戦略」の策定に主導的な役割を果たし、国際社会におけるそうした取組みの普及にも努力してきた。その結果、国際社会において「新開発戦略」は開発途上国の開発に関する共通のガイドラインとして定着しつつある。我が国としては、「新開発戦略」に掲げられた目標を念頭に置き、「政府開発援助大綱」の下、ODAに取り組むものとする。
- 「新開発戦略」の目標の実現には、開発途上国自身の経済的離陸に向けた自助努力とその主体的な取組みが鍵となる。我が国は開発途上国の政策運営能力向上等を通じた「良い統治」の促進を重視し、そのための働きかけと支援を行っていく。また、援助の適正実施と透明性確保を開発途上国に働きかける。こうした自助努力と主体的取組を前提として、我が国は他の援助国や国際機関との協調・連携の強化、パートナーシップ構築に努めていく。
- 開発援助の実施にあたり、国毎のニーズや開発課題及び相手国の意向を十分踏まえる必要がある。開発途上国の発展段階に応じて各種援助形態の効果的な組合せを図りつつ、開発途上国との政策対話や事前調査に基づき、国毎の事情に適合した効果的・効率的な支援に努める。その際ODAが被援助国や対象分野により既得権益化することのないよう留意する。更に、円借款等、援助に関する種々の制度については、状況の変化に応じ適時適切に見直しを行っていく。
- 開発の効果を高めるためには、開発途上国、先進国、国際機関、民間部門、民間援助団体(NGO)など、あらゆる主体の持つ利用可能な資源との役割分担と連携を図る包括的取組みが必要である。特に近年はアジアや中南米をはじめとして開発途上国の開発における貿易や投資等民間部門の役割が増していることを踏まえ、民間活動の促進と民間資金の流入が促されるよう環境整備を図るとともに、公正かつ効率的な資源配分や格差是正等に留意し、民間資金が流入しにくい部分への支援を重視する。
- 経済成長は人間の福祉向上の手段として必要であり、「人間中心の開発」は持続可能な開発を実現するために不可欠である。こうした観点を踏まえ、開発途上国の経済成長と社会開発をバランスよく支援していく。また、人間中心の考え方に基づき、後発開発途上国(LLDC)*3に特に配慮する。更に、環境の悪化や飢餓、薬物、組織犯罪、感染症、人権侵害、地域紛争、対人地雷といった種々の脅威から人間を守る「人間の安全保障」の視点に十分留意していく。
- 開発援助を進めていく上で、納税者である国民の理解や支持が得られるよう我が国の「顔の見える」援助を積極的に展開し、被援助国においても我が国の援助に対する認識と理解の促進に一層努めることが必要である。我が国企業の事業参加機会の拡大に留意し、また、大学、シンクタンク、地方自治体、NGO等による国民参加型の協力の推進に努め、民間部門を含めた我が国自身の経験や技術、ノウハウの一層の活用を図る。また、二国間援助にはない利点を有する国際機関を通じた援助も十分活用していく。そのようにして、国際社会の調和ある発展の中に将来にわたって我が国の活力を維持し、我が国に対する信頼と評価を確保することが極めて重要である。
II.重点課題
以上の基本的考え方を踏まえ、経済・社会インフラ整備への協力とのバランスに配慮しつつ、従来以上に貧困対策や社会開発の側面及び人材育成や制度、政策等のソフト面での協力を重視する。また、地球規模問題にも引き続き積極的に取り組む。
1.貧困対策や社会開発分野への支援
貧困問題への対応の重要性は、DACの「新開発戦略」に掲げられた諸目標の中にも反映されており、また、1995年の国連の社会開発サミットでは先進国は援助の20%以上を、開発途上国は国家予算の20%以上を基礎的な社会分野に配分することが、いわゆる「20/20協定」として申し合わされている*4。我が国はまた、我が国が提唱した世界福祉構想*5に基づき、途上国国民の福祉向上にも資するよう、各国との知識や経験の共有を図ってきている。
貧困対策においては、経済成長の成果が公正に配分されること、貧困層への支援を直接の目的とした協力を実施すること、特に我が国が成長と貧困撲滅の過程で得た経験や知識を各国との間で共有し、開発途上国の開発に活かすことが重要である。
貧困対策や社会開発分野への支援に際しては、基礎教育、保健医療分野での支援が果たす役割が極めて大きいほか、開発途上国における女性支援(WID)の視点*6も重要である。また、安全な水の供給は、人々の健康を支えるのに不可欠であるが、今後希少な水資源の確保を巡って緊張が高まる事態も予想される。水資源開発や水資源の管理・利用のための支援が重要となっている。更に、地域間格差の是正のため、農村等貧困地域に対する支援が重要である。多くの開発途上国では、多数の国民が農山漁村地域に居住していることから、これら地域の貧困緩和を図ることが重要である。アジアの通貨・経済危機に際しては、農業・農村の持つ重要性が再認識されている。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 「新開発戦略」に掲げられた目標を念頭に「20/20協定」の目標達成に努める。
- 開発途上国自身が貧困緩和に向け総合的に取組めるよう政策立案・実施能力の強化を支援し、また、経済成長の成果が広く貧困層にも裨益するような制度構築等ソフト面の協力を重視する。
- 途上国の女性支援(WID)/ジェンダー、職業訓練・雇用機会の創出、小規模金融(マイクロ・クレジット)の活用等分野を横断する総合的な取り組みや地域社会に密着した住民参加の手法を重視する。
- 地域間格差是正のため、農村等の中心産業である農林水産業の振興、就業機会を確保するための地方産業の育成を支援するとともに、地域の生活環境等の整備や住民組織の育成も重視する。
- (1)基礎教育
教育を受けることはそれ自体が基本的人権の一部であると共に、開発途上国においては、貧困、人口、環境等の諸問題に効果的に対処する上でも基礎教育が重要な鍵となっている。
最貧国をはじめとする多くの開発途上国では、予算や教育施設・教材・教員の不足のため初等教育の普及が阻まれており、世界の非識字者は8億6千万人近くに上る。「新開発戦略」は、初等教育の普及及び初等・中等教育における男女格差の解消を目標として掲げている。我が国は、これまで、基礎教育分野において、校舎建設*7や資機材供与等の支援を行ってきているほか、特に男女格差解消のための支援としてアジア・アフリカ地域における女児教育に関する国連児童基金(UNICEF)の活動などを支援してきている*8。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 校舎・資機材のようなハード面での協力とともに、学校運営等の組織・能力強化への支援、カリキュラム・教材開発、教員教育など、教科教育・教育行政両面にわたるソフト面での協力強化を図る。
- 特に女子の基礎教育支援を重視していく。
- 開発の主体である住民への啓蒙活動や、協力案件の実施において住民参加を進めるため、青年海外協力隊の活用や民間援助団体(NGO)との積極的な連携を図る。
- 基礎教育への支援が各地の実情に応じ職業教育の促進や就業能力の向上に結びつくよう努める。
(2)保健医療
貧困や開発の程度は途上国の人々の健康状態に端的に現れる。これまでの開発努力により、開発途上国の住民の健康指標は向上してきている。具体的な成果として、例えば、我が国の積極的な貢献により、WHO西太平洋地域からはポリオ(小児麻痺)がほぼ駆逐され、世界全体でもポリオ発生件数が激減している*9。しかし、年間1,200万人近くの5歳未満児が予防可能な病気によって死亡するなど、依然課題は多い。そうした課題に対応するためには、可能な限り多くの人々に基礎的な保健医療サービスを提供することを目指す「プライマリー・ヘルス・ケア」の視点が重要である。また、国境を越えて広がるエイズ、結核、マラリアをはじめとする寄生虫疾患等の新興・再興感染症が大きな脅威となっており、こうした課題についても世界保健機関(WHO)や他の援助国・機関と連携しつつ取り組んでいく必要がある。
「新開発戦略」は、乳幼児死亡率や妊産婦死亡率の削減、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に関する保健・医療サービスの普及を目標に掲げている。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 開発途上国の保健・医療体制の中核となる施設へのハード・ソフト両面での支援を引き続き行う。
- プライマリー・ヘルス・ケアの視点を重視しつつ、可能な限り多くの人々に基礎的な保健医療サービスを提供する保健医療システムの構築を支援する。
- 我が国の経験を最大限活かし開発途上国政府の状況に応じた政策立案・実施能力向上を支援し、政策対話を通じ保健医療政策の改善を促していく。
