第2節 アフリカの成長とODAに求められるもの

長期にわたる停滞の後に著しい高成長を見せ始めたサブサハラ・アフリカにおいて今後の開発課題をどう考えていけば良いのでしょうか。それは、成長の基盤となっている天然資源を適切に開発・管理し、農業や製造業といった国内産業の振興・多角化を図り、国内の雇用機会創出等によって持続可能な経済成長を促進することです。好調な経済成長が続き、民間投資が流入している今、そうした「未来への投資」としてのODAの重要性が高まっています。アフリカの自律的かつ持続可能な成長を後押しするため、日本は、アフリカ開発会議(TICAD(ティカッド))プロセスの開始以来唱え続けてきた、アフリカ側のオーナーシップの尊重と国際社会のパートナーシップの伝統を遵守しつつ、日本を含めた民間投資の一層の誘致に貢献すべく、ODA等を触媒として活用していきます。

中でも、インフラ整備は、アフリカ側が「未来への投資」において最も重視している分野です。アフリカの成長を大きく阻害する要因の一つに越境輸送のコストがあります。アフリカには内陸国が数多く、国境をまたぐ越境輸送のニーズが大きいものの、これにかかるコストが高い、という課題があります。せっかくの天然資源も、輸送路などのインフラが整備されなければ宝の持ち腐れです。越境輸送を円滑化すれば、輸送コストが削減され、貿易・産業が振興し、ひいては地域の社会・経済統合が進み、経済成長につながることが期待されます。

こうした問題を解決するため、2012年のアフリカ連合(AU)総会において、2040年までに整備すべき大陸規模のインフラ整備構想である「アフリカ・インフラ開発プログラム(PIDA)」が採択されました。日本は地域開発も絡めてインフラ開発を進めることで広域経済圏の形成を支援しています。このような日本の支援には、上記の視点を踏まえて、国際回廊のボトルネックの解消(国境通関施設および橋梁(きょうりょう)建設等)や、税関職員の能力強化等のソフト面の協力も含まれ、総合的に域内の物流環境の改善を支援しています。たとえば、東アフリカ共同体のケニアとタンザニア両国の首都を結ぶ唯一のルートの主要部分、タンザニアのアルーシャとケニアのアティ川間の国際幹線道路の改良を日本はアフリカ開発銀行(AfDB)との協調融資により支援しました。日本はタンザニア側(アルーシャ・ナマンガ間)を担当し、ナマンガ国境のワンストップボーダーポスト化についても技術協力を通じて支援しています。こうしたハードとソフト両面からのインフラ整備は、生産地から消費地への円滑な人・モノの輸送や国家間の経済・貿易活動を活発にするだけでなく、その地域全体が民間企業にとってより魅力的な市場になる効果をもたらすのです。

一方で、アフリカの人口の多くは未だ貧困の際にあり(1日1.25ドル未満で暮らす人はサブサハラ・アフリカで多く、貧困率も高い。下図参照)、5歳未満児の死亡数、妊産婦の死亡数、HIV/エイズやマラリアによる死亡数もすべての地域の中でサブサハラ・アフリカが群を抜いています。安全な水へのアクセスも未だ十分というにはほど遠い状況です。人間の安全保障の観点から、これらMDGsの諸分野での取組においてODAは依然不可欠であり、国際社会の支援は継続されなければなりません。

1日1.25ドル未満で暮らす人々の割合(1990年、2005年、2010年)

こうした取組に加えて、初等および中等教育の質の向上は、中長期的に産業人材を育成する土台を形成することにつながり、インフラ整備と同様、アフリカが自律的かつ持続可能な経済成長を実現するために必要です。産業人材育成も、民間投資を呼ぶ込む上で不可欠な分野であり、アフリカ側の期待も大きいものがあります。もともとアフリカには初等・中等教育を受けた人材が絶対的に不足している上、これら人材の実務能力はアフリカに進出する企業が雇用できる水準に達していないことが多く、現地での人材確保を困難にしています。その結果、企業側がコストをかけて、地元の人たちに研修を行ったり、外国人労働者を連れてきたりしています。したがって、現地人材の実務レベルを高めることは、単に現地の人々の能力向上を行うのみならず、雇用側の企業にとっても人件費削減につながり、投資先としての魅力が増すことにもなります。日本はODAを通じて、MDGs達成に向けた支援と人づくりを実施し、貿易・投資の促進を通じてアフリカの成長を支えていきます。

ケニア-タンザニア国境、ナマンガのワンストップボーダーポスト施設(写真:JICA)

ケニア-タンザニア国境、ナマンガのワンストップボーダーポスト施設(写真:JICA)

アフリカにおける主な経済回廊
用語解説
ワンストップボーダーポスト(One Stop Border Post: OSBP) 
税関の手続き共有化・業務効率化の流れの中で注目されている通関業務運営方式の一つ。通常出国側、入国側でそれぞれ輸出入の手続きを要するが、OSBPでは1回で済ますことにより国境を通過する物資の滞留時間を短縮し、物流の促進を図る。

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