3.分野別援助の動向
現在、世界で13億人を超える人々が貧困状態(1日1ドル以下で生活)にあると推計されるなど、貧困問題は依然深刻である。貧困人口は、東アジア・太平洋地域で4.7億人、南アジアでは5.6億人、アフリカでは2.2億人と推定されている(注)。
90年代に入り、社会開発に関する多くの国際会議が開催され、社会開発問題に対する国際的な関心が高まった。その中で、開発の目的を人間の豊かで幸福な生活の実現に置く「人間中心の開発」の考え方が開発問題の中心的地位を占めるに至っている。95年の社会開発サミット(於コペンハーゲン)では、「人間を開発の中心に置き、より効果的に人間のニーズを満たすよう、経済の方向付けを行う」ことを謳った「社会開発に関するコペンハーゲン宣言」が採択され、また、先進国は開発援助の20%、開発途上国はその国家予算の20%をそれぞれ基礎的な社会分野のプログラムに配分すべきとしたいわゆる「20/20イニシアティヴ」は一つのガイドラインとして注目されている。
経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)は、96年5月、「21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献」(いわゆる「新開発戦略」)を採択し、「2015年までの貧困人口割合の半減」、「2015年までの初等教育の普及」、「2005年までの初等・中等教育における男女格差の解消」「2015年までの乳幼児死亡率の1/3への削減」等人間の開発に目を向けた具体的達成目標として示している。
また、人間が自由と責任に裏打ちされた自立した個人として創造的で価値ある存在として生きるために環境の悪化、貧困、薬物、国際組織犯罪、感染症、人権侵害、地域紛争、対人地雷、自然災害といった種々の脅威から人間の営みを守る「人間の安全保障」の視点から種々の課題への取り組みが行われている。
我が国の援助においては、こうした「人間中心の開発」や「人間の安全保障」の考え方をその実施に反映するように努めており、93年以降毎年、社会開発分野の援助は我が国二国間援助実績の20%以上を占めている。
(注) 国連開発計画(UNDP)、「人間開発報告1997」 社会開発は、単に教育・保健医療等の基礎的サービスを提供するのみならず、経済開発によって得られた利益が広く貧困層を含めた人々に裨益するための手当という面からも必要である。また、持続可能な開発のためには、教育や保健等のサービスを享受できる環境の下で能力ある個人が主体的に経済活動に参画することが不可欠である。
こうした社会開発や持続可能な開発のための開発途上国の努力を支援するために、社会インフラ等の分野における支援を行っていく必要があり、98年には、二国間援助により28.16億ドル(二国間援助の20.4%、約束額ベース、以下同様)の支援を行った。また、我が国は、社会開発分野への援助に関連して98年10月の第2回アフリカ開発会議(TICAD2)の際の今後5年間で900億円相当の無償資金協力の実施、98年5月のバーミンガム・サミットにおいて表明した国際寄生虫対策、小渕総理がASEAN首脳会議出席のためのヴィエトナム訪問に際して表明した人間の安全保障基金の設置等のイニシアティブを表明した。
現在、世界で約11億人が衛生的な水へのアクセスを持たず、約29億人が衛生施設へのアクセスを欠いていると指摘されている(注1)。こうした中、98年4~5月に開催された「国連持続可能な開発委員会」において水問題に焦点を当てた議論がなされるなど、水問題に国際的関心が高まっている。
上下水道の整備等による衛生的な水の供給は、人々の健康を守る基礎として我が国援助において重視しており、この分野において我が国は98年にはアジア、アフリカをはじめ世界31ヶ国に対し、無償資金協力、円借款等により、合計で12.85億ドル(二国間援助の9.3%)の支援を行った(注2)。
協力の内容としては、上水道分野について、円借款や無償資金協力による水源の開発、浄水場、上水道網の整備、青年海外協力隊や草の根無償資金協力による井戸掘削等を行い、また、下水分野への援助として、円借款や無償資金協力により、下水処理場や下水道網の整備を実施している。なお、水関連の協力としては、このほかに農業(農業用水関連)や環境(水質モニタリング等)に分類されるものがある。
(注1)
