(1)経済社会基盤
開発途上国における貧困の削減のためには、貧困層の人々に直接役に立つ貧困対策や社会開発分野の支援のみならず、経済の持続的な成長が不可欠です。そのためには、開発途上国の発展の基盤となるインフラ(経済社会基盤)の整備が重要となります。
< 日本の取組 >
日本は、開発途上国の開発政策に基づいて、インフラ整備の支援とこれらインフラを整備、管理、運営するための人材を育成しています。具体的なインフラ整備として挙げられるのは、都市と農村との交流拡大や災害からの安全確保、および海外との貿易・投資を促進できるよう道路、港湾、空港、情報通信技術(ICT)などを整備することです。また、教育、保健、安全な水・衛生環境、住居を確保し、病院や学校などへのアクセスを改善するための社会インフラ整備や、地域経済を活性化させるため農水産物市場や漁港などの整備を行っています。
インド・バンガロールの地下鉄工事現場。建造物が密集する中心街に位置するチップペット駅での掘削工事(写真:藤田修平)
●ベトナム
「(1)ノイバイ国際空港第二旅客ターミナルビル建設計画(I)」
有償資金協力(2010年3月~実施中)
「(2)ノイバイ国際空港運営・維持管理計画策定支援プロジェクト」
技術協力プロジェクト(2012年4月~実施中)
「(3)ノイバイ国際空港新ターミナルマネジメント支援専門家派遣」
技術協力個別専門家(2012年3月~2013年7月)
ベトナムの首都ハノイにあるノイバイ国際空港の航空旅客数は近年、急速に増加し、600万人の計画上の収容人員数に対し、2010年時点で約1,000万人に達しており、旅客ターミナルの拡張と機能の強化が急務となっていました。
そのため、日本は、成長が著しいベトナムの首都空港にふさわしい最新の機能と処理能力を備えた空港施設の整備と運営維持管理の質の向上に対する支援を行っています。
空港整備については、第二旅客ターミナルビル(T2)と航空機の給油施設の建設を日本の技術を活用することを条件付けた円借款によって実施しており、2015年4月の開業を目標に計画どおり工事が進められています。
また、運営維持管理の質の向上については、運営主体であるベトナム空港会社を対象に、JICA・国土交通省・日本国内の空港会社等が連携して技術協力を行っています。具体的には、T2開業までの準備作業に関するアクションプランの作成、ベトナム初の導入となる最新式の給油システムを運用する手法や収益の拡大を図るためのテナント運営手法の習得、利用者の空港利用に対する満足度を向上させる活動などに重点を置いています。これまでに、2人の長期専門家(給油・業務調整員各1人)、35人の短期専門家の派遣、日本国内での視察・研修(計5回開催、延べ33人参加)を実施して(2013年8月時点)おり、今後もT2開業までにベトナムのニーズに応じた技術協力を引き続き実施していく予定です。
建設が進む旅客ターミナル2。背景は現在使われている旅客ターミナル1(写真:JICA)
●パキスタン
「ラホール都市交通マスタープラン策定プロジェクト」
技術協力プロジェクト(2010年3月~2012年2月)
パンジャブ州ラホール市は、人口900万人を抱えるパキスタン第2の都市です。同市の人口増加率は年に2%を超えるとされ、近年交通状況が悪化しています。今後も同市の人口増加が続くと予想される中、交通渋滞の解消は、同市の発展において大きな課題となっています。
このような背景から、日本は技術協力支援により、同市の都市交通計画の策定を支援しました。同計画の策定に当たっては安全性や快適性に加え、都市環境の保全といった都市開発計画の視点も踏まえ、都市鉄道やBRT(バス・ラピッド・トランジット:バス専用道路や常設の専用バスレーンを設け、一般道路における通常の路線バスよりも高速に運行する輸送システム)による公共交通インフラの整備、ならびに市内の駐車管理、交差点の再設計、歩道や自転車用道路の整備といった市内の交通管理の強化など、近い将来取り組むべきアクションプランが盛り込まれました。
