4.分野横断的施策


 国際社会による開発援助をより効果的に実施し、開発の成果を上げていくため、開発援助に関する基本的考え方を明確にし、戦略的に開発に取り組むとの考えから、我が国は、96年5月に我が国のイニシアティブの下にまとめられたOECD開発援助委員会(DAC)の「新開発戦略」の実施に向けて引き続き努力してきた。
 また、開発援助を国民の理解と幅広い支持の下に実施していくため、情報公開などの施策や、民間援助団体(NGO)との連携を含めた国民参加による援助の推進のため様々な施策がとられた。

(1)新開発戦略

 「新開発戦略」(正式名称「21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献」)は、開発の主要な責任は開発途上国自身にあり(オーナーシップ)、援助国・国際機関と被援助国が相互に責任を分担して共同で開発に取り組む(パートナーシップ)という考え方に立脚している。また、開発の目標を「全ての人々の生活の向上」とする旨を述べ、「2015年までの貧困人口の割合の半減」等の達成目標が達成期限とともに掲げられた。このような成果重視型のアプローチにおいては、開発の成果を定期的にモニタリングすることが極めて重要である。かかる観点から、98年2月には、DAC・世銀・国連の共同作業により、新開発戦略において達成目標が示されている4分野(貧困削減、保健、教育、環境)を念頭に、達成度を測る上で必要となる基礎指標が提示された。
 我が国は、新開発戦略は21世紀の国際社会の開発協力の礎になるものであるとの認識の下、その国際的普及や実施に努力してきている。例えば、我が国は96年より毎年、開発戦略に関する国際会議を本邦で開催し、新開発戦略に対する理解の促進を図ってきている。また、97年9月「新開発戦略会合」をオランダ政府との共催でハーグにて開催したのに続き、98年7月には右会合を受け、オランダ政府、UNDPとの共催により、貧困削減に焦点を当てた「貧困削減戦略会合」を我が国にて開催し、貧困層に資する対策に関し、各国・機関の経験や好事例の共有を促進した。
 新開発戦略の実施として注目されるものとして、98年10月に東京で開催された「第2回アフリカ開発会議」(TICAD2、「2.地域別援助の動向(3)アフリカ地域」参照)がある。これは、アフリカ開発において新開発戦略を実際に実現していくための試金石であり、日本のイニシアティブの下、社会開発、経済開発、並びに良い統治及び紛争と開発の3分野で、新開発戦略と軌を一にした具体的数値目標を含む「行動計画」が採択され、今後のアフリカ開発へ具体的な指針が示された。今後は、アジア・アフリカの南々協力の推進、行動計画のフォローアップ等、我が国に期待される役割は大きく、その実施に向けて我が国は積極的に取り組んでいる。

(2)途上国の女性支援(WID:WomenInDevelopment)/ジェンダー

 開発途上国において均衡のとれた持続的な開発を進めていくためには、人口の半分を占める女性が、男性と同じように経済・社会開発に参加し、同時にそこから受益することが可能でなくてはならない。
 しかるに、全世界で貧困状態におかれている13億人の内、70%が女性であり、教育、健康、雇用面等で男性に比較して脆弱な立場に置かれている。このため、途上国の開発を支援するにあたり、各援助案件において女性の立場や視点を配慮し、男女格差の是正及び女性の地位向上を図っていくことが重要な課題である。
 我が国としては、95年の北京女性会議において表明した「WIDイニシアティヴ」の(1)教育、(2)健康、(3)経済・社会活動への参加という重点分野を中心として、女性が主たる受益対象者となる援助案件を積極的に実施することに加え、一般的な案件の形成・実施の段階でも女性の参加を引き出すこと、またその受益に配慮することに努めている(注)。更に、援助案件のモニタリング及び評価においてもWID/ジェンダーの観点も含めるよう努めている。
 WID/ジェンダー関連の具体的案件としては、男女就学率・識字率の格差是正を目的とした教育分野での協力、母子保健・人口家族計画への支援、女性の経済的自立を目的とする小規模金融(マイクロ・クレジット)や職業訓練等への支援がある。 また、二国間援助に加え、95年から日米コモン・アジェンダの新たな協力分野にWIDを加えるなど他のドナーとの協調や、95年にUNDP及び国際農業開発基金(IFAD)にWID基金を設立するなど国際機関との連携を図っている。