- 世界保健機構(WHO)、国連児童基金(UNICEF)、「Water Supply and Sanitation Sector Monitoring Report 1996」
(注2) 98年度には我が国は約2,300万人が居住する地域に対して安全な水の供給のための協力を決定した。 保健医療分野については、多くの開発途上国において依然として基礎的な保健医療サービスへのアクセスが十分でなく、疾病の予防・治療のための対策を今後とも進めていくことが重要な課題となっている。最近のアジア経済危機での経験からも明らかなように、貧困や経済危機の影響は特に社会的弱者の健康状態に端的に現れるため、予算や資源配分に関して特に保健医療分野へ配慮する必要があることが指摘されている。
我が国は、開発途上国の医療体制の実状や運営管理能力等にも配慮しつつ、より多くの人々に平等に基礎的な保健医療サービスを提供するプライマリー・ヘルス・ケアの視点を重視し、地域で核となる病院の機能強化のための施設建設や機材供与、医療分野の人材育成、運営管理、調査研究等のための支援を行ってきている。
我が国の保健医療分野に対する協力の98年の実績は、3.57億ドル(二国間援助の2.6%)であり、このうち無償資金協力による支援は2.06億ドル(保健医療分野の援助の57.6%、無償資金協力全体の10.8%)であった(注)。
(注) 98年度には我が国は約3,000万人の医療サービスへのアクセスの改善に資する資金協力を決定した。
(a)人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)
我が国は、94年2月、「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」を発表し、94~2000年度の7年間に総額30億ドルを目途にこの分野に対する支援を行う旨発表した。GIIの実施に当たっては、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の視点を踏まえ、母子保健・家族計画等の直接的な協力に加え、基礎保健医療、初等教育、女性の地位向上等への支援も含めた包括的なアプローチを採用している。GIIを推進するため、97年度までに14ヶ国にプロジェクト形成調査団を派遣したのに加え、98年度にはザンビアに日米合同のプロジェクト形成調査団を派遣した。この分野においては、他の援助国や国際機関に加え民間援助団体(NGO)との連携を深めることも重要であり、GIIのプロジェクト形成調査団の派遣に際し、これまでに米国、フランス、国連エイズ合同計画(UNAIDS)等から参加を得た他、NGOの団員が12ヶ国への調査団派遣に際し参加した。こうした努力のもと、GIIの実績は98年度までの5年間で約37億ドルとなり、2000年度までとしていた目標を既に達成した。
また、国際機関を通じた協力のため、98年度には、人口分野について国連人口基金(UNFPA)に対し6,812万ドル、エイズ対策のためUNAIDSに対し544万ドルの拠出を行った。(b)子供の健康
貧困や栄養不足の影響を特に受けやすい子供の健康のための支援として、我が国は日米コモン・アジェンダの一環として、特にポリオ根絶への協力を重視し、「2000年までに地球上からポリオ根絶」との世界保健機関(WHO)の目標実現に向け積極的な支援を行っている。これまで重点的に援助を実施してきた西太平洋地域においては、既にポリオ根絶はほぼ成功しており、こうした成果を踏まえ、現在ポリオ根絶のための協力の重点を南アジア地域やアフリカ地域へ移行している。98年度にはポリオ根絶支援のため15億円(約1,250万ドル)の協力を行った。こうした我が国の積極的な関与もあり、世界のポリオ発生件数は88年の3万5,251件から97年には5,174件に激減するなど、目覚ましい成果が得られている。なお、97年度より開始された子供の健康無償(含むマラリア対策等)の98年度実績は、57億円(約4,750万ドル)であった(注1)。
(c)国際寄生虫対策
我が国は感染症対策のため積極的な協力を行っているが、その一環をなす寄生虫症対策について、97年6月のデンヴァー・サミットで橋本総理(当時)はその重要性を指摘し、続く98年5月のバーミンガム・サミットにおいては、寄生虫対策のための国際協力の効果的推進に関する提言等をまとめた報告書を提出した。報告書において提示された戦略にもとづいて、我が国は対策の推進を手がけているところである。その一環として、寄生虫対策の「人づくり」と「研究活動」推進のため途上国におけるセンター(拠点)設置とWHO等との協力の下センターを中心としたネットワークの構築を提案しており、現在、タイ、ケニア及びガーナにそのような拠点を設置すべく準備が進められている。
