近年、途上国の開発における、NGO、民間財団、民間企業等による支援や活動の重要性が増大しています。さらに、地方自治体など、これまで途上国の開発に直接関わることがほとんどなかったアクターが積極的にかかわるようになってきました。企業の関与についても、途上国でビジネスを行う日本企業が社会貢献として開発支援にかかわるものから、ビジネスの重要な一端として取り組むものまで、そのあり方は多様化しています。このように、様々なアクターがそれぞれの得意分野を活かした多様なアプローチで途上国の開発に取り組んでいます。そうした一つ一つをODAがつなぎ、厚みのあるアプローチをとることで、相乗効果を上げることができます。本節では、そうした開発の新たな担い手と政府が連携してより大きな効果を生み出している具体例をいくつか紹介します。
最初に挙げるのは、企業とNGOがODAと連携するハイチでの事例です。ハイチでは結核が流行しており、早期検査・治療と感染防止が求められています。日本企業の栄研化学株式会社は、独自に開発した高感度で簡易な結核検査法をハイチへ導入し、定着させることにより、同国の結核診断能力の向上を図る取組を2013年1月に独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力して開始しました。具体的には、栄研化学がこの検査法の実施に必要な試薬や消耗品を提供するとともに、講師を務める医師を現地に派遣し、現地の検査実施機関において地元の検査技師を対象に検査法の研修を行うものです。JICAは、この研修に技術的な支援を行う結核予防会結核研究所の専門家と途上国における知識普及にノウハウを持つNGO、特定非営利活動法人日本リザルツの専門家の派遣費用を負担しています。日本企業の医療分野における社会貢献に、関連するNGOや研究機関の人材をODAを通じて派遣することで、ハイチにおける結核診断能力の向上と、感染拡大の抑制に貢献し、ハイチ国民の福祉向上に大きく寄与した事例です。
次に大学との連携の事例を紹介します。帯広畜産大学は、国立大学としては唯一の獣医農畜産系の大学です。元来、地域の他大学や研究機関との連携を通じた先進的な研究の推進に熱心な大学ですが、国際協力にも積極的です。同大学はJICAとの間に「帯広-JICA協力隊連携事業」合意書を締結しており、青年海外協力隊制度を活用して在学生・卒業生を南米のパラグアイのイタプア県庁および同県下の3市役所に派遣しています。学生たちは、同県の小規模酪農家が牛乳の生産性向上や品質改善を行うための能力強化プログラムの実施に継続的に協力し、パラグアイの酪農の発展に貢献しています。一方で、参加学生にとっては、派遣活動は大学の履修科目として単位認定されます。学生たちは単なる実習の範囲を越えて途上国の現場を体験できることから、このプロジェクトはグローバル人材育成の観点からも注目されています。
パラグアイで農家を巡回訪問する帯広畜産大学生の青年海外協力隊員(写真:帯広畜産大学)
汚泥脱水装置開発企業の担当者がフィリピン・セブ市公共サービス部門の班員に機材の説明を行っている(写真:アムコン(株))
ハイチで結核検査を行う技師(写真:栄研化学(株))
また、日本の複数の大学の協力を得て、アフガニスタンの将来を担う人材を育てるための「アフガニスタン未来への架け橋・中核人材育成プロジェクト」は、農学、工学、社会科学の分野でアフガニスタンの行政官の育成を支援するものです(「平和構築」の案件紹介欄を参照)。
新たな開発のパートナーとして地方自治体の重要性も増大しています。現在では、様々な自治体がそれぞれの持つ行政サービスに関するノウハウを活用して国際協力に取り組むようになっていますが、ここでは横浜市の例を挙げます。
横浜市は2012年3月、フィリピンのセブ市との間で「持続可能な都市発展に向けた技術協力に関する覚書」を交わしました。上下水道、廃棄物処理、都市計画、環境保全など、横浜市の持つ都市経営・都市づくりに関する様々なノウハウや民間企業の技術を活用し、民間セクターとの連携による技術協力を実施するものです。この覚書に基づいて、2012年度に横浜市は、メトロ・セブ(セブ市を含む13の自治体で構成される都市圏)の都市開発ビジョンを検討するための調査を行いました。
横浜市はODAにより行う様々な研修事業や派遣事業にも協力しています。また、横浜市は、100を超える市内関連企業・団体と連携して、上下水道分野全体をカバーする「横浜水ビジネス協議会」を設立し、市と民間企業が協力して新興国などの水環境に関する問題解決に取り組んでいます。たとえば、フィリピンのセブ市では家庭や事務所の浄化槽にたまった汚泥が適切に処理されず、水質汚濁や非衛生な環境の原因となっています。そこで、水ビジネス協議会に所属する企業が汚泥脱水装置の普及によるフィリピンの衛生環境改善を図る提案を行い、これが外務省の平成24年度ODAを活用した中小企業等の海外展開支援委託事業に採択されました。このように日本の地方自治体の国際協力に対する様々な試みが、国や企業との連携を伴って、いろいろな形で途上国の開発に貢献しています。