- 協力の効果を持続的なものとするため、住民の参加及びNGOとの連携を積極的に進める。
- 経済危機等の影響は社会的弱者とその健康面に最も現れやすいことに留意し、健康面でのこれまでの努力の成果が失われないよう努める。
全世界で貧困状態にある13億人のうち70%が女性であり、教育、雇用、健康面でも多くの女性が脆弱な立場に置かれていること、また、開発途上国において均衡のとれた持続的な開発を実現していくため、男女の均等な開発への参加とそこからの受益を図る必要があることから、開発途上国における女性支援の視点が重要である。我が国は、1995年に「途上国の女性支援(WID)イニシアティブ」を発表し、開発援助実施に際し女性の教育、健康、経済・社会活動への参加を重視することとしている。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 保健・教育面での女性支援や、人口家族計画への支援、女性の経済的自立を促進するための小規模金融、職業訓練、労働環境の改善等への支援を積極的に行うとともに、この分野での途上国の政策立案能力向上を支援する。
- 男女住民の参加や事業実施のジェンダー面に与える影響に配慮するとともに、ジェンダーに関するモニタリング・評価結果の活用に努める。
2.経済・社会インフラへの支援
開発途上国において貧困対策や社会開発を進め、「新開発戦略」の具体的な目標の達成を図るためには、持続的な経済成長の確保が不可欠である。我が国は従来より、経済成長の下支えとなる経済・社会インフラの整備を円借款などを通じて積極的に支援し、アジア地域を中心に経済成長の基盤整備に大きな役割を果たしてきた*10。経済・社会インフラ整備を促進するにあたっては適切な規模の中長期資金が必要であること、また、十分な自己財源や民間資金の流入を確保し得る開発途上国がまだ一部に限られていることにも留意する必要がある。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 開発途上国の実情に応じ、運輸、通信、電力、河川・灌漑施設等や都市・農村の生活環境などの経済・社会インフラの整備を引き続き支援していく。
- 開発途上国にとってのODA以外の資金の重要性に鑑み、民間資金及びODA以外の公的資金(OOF)との役割分担と連携を重視する。
- ODAを通じて民間投資にとり魅力ある事業環境を整備していく。
- 開発計画の策定、規格・基準等インフラに関する政策面での協力や、資金協力と技術協力の連携による施設の維持・管理面での協力を進め、持続的な効果が発揮できるよう努める。
- 協力の実施に際し、貧困地域や貧困層に利益が及ぶよう配慮するとともに、地域社会・地域住民への影響及び環境保全に十分配慮する。
3.人材育成・知的支援
- (1)人材育成
人造りを国造りの基本と捉え、開発途上国による自助努力への支援を援助の基本理念とする我が国は、引き続き開発途上国の経済・社会開発に必要とされる人材育成を格別に重視し*11、次のような支援を行う。
- 開発途上国自らが国造りのために人材育成を行えるよう、専門家の派遣や研修員の受入れを通じて引き続き支援する。
- 高等教育を含む教育部門や、職業訓練分野での支援を重視する。
- 開発途上国の実情に適した技術の移転と人材の育成に努める。
- 青年海外協力隊やシニア・ボランティアの活用も含め、地域レベルや住民の能力向上に直接つながる支援を行う。
- 人材育成の支援に当たっては、広域的な効果の期待できる事業形態(第三国研修)*12を積極的に活用する。
また、開発途上国から我が国への留学及び途上国や我が国における日本語教育の積極的な推進は、人材育成の観点のみならず、我が国と相手国の相互理解増進及び我が国の知的国際貢献の進展に直接資するとの国家戦略上重要な意義を有する。我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
- 今後とも、留学生受入れ10万人計画に基づいて、留学生の受入れ体制(帰国留学生のフォローアップを含む)の充実改善を推進する。
- 教員等の人的交流を推進する。
- 近年の留学生のニーズの多様化等に対応するため、留学生に対する大学教育の質的充実、留学制度の充実改善や留学生への支援の充実を重視する。
- 留学生の受入れにおいては、民間部門の果たしている役割に鑑みこれとの連携に留意する。
- 我が国の文化に対する諸外国の理解増進及び留学生受入れの推進にも重要な役割を担う、日本語教育への支援を積極的に行う。
(2)知的支援
市場経済移行国のみならず、経済の急速なグローバル化が進む中で経済発展を進めてきた開発途上国においては、そのような変化に経済・社会体制を適応させるためソフト面での支援の重要性が高まっている。我が国の経済発展の過程において蓄積されてきた経験やノウハウには開発途上国の発展に有効に活用しうるものがある。具体的には、法制度整備を含め各種制度・政策の形成のための支援などが重要であり、我が国の人材を活用した政策アドバイザー等の派遣を含めた取り組みが有効である。なお、こうしたソフト面での支援は、貿易投資分野での相互依存関係の高まりの中でWTOに基づく多角的貿易体制といった世界経済システムを支えるためにも重要となっている。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 以下の分野等に関する法制度整備を含む政策・体制整備への支援を重視する。
(イ)適切な財政・金融制度、経済制度の構築
(ロ)開発途上国側の政策実施・運営能力の向上
(ハ)市場経済化の促進
(ニ)社会的弱者の保護
(ホ)公害防止・自然環境保全等- 経済成長からの貧困層の裨益を促進するための制度構築等に関する知的支援を行う。
- 政府部門のみならず、大学・シンクタンクを含め広く民間部門の人材の活用を図りつつ、政策アドバイザーの派遣等による支援を行う。
(3)民主化支援
開発途上国における民主主義の基盤強化は、統治と開発への国民の参画及び人権の擁護と促進につながり、中長期的な安定と開発の促進にとり極めて重要な要素である。特に、冷戦後の世界において、多くの国において市場経済の導入とともに民主化への努力が進められており、そうした努力を支援し、民主主義の定着を促すことが重要である。
我が国は、民主化支援関連で研修員の受け入れやセミナーの開催、また、開発途上国の国内選挙に人的・資金面での支援を行ってきている*13。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 民主化や市場経済化に向けた改革を進める国に対し、行政運営能力の向上、民主化・市場経済化に関する制度の構築や政策の策定、人材育成、参加型開発、選挙支援等を含め、積極的に支援を行う。
- 民主化という政治過程や市場経済化という根本的な制度変革の有する特殊性に鑑み、国毎の政治体制や社会・経済状況、歴史的経緯等に十分留意する。
4.地球規模問題への取組
- (1)環境保全
地球温暖化等の環境問題は、人類の生存自体にも関わる課題であり、また途上国においては、経済成長に伴う深刻な環境汚染や、人口増加・貧困を背景とした自然環境の劣化も急速に進行するなど、途上国自身の発展基盤を揺るがす問題となっており、国際社会全体での取り組みが不可欠である。DAC「新開発戦略」は、環境保全のための国家戦略の策定や環境資源の減少傾向を反転させるとの具体的目標を掲げている。
地球環境問題は、我が国外交の最重要課題の一つとして位置付けられている*14。我が国は公害対策のための技術革新を通じて経済成長と環境保全を同時に達成した経験と教訓を有している。こうした経験や技術を開発途上国の経済・社会開発に活かしつつ、途上国の環境分野における取組強化と対処能力向上を促し、持続可能な開発を支援することは大きな意義を有する。また、環境保全関連の支援においては、地方自治体やNGO等との連携・協力が極めて重要である。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 1997年6月の国連環境開発特別総会に際し表明した「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」の基本理念及び行動計画に基づき、(イ)大気汚染・水質汚濁・廃棄物対策、(ロ)地球温暖化、(ハ)自然環境保全、森林の持続可能な経営、(ニ)「水」問題、(ホ)環境意識向上・戦略研究の各分野における施策等につき引き続き積極的に協力を行う。
- 地球温暖化対策に関しては、1997年12月の気候変動枠組条約第3回締約国会議に際し発表した「京都イニシアティブ(温暖化対策途上国支援)」*15に基づき、協力を積極的に推進していく。