教育分野への開発援助の重要性は近年益々強く認識されるに至っており、DACの「新開発戦略」においても、「2015年までの初等教育の普及」や「2005年までの初等・中等教育における男女格差の解消」が目標として掲げられている。特に最近は教育の中でも土台となる基礎教育への支援の必要性が注目されている。我が国は98年に、教育分野において9.05億ドル(二国間援助の6.6%)の支援を行った(注2)。
協力の内容としては、教育関係施設建設の他、放送教育の拡充、教員の養成・再教育等への無償資金協力及び技術協力、青年海外協力隊の派遣、教育関連施設拡充や人材開発を目的とした円借款の供与等を行っている。
円借款を通じた人材育成については、97年度より、我が国への留学・研修、我が国よりの専門家派遣及びこれらのプログラム実施に必要な施設の整備に対して、0.75%、償還期間40年(据え置き期間10年を含む)という国際的に最も優遇された条件を適用している。また、98年度は約134ヶ国の開発途上国を中心に8,323人の国費留学生を受け入れた。
(注1) 97、98年度の子供の健康無償により延ベ2億5,000万人の子供の健康状態の改善に貢献した。 (注2) 98年度には約26万人の小・中学生の利用する教室等の整備のための協力を決定した。 貧困克服のためには経済成長が不可欠である。また経済成長は社会開発面での必要な手当を財政面で支える。持続的な経済成長のためには、それを支える経済インフラの整備が必要である。また、経済成長の軌道に乗っている国においても、急速な発展に伴うインフラ不足が経済成長の制約要因となっている場合がある。更に経済インフラはその内容によっては分配の是正にも大きく貢献しうる。このような観点から、従来より我が国は、経済社会開発の重要な基礎となる経済基盤(インフラストラクチャー)への支援を重視してきた。98年には経済インフラに対し円借款を中心として、二国間援助の39.1%(前年44.7%)を占める53.90億ドルの支援を行った。
効率的な運輸インフラの整備・維持は、一国あるいは国境をまたぐ地域的な経済社会開発の促進に必要な要素である。我が国は98年に、この分野において32.52億ドル(二国間援助の23.6%)の支援を行った。98年度にはヴィエトナムにおいて合計475kmに及ぶ道路及び橋梁の改修及び拡幅を目的とする2件の国道改善計画に対し円借款を供与した。また、98年10月から11月にかけて中米を襲ったハリケーン・ミッチによる自然災害の際、我が国の無償資金協力で建設されたニカラグァの7件の橋梁は、他の橋が押し流される中で無傷で残ったことは、我が国援助の信頼性と技術水準の高さを示すものとして、同国の大統領をはじめ官民から大きな感謝と賛辞が寄せられた。
運輸分野においては、道路、鉄道、空港、港湾等のインフラに見られるように大規模、かつ経済的便益が見込まれるものが多いことから、円借款の比重が高くなっている(運輸分野全体の91.3%)。またこの分野では、運輸関連の工場設備、教育訓練施設等の建設に対する資金協力から、総合交通計画策定等に対する技術協力まで幅広い協力を行っている。エネルギー供給体制の整備は経済開発を支えるため必要であり、またエネルギー効率の向上によりエネルギー消費量を抑制することは持続的開発のために重要との認識の下、エネルギー分野については98年は17.51億ドル(二国間援助の12.7%)の支援を行った。例えば、ヴィエトナムにおいては、現在の全国総発電容量は5,233MWであるが、2,000MW分の発電設備が今後更に複数年にわたる円借款によって建設される予定であり(この協力により総発電容量は35%以上増加)、98年度も316億円(約2.6億ドル)の円借款を発電設備建設のため供与した。
エネルギー分野の協力は発電所に対するものが多いが、近年民生向上や貧困対策のための地方電化や送配電の整備に関する協力も増加している。この分野の協力は、比較的規模が大きく、ある程度の収益性もあることから円借款による協力が中心となっているほか、技術協力として省エネルギー、環境対策等の技術移転や専門的な人材育成、エネルギー利用に関するマスタープラン作成等も支援している。また、草の根無償資金協力による地方電化の取り組みも行われている。例えば、グァテマラでは平成元年度の草の根無償資金協力開始以来、総件数の約4割(63件、供与総額約1億4千万円)が小水力発電等を利用した地方電化の案件となっている。通信網の整備には膨大な資金を要し、開発途上国の中には人口100人あたりの電話普及率が1台にも満たない国が50ヶ国近くも存在する。