(注)例えば、バングラデシュにおいては98年度より3ヶ年計画で「母子保健研修所改善計画」(一般無償資金協力)が実施されることとなっており、これにより協力対象施設における年間出産数が3,500件から5,000件に増加し、施設分娩の比率向上により同国の妊産婦死亡率(4.49人/1000人)の改善に寄与することが期待されている(なお、ダッカ首都圏における施設分娩の比率は現在出産数の1/3にとどまっている)。また、フィリピンにおける「女性職業訓練センター建設計画」(96・97年度一般無償資金協力)においては、年間1,440名の女性が職業訓練を受けることが計画されており、職業訓練後の女性の経済活動への進出が期待される。草の根無償資金協力を活用した女性の職業訓練・女性の零細企業家支援については、98年度には64件を実施した。

(3)人材育成・知的支援

 開発途上国の経済・社会開発を進めるにあたっては、開発の基盤となる経済・社会インフラの整備を行うとともに、各種人材の育成が必要不可欠であり、我が国はこれまでも、各国に対し、人材育成のための協力を積極的に行ってきた。
 こうした中で、近年、インドシナ、中・東欧、中央アジア諸国等において市場経済化へ向けての移行が行われつつあり、このような移行過程を支援するため、経済諸改革にかかる重要政策の策定や法制度整備等の制度造りを行っている政府機関の中枢において、我が国の学者等専門家が助言・指導を通じて知的支援を行う「重要政策中枢支援協力」が実施されている。我が国は、ポーランド、ジョルダンに対して産業対策の分野で、ヴィエトナム、カンボディアに対して法制度整備分野で人材育成を含めたこうした支援を行っている。
 また、途上国政府が行う対日留学プログラムに対し、資金協力を行っている。これまでマレイシア、タイ、インドネシアに対し支援を行ってきているが、98年度は、アジア経済危機の影響を受けて継続が困難となったマレイシアに対し、約140億円の有償資金協力を行った。

(4)債務問題への取組

 被援助国に返済義務を課す長期低利借款は、自助努力の理念に合致するものであり、これまで多くの国がこうした借款を適切に利用し、開発に成功してきた。しかしながら、重債務貧困国の債務問題は引き続き深刻な状況にあり、国際社会として従来の取り組みを一層強化する必要がある。98年10月の第2回アフリカ開発会議(TICAD2)においても債務問題は重要な課題の一つとして採り上げられ、我が国は、債務救済のための無償資金協力の拡充策を発表した。
 これまで我が国は、債務返済負担の特に大きい開発途上諸国に対し、国際的な枠組み(パリクラブ)の下での債務軽減に前向きに取り組み、98年度までに約9,400億円にのぼる債務繰延を行いつつ、特に我が国の二国間ODA債権については、過去21年間に27ヶ国に対し、合計約3,400億円(約30億米ドル)に達する債務救済無償を供与してきた。また、国際通貨基金(IMF)や世界銀行等の国際金融機関による重債務貧困国に対する債務救済基金に対し、総額約84億円(7,300万ドル以上)の拠出を行い、他国に先がけ実質的な協力を進めてきた。
 我が国は、こうした従来の取り組みに加え、重債務貧困国の開発と債務救済に関する包括的な取り組みの一環として、4月28日、ケルン・サミットに向け、他国に対し、債務問題に関する新たな提案を行った。この提案は、二国間ODA債権の削減率を自主的且つ追加的に100%に拡大することをはじめ、負担の公平性に留意しつつ、パリクラブ・国際金融機関を通じた重債務貧困国に対する既存の債務救済の枠組み(HIPCsイニシアティヴ)の下での債務救済措置の改善・拡充を図ることを内容としている。
 さらに、6月18日にケルンで開催されたサミットにおいては、HIPCsイニシアティヴを改善・拡充し、「より早く、深く、広範な」救済を行うことが合意された。合意の具体的内容は以下の通りであり、これは上述の我が国の提案にほぼ沿ったものとなっている。