- 環境保全関連案件には優遇された条件の円借款を供与する等特別の配慮を行う。
(2)人口・エイズ
増加の一途にある世界の人口*16は、地球環境や食料・資源エネルギー問題とも関連する地球規模の課題となっている。特に多くの開発途上国においては、人口増加が貧困・失業、飢餓、教育の遅れ、環境悪化等の問題と深く結びついている。また、国境を越えて広がりを見せるHIV/エイズ*17は、開発途上国の住民の健康と労働能力に深刻な影響を及ぼし開発の大きな阻害要因となっている。
これらの問題に対処するため、我が国は、1994年、「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」を発表し積極的な取組みを行ってきた*18。また、我が国は「国連合同エイズ計画(UNAIDS)」を中心とした国際的なエイズ対策を支援している。
以上を踏まえ、我が国としては次のような支援を行う。
- 引き続きGIIに基づき、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の視点を踏まえ、人口・家族計画等直接的対策への協力に加え、女性と子供に対する基礎的保健医療や初等・中等教育の実施、女性の地位向上等への支援を含めた包括的な取組みを行い協力を進めていく。
- きめ細かい対応が不可欠であり、地方政府やNGOとの連携を深めていく。
- エイズ対策については、UNAIDSとの協力をさらに深め、国際的なエイズ対策に貢献していくとともに、二国間協力と国際機関との連携を強化していく。
(3)食料
予測される急激な世界人口の増加と食生活の変化に伴い食料需要の大幅な増加が見込まれるのに対し、食料生産の伸びは低下する傾向が見られる。また、土壌劣化、水資源、気候変動や異常気象の問題も加わり、安定的な食料供給の確保には多くの課題がある。
1996年の世界食料サミットにおいて、世界の食料安全保障の達成と栄養不足人口の2015年までの半減を目指し、各国が協調行動をとることが宣言されたことを踏まえ、我が国としても、途上国自身が国内の食料生産力を高める努力を積極的に支援していく必要がある。また、食料・農業分野や農村開発における協力は、貧困緩和、持続可能な開発の実現のためにも重要である。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 生産資機材の供与や灌漑施設の建設等農業・漁業生産の面での支援に加え、市場へのアクセスに資するインフラ整備や流通管理のための協力を推進する。
- 品種改良等農業技術や漁業技術の向上、その効果的な普及のための支援を重視する。
- 農業技術等の普及や農業用水・水産資源の管理に関しては、住民の組織化や行政能力向上に配慮する。
- 食料支援については、緊急非常時の対処手段として重要であることから、その適切な活用を図っていく。
(4)エネルギー
世界のエネルギー需要は主としてアジアをはじめとする途上国の経済発展に伴い今後急速に増大することが予想されており、エネルギー問題は、地球環境問題への対応、持続可能な開発の達成とも関連する地球規模の政策課題となっている。また、途上国においては、その経済発展を実現するためにもエネルギー供給を確保することが課題となっている。エネルギー資源や鉱物資源の対外依存度が極めて高い我が国にとっても、本分野の協力はこれら資源の安定供給確保の観点からも重要である。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 開発途上国の原油、天然ガス、電力、石炭液化等のエネルギー関連のインフラ整備案件のうち、民間部門または政府開発援助以外の政府資金(OOF)での対応が難しい案件への支援や、省エネルギーの推進等による持続可能な開発促進への支援を強化していく。
- 途上国において温室効果ガスの排出を抑制しつつ、持続可能な開発を実現していくとの観点から、省エネルギーの推進、太陽光、風力などの再生可能エネルギーの利用促進、より環境負荷の小さい石炭技術の導入、薪炭原料ともなる森林の保全・造成などに資する協力を行っていく。
- 鉱物資源分野においては、これまでも技術・資金面での協力を通じて主要供給国の鉱山開発を環境に配慮しつつ支援してきており、地域的、国際的な環境問題への関心の高まりを背景に、鉱山の開発による環境影響への調査等を含めた支援・協力を行っていく。
(5)薬物
薬物対策は、先進国及び途上国双方が自らの問題として取り組み、関係国際機関も含めて国際的な協力の下に進めていくことが不可欠である。特に、開発途上国における薬物対策は、問題の背景に貧困問題があることに留意し、貧困対策と併せて実施していくことが必要である。こうした認識に基づき、我が国はこれまで、薬物関連の犯罪・乱用防止や取締りについてのセミナー、研修員受入れに加え、麻薬代替作物に対する支援、啓発活動等への支援を進めてきた。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 今後とも、実効的な薬物対策に資するため、国際社会の取組と協調しつつ、犯罪防止や取締り能力向上への支援や代替作物栽培促進、啓発活動等の支援に加え、生産地住民の生活支援に直結する協力を重視していく。
5.アジア通貨・経済危機の克服等経済構造改革支援
1997年夏に端を発する東アジア諸国の通貨危機においては、大規模かつ急激な民間資金の移動が開発途上国の経済、更には我が国を含む世界経済にも多大な影響を及ぼした。その後、1998年10月に発表された新宮沢構想をはじめとする公的資金支援によりアジア諸国の緊急の資金ニーズは満たされてきており、経済は底を打ちつつある。実体経済の本格的かつ力強い回復を確実なものとするためには、このような緊急的に必要とされる対応に加え、中期的な経済成長の回復に資する構造改革支援を行っていく必要がある。また、我が国経済との深い相互依存関係にも鑑みれば、そのような協力は我が国経済にも裨益するものとなる。更に、途上国への民間資金の還流を促し、その経済回復を支援することは、世界経済の健全かつ持続的な発展にも寄与する。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 我が国がこれまで取り組んできたインフラ整備協力、技術移転、中小企業振興や据野産業育成への協力について他の公的資金との役割分担と連携を重視しつつ一層の充実を図る。
- アジア等の開発途上国を経済再建の軌道に乗せていくため、国際金融機関等とも連携しつつ、これら途上国の実体経済回復に向け、社会的セーフティネットの整備等社会的弱者支援を中心とし、更には法制度や金融セクター、経済制度等の制度改革を含めて支援していく。
- 産業再生のための協力が喫緊の課題となっており、特別円借款を通じて景気刺激効果・雇用促進効果の高いインフラ整備を行うことにより、民間投資にとって魅力ある事業環境を整備するとともに、生産性を向上させることを通じて経済構造改革を支援する*19。
- 危機への対処だけではなく、予防のための国内金融システム強化及び中核人材の育成や企業経営・技術力の向上等に資する協力を行っていく。
6.紛争・災害と開発
- (1)紛争と開発
冷戦終結以降も後を絶たない地域紛争は、人道上の問題を引き起こすと同時に、それまでの開発努力の成果や環境を破壊する。紛争の予防、解決、紛争後の平和構築と復興は開発の観点からも国際社会の大きな課題である。我が国は、例えば中東和平問題への取組に関連しパレスチナ支援*20を行ってきたが、紛争予防・紛争後の復興のため今後も積極的な役割を果たしていく必要がある。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 紛争の予防のため、紛争の背景にある貧困や社会的弱者への対応に加え、いわゆる「良い統治」、即ち公正かつ適正な資源配分、人権保障への配慮、政治・経済面での適切な制度・プロセスの確立、行政能力の強化等の実現を重視する。
- 紛争に伴う難民問題については、難民流入等により影響を受ける周辺国への支援を含め、緊急対応のための人道的支援を積極的に行う*21。その際NGOの役割の重要性に配慮する。
- 紛争後の平和構築及び復興に際し、難民や元兵士等の再定住及び社会 復帰のための支援を積極的に行う。
- 公正な政治・経済制度の確立、行政能力強化のための支援に加え、国 内統合や経済面での復興に不可欠なインフラの整備を支援する。
