栄養不足人口は、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、国連世界食糧計画(WFP)共同の報告によると、1990年以降減少傾向にありますが、2007〜2008年以降鈍化し、2011年から2013年の間、約8億4,200万人(推計値)が慢性的な栄養不足に苦しんでいるとされています。これは依然として高い水準であり、紛争、自然災害の発生や食料価格の高騰により、食糧支援の必要性は高まっています。また、社会的セーフティー・ネット(人々が安全で安心して暮らせる仕組み)の確立や栄養状態の改善、食料増産による需給バランスの改善、家畜の感染症への対策など、食料安全保障(すべての人が十分な食料を得る権利を持つことへの保障)を確立するための国際的な協調や多面的な施策が求められています。
FAO、IFAD、WFPの共同の報告によると、今後これらの十分かつ適切な対策が取られれば、MDGsが掲げる「2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準(23.2%)の半数(11.6%)に減少させる」という目標については、達成できる範囲内(2013年時点で14.3%)にあると見られています。
また妊娠から2歳の誕生日を迎えるまでの1,000日間における栄養改善は特に効果的であるため、そのための取組が進められています。
< 日本の取組 >
このような状況を踏まえ、日本は、食糧不足に直面している開発途上国からの要請に基づき食糧支援を行っています。2012年度には、二国間食糧支援として12か国に対し総額56.5億円の支援を行いました。
国際機関を通じた二国間支援では、主にWFPを通じて、緊急食糧支援、教育の機会を促進する学校給食プログラム、食料配布により農地や社会インフラ整備などへの参加を促し、地域社会の自立をサポートする食糧支援などを実施しています。2012年には世界各地で実施しているWFPの事業に総額1億9,075万ドルを拠出しました。
また日本は、開発途上国が自らの食料の安全性を強化するための支援を行っています。口蹄疫(こうていえき)などの国境を越えて感染が拡大する動物の伝染病について、越境性感染症の防疫のための世界的枠組み(GF-TADs)など国際獣疫事務局(OIE)やFAOと連携しながら、アジア・太平洋地域における対策を強化しています。さらに、日本は国際的に栄養不良改善への取組を主導しているScaling Up Nutrition(SUN)ムーブメントに深く関与し、支援の強化を表明しました。
ガーナでの乳幼児向け栄養サプリメント「ココプラス」試食会の様子(写真:味の素(株))(『開発協力トピックス』を参照)
●エチオピア
「農村地域における対応能力強化緊急開発計画策定プロジェクト」
開発計画調査型技術協力(2012年3月~実施中)
エチオピアは、「アフリカの角(つの)」と呼ばれる干ばつや食料危機が起きやすい地域に位置しており、食料安全保障の確保が非常に重要です。2011年には過去60年間で最悪とされる大きな干ばつ被害が発生しました。エチオピアでは自然災害による食料危機に対応するため、各国政府や国際機関が緊急支援プログラムを実施してきましたが、中長期的な自然災害への対応能力を強化する取組が求められていました。そこで日本は2012年3月、干ばつ等気候変動に対する農村地域の対応能力を強化するためのプロジェクトを、エチオピアのオロミア州とソマリ州において開始しました。
プロジェクトは、(1)コミュニティベース事業、(2)灌漑(かんがい)施設建設・灌漑農業指導、(3)天候インデックス保険の3つの柱の活動で成り立っています。(1)コミュニティベース事業では、コミュニティが独自に計画したプロジェクトを支援し、農業生産の安定化と、畜産マーケティング能力および放牧管理等の向上を通して、農牧地域の気候変動等に対する対応能力の強化を目指します。(2)灌漑施設建設・灌漑農業指導では、元牧畜民に対し、農業研修を通じ、新たな生活様式である農業への適応能力強化を図っています。(3)天候インデックス保険とは、たとえば降水量が一定値を下回った場合に保険金が支払われるものです。この保険の設計や普及を通し、少雨地域における農民の干ばつへの対応能力強化を図っています。
これらの活動を通し、日本はエチオピアの食料安全保障の確保に向け、農村地域における対応能力強化への支援を行っています。(2013年8月時点)
参加型ワークショップにて立案されたプロジェクトを支援するため、規模、実施期間、参加者数、受益者数などを把握し、必要な資機材を配布している(写真:JICA)