VII.「新開発戦略」
「21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献」(序文及び要約)
(OECD開発援助委員会報告書)
96年5月7日、パリ
開発の意義20世紀も終わりに近づいたこの時期に、過去50年間に開発協力について得られた教訓を踏まえて、21世紀の初めに向けた開発戦略を策定することが求められている。本報告書は、この問題について経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)に参加している開発担当閣僚、援助機関の長及びその他の開発協力関係当局が全体としてどのように考えているかを述べたものである。
西暦2000年には、世界人口の5分の4は途上国で暮らしていることになるであろうが、その生活条件は槻ね改善しているものと考えられる。しかし、絶対的貧困の中で絶望を感じている人々も、依然として増え続けていると思われる。今なお、10億人以上の人々が絶対的貧困の中で苦しんでいるが、こうした問題に取り組むことは、我々先進国に暮らす者達にとって重要な人道的責務である。途上国の繁栄を促進することは、先進国自身の利益でもある。あらゆる国の人々と連帯し、より多くの利益や価値を共有することによって、国境を越えた様々な問題、即ち、環境悪化や移民、さらには麻薬や伝染病などの問題を解決することができる。世界に貧困や窮状があるために皆の安全が脅かされている。開発は、無視し得ない問題なのである。
マーシャル・プランの援助から、現在構築中の開発パートナーシップのネットワークまで、過去50年間の実績を振返れば、国や社会の自助努力が成功の大きな要素であったことは明らかである。しかし同時に、緑の革命、出生率の低下、基礎的なインフラストラクチャーの改善、流行病の抑制および貧困の劇的な減少といった成果をあげていく上で、多くの場合、開発援助が極めて重要な補完的役割を果たしたことも明らかである。援助は、適切な状況の下で適切に実施されれば、効果を発揮するのである。
国連、国際金融機関、OECDおよびその他の世界的・地域的な機関における協力によって、このような開発努力は非常に充実したものとなり、また、開発問題に関する国際社会の取り組み(マルティラテラリズム)も前進をとげてきた。このような取り組みには、すべての国が死活的な利害関係を有している。
我々は、全ての当事者が責任を分かち合った場合にのみ、開発援助は効果を発揮することを経験から学んだ。その成果は、成長と繁栄を実現し、工業化を達成した国々で見ることができる。これらの国々は、もはや援助に頼ることなく、自立して世界経済に参加している。他方、内乱や悪政によって何十年にも渡って開発が遅れている国々もある。また、我々は、成功には時間がかかること、諸外国および当事国の持続的な努力が必要であることも経験から学んだ。
将来に向けて、このような努力が必要であることは歴然としている。そのための重要な手段として、国際社会は、政府開発援助の量を維持・拡大して、貧困層の貧窮化の進行を阻止し、人間開発に関する現実的な目標に向けて前進する必要がある。国際的な開発努力が重大な局面にある今、加盟国は自国の国内問題を優先して開発努力をないがしろにするベきではない。開発協力への今日の投資は、将来、非常に大きな利益となって還元されるだろう。
適切、効率的、計画的で持続可能な多数国間開発協力を行うため、資金的な手当が必要である。国連と多数国間開発銀行が危機に陥ることなく重要な役割を果たしていくためには、各加盟国が延滞金を支払うとともに、実行可能な資金手当てのシステムを整備するという現在の合意を完全に履行することが不可欠である。
また、公共資金について責任を有する者は、その有効な利用にも責任を有している。我々は、公共資金の支出によってどのような成果をあげようとしているのか、また、それをどのような方法によって達成しようとしているのかを明確にする義務がある。
国際会議で議論され合意された多くの目標を考慮に人れた上で、いくつかの指標を選択し、それに基づいて我々の開発努力の成果を評価できるようにすべきである。我々は、開発のための世界的なパートナーシップを通じて、次のような野心的ではあるが実現可能な目標を達成するよう提案する。経済的福祉
- 2015年までに極端な貧困の下で生活している人々の割合を半分に削減すること。
社会的開発
- 2015年までにすべての国において初等教育を普及させること。
- 2005年までに初等・中等教育における男女格差を解消し、それによって、男女平等と女性の地位の強化(エンパワメント)に向けて大きな前進を図ること。
- 2015年までに乳児と5歳末満の幼児の死亡率を3分の1に削滅し、妊産婦の死亡率を4分の1に削減すること。
- 2015年を最終目標として可能な限り早期に、適当な年齢に達したすべての人が基礎保健システムを通じて性と生殖に関する医療保健サービス(リプロダクティブ・へルス・サービス)を享受できるようにすること。
環境の持続可能性と再生
- 2015年までに、現在の環境資源の減少傾向を地球全体及び国毎で増加傾向に逆転させること。そのため、すべて国が2005年までに持続可能な開発のための国家戦略を実施すること。
上述の目標は、世界全体の数値として表わされているが、これらの目標は各国の事情や国別開発戦略に基づく個別的アプローチによって、各国毎に追求されるべきものである。これらの測定可能な目標を達成するためには、より安定し、安全で、参加型の公正な社会の発展という質的要因が不可欠である。これには、効果的かつ民主的で責任ある統治のための能力育成、人権の保障、および法の支配の尊重が含まれる。我々は、開発の様々な側面のうち、このように数量化が難しい側面においても、引き続きその進展のために努力していく。
これらの目標の達成には、効果的な国際的支援が真に重要な役割を果たす。これは、援助さえあれば目標が達成できるということではない。これまでと同様、開発に最も大きく貢献するのは途上国自身の人々と政府である。しかし、そのような努力の素地があるところでは、先進国の強力な支援が必要であり、そのような支援を行う価値がある。我々は次のような方法によって支援に全力を尽くす所存である。上述のような考え方は、1995年にDACが採択した「新たな世界状況における開発パートナーシップ」という政策声明の中で提示された。本報告書は、この声明を踏まえて、開発のためのパートナーシップという考え方を実現するための新しい方法を具体的かつ実行可能な形で提案するものである。
- 第一に、開発のパートナーとの間でお互いの努力を約束し、適切な資源によってこの約束の履行を促進すること。
- 第二に、各国が策定する国別開発戦略を支援するため、援助協調を強化すること。
- 第三に、援助政策と途上国の開発に影響を及ぼすその他の政策との整合性の確保に十分に努めること。
本報告書は、開発協力の効果を高めるために現在行われている広汎な努力に貢献することを目指している。たとえば、OECD内部、世界銀行および国際通貨基金(IMF)の暫定委員会および開発委員会、地域開発銀行、G7並びに国連諸機関において活発な議論や意思決定が行われている。開発協力に対するこのような関心の高まりを受けて、我々は、開発が無視し得ない問題であるという確信を一段と強めている。
相互依存が深まる中、貧困国および貧困層が自立できるか否かは、21世紀の世界のあり方に多大な影響を与える問題である。我々は本報告書の提案を行うに当たり、国際協力は開発を支援する上で効果的であり得ること、また、そのために必要となる努力に十分に値するだけの成果をもたらすことを確信している。地球という惑星とそこに住む人々の将来の安定と持続可能性がかかっている以上、我々はこのような努力を怠ることはできない。
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