(イ)「より早い」救済

 経済構造改革を進め、実績が認められる国に対しては早期に債務救済措置を実施し、更に、国際金融機関は、債務救済措置を前倒しで実施する。

(ロ)「より深く、広範な」救済

(1)ODA債権(円借款債権等)については、様々な選択肢を通じて対象国のODA債権全てを100%削減。
(2)非ODA債権(輸銀債権、付保商業債権)については、90%まで削減、及び個別の事情によりそれ以上の削減を行う。
(3)現行の債務救済の適用判断(目標値)の引き下げ。これにより、より深い債務救済がなされるとともに、債務救済措置の適用対象となる国も数カ国増える見通し。

(ハ)救済の効果

 救済により利用可能となる資金は貧困緩和や教育、保健・医療等の社会開発に充当されることが重要。

(ニ)資金措置(含む、負担の公平性)

 国際機関の債権の削減に必要な費用を賄うために、様々なメカニズムを検討。(IMFの金準備売却益の運用利益、国際開発金融機関の自己財源の最大限の活用、HIPCs信託基金への拠出等)その際には、負担の公平性の考え方の下、二国間ODA債権の削減に要する財政負担が大きいか否か等が考慮される。
 なお、我が国が今後「ケルン債務イニシアティヴ」を実施していく際の基本的考え方は以下の通り。

(イ)安易な救済措置の適用は行わない。

 世銀・IMFの構造調整プログラムを受け入れ、原則3年間実施した上で判断。その後の良好なパフォーマンスなども前提。

(ロ)債務の帳消し(棒引き)は行わない。

 ODA債権の債務救済は、一旦超長期(現行40年間)の繰り延べを行う。その上で、債務国による元利の返済を得て、これを無償化(返済額と同額の債務救済無償資金協力の供与)。

(ハ)債務救済を行った後は、新規借款の供与は原則行わない。

 債務の100%削減を行った上で新規借款を供与するのは、モラル・ハザード(真面目に返済している国の返済意欲の喪失)を引き起こす可能性があること等から、仮に資金協力を行う必要がある場合は、無償資金が原則となる。

(5)情報公開・広報

 ODAの実施には、国民の理解と支持を得ることが不可欠である。また、より効果的なODAの実施のため民間の援助活動との連携が必要となっている。そのため、政府としては、情報公開を含め、国民の理解を得るため様々な努力を行ってきている。
 政府としては、93年に国民へのODA関連情報提供窓口として東京に開設した「国際協力プラザ」を積極的に活用するとともに、地方にも同様の役割を有するプラザの設置を進めている。また、各種年次報告、評価報告書、資料等を通じて、幅広くODAについての情報を公開するとともに、様々なセミナー、講演会等を通じて国民の理解を得るよう努めている。更に、国民の間に急速に普及しているインターネットも積極的に活用している。外務省ホームページには、97年より「我が国の政府開発援助(ODA白書)」上下巻、「経済協力評価報告書」概要版が、98年より本書「我が国の政府開発援助の実施状況に関する年次報告」も掲載され、また、動画映像と音声によりプロジェクト視察の疑似体験ができるODAバーチャルツアーなどが設けられており、ODAに関する情報には、98年度中に23万件以上のアクセスがあり、同ホームページ上でもアクセス数の多い項目の一つとなっている。

