4.分野横断的施策
国際的な開発援助をより効果的に実施し、開発の成果を上げていくための基本的考え方を明確にし、戦略的に開発に取り組むとの考え方の下に、96年5月にOECDの開発援助委員会(DAC)で、「新開発戦略」がとりまとめられた。この作成の取りまとめにあたり我が国は積極的にイニシアティヴをとった。
また、開発援助を国民の理解と幅広い支持の下に実施していくため、情報公開等の施策を講じてきた。更に、民間援助団体(NGO)との連携を含め、様々な施策がとられた。「新開発戦略」(正式名称「21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献」)は、開発の主要な責任は開発途上国自身にあり(オーナーシップ)、援助国と被援助国が相互に責任を分担して共同で開発に取り組む(パートナーシップ)という考え方に立脚している。また、前述の通り開発の目標を「全ての人々の生活の向上」とする旨を述べ、その背景に「人間中心の開発」の考え方を掲げ、「2015年までの貧困人口の割合の半減」等の達成目標を達成期限とともに掲げた。このような成果重視型のアプローチにおいては、開発の成果を定期的にモニタリングすることが極めて重要である。かかる観点から、97年度には、こうした目標の実現化に向けてDAC・世銀・国連関連機関の間で、達成度を計る上で今後必要となる基礎指標(貧困の度合い、識字率等)の作成などに向け共同の作業が開始された。
政府は、「新開発戦略」は、21世紀の国際社会の開発協力の礎になるものであるとの認識の下、その国際的普及や実施に努力した。開発途上国や主要国際機関への個別の説明の他、97年7月の「開発に関する沖縄会議」など各種会議・シンポジウム等により「新開発戦略」の開発途上国への浸透を図り、また各国への経済協力総合調査団等の派遣の際にも、これらの政府や現地の援助関係者との間で今後の開発協力が「新開発戦略」に沿った形で実施される旨を確認した。
97年6月の主要8ヶ国のデンヴァー・サミット・コミュニケにおいては、まずアフリカにおいてグローバル・パートナーシップの原則を具体的な行動に移すことを目指すことが述べられた。我が国としても、アフリカ開発の文脈における「新開発戦略」の推進、特にパートナーシップの具体化や、アフリカ諸国の世界経済への統合を促進するための1つの場を提供すべく、98年10月には「第2回アフリカ開発会議」(TICAD2)を東京で開催することとしており、「新開発戦略」を踏まえ21世紀のアフリカ開発に向けた「行動計画」を策定することを目指して準備を行っている。ODAの実施には、国民の理解と支持を得ることが不可欠であり、民間の援助活動との連携がより効果的なODAの実施のために必要となっている。そのため、政府としては、情報公開を含め、国民の理解を得るため様々な努力を行った。
政府としては、93年に国民への窓口として東京に開設した「国際協カプラザ」を積極的に活用している。また、各種年次報告、評価報告書、資料等を通じて、幅広くODAについての情報を公開しているとともに、様々なセミナー、講演会等を通じて国民の理解を得るよう努めている。更に、新しい媒体としてインターネットの活用も図っている。外務省ホームページには、97年度より、「我が国の政府開発援助(ODA白書)」上下巻、「経済協力評価報告書」概要版、プロジェクト視察の疑似体験の出来るODAバーチャルツアーなどが設けられ、ODAに関する情報は同
ホームページ上でもアクセス数の多い項目の一つとなっている。民間援助団体(NGO)や途上国の地方公共団体の実施する開発事業は、地域住民など草の根レベルの需要に機動性をもってきめ細かく対応し、効果的・効率的な援助を実施していく上で極めて有効であることが認められている。このため、政府は、途上国の現場を舞台として活動するNGOや途上国の地方自治体などが実施するプロジェクトに対して資金的な支援を行う草の根無償資金協力や、途上国で活動する我が国NGOの活動を支援するためのNGO事業補助金制度を大幅に拡充してきている。89年度に3億円の予算で始まった草の根無償資金協力は、住民に密着した足の速い援助として内外の高い評価を受け、97年度には、89ヶ国・1地域に対し964件、総額約50億円を実施した。また、同じく89年度に1億1,000万円の予算で始まったNGO事業補助金は、海外で活動する我が国NGOの活発化を受け、97年度には52ヶ国の地域で活動する116団体の計224事業に対し、9億1,900万円が交付されている。