地域紛争等の際に埋設され、現在も放置されている対人地雷は、一般市民に対しても無差別に深刻な被害を与える人道上極めて重大な問題であるだけでなく、住民の定住、農村開発などを妨げ、紛争終結後の復興と開発にとっても大きな障害となっている。我が国は、1997年3月に「対人地雷に関する東京会議」を開催し、「犠牲者ゼロ」の目標を含む「東京ガイドライン」をとりまとめた。同年12月には、対人地雷の除去や犠牲者支援の分野における我が国の取組みとして「犠牲者ゼロ・プログラム」を提唱した*22。
以上を踏まえ、我が国としては次のような支援を行う。
- 除去作業関連機材の供与等を通じる対人地雷除去を支援する。
- 救急医療・リハビリ体制の強化を図る。
- 被災者の社会復帰・職業訓練等を通じる地雷被災者の支援を行う。
- 他の援助国・国際機関やNGOとの協力を重視する。
(2)防災と災害復興
災害は、生活基盤の脆弱な貧困層をはじめ、人々の生活を根底から覆す。近年は、世界的異常気象等により自然災害等が多発し、かつ大規模化する傾向が見られている。我が国は、これまでに災害時の緊急支援のため、23ヶ国に対し国際緊急援助隊を46チーム派遣するなど、災害のもたらす人道問題に対し様々な支援を行っている。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 国際緊急援助隊の派遣を含め、今後とも、我が国の治山・治水、地震・津波等の災害対策の経験を活かしつつ、災害時の緊急援助、災害後の復興のための支援及び国土保全・災害防止のための支援を積極的に行っていく。
7.債務問題への取組
サハラ以南アフリカの最貧国等の債務問題は、これら諸国の経済成長を極めて困難にしており、国際社会にとっても看過できない状況となっている。我が国は、これまでも債務繰り延べや債務救済無償資金協力などにより積極的な支援を行ってきた*23。
我が国は、1999年6月のケルン・サミットでの合意*24を踏まえ、重債務貧困国(HIPCs)をはじめとする貧困国の長期的な自立を支援するため、他の援助国及び国際機関と協力しつつ、今後とも債務問題の解決に積極的に取り組んで行く必要がある。
以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
- 我が国は、債務国自身による債務返済のための努力を重視しつつ、国際的な枠組みに基づき、債務の繰り延べを行うとともに、返済額に対応した無償資金協力を供与することにより実質的な債務削減を行う。
- 債務削減により利用可能となる資金は、貧困緩和や教育、保健・医療等の社会的投資や雇用創出等の開発目標に充当されるようにする。
- 債務削減が行われた場合は、新たな借款の供与は困難となり、資金協力を行う場合には無償資金が原則となる。
- 債務管理能力向上及び適切なマクロ経済運営を可能とするような技術協力(人材育成、知的支援)を積極的に行っていく。
- 今後の借款の供与に当たっては、従来以上に個々の開発途上国の発展段階や債務負担能力へ配慮し、途上国の開発計画、我が国の援助理念等を十分斟酌しつつ検討を行う。
III.地域別の援助のあり方
我が国は、世界の150ヶ国以上の国に対しODAを供与しており、1996年にはそのうち47ヶ国*25において二国間で最大の援助国となるなど、既に世界の多くの国の開発に大きな役割を果たしている。我が国の援助は、地理的・歴史的その他あらゆる面で関係の深いアジア地域を重点地域としており、今後ともアジア地域に重点を置いていく。同時に、経済その他の面での相互依存関係が世界的な拡がりと深化を見せる中、人道的問題、国際社会の安定と繁栄の確保、地球規模問題への対応等国際社会が一致して取り組むべき問題が数多く存在するため、アジア以外の地域への取組も進めていく。
1.東アジア地域
我が国の援助は、1992年から5年間のDAC加盟国から本地域への援助の6割近くを占めるなど、この地域に重点的な協力を行ってきた。人造りや経済・社会インフラ等への我が国の援助はこの地域の経済成長促進に大きな役割を果たし、また、社会開発や環境面での援助を通じ貧困問題や公害問題の緩和等にも貢献してきた。
我が国は、経済を含む多くの面でこの地域と特に密接な関係を有しており、今後とも、所得水準や市場経済の段階、更には、社会状況や自然状況の異なる東アジアの多様な状況を踏まえ適切な支援を行う必要がある。東南アジアの中で近年まで高い成長を示していた諸国については、現下の困難な状況を乗り越え順調な経済発展を回復し、政治社会的な安定を維持し得るよう支援することが我が国にとっても重要である。また、依然所得水準の低いインドシナ諸国やモンゴルについては、貧困緩和に取り組むとともに、これら諸国の市場経済への移行及び持続的な成長を引き続き支援していく必要がある。更に、12億を超える人口を抱え、その動向が世界的に大きな影響を与え得る中国については、その改革・開放路線を支援し、国際社会のより一層建設的なパートナーとなるよう促すとともに、国内の地域間格差の是正や環境問題等への取組に重点を置きつつ支援を行っていく必要がある。東アジア地域においては広域的な開発への取組み、地域協力の深化と拡大が進みつつあるほか、他の開発途上国への支援を開始したいわゆる「新興援助国」が登場しており、この様な動きを支援して行く必要がある。
以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1) 経済構造調整をはじめとした経済危機克服と経済再生のための支援 (2) 国民生活及び国内の安定に資するための社会的弱者への積極的支援 (3) 裾野産業育成や適切な経済・社会運営のための人材育成と制度造り等の支援 (4) 貧困対策、経済・社会インフラ整備、環境保全対策、農業・農村開発における各国の実情に応じた援助の実施 (5) 地域における広域的な開発(ASEAN域内協力、APEC地域協力、メコン河流域開発等)の取組み及び「南南協力」*26への支援 2.南西アジア地域
南西アジア地域は世界最大の貧困人口を抱える地域である*27。我が国は、「新開発戦略」の目標を念頭に置き、今後もこの地域の抱える貧困問題への対応を重視していくとともに、域内各国の経済自由化や経済面を中心とした地域協力等望ましい動きを支援していく必要がある。1998年5月のインド・パキスタン両国による地下核実験の結果、我が国は両国に対する援助政策を根本的に見直さざるを得なかったが、引き続き不拡散分野での両国の取組の成果を求めつつ、対話を進めていく必要がある。
以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1) 貧困削減と貧困層の生存の確保のための支援(保健医療、初等教育、農業・農村開発等の基礎生活分野) (2) 民間活動の活発化及び海外からの投資促進に資する環境整備のための人材育成、経済・社会インフラ整備等への支援 (3) 人口増加や経済成長と関連した環境負荷増大に対応した、環境保全対策のための支援 3.中央アジア・コーカサス地域
ソ連邦崩壊後、域内の諸国は民主化・市場経済化を進めてきた。しかし、依然として、各国は脆弱な経済構造、失業者の増加等の社会不安、民族紛争や領土問題など、政治経済的不安定要因を抱えている。我が国はこの地域の諸国をDACの援助対象国リストに掲載するため働きかけ、これを実現させる等の積極的支援を行ってきた。我が国はこの地域の地政学上の重要性や、エネルギー資源確保上の重要性を認識し、「シルクロード地域外交」*28の推進により同地域の安定の実現に協力していく必要がある。
以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1) 自立的な経済開発の基礎となる経済・社会インフラ整備への支援 (2) 民主化・市場経済化のための人材育成と制度造りへの支援 (3) 旧ソ連時代の負の遺産(環境保全対策、セミパラチンスクの被爆者支援等)の克服や体制移行・改革に伴う社会的困難の緩和 4.中近東地域
中近東地域は我が国への原油の主要な供給元として我が国経済の安定にとり極めて重要である。また、中東和平やイラク情勢をめぐる動きは世界の平和と安定に大きな影響を及ぼし得る。我が国は、この地域の社会的安定と和平に向けた環境造りのための支援を積極的に行ってきている。また、水資源の確保は地域の安定にも影響をもたらしうる重要課題である。中近東地域は産油国、LLDCを含み、経済状況は国により様々であり、脱石油の経済多角化に向けた国内技術者の育成等の人材開発が大きな課題となっている。
以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1) 中東和平プロセス支援のための協力(対パレスチナ支援、周辺アラブ諸国支援、多国間協議関連案件の支援等) (2) 比較的低所得の国における農業、水資源開発等の経済・社会インフラ整備支援 (3) 比較的高所得の湾岸諸国における脱石油のための経済多角化に向けた国内技術者層の育成、教育等に資する技術協力による支援及び海外からの投資促進のための環境整備への適切な支援 (4) 比較的高所得の国等における環境保全対策への支援 5.アフリカ地域