(6)NGOや地方公共団体との連携・国民参加

 民間援助団体(NGO)や途上国の地方公共団体の実施する開発事業は、地域住民など草の根レベルの需要に機動性をもってきめ細かく対応し、効果的・効率的な援助を実施していく上で極めて有効であることが認められている。このため、政府は、途上国の現場を舞台として活動するNGOや途上国の地方自治体などが実施するプロジェクトに対して資金的な支援を行う草の根無償資金協力や、途上国で活動する我が国NGOの活動を支援するためのNGO事業補助金制度を大幅に拡充してきている。89年度に3億円の予算で始まった草の根無償資金協力は、住民に密着した足の速い援助として内外の高い評価を受け、98年度には、93ヶ国・1地域に対し1,064件、総額約57億円を実施した。また、同じく89年度に1億1,000万円の予算で始まったNGO事業補助金は、海外における我が国NGOの活動の活発化を受け、98年度には46ヶ国の地域で活動する111団体の計185事業に対し、約7億8,800万円が交付されている。
 また、特に近年、日本のNGOや地方公共団体の実施する開発途上国への援助が広がってきている。開発協力に国民が参加し、草の根レベルでの直接の交流を通じお互いの気持ちが通い合うきめの細かい対応を可能にするこうした協力は、政府間で実施されるODAと並び、日本の国際協力の推進と海外との相互理解の増進に大きな意義を有している。政府としては、こうした日本のNGOや地方公共団体との連携を重視しており、これらの団体が行う開発関連事業や技術協力等に対し、上記のNGO事業補助金を含む各種補助金や草の根無償資金協力等により支援を行っている。
 「国際ボランティア貯金」は、郵便貯金の利用者の委託を受け、その貯金の利子の20%から100%までの任意の率を寄附として開発途上地域の住民の福祉向上のために活動する我が国NGOの支援のために配分するものであり、98年度には約12億4,200万円の寄附金が我が国NGOに分配された。
 また、官民連携の一環として、「NGO・外務省定期協議会」や「GII(人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ)に関するNGOとの懇談会」、コソヴォ難民問題に関する外務省・NGO連絡会議などを通じ、政府とは異なる視点やノウハウを有するNGOとの対話を深めている。こうした議論からは、NGOとの共同評価の実施(バングラデシュ(97年10~11月)、カンボディア(99年3月))や、ザンビアに対する人口・エイズ分野での日米合同プロジェクト形成調査団への我が国NGO関係者の参加(98年12月)等の成果が上がっている。
 なお、国民参加型援助の一つとして、国際協力事業団(JICA)が実施している青年海外協力隊の派遣がある。98年度末の時点では農林水産、保健衛生、教育文化等7分野にわたり、59ヶ国に2,288人が協力隊員として派遣されている。これは、日本の青年を開発途上地域に派遣し、地域住民と一体となってその地域の経済・社会の発展に協力することを目的とする事業であり、開発途上国への技術移転、友好親善の増進、更には日本青年の広い国際的視野の涵養に寄与しており、内外の高い評価を得ている。

(7)効果的・効率的な援助の実施

 我が国は、ODAの効果的・効率的な実施のため引き続き努力しており、開発途上国及び他の援助国・機関との政策対話及び連携、援助形態間や我が国の民間資金等との連携や我が国の有する技術・ノウハウの活用、事前調査や事後評価の強化等下記のような措置を講じつつ、関係省庁間の連携の強化に一層配慮し、援助の質の向上を図ることとしている。

(イ)政策対話及び事前調査の強化

 我が国は、事前調査に加え開発途上国との政策対話を深めることを通じ、開発途上国自身のニーズ、国際社会の開発上の課題や我が国の援助方針に可能な限り合致した優良案件の能動的な発掘・形成に努めている。87年より開始した経済協力総合調査団は派遣先国への援助の中長期的方向性を定めるための最もハイレベルの政策対話の機会を提供しているが、98年度にはフィリピンに同調査団を派遣した。この他、各援助形態を統合した二国間経済協力政策協議ミッションを計22カ国に派遣したほか、援助形態毎の二国間協議や現地レベルの政策対話も行われ、これらの対話を通じて国毎に一貫性のある援助の実施を目指している。93年度からは、こうした政策対話等を踏まえ、国別援助方針(「6.主要国への国別援助方針」参照、現時点で24ヶ国)が策定されている。

