我が国は、98年には世界の162ヶ国・地域に対して政府開発援助を行った。そのうち55ヶ国に対しては最大の二国間の援助供与国となっている(97年)。
- (イ)東アジア
東アジア地域は、地理的・歴史的なつながり、経済面における密接な相互依存関係等から引き続き我が国援助の重点地域となっており、98年の我が国二国間ODAのうち東アジア地域向けが41.0%(35.44億ドル)を占めている。
この地域は、新興市場国としてこれまで飛躍的な発展を遂げてきたが、アジア経済危機の影響により経済の停滞を余儀なくされている東南アジア諸国、市場経済の導入に取り組んでいる「移行国」であるインドシナ諸国やモンゴル、更に国内の地域格差是正や国有企業改革等多くの課題を抱えつつ改革・開放路線を推進している中国など、経済の発展段階や状況が大きく異なる様々な国が存在しており、開発援助ニーズも多様化している。我が国としては、各国の実情に応じたきめの細かい援助を実施するよう努めている。アジア通貨危機の影響が大きかった諸国については、短期的な資金不足を補うとともに、構造改革や中小企業育成、人材育成を通じた中長期的な経済再活性化や経済危機の社会的影響緩和のための支援、及び環境問題や地域格差など経済開発によって生じた歪みの是正のためのインフラ整備や社会的弱者支援に力点を置いた。中国については、アジア通貨危機の直接の影響は生じていないものの、輸出の伸びの減速や対中国直接投資の減少、また、年央の洪水災害による影響等が見られた。我が国は、中国の改革・開放路線を支援するとの方針の下、地域間格差是正に力点を置きつつ、経済開発・民生向上や環境問題・洪水対策への取り組みを中心に協力した。一方、後発開発途上国においては、引き続き貧困問題を中心に取り組んだ。
アジア経済は、通貨・金融市場の落ち着きやマクロ経済指標の一部改善も見られ、総じて通貨危機の影響を克服しつつある。しかし、実体経済は依然厳しく、特に経済再活性化、構造改革とそのためのインフラ整備、中小企業育成、人材育成、社会的弱者対策が大きな課題となっており、引き続き国際社会からの支援が必要である。
この観点から我が国は、アジア経済の回復に必要な自らの経済活性化に努めるとともに、アジア諸国と我が国は経済面でも密接な相互依存関係を有しており、国際社会の期待に応えてこれら諸国の経済回復と社会的安定を支援することは結果的に我が国経済の発展にもつながるとの考えに基づき、継続的にアジア支援を行った。具体的には98年2月に閣議決定した「東南アジア経済安定化等のための緊急対策」や4月に発表した「総合経済対策」の下でのアジア支援に加え、10月に表明した合計300億ドル規模の資金支援を含むいわゆる「新宮沢構想」(実体経済回復のための中長期の資金支援としての円借款・輸銀融資等150億ドル及び経済改革過程での短期資金需要への備えとしての150億ドルから成る)、11月に発表した「緊急経済対策」の下でのアジア支援、12月に発表したアジア諸国の経済構造改革に資するインフラ整備への支援等を目的とした3年間で6,000億円を上限とする特別円借款など累次の支援策を表明した。また、3月には我が国の約30億ドルの拠出によりアジア開発銀行に「アジア通貨危機支援資金」を創設した。97年夏のアジア通貨危機発生以来我が国の表明したアジア支援策は世界最大規模の総額約800億ドルに上る。
これらの支援は、98年度末までに約640億ドルが具体化されており、このうちODAでは、約60億ドルを実施している。具体的なODAを通ずる支援としては、まず、アジア経済危機の影響を受けた東南アジア諸国を中心に、資金不足に対応しつつ構造調整を実施できるよう支援するため、足の速い円借款(セクター・プログラム・ローン等)やノン・プロジェクト無償等を供与し、また、より中長期的な観点からのインフラ整備等への円借款供与を行っている。更に、中長期的な観点から構造改革を進めるための人材育成支援として、97年12月に表明した向こう5年間2万人の「日・ASEAN総合人材育成プログラム」について、98年度末までに9カ国約21,000人の人材育成を行い、表明した目標を既に達成している他、対日留学プログラム等への円借款供与を行っている。特に、日本への留学生がその学業を継続できるよう、マレーシア向けの円借款を供与したほか、留学経費の無償資金協力や学習奨励費の一時金の支給等の措置も講じた。また、社会的弱者への支援として、コメ支援や医薬品支援等の直接的支援、セクター・プログラム・ローンの見返り資金やノン・プロジェクト無償(見返り資金を含む)の活用を通じた社会開発、食糧増産援助等に加えて、構造調整借款の活用を通じた政策改善支援を行っている。