近年、東南アジア諸国をはじめとする一部の経済発展の進んだ開発途上国においては、通信網の整備において民間資金を利用したいわゆる民活インフラ整備の動きが目立つようになってきている(注)。しかし、民活による通信網整備の推進が困難な国や地方における通信網の整備においては、引き続きODAによる通信網整備のニーズは大きい。また、通信・放送は緊急災害発生時等に住民の安全確保に重要な役割を果たすとともに、開発に必要な情報・知識の流通の円滑化に資するという重要な意義があり、開発途上国における教育の普及や保健・衛生知識の普及など、住民生活の向上に役立つものである。更に、通信分野においては技術革新、経営形態の変化、新サービスの提供等の経営環境の変化が見られ、これに対応した人材育成を必要に応じ実施していくことが重要となっている。こうした点を踏まえ、98年には通信分野において、3.0億ドル(二国間援助の2.2%)の支援を行っており、例えば、域内各国に遠隔教育を行う南太平洋大学の機能強化のため、豪州、ニュージーランドとも協調し、フィジー、サモア等に対して計4億4,500万円の無償資金協力を行った。
(注) 但し、一昨年来のアジア経済危機の影響を受け、経営困難に直面している例もある。 今後世界的に食料需要の大幅な増加が見込まれる一方、世界の食料生産については様々な制約要因が指摘されている。また、96年11月の「世界食料サミット」において「世界食料安全保障のためのローマ宣言」が採択され、その中で世界の食料安全保障の達成と栄養不足人口の半減等の目標に向けて各国が協調することが述べられ、また、98年10月に開催されたTICAD2において採択された「東京行動計画」では、優先的政策行動の一つとして農業開発がとりあげられるなど、世界の食料・農業問題は重要な課題と認識されている。
我が国は、こうした状況を踏まえ、農業分野において98年は二国間援助の6.5%を占める8.91億ドルの支援を、また、水産分野においては0.6%を占める0.83億ドルの支援を行った。その内容としては、食糧増産援助(肥料、農業機材等の供与)の他、灌漑施設整備、漁港の整備、流通システム改善等に関する資金協力や研修員受入、専門家派遣、プロジェクト方式技術協力、青年海外協力隊等を活用した農業技術の研究・普及に関する支援、円借款による農民金融への支援(98年度は、例えばタイの「地方開発・雇用創出農業信用計画」への約184億円の支援を決定した)等の協力がある。
環境問題は、開発途上国において深刻化するのみならず、その影響が地球規模に広がりを見せており、年毎に国際的な重要性を増している。我が国としても途上国における環境問題への支援に力を入れており、92年の国連環境開発会議(UNCED)において我が国が表明した目標の達成(注2)に続き、97年6月の国連環境開発特別総会(UNGASS)において今後のODAを中心とした我が国の環境協力政策を包括的に取りまとめた「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」を発表した。このISD構想は、我が国の今後の協力の柱となる行動計画を(1)大気汚染・水質汚濁・廃棄物対策、(2)地球温暖化対策、(3)自然環境保全、(4)「水」問題、(5)環境意識向上の分野に分けて示しているが、我が国はその実現に向け、様々な取組を行っており、98年度の実績は4,132億円(約束額ベース)に上った。
以下に、ISDに示されたそれぞれの分野の代表的な取組例を示すとともに(注3)、ISDの理念を最も反映させた例として、近年環境問題が深刻化し、我が国に対する影響も指摘されている中国に対する協力について記す。
(a)大気汚染・水質汚濁・廃棄物対策
途上国における環境対策を進めていくためには、途上国自身の環境対処能力を向上させることが重要であり、インドネシア、中国、チリ、メキシコ、エジプトにおいて、そのような能力の向上に資する「環境センター」に対する技術協力を行った。
また、政府・民間が行う実際の汚染源対策等への資金・技術協力による支援を行った。(b)地球温暖化対策(京都イニシアティブ)