(ロ)他の援助国・国際機関との協調

 世界的に援助資金が伸び悩んでいる中、重複を避け、効率的な援助を行うために援助国や国際開発機関の間で援助協調や援助調整が活発化している。日本は米国との間では「日米コモン・アジェンダ」の枠組み等の下で、人口・エイズや子供の健康分野においてヴィエトナムでのエイズ予防計画やザンビアでのマラリア対策等に関する共同案件を形成した。またポリオ根絶や、アフリカでのギニア・ウォーム(メジナ虫症)対策、ヨード欠乏症など微量栄養素欠乏対策に関する協力についても、これまで日米間での緊密な意見交換により、取り組みを推進してきている。この他、98年度においては、米国の他、カナダ、韓国、北欧諸国と援助政策に関する定期協議を行っている。
 国際機関との協調については、まず、世界銀行をはじめとする国際開発金融機関との間で、我が国は、主要な出資国(例えばこれまでの我が国の世銀への出資額は第2位、アジア開発銀行への出資額は第1位)として、各方面において積極的に協力を行っている。例えば、OECF、JICAとの定期協議の実施、OECFとの協調融資支援国会合の共催などの協力が行われている。また、最近では、世銀が被援助国の主体性を尊重しつつドナー間の連携強化の促進を目指して提唱した「包括的開発のフレームワーク(CDF)」に対し、我が国として知的貢献を行うなどの協力を行っており、今後多国間支援と二国間支援の連携がますます強化されることが期待される。
 また、国連諸機関との協調についても積極的に取り組んでおり、例えば国連開発計画(UNDP)の人造り基金について、我が国の二国間援助とうまく組み合わせることにより、相互の補完性を高め、援助の効率を高め、併せて日本あるいは日本人の貢献が認識されやすい形で援助が行われるよう努めている。例えば、現在フィリピンにおいて、固形廃棄物処理事業や女性の職業訓練の分野で、JICAの技術協力とUNDPとの連携事業が進みつつある。また、WHOと協力しつつ進めているポリオ根絶事業については、西太平洋地域では根絶宣言まであと一息となっている。

(ハ)国際協力銀行の設立

 99年4月に、日本輸出入銀行と海外経済協力基金を統合するための国際協力銀行法が成立し、国際協力銀行は99年10月に設立される予定である。同行においては、ODA(旧基金業務)及び非ODA(旧輸銀業務)の勘定を明確に区分しつつも、両機関が保有する情報及びノウハウを一元化し、資金供与相手国の経済社会状況、プロジェクトの特性等に応じてより効果的にODA資金を供与することにより、国際経済社会に対して一層機動的かつ効率的な貢献を行うこととしている。

(ニ)南南協力支援

 開発途上地域の開発は国際社会全体が取り組むべき課題であり、特にシンガポールやメキシコのように経済発展が順調に進んだ開発途上国の中には、開発の遅れている他の開発途上国を支援する国(いわゆる「新興援助国」)も現れている。こうしたいわゆる「南南協力」は、被援助国の発展段階により適合した技術の移転を可能にするメリットがある。また援助の裾野を広げる意義も有しており、我が国もこうした努力を積極的に支援している。98年10月に東京で開催された第2回アフリカ開発会議(前述)で採択された「行動計画」においても、特にアジア・アフリカ協力を中心とする南南協力が、アフリカ開発のための手法のひとつとして強調されている。今後、我が国としても、UNDPへの拠出金を活用して、アフリカ開発のための種々のアジア・アフリカ協力を支援していくこととしている。
 例えば、「カンボディア難民再定住・農村開発計画」においては、カンボディア内で日本の青年海外協力隊員とインドネシア、マレイシア、フィリピン、タイの専門家が共同して農村地域開発等のための支援を行っており、我が国は国連開発計画(UNDP)の協力を得てASEAN諸国の専門家の派遣経費等を負担している。我が国よりは、この他、全体の調整のための専門家が派遣されている。このように他の援助国・援助機関との援助協調による途上国支援を「三角協力」と呼んでいる。
 また、シンガポール等いくつかの新興援助国との間では、研修コース数、費用負担等に関する中期的な目標・計画を設定し、専門家の共同派遣などを含めたパッケージを内容とする総合的な協力の枠組みを定めるパートナーシップ・プログラムを作成し、積極的に共同の技術協力を行うこととしている。これまでのところ、シンガポール、タイ、エジプト、チュニジアとの間で協力を実施中である。