特に、インドネシアに対しては、天候不順や経済困難に起因する食糧不足に対処するため70万トンの政府保有米の貸付を行った。また、98年5月、小渕外務大臣(当時)よりASEAN基金に対し2,000万ドルの拠出(「連帯基金」)を表明し、99年2月に拠出を行った。この連帯基金は、アジア経済危機に関する共同研究、ASEAN高等教育強化のための支援、我が国企業と現地企業との連携に対する支援、地域的なプロジェクトの発掘・支援等に活用されることとなっている。南西アジア地域は、域内7ヶ国のうち4ヶ国が後発開発途上国(LLDC)となっている世界で最も貧しい地域の一つであり、各国は、貧困問題をはじめとする困難な経済社会問題に直面している。その一方で、南西アジア諸国は、経済自由化、規制緩和等経済改革を進めつつ積極的に経済・社会開発に取り組んでおり、我が国のODAもその側面支援の役割を担っている。また、南アジア地域協力連合(SAARC)は、南アジア特恵関税協定(SAPTA)交渉の推進を決定する等域内協力の強化に取り組んでいるほか、1998年7月のコロンボ首脳会議では、南アジア自由貿易地域(SAFTA)創設のための法的枠組みの2001年までの完成を目指すことにつき了承が得られた。
南西アジア地域においては、経済発展に資する基盤整備に加え、貧困対策に資する保健・医療・教育等に関する援助需要も大きく、我が国としては、従来より経済社会インフラ整備から基礎生活分野に至る幅広い分野において援助を行ってきた。近年では、援助の実施にあたり、特に「途上国の女性支援(WID)」、ポリオ対策等の子供の健康分野における協力、また、人口・エイズ、環境、食料等の地球的規模の問題への対応にも配慮してきた。その結果、98年の南西アジア地域に対する援助実績は14.74億ドル(我が国二国間ODAの17.0%)にのぼっている。
しかしながら、インド・パキスタンの両国は98年5月に地下核実験を行った。両国による核実験とその核政策は国際的な核不拡散体制から問題があるのみならず、厖大な貧困人口や開発上の問題を抱える中でのこのような動きは容認しがたいことである。政府開発援助大綱の原則を踏まえ、政府は両国に対し新規無償資金協力の原則停止、新規円借款の停止等の措置をとっている(「5.政府開発援助大綱の運用状況」(1)参照)。中央アジア5ヵ国及びコーカサス3ヵ国については、93年度から我が国のODAによる支援を開始している。97年7月、橋本総理(当時)は新たに「ユーラシア外交」を提唱し、そのなかで中央アジアおよびコーカサス8カ国を「シルクロード地域」と位置づけ、同地域との関係を積極的に展開する方針を明らかにした。シルクロード地域は、地政学的な重要性や、豊富な鉱物資源の存在、加えて親日的な国が多いことなどから、これらの諸国の期待に応え、経済協力を含めたさまざまな分野での関係を強化するための取り組みが行われている。これまでこれらの諸国に対しては技術協力及び無償資金協力を実施しているほか、98年度にアルメニアに対し初の円借款供与(送配電網整備計画)を行った結果、円借款はタジキスタンを除く7ヵ国に供与されている。この地域のほとんどの国は、ソ連邦崩壊に伴う経済的混乱に見舞われる中で、民主化、市場経済導入の努力を続けており、体制移行による国造りも一定の成果を挙げつつある中で、インフラの老朽化、環境破壊等、共通の問題を抱えている。
我が国は、中央アジア及びコーカサス地域の諸国に対し、民主化・市場経済化に資する人造りや開発計画策定等のための技術協力、経済改革に伴う困難を緩和するための基礎生活分野及び経済インフラ整備に対する資金協力を中心とした援助を実施している。98年のこの地域に対する援助は、97年の1.57億ドルから2.42億ドルに増加した。タジキスタンにおいては、和平プロセスの実施が遅れており、情勢はなお不安定であるが、我が国は同国の和平促進・民主化を支援するため、研修員受入を大幅に拡大する旨表明している。我が国と中近東地域は、石油の安定供給確保の観点をはじめ高い相互依存関係にあり、同地域の安定は我が国にとり死活的に重要である。我が国の二国間ODAにおける中近東の占める割合は98年には4.6%(3.94億ドル)であり、うち8割近くが贈与(無償資金協力及び技術協力)による援助となっている。我が国は、同地域の経済開発と民生の安定に寄与することを通じ、友好協力関係を増進させるのみならず、同地域の政治的安定に貢献する観点からも、同地域の経済・社会状況の多様性に応じ、各援助形態を交えたきめの細かい援助を行っている。