アフリカ地域では、近年、民主化へ向けての進展や南部アフリカの安定等好ましい動きが見られ、着実な経済成長を達成する国も増加した。しかしながら、経済のグローバル化から取り残される懸念や、紛争、エイズ等開発を阻害する深刻な問題を抱える国も多い。また、アフリカの過半の国はLLDCであり、多くの重債務貧困国が存在する。アフリカにおける種々の問題解決に向けての努力を支援することは、国際社会が一致して取り組む課題であるとの認識が強まっている。
我が国は、こうした認識を強化し国際社会によるアフリカの自助努力支援を具体化するため、1998年10月、国連等とともに第2回アフリカ開発会議(TICADII)を本邦で開催した。
TICADIIにおいては、「新開発戦略」の基本的考え方を具体化するものとして、アフリカ諸国の自主性の発揮、先進国や国際機関との協力・連携の強化、アジア・アフリカ協力の推進等を柱とする「東京行動計画」を策定した。今後は、この行動計画の実施が課題となる。また世銀が中心となって推進されている「アフリカのための特別支援計画(SPA)」等国際的な努力と協調しながら支援を行うことが重要となっている。
以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1) 貧困対策や社会開発への支援*29及び砂漠化対処等に対する支援 (2) 人材育成及び政策立案・実施能力構築への支援 (3) アフリカの経済的自立へ向けた民間セクター・工業・農業等の開発への支援(南南協力によるアジアの開発の成果と経験のアフリカへの移転、農業をはじめとする産業の生産力向上に資する基礎的インフラ整備、域内地域協力の促進等) (4) アフリカの安定の基盤となる民主化・紛争予防や紛争後の復興に対する支援 (5) 債務負担の軽減に資する支援(支援の決定に当たっては、債務国の構造改革に取り組む姿勢を勘案する) 6.中南米地域
中南米地域は、1990年代に入り、民主化及び経済改革の進展により新興市場の一つとして大きな成長を遂げた。食料や資源エネルギーの豊富な地域は、21世紀における食料・資源エネルギー供給センターとなり、更なる発展が見込まれる。
また、伝統的に我が国と中南米地域との架け橋になっている多数の日本人移住者・日系人が、地域各国の開発のため重要な役割を果たしていることに鑑み、その努力を支援する意義は大きい。
更に、近年の環太平洋協力の進展に鑑み太平洋岸地域への支援も重要となっている他、南米共同市場(メルコスール)に加えカリブ諸国や中米においても、地域統合を考慮した効果的な支援が求められている点に十分配慮する必要がある。
なお、依然として、基礎的な経済・社会インフラの整備が立ち遅れている地域が存在し、貧富の格差が大きいことが、経済発展と民主化への大きな障害となりうることに留意する必要がある。
加えて、1998年に壊滅的なハリケーン災害を受けた中米諸国においては復旧・復興が急務となっており、これを支援していく必要がある。
以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1) 民主化及び経済改革努力に対する積極的な支援 (2) 豊かな自然環境の保全や経済成長に伴う環境負荷の増大に対応した環境保全のための支援 (3) 基礎教育、保健医療、農業・農村開発、地域間格差の是正のための基礎インフラ整備等、貧困問題の緩和のための支援 (4) 比較的低所得の国において民間活動の活発化及び海外からの投資促進に資する環境整備のための経済・社会インフラ整備等への支援 (5) 複数国を対象とした人材育成・技術移転等のための広域的な協力の推進 7.大洋州地域
大洋州地域は我が国との関係も深く、また、漁業、林業等の資源供給先として重要である。これらの国々は国家規模が極めて小さいこと、一次産品に大きく依存していることから、天災や一次産品の国際市況といった外的要因に対して脆弱である。また、国土が広大な地域に散らばり、国内市場が狭く、国際市場から地理的に遠い等、開発上の困難を抱えている。更に、住民への適正な保健医療サービスの提供も課題となっている。一方で、広大な排他的経済水域を有していることから、漁業及び海底鉱物資源に対する期待は大きい。
このため、経済改革及び民間部門の育成による経済的自立達成の必要性が域内各国の共通認識となっており、各国は行財政改革に自ら努力している。
以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1) 経済・社会活動の基盤となり、島嶼国の抱える拡散性・地理的隔絶性を克服するための経済・社会インフラの整備(保健医療を含む) (2) 経済構造改革への支援 (3) 民間部門の振興に資する人材育成 (4) 環境保全対策への支援 (5) 遠隔教育を通ずる人材育成・技術移転等複数の域内国を対象とする広域的な協力の推進 8.欧州地域
中・東欧地域及び欧州地域の旧ソ連邦諸国は、その多くが市場経済への移行期にあり、これら諸国の努力を支援していくことが必要である。特に、旧ユーゴースラヴィア地域においては紛争後の復旧・復興を通じた和平の実現・定着が国際的な課題となっており、我が国としても応分の支援を行う必要がある。
以上を踏まえ、次の諸点を重視し支援を行う。
(1) 市場経済移行、環境保全対策、及びインフラ復旧・開発への支援 (2) 旧ユーゴースラヴィア地域及び周辺国における難民支援等の人道支援、復旧・復興等のための経済・社会インフラ整備、基礎生活分野支援及び選挙実施に関する協力 IV.援助手法
ODAの実施に当たっては、政府部内の連携・調整に加え、民間部門、NGO、地方自治体、並びに労使団体などの知見及び経験を積極的に活用するとともに、他の援助国や国際機関との連携・協力、更には南南協力拡大のための支援を積極的に進めていく必要がある。
1.政府開発援助の政府全体を通じた調整及び各種協力形態・機関間の連携
- ODAに関係する省庁間の連絡の場を拡充させるなど関係省庁間の情報の共有化、相互の意思疎通の円滑化を進めつつ、政府全体を通じた効果的・効率的な連携及び調整のシステムの確立を図る。
- ODAにおける、資金・技術協力の各種協力形態の特性を最大限活かし、これらの有機的な連携を一層促進する。その際、草の根無償資金協力については被援助国国民に直接届く協力として、他の援助形態との相乗効果に留意しつつ一層効果的な活用と拡充を図る。
- 技術協力については、関係省庁が有する知見やノウハウ及び人材を十分に活用しつつ、国際協力事業団を中心として実施するものとし、国際協力事業団及び各省庁の効果的・効率的な連携・調整に努める。
2.政府開発援助以外の政府資金(OOF)及び民間部門との連携
開発途上国の経済社会発展のために投資や貿易等民間セクターの果たす役割は益々重要となってきている。以上を踏まえ、次の諸点に配慮する。
- それぞれの国の状況に応じODA以外の政府資金(OOF)*30、貿易保険及び民間資金のそれぞれ固有の目的を踏まえた役割分担と連携を十分考慮する。
- 民間部門との連携にあたっては、我が国民間セクターの有する知見やノウハウの十分な活用に努め、また、我が国企業の事業参加機会の拡大にも留意する。
- 急速な経済成長を実現し民間資金の流入が盛んな開発途上国では、民間部門またはOOFによる対応が適切な案件についてはそれらの活動に委ねる。また、ODAでは、貧困対策や社会開発等の他、次の側面に重点を置く。
・ 経済インフラのうち民間部門またはOOFでの対応が難しい案件への支援、 ・ 開発効果の高い事業に民間投資を促すとの観点から民活インフラ事業の遂行に必要な公的機関による実施部分等に対する支援、 ・ 市場経済運営に資する人材育成・政策策定能力の強化、 ・ 中小企業の育成等産業構造の強化、 ・ 環境問題や地域格差等経済発展に起因する歪みの是正のための支援。 - 民間セクターが未だ十分に機能していない開発途上国については、投資環境整備のためのインフラ整備、制度整備及び政策策定能力強化に係る支援、その他民間セクターの能力向上や基礎的な人材育成等、民間セクター発展の呼び水となるようなODA案件を重視する。
- 日本輸出入銀行と海外経済協力基金との統合により、平成11年10月に設立される国際協力銀行においては、ODAと非ODAの勘定を明確に区分しつつも、両機関が保有する情報及びノウハウを一元化し、資金供与相手国の経済社会状況、プロジェクトの特性等に応じてより効果的にODAを供与する。そのことにより、国際経済社会に対して一層機動的かつ効率的な貢献を行う。