(ホ)民活インフラ支援策

 急速な経済成長を見せている開発途上国においては、インフラ需要も急増しているが、長い資本回収期間や、投資環境の未整備等のためインフラ整備事業には十分な民間資金が流入していない場合が多い。そのため民間投資の呼び水となるようなインフラ支援策を検討、実施に移している。98年度には、タイのバンコク地下鉄建設事業(第3期)に対する円借款(233.43億円)等を供与しているが、本件事業の場合、トンネル掘削等の土木工事部分が円借款により実施され、車両・機器の調達と完成後の地下鉄の運営・管理は、民間部門により行われることとなっている。

(ヘ)ODA評価

 ODAをより効果的なものとするため、政府や実施機関において、従来よりODA評価を実施してきている。ODA評価は、開発途上国において、日本が協力したプロジェクトが、所期の目的を達成したのか、どのような開発効果を生み出したのか、などについて調査するものである。評価の結果は、当該プロジェクトの改善や将来のプロジェクトの形成に役立てている。また、評価は、その結果を広く国民に公表することにより、ODAの透明性確保にも資する。最近では、有識者や外部機関などの第三者に委託して行う評価や、特定国に対する日本のODA全体についての評価などを重視している。

(ト)円借款供与条件の緩和

 97年夏に発生したアジア通貨危機に対応するため、98年4月、アジア諸国の構造調整努力を支援するため足の速い円借款について3年間の特例措置(金利1.0%、償還期間30年(うち据置10年))を設けたほか、通貨価値が大きく下落した国に対して、直近の為替レートを用いて計算した所得水準に基づき円借款を適用する措置をとった(インドネシア、マレイシア、フィリピンに適用)。
 また、それに先立つ97年度には、環境分野、人材育成支援、中小企業支援について、特別に優遇された金利(0.75%、償還期間40年)を導入したほか、国境をまたぐ広域案件の実施を促進するため、広域インフラ案件に対する円借款については、関係する諸国の中で最も所得水準の低い国に対する供与条件を一律に適用することとした。これらの措置により、途上国の多様な開発ニーズに対する円借款での取り組みの可能性が大きく広がっている。