また、パキスタンの主体的な取組を促進するため、同計画の策定過程でパンジャブ州政府運輸省関係者を中心に、関係者への技術移転や能力向上を図りました。
ラホール市の交通状況(写真:JICA)
●ザンビア・ボツワナ
「カズングラ橋建設計画」
有償資金協力プロジェクト(2012年10月~実施中)
南部アフリカ地域の最大の港である南アフリカのダーバン港から、コンゴ民主共和国に至る国際幹線道路は、南アフリカ、ボツワナ、ザンビアを縦断し、ジンバブエ、ナミビア、マラウイ、モザンビーク、アンゴラなどの南部アフリカの国々にも通じる交通の要をなしており、南北回廊と呼ばれ、同地域の物流や交易を支えています。
同回廊が縦断するザンビアとボツワナとの間の国境には、ザンベジ川という国際河川があり、河川を渡る際は「ポンツーン」と呼ばれるフェリーを利用します。しかし現在、利用できるポンツーンは2台しかなく、1日に運搬可能な車両は物流トラックも含めて約60台と限られています。
また、車両が国境を越えるには、出国・入国手続きのため約30時間を要し、内陸に位置するザンビアやボツワナは外国との物資の輸出入の大部分をトラックなどに頼っているため、輸送コストがかさむことにもなります。
このため、日本は、このザンベジ川の上に橋や、橋に通じる道路、「OSBP(ワンストップボーダーポスト)※」と呼ばれる、出国・入国手続きを一度に行うことが可能な施設を建設する支援を行っています。
この協力により、ザンビアとボツワナ間を通過する時間が6時間に短縮されます。両国間のみならず南部アフリカ地域全体の物流の活発化が期待され、このプロジェクトは同地域の経済発展や地域統合の取り組みに貢献します。(2013年8月時点)
※ ワンストップボーダーポスト(One Stop Border Post:OSBP):税関の手続き共有化・業務効率化の流れの中で注目されている通関業務運営方式の一つ。通常出国側、入国側でそれぞれ輸出入の手続きを要するが、OSBPでは1回で済ますことにより国境を通過する物資の滞留時間を短縮し、物流の促進を図る。
フェリーに乗り込むトラック
●モザンビーク
「ナカラ回廊経済開発戦略策定プロジェクト」
技術協力プロジェクト(2012年 3月~実施中)
ナカラ回廊は、インド洋に面するモザンビーク北部のナカラ港を玄関口とし、モザンビーク北部と、マラウイ、ザンビアといった近隣の内陸国を結ぶ地域の大動脈です。また、原料炭※や天然ガスなどの資源、肥沃な土壌をはじめとする農業に適した環境などに恵まれ、ダイナミックな開発・産業振興が期待されています。さらに天然資源の豊富な埋蔵量が確認されているため、その高い可能性に注目した民間企業等による投資活動が活発化しています。しかし、同地域全体を俯瞰(ふかん)する開発計画が存在せず、同地域の開発を持続可能かつ包摂(ほうせつ)的に進めていくために、適切な開発計画が策定されることが必要とされていました。
このような状況を受け、ナカラ回廊地域全体、ひいてはモザンビーク国内、南部アフリカ地域全体で、より多くの人が恩恵を受けられるような開発を行えるよう、日本は地域計画、運輸、電力、水資源、産業、社会セクターなど、多岐にわたる分野の視点から、中長期にわたる地域開発を目指した「ナカラ回廊経済開発戦略」の策定を支援しています。また、インフラの整備・地域開発戦略の策定を通じて国際的な競争力のある地域づくりにつなげる考えです。
2013年3月には近隣諸国の政府関係者を招待した国際セミナーを開催し、各国の政策や開発の方向性を共有する機会を設けました。このような取組により、日本はナカラ回廊開発を軸としたアフリカ南東部地域全体の発展を目指しています。(2013年8月時点)
(「ナカラ港の改修・整備と運営能力強化」もご参照ください。)
※ 原料炭は主に鉄鋼原料用としてコークスを製造するために利用される。
ナカラに立ち並ぶ小麦処理プラント(写真:JICA)
ナカラ~ナンプラの幹線道路を望む(写真:JICA)