3.NGO等への支援及び連携
開発途上国に対する協力においては、貧困対策等社会開発面や環境保全分野での協力の比重が増すにつれ、住民に直接行き渡るきめ細かな援助への需要が増加している。その結果、民間援助団体(NGO)の果たす役割が重要となってきており、援助実施に当たってNGOとの連携の必要性が著しく高まっている。
以上を踏まえ、次の諸点に配慮する。
- 「NGO・外務省定期協議会」、「NGO・JICA協議会」などを通じ、開発途上国において活動を行うNGOとの情報・意見交換と対話の強化を図る。
- NGOの援助活動に対するODAによる支援の充実・強化に努める。
- 事業委託を含めたNGOの人材やノウハウの活用を促進するなど、様々な形でNGOとの連携と協力関係を強化する。
- 日本のNGOの援助活動の実施基盤の強化を支援する。
- ODAの実施に当たり、青年海外協力隊経験者やNGO活動経験者の活用を進める。
また、市民生活に密接に関連した分野で豊富な技術や事業経験を有し、姉妹都市関係などを通じ開発途上国と人的交流を有する地方自治体との連携を強化して援助を進める必要がある。他方、自治体の持つノウハウや技術を積極的に活用することは効果的な援助を可能とするとともに、国民の幅広い参加を得た援助を行っていく上で極めて有益である。
以上を踏まえ、次の点に配慮する。
- 地方自治体の経験、技術や人材等を積極的に活用するとともに、地方自治体の協力活動への効果的な支援を図る。
4.他の援助国及び国際機関との協調
我が国の援助が効果的・効率的に実施されるためには、他の援助国や国際機関と緊密な連携・協力を行いつつ、単に援助の重複を避けるのみならず、援助の相乗効果を目指すことが不可欠である。その際、開発途上国自身の援助受入れ調整能力の強化を支援することも重要である。
以上を踏まえ、次の諸点に配慮する。
- 国際機関への主要な資金拠出国として、その運営に我が国の考え方を反映させ、我が国のイニシアティブを発揮するよう努める。
- 各援助国や国際機関が豊かな経験を有し得意とする分野において我が国との連携や協力の可能性を追求する。
- 援助調整においては、国際機関を中心としたメカニズムが存在するところ、被援助国の主体的取組みに留意しつつ、セクター・プログラム*31を含め我が国としても引き続きこれに参加・貢献する。
- 現地における相手国政府、援助国・援助機関間の緊密な情報・意見交換や連携、あるいは日米コモン・アジェンダ*32のような他の援助国との二者間の援助協議や国際機関との連携を通じても積極的に協力を進める。
5.南南協力への支援
開発途上国の開発は、国際社会全体が取組むべき課題となっており、先進国のみならず、より開発の進んだ開発途上国や、更には適切な経験や技術を有する開発途上国から他の開発途上国への協力が積極的に行われることが望ましい。こうした協力は、援助資源の拡大につながる他、地域内協力や、アジア・アフリカ協力等地域間協力の進展にも資する。
開発途上国間の協力、すなわち「南南協力」*33は、開発段階や言語・文化等について共通点の多い開発途上国間において、適正な技術が円滑に移転される効果が期待されるのみならず、近隣国間で協力が行われることにより、経費節減効果も期待される。
以上を踏まえ、次の点に配慮する。
- 「南南協力」が開発途上国自身が主体となった国際協力活動であることに鑑み、その動きを積極的に支援して行く。
V.実施・運用上の留意点
1.開発途上国毎の状況把握と国別援助計画の策定
- 政府開発援助の効果を高めるため、開発途上国毎の開発課題等を把握し、各国の状況を十分踏まえた援助を行うため、各種調査を積極的に行うとともに、開発途上国との政策対話を推進する。
- 現在策定されている「国別援助方針」を更に具体化した「国別援助計画」を関係省庁の連携の下に順次策定し公開していく。この援助計画は、主要な援助受取国について、5年程度の期間を念頭に置き、我が国の当該国に対する援助の意義、基本的な目的、重点課題・分野、活用すべき援助手法等を示すものとする。
- 「国別援助計画」策定に当たっては、各援助形態を一体的にとらえたものとし、また他の援助国・国際機関との協調・連携や民間セクターとの連携を視野に入れたものとする。
- 開発途上国の実情・ニーズを最もよく把握しうる現地大使館や実施機関の現地事務所の一層積極的な活用を図る。
2.事前調査、環境配慮、実施段階でのモニタリング及び事後評価
- (1)事前調査及び環境配慮
- ODAの一層効率的・効果的な実施のため、「国別援助計画」等に従って事前調査を行い、優良な案件の発掘・形成・選定を進めるとともに、その過程において調査の重複の回避を含め関係者間で密接に調整を行う。
- 援助の実施に際しては、その環境及び地域社会に与える影響について環境配慮ガイドライン等に基づき、必要に応じ環境アセスメント等を行いつつ、事前に厳しく審査する。その結果に応じ、適切な対策を講じるとともに、環境に与える影響次第では実施しないこととする。その際、開発案件が、持続可能な開発の実現にとって適切なものとなるよう、必要に応じ代替案を含めて検討する。
- 環境配慮に際しては、相手国側の制度等を踏まえた地域住民等の参加や情報の公開が重要であることに留意する。環境配慮の手続きや基準等については、適宜見直しを行い充実に努める。
(2)モニタリング
- 事業進捗のモニタリングを充実強化し、事業実施中に起こる問題に対して各援助形態を活用しその連携を図りつつ所期の成果が挙がるように対処する。
(3)事後評価
- 完了した事業については、環境影響の把握・評価を含め、可能な限り事後評価を実施し、その結果を公表する。
- 評価の客観性を一層高めるために、学識経験者、NGO等の第三者や被援助国関係者による評価を拡充する。
- 評価に当たっては所期の目的を達成しているか否かのみならず、地域・環境・マクロ経済などへの影響を含めた総合的な評価とする。
- 評価の結果必要な場合フォローアップ事業を実施するとともに、教訓が将来の援助事業に生かされるようフィードバックに努めていく。
- 事業の性格に応じた効果的な評価手法を開発・導入し、評価システムの充実に努める。
3.開発人材の育成
援助を実施するのは人であり、優れた開発人材の確保と活用は効率的な援助のため極めて重要である。その際、分野・課題毎の高度な知見や技術を有する専門家のみならず、現地の諸事情に精通した地域専門家の確保と活用が重要となる。更に、開発の現場や援助実施機関と教育機関との間の連絡・連携を密にすることが必要である。
以上を踏まえ、次の諸点に留意する。
- 開発に携わる人材の育成を更に拡充するとともに、我が国と他の援助国の援助実施機関との間の人的交流や、国際機関への人の派遣や調査への相互参加等による交流を強化する。また、教育現場と援助の現場との間の人的往来を強化する。
- 援助需要の多様化や手法の変化に対応できるよう、大学・大学院におけるインターンシップの活用や、開発関係教科等に関する単位互換の促進等により、高度な専門性を有する人材の育成支援を図る。
- 高度な知見や技術を有する専門家を十分確保するため、専門家公募制度の拡充、地方自治体・NGO・大学等を通じて人材確保の幅を広げる。
- 民間コンサルタントの積極的活用を進め、必要に応じ、その育成・強化に努める。
4.国民の理解と参加の促進
ODAに対する幅広い理解と支持を得るためには、我が国内外における広報及び情報公開の推進はもとより、国民各層・諸団体と連携して事業を実施していくことが必要である。特に、国内の有為の人材を有効に活用し、我が国の人的な国際的貢献を強化することは、我が国の「顔の見える援助」促進の観点からも極めて有効である。
以上を踏まえ、次の諸点に留意する。
- 民間企業、地方自治体、NGO、労使団体等国民の幅広い層の協力と参加を得てODAを実施するよう努める。
- 国内での開発協力への関心の高まりを背景に、青年層からシニア層に至る様々な年齢層の参加・協力を得てODAを実施していく。
- NGO活動への支援に加えて、ODA事業のNGO、大学、シンクタンク等への委託の手法を活用するほか、地方自治体の開発事業への参加を更に促進する。
- 我が国内外における我が国援助の広報に努める。
5.情報公開の推進
我が国ODAの情報公開については、OECDのDACによる対日援助審査(1995年)に見られるように国際的には高く評価されているが、ODAの推進に当たって一層の国民の理解と支持を得るため、国会をはじめ広く国民に情報公開を進めていく必要がある。
以上を踏まえ、次の諸点に留意する。
- 一覧性のある情報提供の観点から、我が国のODAの実施状況に関する年次報告の充実を図る。
- プロジェクトの入札プロセスに関する情報、個々の案件に関する関連情報の一層の公開に努める。