(チ)ODA事業の適正な実施の確保

 国民の税金等公的資金によって賄われるODA事業が適正に実施されなければならないことは論を待たない。しかしながら、ブータンにおける通信網整備計画への無償資金協力案件において、同案件は、ブータンにとって大きな意義を有し、同国官民から高く評価されているプロジェクトである一方、当初計画からの変更が所要の手続きを経ることなく行われていたことが政府の調査で明らかとなった。このため、政府はブータン政府との関連では、問題と判断される変更にかかる経費(2億円弱)について無償資金協力からの支弁を行わないこととするとともに、関係企業に対し厳正な措置を採り、併せて、適正な援助の実施のため、チェック体制の強化等の改善措置を講ずることとした。
 国際社会においても、不正防止の努力が続けられている。94年、OECD閣僚理事会は、「国際商取引における贈賄防止に関する勧告」を採択し、加盟国に対して、国際商取引に関連した外国公務員への贈賄の抑止・防止についての実効的措置の実施を求めた。援助に関する調達についても、96年、DACハイレベル会合において、援助関連文書への汚職防止条項の導入にかかる勧告が採択された。これを受け、我が国は98年度より、交換公文の付属文書に反汚職条項を盛り込み、従来より交換公文に規定されてきている適正使用条項(交換公文上において、供与される資金が適正かつ専ら計画のために使用されること等を確保することを被援助国に対して義務づけるもの)が汚職防止の趣旨を含むことを明示的に確認することとした。
 また、国際商取引一般に関しては、97年にOECDにて採択された「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」(外国公務員に対する贈賄防止条約)は、外国公務員に対する贈賄が競争条件を歪めうることから、公正な競争を確保することを目的として作成されたものであり、締約国は可能な限りかかる行為を犯罪化する措置をとることとなっている。
 我が国は、本条約を98年10月に締結した。本条約は99年2月に発効しており、この発効と同時に、本条約の実施を国内的に担保するための不正競争防止法の改正が施行され、我が国国内において外国公務員に対する贈賄が行われた場合や、贈賄自体が国外において行われる場合においても、我が国国内から贈賄の指示があった場合等について処罰が可能となった。なお、本条約の締約国は98年度末現在で12ヶ国となっている。
 99年4月に、インドネシアにおけるODA案件関連の契約を受注した日本企業の活動に関し、現地政府関係者への贈賄に関する疑惑について本邦紙において報道がなされた。政府はこれを受け、インドネシア政府に調査を求めるとともに、報道された企業からの事情聴取等を行ったが、いずれの企業も贈賄を否定しており、かかる事実は確認されていない。
 また、政府はこの機会に、ODAを巡る不正や腐敗を防止し、ODA事業の適正かつ効果的な実施を確保するため、ODA関連企業を対象にODA事業における不正防止にかかる説明会を実施した。今後ともこうした疑念が生じないようODA事業の適正な実施に努めていくこととしている。

(リ)我が国の技術とノウハウの活用

 我が国が援助を実施する際には、日本の特徴を生かし、我が国の援助であることを相手国国民に良く理解してもらうとともに、我が国の有する技術や経営上のノウハウを活用することが重要である。上述の金利の大幅引き下げを行った分野における円借款については、こうした観点から、国際ルールに反しない範囲で、資機材及びサービス(コンサルティング・サービスを除く)の調達条件について部分アンタイド、コンサルティング・サービスの調達条件について我が国と被援助国との2国間タイドを導入している。
 また、98年12月に発表された経済構造改革支援のための特別円借款(2.地域別援助の動向(1)アジア(イ)東アジアの項参照)についても、金利、償還期間とも極めて緩やかな供与条件を適用していることから、国際ルール上可能な範囲で、原則として契約者を日本企業に限定し、アジア経済再生に向けての貢献が期待されている我が国企業の事業参加機会の拡大を図ることとした。
 後発開発途上国(LLDC)向けのODAについては、98年4月のDACハイレベル会合において、99年5月の次回会合への提出を念頭にアンタイド化(援助で供与される物資・サービスの調達先を限定しないこと)に関する勧告案について作業することが合意された。しかし、コンセンサスは形成されず、更に1年間議論が継続されることとなった。我が国は、一貫して、特に全ての技術協力をアンタイド化の対象から除外すること、及び調達方法に十分な柔軟性を確保することを強く主張し、「我が国の顔の見える援助」の実施確保に努めている。
 なお、効果的かつ効率的な援助を推進していくためには、ODAに関わる官民の関係者の能力向上や豊かな国際感覚の修得が重要である。そうした趣旨から、ODA関係者の育成・能力向上に関する事業が行われているが、ODA予算により留学した政府関係者が、必ずしも留学後ODA関連業務に関わっていないとの指摘がある。政府としては、こうした人材が、留学からの帰国後もODA事業に従事し、その効果的推進に資するよう更に努力していくこととしている。


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