我が国は、97年12月、気候変動枠組条約第3回締約国会議の議長国としてODAを中心とした温暖化対策途上国支援を内容とする「京都イニシアティブ」を発表した。これは、(1)温暖化対策関連分野の人材育成(98年度から5年間で3,000人)、(2)円借款特別環境金利の温暖化対策分野への対象範囲拡大、(3)我が国が公害・省エネ対策の過程で培った技術・ノウハウの移転、の3つの柱から成る。
温暖化対策が関連する分野は多岐にわたっており、それらの分野において研修等による人材育成を行った。98年度JICA技術協力により研修等を受けた者の数は約1,100名に上った。
また、97年9月に導入され、同年12月京都イニシアティブにより適用範囲が大幅に拡充された円借款特別環境案件金利(金利0.75%、償還期間40年)による温暖化対策案件の98年度実績は20件2,433億円に上った。(c)自然環境保全
インドネシア生物多様性センターに対する技術協力を継続して行うとともに、98年度より無償資金協力によるパラオ珊瑚礁センター建設を開始した。
また、持続可能な森林経営の推進・砂漠化防止協力の強化に関しては、円借款による住民参加型植林事業のほか、無償資金協力、研修員受入、専門家派遣、プロジェクト方式技術協力、緑の推進協力プロジェクト等、様々な協力を実施した(注4)。砂漠化対処の関連では、我が国は、98年12月砂漠化対処条約の締結国となった。(d)環境意識向上
途上国との各種政策対話において積極的に環境協力を議題に取り上げるとともに、アジア太平洋地域各国の環境大臣及び関係国際機関の代表等が自由な意見交換を行うことを目的として、98年9月に「アジア・太平洋環境会議(エコ・アジア)」を仙台にて開催した。
また、環境教育に関しては、草の根無償資金協力による支援を行った他、99年2月に「アジア太平洋環境教育国際会議」を開催した。(e)中国における協力
97年9月の日中首脳会談において合意された「21世紀に向けた日中環境協力」の具体化のための取組を行った。(1)モデル都市において環境対策の成功例を作ることにより、中国全土の対策に資することを目的とする「日中環境開発モデル都市構想」については、日中双方の専門家委員会により具体的な内容につき検討が重ねられた。モデル都市を重慶、貴陽、大連の3都市とすること、構想においては大気汚染(酸性雨)対策、循環型産業・社会システムの形成、温暖化対策を中核とすること等につき一致し、各モデル都市における環境対策のあり方と具体的なプロジェクトに関する専門家委員会による日中両国政府への提言が99年4月に提出された。(2)「環境情報ネットワーク」整備については、整備する都市等につき検討が行われている。
以上の協力と、従来の「日中友好環境保全センター」等に対する無償資金協力及び技術協力と公害対策等に対する資金協力を連携させることにより、中国に対する環境協力はISDの理念を最も反映させた内容となっている。
(注1) DACにおいては、様々なセクターを包含する環境分野を累計する項目がなく、新たな項目を検討中である。例えば、我が国の環境ODAは、DAC分類上、「環境保護一般」(環境政策等)の項目に加え、水供給・衛生、エネルギー、林業、工業等多岐にわたるセクターにまたがっている。 (注2) 1992年の国連環境開発会議(UNCED)において、我が国は「92年から5年間で、9,000億円から1兆円を目途として環境ODAを拡充・強化する」との目標を表明し、その目標を4割以上上回る約1兆4,400億円の実績により達成している。 (注3) ISD構想の第4の柱である「水」問題については(1)社会開発分野(イ)「水供給及び衛生」参照。 (注4) 98年度には我が国は総面積約6万ヘクタールの造林・植林への協力を決定した。(有償約6万ヘクタール、JICA技協約600ヘクタール、無償は集計中) 薬物問題は国境を越えて拡がり、人々の社会生活・健康に多大な影響を及ぼす問題であることから、先進国及び途上国双方が自らの問題として取り組み、関係国際機関を含めた国際的な協力の下に対策を進めていくことが不可欠である。98年6月の国連麻薬特別総会において、高村外務政務次官(当時)は、我が国の「薬物乱用防止5か年戦略」を紹介するとともに、覚せい剤対策や青少年対策等の重要性、国連麻薬統制計画(UNDCP)を中心とした国際協力、特に東南アジアへの協力の意義を強調した。
