開発途上国の持続的な成長のためには、民間部門が中心になって役割を担うことが鍵となります。産業の発展や貿易・投資の増大などの民間活動の活性化が重要です。しかし、数々の課題を抱える開発途上国では、民間投資を呼び込むための環境整備を行うことが困難な場合があり、国際社会からの支援が求められています。
< 日本の取組 >
日本は、ODAやその他の政府資金(OOF)*を活用して、開発途上国内の中小企業の振興や日本の産業技術の移転、経済政策のための支援を行っています。また、開発途上国の輸出能力や競争力を向上させるため、貿易・投資の環境や経済基盤の整備も支援しています。
2001年にスタートした「世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンド交渉(ドーハ開発アジェンダ)」*においても、開発途上国が多角的な自由貿易体制に参加することを通じて開発を促進することが重視されています。日本は、WTOに設けられた信託基金に拠出し、開発途上国が貿易交渉を進め、国際市場に参加するための能力を強化すること、およびWTO協定を履行する能力をつけることを目指しています。
日本市場への参入に関しては、開発途上国産品の輸入に際し、一般の関税率よりも低い税率を適用するという一般特恵関税制度(GSP)により、特に後発開発途上国(LDCs)*に対しては無税無枠措置*をとっています。また、日本は、経済連携協定(EPA)*を積極的に推進しており、貿易・投資の自由化を通じ開発途上国が経済成長できるような環境づくりに努めています。
キルギスでの一村一品アプローチによる小規模ビジネス振興を通じたコミュニティ活性化プロジェクト。地元女性たちとジャム作りに取り組む嶋田青年海外協力隊員(写真:久野真一/JICA)
こうした日本を含む先進国による支援をさらに推進するものとして、近年、WTOや経済協力開発機構(OECD)をはじめとする様々な国際会議(フォーラム)において「貿易のための援助(AfT)」*に関する議論が活発になっています。日本は、総額約120億ドルの貿易関連プロジェクトへの支援などを柱とした「開発イニシアティブ2009」*という独自の貢献策を実行し、多くの国から高い評価を得ています。具体的な取組としては、貿易を行うために重要な港湾、道路、橋など輸送網の整備や発電所・送電網など建設事業への資金の供与や、税関職員の教育など貿易関連分野における技術協力が挙げられます。さらに開発途上国の小規模生産グループや小規模企業に対して「一村一品キャンペーン」*への支援も行っています。また、開発途上国へ民間からの投資を呼び込むため、開発途上国特有の課題を調査し、投資を促進するための対策を現地政府に提案・助言するなど、民間投資を促進するための支援も進めています。
また、日本は、アジア地域における輸出によって経済成長に貢献した開発協力の成功事例を研究する「貿易のための援助」アジア・太平洋地域専門家会合に積極的に取り組んでいます。2013年7月のWTO第4回「貿易のための援助」グローバル・レビュー会合において、日本の開発協力の成功事例等(官民連携の推進等)専門家会合での議論の成果を、世界の他の地域に紹介し、参加国から好評を得ました。さらに、経済産業省の技術協力として、日系企業の海外展開を支援するため、現地の産業人材の育成や現地の大学等との連携による企業文化講座、ジョブフェアなどによる現地の高度人材の確保の支援に取り組んでいます。
用語解説
●ケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ
「東部アフリカ地域税関能力向上プロジェクト・フェーズ2」
技術協力プロジェクト(2009年9月4日~実施中)
ケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジを含む東部アフリカ地域では、貿易・流通を促進して持続的な経済成長を目指していますが、その中でも通関手続の円滑化は重要な課題です。同地域では、通常、輸出側と輸入側で合計2回行う国境における輸出入手続を1回で行うこと(ワンストップ化)で、通関手続の円滑化・効率化を推進しています。
日本は、2007~2009年までケニア、タンザニア、ウガンダを対象として、各国税関の能力を向上し、ワンストップボーダーポスト(OSBP)※システムを構築する「東部アフリカ地域税関能力向上プロジェクト(フェーズ1)」を実施してきました。また、このプロジェクトでは、ケニアとタンザニアの国境であるナマンガとケニアとウガンダの国境であるマラバにおいて、情報通信技術、機材整備、共同国境監視および共同水上監視を含むパイロット事業を実施してきました。
このフェーズ1を通じて、さらなる税関能力向上と通関業者の能力向上を図ることが必要だと判断し、ルワンダ、ブルンジを加えた合計5か国において、2009年9月から2013年9月までの4年間を協力期間として、「東部アフリカ地域税関能力向上プロジェクト(フェーズ2)」を実施しました。フェーズ2で日本は延べ5名の長期専門家、34名の短期専門家を派遣し、通関処理システム、国境・水上監視に必要な機材を供与するとともに、延べ71名が参加した研修を実施することで、同地域の税関職員と通関業者の能力向上に寄与しています。(2013年8月時点)
通関手続きの円滑化・効率化に向けた協議を行う(写真:JICA)
●セネガル
「セネガル投資環境セミナー」
技術協力個別案件(研修)(2013年4月7日~2013年4月13日)
アフリカ大陸の最西端に位置するセネガルでは、沿岸部を中心とした経済開発が活発となっています。その一方で、セネガルは日本から遠く離れているのみならず、さらにフランス語を公用語としていることなどから、その経済活動に関する情報が必ずしも日本企業に伝わってこないため、セネガルに進出する日本企業の数は限られています。
そのため我が国では、日本企業が有する技術をセネガルの開発に活かしていくため、外国投資の促進や環境整備を担当する投資促進・大規模投資公社(APIX)に専門家を派遣しました。
また、2013年4月には、セネガルの官民関係者11名を日本に招き、日本の高度な技術や日本市場の特徴を学ぶための研修を行うとともに、JICAおよびJETROが日本企業向けのセネガル投資環境セミナーを開催し、132社に上る日本企業が参加しました。
このような活動により、セネガルの農業や水産分野の投資の可能性を日本企業に紹介した成果もあって、日本企業のアフリカ進出への関心が寄せられています。
セネガル官民関係者の築地市場見学。鮮魚市場で、モロッコ産、モーリタニア産のタコを見つけて立ち止まる(写真:JICA)