- 円借款の候補案件(ロングリスト)の作成・公表等を通じ、援助の透明性を深める。
- 情報公開の幅を広げるだけでなく、より分かり易く、使い易い形での情報提供に努め、また、インターネット等の積極的な活用により情報へのアクセスを改善する。
- 中央のみならず地方メディアや地域社会へのきめの細かい情報提供を進める。
- ODAの現場が海外にあることから、直接援助現場に触れる機会が少ない国民が我が国ODA案件に触れる機会を持てるよう努める。
政府開発援助に関する中期政策/【注 釈】 はじめに
*1:政府開発援助大綱(ODA大綱)
我が国のODAの理念と原則を明確にするために、援助の実績、経験、教訓を踏まえ、日本の援助方針を集大成したODAの最重要の基本文書であり、平成4年6月30日に閣議決定された。内容は、基本理念、原則、重点事項、政府開発援助の効果的実施のための方策、内外の理解と支持を得る方策及び実施体制の6部から構成される。「基本理念」において、(1)人道的見地、(2)相互依存関係の認識、(3)自助努力、(4)環境保全の4点を掲げている。また「原則」において、「相手国の要請、経済社会状況、二国間関係等を総合的に判断」しつつ、4項目への配慮、すなわち(1)環境と開発の両立、(2)軍事的用途及び国際紛争助長への使用回避、(3)軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入等の動向に十分注意を払うこと、(4)民主化の促進、市場指向型経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払うこと、を定めている。I.基本的考え方
*2:OECD DAC「新開発戦略」
1996年5月、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)において、21世紀の援助の目標を定めるものとして「新開発戦略(21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献)」と題する文書が採択された。この開発戦略は、地球上のすべての人々の生活向上を目指し、具体的な目標と達成すべき期限を設定している。具体的には、(1)2015年までの貧困人口割合の半減、(2)2015年までの初等教育の普及、(3)2005年までの初等・中等教育における男女格差の解消、(4)2015年までの乳幼児死亡率の1/3までの削減、(5)妊産婦死亡率の1/4までの削減、(6)性と生殖に関する健康(リプロダクティブ・ヘルス)に係る保健・医療サービスの普及、(7)2005年までの環境保全のための国家戦略の策定、(8)2015年までの環境資源の減少傾向の増加傾向への逆転という目標を掲げている。この目標達成に向け、先進国及び開発途上国が共同の取組みを進めていくことが不可欠として、グローバル・パートナーシップの重要性を強調している。*3:後発開発途上国(LLDC)
開発途上国の中でも特に開発の遅れた国を指し、国連の開発計画委員会が一人当たりGDP(99年現在一人当たりGDPが899ドル以下)、人的資源開発の程度(平均余命等)、経済構造の脆弱性(GDPに占める製造業の割合等)を基準として決定する。現在、全世界で48ヶ国(アフリカ33ヶ国、アジア8ヶ国、大洋州5ヶ国、その他2ヶ国)がLLDCに指定されている。II.重要課題
1.貧困対策や社会開発分野への支援
*4:社会開発のための「20 20協定」
人間開発のために優先されるべき社会開発分野(基礎教育、基礎保健、飲料水、家族計画等)に開発途上国は国家予算の20%を、先進諸国はODAの20%を支出することを申し合わせたもの。国連開発計画(UNDP)より提案され、1995年3月の国連主催「世界社会開発サミット」において、その趣旨に賛同できる関係当事国で実施することとされた。我が国二国間援助における社会開発分野の割合は、1993年以降1998年までの各年においていずれも20%を上回り、「20 20協定」の目標は達成されている。*5:世界福祉構想
96年6月の主要国首脳会議(リヨン・サミット)において橋本総理(当時)が提唱したもの。「世界福祉構想」は、公衆衛生、医療保険・年金等を含む広義の社会保障政策について、先進国のみならず開発途上国も含め、お互いの知識と経験を共有することにより、それぞれの国が抱える問題を解決していくことを目指すこととしている。
開発途上国を念頭に置いた事業としては、国際寄生虫対策の推進、社会保障行政の高級実務者等による国際会議を通じた知識と経験の共有、途上国における制度づくりのための専門家の養成・派遣、研修員の受入等を実施している。*6:開発途上国における女性支援(WID)の視点
WIDはWomen in Developmentの略。本分における本分野(3)「開発途上国における女性支援(WID)ジェンダー」の項を参照。(1)基礎教育
*7:我が国の校舎建設支援
我が国は、1993年度から5年間に合計で約16,000の学校の校舎建設を支援した。例えば、ジョルダンにおいては、円借款により全国の小・中学校の9%の校舎の建設を支援した。また、ネパールにおいては、我が国の無償資金協力により学校建設に必要な資材を提供し、住民が総出で校舎造りに参加した。この間、ネパールの小学校への就学率は1990年の64%から94年には75%に上昇した。*8:女児教育における国連児童基金(UNICEF)に対する我が国の拠出
我が国は、1993年よりUNICEFの関連活動に対し毎年100万ドルを拠出している。(2)保険医療
*9:ポリオ発生件数
全世界のポリオ発生件数は、1988年の約35,000件から1998年には約3,200件に激減した。我が国は、東アジア及び西太平洋地域を重点援助地域とし、ポリオ・ワクチン及びワクチン冷蔵庫運搬機材(コールド・チェーン)の供与や調査・監視用機材の供与のため、93年度以降これまで約28億円の支援を行った(これは同地域でのポリオ根絶のための協力額全体の約35%に相当)。こうした取り組みの結果、同地域においては、ポリオの根絶にほぼ成功したと言える。2.経済・社会インフラへの支援
*10:アジアにおける我が国支援による貢献例
我が国は、円借款により、例えば、運輸・通信関係では、中国の鉄道電化総延長の38%を電化、バンコック市内の高速道路の約32%に相当する路線を建設、フィリピンでは全電話回線の約15%の建設に協力、スリランカでは全国の貨物取扱量の約89%を占めるコロンボ港の建設・拡張を支援している。エネルギー関係では、マレイシアでは全発電設備容量の約24%、インドネシアでは18%、タイでは15%、ヴィエトナムでは44%、バングラデシュでは18%、エジプトでは20%の発電設備の建設に協力している。その他、ジャカルタ市内の上水供給能力の60%に相当する上水道施設の建設、韓国では全国の56%に相当する下水処理施設の建設を支援した。3.人材育成・知的支援
(1)人材育成
*11:我が国は、1954年以来これまでに16万人以上の研修員を受け入れてきた。97年度実績(152ヶ国・地域、12,283人)は、地域別ではアジア6,214人(全体の50.6%)、中南米2,381人(同19.4%)、中近東1,046人(同8.5%)、アフリカ1,602人(同13%)、分野別では人的資源2,440人(全体の19.9%)、計画・行政2,340人(同19.1%)、公共・公益事業2,049人(同16.7%)、農林水産1,971人(同16%)、保健・医療1,398人(同11.4%)、鉱工業991人(同8.1%)となっている。
*12:第三国研修
第三国研修とは、開発途上国において、社会的あるいは文化的環境を同じくする近隣諸国から研修員を受け入れて行われる研修を我が国が資金的・技術的に支援する手法を指す。例えば、タイに対して我が国が実施した技術移転をベースとして、ヴィエトナム、ラオス等の第三国より研修員をタイに招き、第三国への技術移転を行う事業を我が国が支援する。97年度には、タイ、シンガポールなどアジア諸国やブラジル、チリ、エジプトなど23ヶ国において第三国研修が行われ、1,836人が研修を受けた。(3)民主化支援
*13:民主化支援の実績
我が国は、96年のリヨン・サミットに際し、途上国の民主化支援のための取組みとして、「民主的発展のためのパートナーシップ(PDD)」イニシアティブをまとめ発表した。具体的協力案件の形として、民主化に向けての各種制度作り支援、選挙支援、市民社会の強化・人造りがある。1994年度から5年間に民主化支援関連で765人の研修員を受け入れ、27ヶ国・地域の国内選挙に資金面での支援を行っている。4.地球規模問題への取組
(1)環境保全
*14:環境分野における政府開発援助