我が国は、中東和平推進に粘り強い働きかけを行うとともに、和平プロセスの環境作りを促すべく援助を実施している。特にパレスチナ支援に関しては、93年度以降98年度末までに、総額約4.4億ドルの支援を実施しているが、更に98年11月、今後2年間で新たに2億ドルの支援を行う旨表明した。この支援においては、中長期的な目標としての地域の経済発展をも念頭に置きつつ、人的資源・社会開発、水資源開発、基礎インフラ支援等幅広い支援を実施していくこととしている。
比較的所得水準の高い湾岸協力理事会(GCC)諸国に対しては、脱石油の経済多角化に向けた支援を中心に実施した。特に、サウディ・アラビアについては、人造り(教育・職業訓練)、環境、医療・科学技術等の分野を対象とした「日・サウディ協力アジェンダ」に基づき幅広い関係構築のための協力が進展している。
北アフリカ地域のエジプト及びテュニジアについては、両国に対する援助を実施するのみならず、サハラ以南アフリカ諸国支援のためのパートナーとも位置付け、98年10月にエジプトと、99年3月にはテュニジアとの間で三角技術協力に関する枠組み文書が署名された。現在、アフリカ地域に対する協調支援としての三角協力の具体的実施に向けて取り組んでいる。アフリカ地域では、多くの国が複数政党制の下での民主化の推進、市場指向型経済の導入等、政治・経済面での改革を実施し一定の成果を挙げているが、依然多くの国がLLDCであり、貧困、感染症、紛争等様々な問題に直面している。こうした問題に対し国際社会が一致して取り組むべきとの認識が強まりつつあり、今後とも、アフリカ諸国に対し我が国の国力に相応しい協力を継続していく必要がある。また、その際、二国間友好関係の強化、多国間外交の場における我が国への支持・協力の確保、アフリカが抱える課題(経済社会開発の促進、紛争の解決、緊急人道援助等)に対する国際貢献といった外交目的の達成を念頭に置くことが重要である。
我が国は、保健、水供給、教育等の社会開発や農業等の基礎生活分野、道路等の基礎的インフラ整備の分野で様々な援助を実施している。我が国の対アフリカ支援は97年の8.03億ドルから98年には9.54億ドルに増加し、二国間ODAに占める割合は11.0%となった。そのうち9割近くが贈与(無償資金協力及び技術協力)となっている。
こうした中、我が国は、98年10月東京において、国連、アフリカのためのグローバル連合(GCA)とともに、第2回アフリカ開発会議(TICAD2)を開催した。同会議においては、80ヶ国、40国際機関及びNGO22団体の参加を得て、アフリカ諸国の自助努力(オーナーシップ)と国際社会による支援(パートナーシップ)という基本精神に基づき、アフリカ開発問題に関して包括的な話し合いが行われた。その結果、(イ)教育、保健・人口、貧困層支援等の社会開発、(ロ)民間セクター開発、工業開発、農業開発及び対外債務問題に配慮した経済開発、(ハ)良い統治、紛争予防と紛争後の開発といった開発の基盤整備の三分野で具体的目標を含む優先的行動につき合意した「東京行動計画」を採択した。また、それと併せて、同計画の実施に資する約370もの開発プログラム・プロジェクトを記載した「例示リスト」を作成した。我が国は、保健医療、教育、水供給の3つの分野で今後5年間に900億円の無償資金協力を行う方針であること等、我が国独自の支援策を表明した。今後は、「東京行動計画」で設定された目標を如何に達成するかに関する意見交換のための地域別レビュー会合の開催及び南南協力を推進するためのアジア・アフリカ・フォーラムの開催に加え、我が国がTICAD2に際し表明した保健医療・教育・水供給分野に対する今後5年間で900億円の無償資金協力の実施や、経済的自立へ向けた民間セクター・工業・農業開発等の開発への支援、民主化・紛争予防や紛争後の復興に対する支援、債務負担の軽減に資する支援等を通じ、TICAD2フォローアップを着実に推進していく方針である。90年代に入ってからの中南米地域は、それまでの経済の停滞を克服し、また、政治的民主化の定着を背景に民営化の推進による小さな政府への指向、市場経済原理の導入等構造調整政策を実施した成果を収めてきた。しかし、97年夏以降のアジア通貨危機及び98年9月のロシア金融危機の影響が中南米にも波及し、特に中南米最大の経済大国であるブラジルにおいて、99年1月に従来のクローリング・ペッグ制から変動為替相場制への変更を余儀なくされるなど中南米全体の経済成長にも影響を与えている。地域経済統合の動きについては、メキシコの参加する北米自由貿易協定(NAFTA)や、ブラジル、アルゼンティン等が進めている南米南部共同市場(メルコスール)等の既存の枠組みに加え、98年4月の第2回米州サミットにおいて、米州34ヶ国を統一市場とする米州自由貿易地域(FTAA)の具体的交渉開始等を内容とするサンティアゴ宣言・行動計画が採択されている。