また、特に近年、日本のNGOや地方公共団体の実施する開発途上国への援助が広がっている。開発協力に国民が参加し、草の根レベルでの直接の交流を通じお互いの気持ちが通い合うきめの細かい対応を可能にするこうした協力は、政府間で実施されるODAと並び、日本の国際協力の推進と海外との相互理解の増進に大きな意義を有している。政府としては、こうした日本のNGOや地方公共団体との連携を重視しており、これらの団体が行う開発関連事業や技術協力等に対し、上記のNGO事業補助金を含む各種補助金や草の根無償資金協力等により支援を行っている。
「国際ボランティア貯金」は、郵便貯金の利用者の委託を受け、その貯金の利子の20%から100%までの任意の率を寄附として開発途上地域の住民の福祉向上のために活動するNGOの支援のために配分するものであり、97年度には約10億6,200万円の寄付金が我が国NGOに分配された。
また、官民連携の一環として、「NGO・外務省定期協議会」や「GII(人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティヴ)に関するNGOとの懇談会」などを通じ、政府とは異なる視点やノウハウを有するNGOとの対話を深めている。こうした議論からは、バングラデシュにおけるNGOとの合同評価の実施(97年10月~11月)等の成果が上がっている。
なお、国民参加型援助の一つとして、国際協力事業団(JICA)が実施している青年海外協力隊の派遣がある。97年度末の時点では、農林水産、保健衛生、教育文化等8分野にわたり、59ヶ国に2,141人が協力隊員として派遣されている。これは、日本の青年を開発途上国に派遣し、地域の住民と一体となってその地域の経済・社会の発展に協力することを目的とする事業であり、開発途上国への技術移転、友好親善の増進、更には日本青年の広い国際的視野の涵養に寄与しており、内外の高い評価を得ている。我が国は、ODAの効果的・効率的な実施のため引き続き努力しており、下記のような措置を講じつつ、関係省庁間の連携の強化、援助スキーム間の連携の強化に一層配慮し、援助の質の向上を図ることとしている。
- (イ)政策対話及び事前調査の強化
我が国は、事前調査や途上国との政策対話等により、積極的な優良案件の発掘・形成に努めている。例えば87年より開始した経済協力総合調査団については、援助の中長期的な方向性に関する最もハイレベルな政策対話の機会となっており、97年度には、ジンバブエ、ペルー、ラオスに同調査団を派遣している。93年度からは、この調査団派遣の際の協議を踏まえて、国別援助方針(「6.主要国への国別援助方針」参照)を策定し、これに基づき援助を実施している。
「途上国の女性支援(WID:Women in Development)」は、人口の半分を占めると同時に生産面でも重要な役割を果たしている女性が開発の担い手として十分な能力を発揮し、開発の利益を受けるようにするとの観点から重要な課題である。また、各案件において女性の立場や視点を活かしていくことは、各案件が最大の効果を発揮していくために必要である。我が国としては95年の北京女性会議において表明した「WIDイニシアティヴ」の①教育、②健康、③経済・社会活動への参加という重点分野を中心として、女性が主たる受益対象となる援助案件を積極的に実施することに加え、一般的な案件の形成・実施の段階でも女性の参加を引き出すこと、またその受益に配慮することに努めている。女性支援プロジェクトとしては、具体的には、女性を主な対象とした職業訓練センターの建設、職業訓練や識字教育の実施、母子保健への協力などがある。
冷戦終結後、世界各地で民主化や市場経済化が進んでいる。このような状況下では、開発途上国の既存の制度を前提とした経済基盤整備等のハード面での援助にとどまらず、移行過程を支援するための人材育成や、経済計画策定、法制度の確立といった一国の制度や政策の形成に関するソフト面での支援が重要となっており、我が国は、ポーランド、ウズベキスタンに対して産業政策や人材育成(公務員再教育等)の分野で、またヴィエトナム、カンボディアにおいて法制度整備について支援を行っている。
