(2)情報通信技術(ICT)

情報通信技術(ICT)の普及は、産業を高度化し、生産性を向上させることで、持続的な経済成長の実現に役立ちます。また、開発途上国が抱える医療、教育、エネルギー、環境、防災などの社会的課題の解決にも貢献します。ICTの活用は、政府による情報公開を促進し、放送メディアを整備し、民主化の土台となる仕組みを改善します。便利さとサービスが向上することで市民社会がより強化されるためにも非常に重要です。

< 日本の取組 >

日本は、地域・国家間に存在するICTの格差を解消し、すべての人々の生活の質を向上させるために、開発途上国における通信・放送設備や施設の構築、およびそのための技術や制度整備、人材育成といった分野を中心に積極的に支援しています。

具体的には、電気通信に関する国際連合の専門機関である国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)と協力して、日本は開発途上国に対して電気通信分野における様々な開発支援を行っています。2012年3月には、仙台市においてITUと総務省との共催により、東日本大震災や復興の過程で得た情報通信分野の知見や教訓を海外の方々と共有するため、「総務省・ITU災害通信シンポジウム」を開催しました。また2013年2月には、世界共通の課題である医療分野の課題解決に資するため、ICTを活用したe-Healthを開発途上国に普及していくためのワークショップ等を国内の情報通信企業との連携の下、日本(東京)で開催しました。

アジア太平洋地域では、アジアの国際機関であるアジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia-Pacific Telecommunity)が、2009年にアジア・太平洋地域におけるブロードバンドの普及・発展に向けて今後加盟国が協力して取り組んでいくための共同声明および行動計画を策定するなど、地域的政策調整役として、アジア太平洋地域における電気通信および情報基盤の均衡した発展に寄与しています。日本は ICTの格差解消やICTの利活用による医療・教育現場等の課題を解決するため、APTを通じたパイロットプロジェクト、研修やワークショップ等の人材育成を行っています。

また、ASEANにおいては、2011年11月に開催された日・ASEAN首脳会議で採択された共同宣言(バリ宣言)に「ASEANスマートネットワーク構想」等のICT分野における協力の強化が盛り込まれるなど、情報通信分野における協力を進めているところです。
 さらにASEANとは、特に近年各国の関心が高まっているサイバー攻撃を取り巻く問題について、2013年9月に、日・ASEANサイバーセキュリティ協力に関する閣僚政策会議が日本(東京)で開催されました。

あわせて、日本の経済成長に結びつける上でも有効な、地上デジタル放送日本方式(ISDB-Tの海外普及活動に、整備面、人材面、制度面の総合的な支援を目指して積極的に取り組んでいます。ISDB-Tは、2013年9月現在、中南米地域をはじめとして普及が進んでおり、ISDB-T採用国(注7)への支援の一環として、2009年度から現在までチリ、ペルー、コスタリカなど8か国に専門家を派遣し、技術移転を実施しています。さらに、ISDB-T採用国および検討国を対象としたJICA研修を毎年実施し、ISDB-Tの海外普及・導入促進を行っています。

アンゴラ国営放送ベンゲラ局で指導する専門家(写真:大町佳代/JICAアンゴラフィールドオフィス)

アンゴラ国営放送ベンゲラ局で指導する専門家(写真:大町佳代/JICAアンゴラフィールドオフィス)

用語解説

情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)
コンピュータなどの情報技術とデジタル通信技術を融合した技術で、インターネットや携帯電話がその代表。
国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)
電気通信・放送分野を担当する国連の専門機関(本部:スイス・ジュネーブ。193か国が加盟)。世界中の人が電気通信技術を使えるように、(1)携帯電話、衛星放送等で使用する電波の国際的な割当、(2)電話、インターネット等の電気通信技術の国際的な標準化、(3)開発途上国の電気通信分野における開発の支援等を実施。
アジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia-Pacific Telecommunity)
1979年に設立されたアジア・太平洋地域における情報通信分野の国際機関。同地域の38か国が加盟。同地域における電気通信や情報基盤の均衡した発展を目的として、研修やセミナーを通じた人材育成、標準化や無線通信等の地域的政策調整等を実施。
地上デジタル放送日本方式(ISDB-T:Integrated Services Digital Broadcasting - Terrestrial)
日本で開発された地上デジタルテレビ放送方式。緊急警報放送の実施が可能であるなど災害対策面に優位性を持つ。

注7 : ブラジル、ペルー、アルゼンチン、チリ、ベネズエラ、エクアドル、コスタリカ、パラグアイ、フィリピン、ボリビア、ウルグアイ、モルディブ、ボツワナ、グアテマラ、ホンジュラスの15か国(2013年11月時点)

●バングラデシュ

「ITEE※(情報処理技術者試験)マネジメント能力向上プロジェクト」
技術協力プロジェクト(2012年10月~実施中)

バングラデシュでは、政府が「デジタル・バングラデシュ」という方針を掲げ、IT産業を繊維産業に次ぐ輸出産業へと育成する取組を進めています。しかし、バングラデシュには、IT技術者の能力を評価する試験制度がありませんでした。また、大手IT企業が世界的に実施する試験はバングラデシュの一般国民には受験料が高すぎて利用できず、IT技術者のスキルや能力を対外的に売り込めないという課題を抱えていました。

このような中、2010年に、コンピュータ技術を指導していた青年海外協力隊員たちが、バングラデシュのIT技術の能力を測るため、経済産業省、(独)情報処理推進機構(IPA)と協力し、日本の情報処理技術者試験(ITEE)を使った模擬試験を実施しました。269人が受験したこの試験の結果、バングラデシュのIT技術者の能力は、既にこの試験が導入されている他のアジア6か国と比べて引けを取らないレベルであることが証明されました。この動きがバングラデシュ政府の目にとまり、2012年10月から日本のITEEをモデルとした国家資格の導入に関する技術協力プロジェクトが実施されています。

本プロジェクトでは、2014年秋までの国家資格化を目指し、試験問題の準備や予行練習、アジア各国との相互認証の推進などを実施しています。そしてこの資格を通じてバングラデシュのIT技術者の能力を証明することで、日本などのIT企業がバングラデシュへ進出する一つのきっかけになることが期待されています。(2013年8月時点)

※ IT Engineers Examination

青年海外協力隊員が支援したITEEコンテストの模様(写真:JICA)

青年海外協力隊員が支援したITEEコンテストの模様(写真:JICA)


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