開発途上国の薬物問題に関する我が国のODAを通じた協力としては、薬物関連の犯罪防止や取り締まり能力強化のための研修員受入、第三国研修、個別専門家派遣等の技術協力に加え、その背景にある貧困問題の緩和のため、食糧増産援助等による代替作物栽培への支援、草の根無償資金協力等によるリハビリや職業訓練への支援、薬物乱用防止のための啓蒙活動推進への支援などを進めてきた(注)。98年3~4月にはUNDCP及びミャンマーと共催でケシ代替開発に関する麻薬セミナー」を開催し、また99年2月の「1999アジア薬物対策東京会議」では東アジア地域の薬物捜査官の薬物鑑識・鑑定技術を含む法執行能力強化のためのUNDCPプロジェクト(クロス・ボーダー・プロジェクト)への支援を表明した。我が国のODAを活用した薬物対策関連事業の98年度実績額は約24億円(約1,800万ドル)となり、このうちUNDCPへの拠出金は381.7万ドルであった。
(注) こうした協力により、98年度には延べ約74,000ヘクタール分の麻薬物代替作物の栽培への協力が決定された。 民族・宗教対立等に起因する地域紛争は、冷戦終結後も世界の安定と繁栄にとり大きな挑戦として立ち現れている。こうした問題に対処するには、国際社会の政治的・外交的な取り組みが極めて重要となるが、特にその予防にあたっては、ODAを通じても、地域紛争の背景にある開発途上国の貧困の削減を通じた貢献が可能である。また、地域紛争の終結後は打撃を受けた地域の復興が課題となるが、特に対人地雷は紛争終結後も多くの一般市民を死傷させ、復興・開発に大きな障害となっているのみならず、人道的にも看過できない問題となっている。
我が国は、97年12月、対人地雷禁止条約に署名(その後98年9月に締結、99年3月に発効)するとともに、「犠牲者ゼロ・プログラム」を提唱、これまでの我が国支援を拡大・強化すべく、地雷除去及び犠牲者支援の分野で、98年以降の5年間を目途に100億円程度の支援を行う旨表明した。我が国はこれまで、国際機関を通じカンボディア、アフガニスタン、ボスニア、モザンビーク、中米における地雷除去・犠牲者支援活動に貢献するとともに、草の根無償資金協力等の二国間援助及びNGO事業補助金を通じた支援を積極的に行ってきている。
98年度には、カンボディアにおける「地雷除去活動機材整備計画」を実施するための金属探知器、灌木除去機、資機材・要員輸送車、通信機器、地雷回避啓蒙教育用機材等の購入に必要な資金につき、対人地雷除去支援活動の支援を目的とする初めての一般プロジェクト無償資金協力として4億7,000万円の供与を行った。また、99年度予算では地雷犠牲者支援及び除去活動支援から成る対人地雷対策無償計22億円を初めて計上している。98年度は、中米・カリブ地域におけるハリケーンや中国、バングラデシュにおける洪水、コロンビアにおける地震、パプア・ニューギニアにおける津波など、世界各地で大規模な自然災害が多発した年であった。これを反映して、同年度に我が国が実施した緊急援助の件数は、国際緊急援助隊の派遣が7件(296名)、緊急援助物資の供与30件(総額約5億5千万円相当)、また災害緊急無償資金の供与が38件(総額132.69億円)と、97年度の実績を大きく上回ることとなった。
中でも特筆すべきは、11月、カリブ海に発生した「ハリケーン・ミッチ」により人口の3分の1に当たる220万人の被災者を出したホンデュラスに対する国際緊急援助隊として初の自衛隊部隊の派遣であった。医療及び防疫活動を行うため、陸上・航空自衛隊の隊員185名の他、外務省、JICA職員を加え総勢205名を派遣、使用する資機材を航空自衛隊のC-130型輸送機6機で太平洋を越え輸送するなど、緊急援助隊史上最大規模のオペレーションを実施、診療患者数4,031名、防疫面積延べ33,200㎡の成果を上げた。また援助隊の活動中、現地の青年海外協力隊員は、緊急援助隊と協力し、通訳等の面で目覚ましく活躍した。こうした我が国の協力は、大統領をはじめホンジュラスの官民より極めて高い評価と賛辞を受けている。
また、99年1月のコロンビア地震災害に対し、我が国は警察、消防関係者等37名の救助チーム及びJICAに登録した医師等15名の医療チームを派遣したが、特に救助チームは災害発生後約47時間後に地球の反対側にある被災地に到着するという、極めて迅速な派遣であった。
98年度中に派遣された医療チームにより診察を受けた患者総数は約7,000人に及んだ。
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