タイやメキシコのように経済発展が順調に進んだ開発途上国の中には、より開発の進んでいない他の開発途上国の開発を支援する国(いわゆる「新興援助国」)も現れてきている。こうしたいわゆる「南南協力」は、被援助国の発展段階により適合した技術の移転を可能にするメリットがあり、また援助の裾野を広げる意義も有しており、我が国もこうした努力を積極的に支援している。
例えば、「カンボディア難民再定住・農村開発計画」においては、カンボディア内で日本とインドネシア、マレイシア、フィリピン、タイが共同して農村地域開発のための支援を行っており、我が国は国連開発計画(UNDP)の協力を得てASEAN諸国の専門家の派遣経費を負担している。我が国よりは、この他、全体の調整のための短期専門家や青年海外協力隊員が派遣されている。
また、シンガポール等いくつかの新興援助国との間では、研修コース数、費用負担等に関する長期的な計画について調整し、専門家の共同派遣などを含めたパッケージを内容とする総合的な協力の枠組みを定めるパートナーシップ・プログラムを作成し、より積極的に共同の技術協力を行うこととしている。急速な経済成長を見せている開発途上国においては、インフラ需要も急増しているが、長い資本回収期間や、投資環境の未整備等のためインフラ整備事業には十分な民間資金が流入していない。そのため民間投資の呼び水となるようなインフラ支援策を検討、実施に移している。97年度には、インドのシマドリ・ヴァイザッグ送電線建設計画等が実現している。
援助を効果的・効率的に実施していくためには、協力実施中の案件の現況調査に加え、援助案件の完成・終了後に評価を行い、援助の実施ぶり・効果などを検証し、その案件の改善を図るとともに、評価から得られた教訓を将来の援助政策の立案・実施に役立てることが重要である。このため、有識者や民間団体に委託して行う評価、他の援助国・国際機関と合同で行う評価などの実施により評価者の多様化を図るとともに、特定テーマ評価や国別評価の実施により評価視点を多角化し、客観的・中立的で公正な評価の実施に努めている。
援助の質の向上を目指す努力の一環として、環境分野において97年9月に特別に優遇された金利(0.75%、償還期間40年)を導入(「3.分野別援助の動向」(4)参照)したほか、同12月に円借款の標準金利の引き下げを行い、円借款の供与条件の緩和を進めた。これらの結果、円借款の標準金利は96年度の実績である約2.5%から全体として約0.7%引き下げられることとなった。
またその際、人材育成支援及び中小企業支援についても、前述の特別環境案件と同等の供与条件を適用することとした。
更に、国境をまたぐ広域的案件(例えば、6ヶ国にまたがるメコン河流域のプロジェクトなど)の実施を促進するため、広域インフラ案件に対する円借款については、当該関係国の中で最も所得水準の低い国に対する供与条件を一律に適用することとしたにれにより、例えばメコン河流域のタイとラオスにまたがるインフラ案件については、タイに対しても後発開発途上国に分類されるラオスと同様の有利な条件で案件を取り上げることを可能にした)。
これらの措置により、途上国の多様な開発ニーズに対する円借款での取り組みの可能性が大きく広がった。上述の通り、環境、人材育成、中小企業育成等に関し円借款の金利の大幅な引き下げを行っているが、これらの分野における円借款については、日本の特徴を活かし、我が国の援助であることを相手国国民によく理解してもらうと共に、我が国の有する技術や経営上のノウハウを活用するため、国際ルールに反しない範囲で、(1)環境及び人材育成については部分アンタイド、(2)コンサルタントについては、我が国と被援助国との2ヶ国のタイドとし、(3)それ以外の場合には、引き続き一般アンタイドとすることとした。但し、円借款全体で見ると、引き続き一般アンタイドが大半を占めることとなる。
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