中南米諸国に対する援助は、比較的所得の高い国が多いこと、多数の日本人移住者日系人の居住する伝統的に親日的な国が多いこと、社会資本への投資不足、民主体制の定着、市場指向型経済の導入の推進等の観点を踏まえて実施してきており、近年では、環境など地球的規模の問題、国内の所得格差等に起因する貧困問題等への取り組みを重視している。その結果、98年の中南米地域に対する援助実績は5.57億ドル(我が国二国間ODAの6.4%)となっている。
また、中米における今世紀最大規模といわれる98年10~11月のハリケーン・ミッチによる災害に対し、我が国は緊急物資援助、緊急無償資金協力に加え、ニカラグァには国際緊急援助隊・医療チームを、ホンデュラスには国際緊急援助隊派遣法に基づく初めての自衛隊部隊の派遣をそれぞれ実施し高い評価を得たほか、被災後も継続してインフラ等の緊急復旧並びに中長期的な復興支援のための調査団や専門家派遣等を実施し、99年5月の対中米支援国会合では、復興支援として99年末までに360億円程度の支援を表明している。99年1月のコロンビアにおける地震災害についても、我が国は緊急物資援助、緊急無償資金協力とともに国際緊急援助隊救助チーム及び医療チームや、インフラ等の復興支援のための専門家等を派遣している。大洋州地域の諸国は、その大半が国土も人口も極めて小さな島嶼国家であり、国内市場の狭隘性等開発上の困難を抱えているほか、若い独立国として特に人材育成が大きな課題となっている。また、公的部門に過度に依存した経済構造から脱却するための民間部門の育成、環境保全、基礎生活分野の整備、漁業開発等共通の課題も有している。我が国としては、各国の主体性を重視し、その実状、開発需要に即したきめの細かい援助を実施している。我が国の二国間ODAにおける大洋州地域の占める割合は98年には1.775(1.48億ドル)であった。また、当該地域において実績を有する豪州、ニュージーランド及び、国連開発計画(UNDP)、アジア開発銀行(ADB)等の国際機関との協調も重視している。
当該地域の地理的分散性に対応した協力としては、98年度に、域内各国に遠隔教育を行う南太平洋大学の機能強化のため、豪州、ニュージーランドとも協調し、関係国のフィジー、サモア等に対して無償資金協力を実施した。
なお、パプア・ニューギニアにおける津波被害に対して国際緊急援助隊・医療チームを派遣した。中・東欧諸国においては、89年以来の民主化・自由化の動きの中で経済改革が進められている。多くの国で市場指向型経済の導入、経済インフラの再建、環境問題等が主な課題となっている。我が国は他の主要援助国、欧州復興開発銀行(EBRD)等の国際金融機関と協調しつつ支援を実施しており、二国間協力ではこれらの課題に対応するための技術協力及び有償資金協力を中心に支援を行っている。98年度にはスロヴァキアに対し初の円借款供与(高速道路建設事業)を行った。
旧ユーゴースラヴィア問題に対しては、92年のボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争開始当初から人道・難民支援を中心として支援を実施しており、96年3月までに合計約2億ドルの支援(国際機関経由の支援も含む)を供与したのに続き、同年4月には、ボスニア・ヘルツェゴヴィナに対して96-99年の4年間で5億ドル程度の復旧・復興支援を表明、98年度までの3年間で2.7億ドルの支援を実施してきている。なお、98年度には、ボスニア・ヘルツェゴヴィナに対し初の円借款供与(「緊急電力整備事業」)を行った。また、99年4月には、コソヴォ紛争拡大により周辺国に大量の難民が流出したことに伴い、我が国は、コソヴォ難民に対する緊急援助とともに、これら多数の難民を受け入れているアルバニア及びマケドニアに対する支援、和平達成後のコソヴォ復旧、難民帰還支援等のため、総額約2億ドルの支援策を表明した。
旧ソ連邦諸国については、バルト三国は96年度、ウクライナとモルドヴァは97年度に我が国ODAの対象国とし、技術協力を中心とした支援を実施している。
我が国の二国間ODAにおける欧州の占める割合は98年には1.7%(1.46億ドル)であった。
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