これまで我が国は、1992年の国連環境開発会議(リオデジャネイロで開催されたいわゆる地球環境サミット)に際し、環境分野における政府開発援助を1992~96年度に9,000億円から1兆円を目途として拡充するとの目標を表明し、この期間に約1兆4,400億円の支援を行った。最近では、例えば、経済成長に伴い環境悪化が著しい中国に対して、第4次円借款「後2年(1999-2000年度)」の対象28案件中16案件を環境案件としており、また日中間で大気汚染対策などで成功例をつくり中国全土に波及させることを目的とする「日中環境開発モデル都市構想」(重慶、貴陽、大連の3都市が対象)を推進している。*15:「京都イニシアティブ(温暖化対策途上国支援)」
97年12月に気候変動枠組条約第3回締約国会議が京都で開催されるにあたり、我が国は、環境分野におけるODAのうち特に温暖化対策について、(1)温暖化関連分野の人造り、(2)温暖化対策を目的とした事業への最も優遇された借款の供与、(3)日本の技術・経験(ノウハウ)の活用等を内容とする施策として表明した。98年度の最優遇条件による円借款供与のうち温暖化対策関連プロジェクトは、20件2,433億円、関連分野でのJICA技術協力による人材育成は約1,000名にのぼる。(2)人口・エイズ
*16:世界の人口の推移
国連人口基金(UNFPA)によれば、世界の人口は98年の約60億人から2025年には80億人を上回ると予測されている。この人口増加は大半が開発途上国におけるものと推定される。*17:HIV/エイズ感染者・患者数
国連合同エイズ計画(UNAIDS)及び世界保健機関(WHO)によれば、HIV/エイズ感染者・患者が1998年末時点で世界で約3,340万人にも上り、98年だけでも約250万人がエイズで死亡している。*18:「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」
我が国が、94年2月に独自の行動計画として発表。94年度からの7年間で30億ドルを目途に開発途上国の人口・エイズ分野に対する援助を積極的に推進していくもの。GIIにおいては、リプロダクティブ・ヘルスの視点を踏まえ、人口・家族計画への直接的協力に加え、女性と子供の健康に関わる基礎的保健医療、初等教育、女性の地位向上等を含めた包括的なアプローチをとっている。代表的な協力例として、インドネシアにおける母子保健手帳普及のためのプロジェクトなどがあり、妊産婦死亡率、乳幼児死亡率の低下に成果をあげつつある。GII関連案件の実績は、98年度末時点で既に上記目標額を越える約37億ドルに達した。5.アジア通貨・経済危機の克服等経済構造改革支援
*19:経済構造改革支援のための特別円借款
98年12月ASEAN及び日中韓首脳会議の際に表明。アジア諸国における景気刺激・雇用促進及び経済構造改革に資するインフラ整備への支援等を目的とし、3年間で6,000億円を限度とする特別枠を創設。当面、金利1%、償還期間40年の優遇条件を設定。6.紛争・災害と開発
(1)紛争と開発
*20:我が国の対パレスチナ支援
我が国は、1993年以降の5年半で、4億3,600万ドル以上の対パレスチナ支援を行っている。具体的には、行政組織の強化、上下水道、学校などのインフラ整備、教育・基礎的保健サービスの充実のための国際機関を通じた支援に加え、96年からはパレスチナ暫定自治区への直接協力が開始され、民生向上に向けた幅広い支援が行われている。97年10月及び98年6月には、ガザ地域における計10校の小中学校建設への協力を決定した。*21:我が国の人道的支援の最近の具体例:対コソヴォ支援
我が国は、99年4月に、コソヴォ難民・避難民に対する人道支援をはじめとして、周辺支援、コソヴォの復興支援のため、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)等への拠出を含め、約2億ドルのコソヴォ貢献策を発表した。*22:対人地雷除去、犠牲者支援
現在も世界で毎月約2,000人の一般市民が対人地雷により死傷していると見られる。97年9月に「対人地雷禁止条約」が採択された。97年3月の「対人地雷に関する東京会議」では「犠牲者ゼロ」を目標とする国際協力の指針として「東京ガイドライン」が策定された。我が国は、このガイドラインを実現する一環として、同年11月、この分野で98年から5年間を目途に100億円程度の支援を行うことを発表した。7.債務問題への取組
*23:債務救済無償
1978年に開催された国連貿易開発会議(UNCTAD)第9回特別貿易開発理事会(TDB)の決議に基づき、貧困開発途上国の債務救済を目的として実施している。円借款取極を締結したLLDC及び石油危機で最も深刻な影響を受けた国(MSAC)が対象となる。このうちLLDCの場合、円借款(87年度以前締約分)債務の返済が行われた際には、返済された元利合計額相当額の無償資金を供与する。我が国は、1978年度~1998年度約3,400億円の債務救済無償資金協力を行った。*24:ケルン・サミットにおける重債務貧困国への支援に関する合意
重債務貧困国(HIPCs)に対する既存の国際的な債務救済の枠組み(いわゆるHIPCsイニシアティブ)の下で、二国間ODA債権の削減率を100%に拡大することをはじめ債務救済措置を改善・拡充することが合意された。III.地域別の援助のあり方
*25:我が国が二国間で最大の援助国となっている国(96年)
アジア17ヶ国、中近東5ヶ国、アフリカ6ヶ国、中南米14ヶ国及び大洋州5ヶ国。1.東アジア地域
*26:南南協力
経済開発のより進んだ途上国(南)が、他の途上国(南)に対して支援を行うもの。詳細は本分の「3.援助手法 5.南南協力への支援」の項参照。前出の*11の第三国研修への支援は、南南協力への支援の代表的な手法。2.南西アジア地域
*27:南西アジア地域の貧困人口
南西アジア地域の貧困人口は5億円を超え、サハラ以南アフリカ(以下アフリカ)の貧困人口(約2億2千万人)よりも大きく、域内7ヶ国のうち4ヶ国がLLDCである。3.中央アジア・コーカサス地域
*28:「シルクロード地域外交」
「シルクロード地域」とは、中央アジア5カ国及びコーカサス3カ国を指し、97年橋本総理(当時)が提唱した「ユーラシア外交」の中で、同地域との関係を積極的に展開するとの方針が明らかにされ、(1)信頼と相互理解の強化のための政治対話、(2)繁栄に協力するための経済協力や資源開発協力、(3)核不拡散や民主化、安定化による平和のための協力の重視を唱えている。5.アフリカ地域
*29:アフリカにおける貧困対策・社会開発のための支援
我が国は、今後5年間で教育・保健医療・水供給分野で900億円相当の無償金協力を供与する旨、98年10月のTICADIIに際し発表した。IV.援助手法
2.政府開発援助以外の政府資金(OOF)及び民間部門との連携
*30:政府開発援助以外の政府資金(OOF:Other Official Flow)
政府資金による開発途上国への経済協力のうちODAに含まれないもの。具体的には、日本輸出入銀行が行う民間の輸出信用や直接投資に対する金融、日本銀行の世界銀行債購入がこれに当たる。4.他の援助国及び国際機関との協調
*31:セクター・プログラム
被援助国が自らの発意をもって特定セクター(教育、保健等)の開発計画を策定し、被援助国と援助国・機関側が右計画を基に調整を行って開発を進めていく手法。*32:日米コモン・アジェンダ
地球的展望に立った開発途上国への開発協力のため、日米で定めた共通課題であり、環境、人口・健康など、地球的規模の対応を要する問題への日米共同の取組を定めている。93年7月に発足した。現在、「保健と人間開発の促進」、「人類社会の安定に対する挑戦への対応」、「地球環境の保護」及び「科学技術の進歩」の4つの柱の下、18の分野で各種プロジェクトが実施され、各分野の活動は、年1回の次官級全体会合の場でレビューされる。5.南南協力への支援
*33:南南協力への取組み
我が国は、様々な機会に南南協力の推進を促しており、98年5月には、「振興援助国(経済開発が順調に進んだ開発途上国で、援助を受けながら、他方で他の開発途上国の開発の支援も一部行う国)」が一堂に会し、今後の対応策について協議するための、南南協力支援会合を沖縄で主催した。98年10月に我が国が主催した第2回アフリカ開発会議(TICADII)においても、南南協力の一つの具体化として「アジア・アフリカ協力」を推進することとされた。また、国連開発計画(UNDP)を通じて南南協力を支援するため、97年度には400万ドルをUNDPに拠出した。
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